軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辿り着く

港街へと向かうマーギン達。

ブォン。

マーギンは頭上に何か違和感を感じた。

「ん? うわっ!」

上を見ると血塗れの人間が落ちてきた。思わずそれを受け止めるマーギン。

「敵かっ!」

大隊長とオルターネンが戦闘態勢に入る。

「バネッサ……? おいっ、バネッサっ、どうしたっ!」

マーギンが受け止めた血塗れの人間、それはバネッサだった。

「おい、しっかりしろっ!」

マーギンはバネッサを降ろして、息があるか確認する。

「マーギンっ、マーギンっ、バネッサはどうなってんだよっ!」

マーギンがバネッサと呼んだことで、皆が集まり、血塗れのバネッサを見たカザフが半狂乱になる。

「動かすなっ!」

バネッサを揺さぶろうとしたカザフを突き飛ばし、状態を確認するマーギン。

「まだ生きてる。今から治癒する」

血塗れのバネッサの意識はなく、着ていた服も切り刻まれている。

「助かるか?」

大隊長が泣き叫ぶカザフをうしろから抱きしめて、マーギンに状況を確認する。

「分かりません。大隊長、自分にも状況がよく分かりませんが、先に港街に戻ってもらえますか。嫌な予感がします」

「分かった」

「俺はここに残る。バネッサっ、しっかりしろっ!」

大隊長の腕の中で暴れるカザフ。

「カザフ、ここはマーギンに任せろ。お前にできることは何もない。治癒の邪魔になるだけだ」

と、オルターネンに諭される。

「だって、だってバネッサが……」

「分かっている。だからこそマーギンに任せておけ。こいつなら絶対に助ける」

「急ぐぞ」

大隊長はここに残ると暴れるカザフを抱きかかえて、港街に向かう。

「マーギン、絶対に助けろ」

オルターネンはそう言い残して、大隊長達のあとを追った。

マーギンはテントを出し、中で治癒を始めた。

《プロテクション!》

テントの周りをプロテクションで包み、バネッサに洗浄魔法を掛けてから出血を止めた。

どうやったらこんなにボロボロになるんだよ……

服は斬り裂かれているものの、トカゲの鱗で作った防具が急所を守り、防刃服が身体を斬り刻まれるのを守ったようだ。しかし、あらゆるところの骨が折れている。顔色も青いどころではなく、土色だ。

まずは防具を外し、かろうじて斬れていない防刃服を焼き切って脱がしていく。防刃服を脱がすと、下着も斬れていたので外れてしまったが、恥ずかしがっている場合ではない。

骨折している部位を元に戻しては治癒魔法を掛けていく。一気に治してはいけない。この状態だと体力を失って死んでしまうかもしれないのだ。

「何があったんだよ、お前……」

バネッサが死んでしまうんじゃないかと思うと、涙が溢れてくる。

「絶対に元通りに治してやるから死ぬな……」

マーギンは丁寧に、丁寧に、折れた骨を戻しては治癒魔法を掛けていった。

「うっ……」

あと少しで全部の骨折を治せるというところでバネッサがうめき声をあげた。

「もう少しだ。頑張れ!」

それから少しして、マーギンは全ての骨折と傷を治し終えた。

「マーギン……?」

しばらくして意識を取り戻したバネッサが目を開ける。

「大丈夫か?」

「うっ、うう……」

マーギンの顔を見てポロポロと泣き出したバネッサ。

「大丈夫だ。もう大丈夫だ」

そう声を掛けると手を伸ばしてきたので、上半身を起こして抱きしめる。

バネッサは自分でも死にかけたことを理解しているのだろう。そのままマーギンにぎゅうっと抱きついたまましばらく泣き続けたのであった。

「落ち着いたか?」

「うちを助けに来てくれたんだな」

マーギンに抱きついたまま離れないバネッサ。

「一応、全部の治癒はしたけど、完全に治したわけじゃない。しばらくは安静にしないとダメだ。あと、服はマジックバッグに入ってるな? 勝手に出していいか?」

「服……? えっ、あーーっ!」

自分が何も身に着けていないことに気付いたバネッサ。

「悪い。治癒するのに防刃服を脱がしたら、下着も斬れてたみたいでな……あの、その……なんだ……ごめん」

裸でマーギンに抱きついているバネッサは顔を赤くしたが、いつものように殴ることはなかった。

「……別に構わねぇよ。もう全部見たんだろ?」

「まぁ、治癒を優先したから、服を着せてる暇がなかった」

「寒ぃ」

「服を出してやるから、いったん離れろ」

「離れたら丸見えになって恥ずかしいだろうが。それに上手く力が入らねぇ。このまま毛布で包んでくれよ」

そう言われたマーギンは毛布を出したが、バネッサが離れないので、一緒に毛布に包まるのであった。

◆◆◆

「みんな無事か?」

大隊長達が港街に到着し、チューマンが出たところに辿り着いた。

「大隊長、隊長……バネッサが……バネッサが……」

涙を流しながら、ロッカがオルターネンの身体に頭をくっつけて、バネッサがと言い続ける。

「バネッサはここにいたのか?」

「1人でチューマンの群れを止めようと……クッソぉぉっ! チューマンの野郎、許せん」

「バネッサは無事だ」

「えっ?」

「バネッサが血塗れで空から落ちてきた。今マーギンが治癒している。あいつならきっと助けるだろう。だから心配するな」

「バネッサが空から落ちて……きた? 本当ですかそれは?」

「あぁ、マーギンも訳が分かってなかった。俺達にも何が起きたか分からん。ただ、バネッサがマーギンのところに落ちてきたのは確かだ」

「カザフ、バネッサが落ちてきたのは本当か?」

グシグシと涙を流しているカザフにも問いかけるロッカ。

「本当だ……バネッサが血塗れで……」

ロッカは大隊長の顔も見る。

「本当だ。マーギンが血塗れのバネッサを見て、嫌な予感がするから先に港街に行ってくれと言った。やはり、ここにもこれだけのチューマンが出てたのだな。しかし、すでにお前たちが倒したのか。よくやった」

「バネッサは本当にマーギンのところにいるのですね?」

「いる。だからもう心配するな」

大隊長がそう言い切ったことで、ロッカはへなへなとその場で崩れ落ちるように座った。

「そうか……マーギンが助けてくれたのか……良かった」

そして、その場にいる全員が悲しみの顔から安堵の顔に変わったのだった。

「アイリス、このチューマンの死体を焼いてくれ。住民に被害は出てないか?」

「チューマンが来る前にピコスが出ました。そのときの怪我人は姫様が治癒されました。騎士団長が住民を避難させています」

ローズがそう説明し、全員で騎士団長の元へと向かった。

◆◆◆

マーギンにくっついていることで、安心したバネッサは寝息を立てている。血塗れだったが、防刃服のおかげで斬られた傷は深くはなく、大量出血とまではいかなかったのが幸いだった。しばらく寝れば体力も回復するだろう。

バネッサに腕枕をしたままマーギンは何が起こったのか考える。

幻惑粉のときに離れた場所にいたカザフ、恐らくチューマンにやられただろうバネッサが俺のところに落ちてきた。これはどういうことだ?

そんなことがあるわけがない。あるわけがないが、可能性が1つしか思い当たらない。

「ミスティ……お前なんだろ? お前が2人を助けてくれたんだろ?」

思い当たる可能性、それは転移魔法。

過去も含めて、転移魔法を使えたのは自分以外にミスティしか知らない。

「おいっ! 生きてるなら出てこいよ。今も見てるんだろ?」

マーギンは意識を集中してミスティの気配を探る。しかし、それは無駄なことだと分かっている。ミスティが気配断ちをしたら感知できない。

「生きてるならなんで姿を現さないんだよ……」

ミスティが生きていると確信したマーギン。

姿を現さないということは、何らかの理由があって生きていることを自分に知られないようにしているということだ。しかし、カザフのときはともかく、バネッサのことはさすがに気付く。

自分の存在を隠しているにも関わらず、俺が大切に思っている人を助けてくれた。バネッサを転移しなければ、本当に死んでいただろう。もしミスティがカタリーナのことを知っていたら、治癒能力の高いカタリーナのところに転移させても良かったはずだ。それでも、自分のところに転移させた理由……

マーギンはその意味に辿り着く。

「俺を暴走させないためか……」

カザフかバネッサが死んでいたら俺はどうなっていただろうか。恐らくというか間違いなくブチ切れる。それはチューマンにではなく、チューマンを生み出したものに対してだ。それはすなわちゴルドバーン。

「この世から消え去れ」

自分がブチ切れて、ゴルドバーン城を焼き尽くす姿を想像する。

「間違いなくこうなっていたな」

マーギンは隣で安心した顔で眠るバネッサの顔を見て、

「ありがとうな、ミスティ」

そう呟いたのであった。