軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔物より怖いのは人間

毒か?

マーギンは口元を腕で防ぐ。

「カザフ、この煙を吸うな」

近くにいるであろうカザフに声を掛けるが返事がない。これはまずい。

「カザフっ、返事をしろっ!」

気配を探っても分からない。とにかくカザフをこの場から離脱させねば。

マーギンは人がいることは分かっていた。多分ゴルドバーンの兵士が様子を伺っているだけだと思っていたが、こんなことをしてくるとは想定してなかったのだ。

煙が風に流されてうっすらと視界が晴れてきた途端、

ビュンっ。

剣での攻撃だと……? しかもこの剣は……

バックステップで攻撃を躱したマーギンの視界に映ったのは魔鉄で作られた剣を持つローズ。

「こんなところで何を……」

ビュッビュッビュッビュッ。

問答無用でローズの左右からの連撃が襲う。

「やめろっ、俺だ。マーギンだ」

しかし、無言でマーギンを攻撃してくるローズ。

「くっ、様子が変だ」

《パラライズ!》

ビュッビュッビュッビュッ。

マーギンのパラライズをものともせず、攻撃してくる。

おかしい。

マーギンは違和感に気付いた。ローズがカタリーナを放り出してここに来るはずがない。それにパラライズが効かないということはローズではない。

まさか、さっきの煙は魔蛾の粉……幻惑粉かっ? ということは……このローズはチューマン。

マーギンは妖剣バンパイアを出して応戦する。しかし、目に映る姿はローズ。幻惑だと分かっていても攻撃する手が鈍る。

ガキッ。

「カザフっ、ここから離脱しろ。誰にも近付くな。すぐに離れろっ!」

マーギンはローズに見えるチューマンに攻撃できないまま、カザフに離脱を命令する。しかし、返事も何もない。

「クソッ!」

カザフを探そうにも、目の前のチューマンの攻撃を防ぐのが精一杯のマーギン。相手の姿がローズに見えるというだけで、こんなに自分はダメになるのかと初めて知る。

「あれはチューマンだ。ローズじゃない」

そう自分に言い聞かせても、攻撃する手が鈍る。万が一、本当のローズだったらと思ってしまうのだ。

「ローズじゃない、ローズじゃない、ローズじゃ……」

マーギンはあれがローズでないことを、意識の中に刷り込ませる。そして、アイテムボックスからピーマンを出した。

「食らえっ!」

目の前に映るローズはピーマンを避けようともせず、顔に当たっても平気だった。

ズバッ。

それを見たマーギンはローズに見えたチューマンを斬った。すると、ローズに見えていたものがチューマンの姿に変わっていった。

幻惑が解けたマーギンは、すかさずプロテクション階段を出して上に上がる。カザフを探さないとダメなのだ。

「カザフっ! カザフっ!」

目に見える範囲にカザフがいない。まさか食われ……

「おーい、マーギンっ!」

カザフはチューマンがいる場所からかなり離れた場所にいた。それを確認したマーギンはチューマンがいた方を見ると、残りのチューマンの群れは大隊長とオルターネンが討伐完了していたのだった。

「カザフ、大丈夫だったか。良かった」

マーギンはカザフを抱きしめる。

「やっ、やめろよ。何があったんだよ?」

「ゴルドバーンのやつらが幻惑粉を使いやがったんだ。あれにやられると同士討ちになる。魔蛾と戦うときに気を付けないとダメなやつだな」

「ふーん」

「ふーんって、お前は幻惑を何も見なかったのか?」

「分かんねぇよ。いきなり離れた場所に飛ばされたんだよ。あれ、マーギンがやったんだろ?」

「えっ?」

「なんか飛んできて、煙がでたからヤバいと思って息を止めたら、あそこにいたんだってば」

マーギンはこそっとカザフを鑑定する。もしかして、闇魔法の適正ができて、転移したんじゃないかと思ったからだ。

しかし、魔力は伸びているものの、闇魔法適正はなかった。自分が無意識に飛ばしたのだろうか?

そんなことを思っていると、大隊長とオルターネンがこちらにやってきた。

「何があった?」

「ゴルドバーン兵にしてやられましたよ」

オルターネンに幻惑粉のことを話す。

「嫌な手を使ってくるものだな」

「雑魚だと思って放っておいたのが裏目に出ましたね。次からは先に対処します」

「やはり、魔物より怖いのは人間だな」

「そうかもしれません」

◆◆◆

「きゃーーっ!」

住民達の悲鳴が聞こえたカタリーナ達。護衛をする皆も一斉に攻撃態勢に入った。

「チューマンがきたの? 悲鳴が聞こえた方に行かなきゃ」

「ダメです」

「だって」

「姫様はここにいる皆まで危険に晒すおつもりですかっ。姫様を庇って死ぬのはここにいる者達なのですよっ!」

「ローズ……」

「姫様、やはりマーギンにシュベタインに戻してもらう方が良かったのです」

ローズもこんなことを言いたくはない。しかし、こうでも言わないと、危険に飛び込んで行ってしまうのだ。

「私が見に行きます」

「俺も行ってやるよ。アイリスは護衛も必要だろ?」

アイリスが様子を見に行くと言ったら、タジキが付いて来てくれると言う。

「大丈夫です。姫様の護衛は1人でも多い方がいいので」

と、それを断ってアイリスは走って行った。

悲鳴が聞こえてくる方に行くと、そこには大量の 猿型の魔物(ピコス) が港街になだれ込んでいる。

「アイリスっ、殲滅するぞ」

バネッサと隠密執事がすでに魔物と戦っていた。

「バネッサさん、壁から漏れたやつをお願いします」

《ファイアウォール!》

アイリスは、ピコスが人々の方にいかないように炎の壁を出した。

ギャーギャーと叫びながら、ピコスは炎の壁の前で立ち止まった。それを見たアイリスはぐるっとピコスを囲う。そしてそのまま炎で全体を包んだ。

炎から逃れたピコスはバネッサと隠密執事の餌食になっていく。

「バネッサさん、あとはお願いします」

と、アイリスはまたカタリーナの方へ戻った。

「姫様、出番です。先程の悲鳴はチューマンではなく、ピコスでした。怪我をした人がたくさんいるみたいなので、お願いします」

「分かった」

「バネッサさん、あの少女も凄まじいですね」

「あぁ、化け物じみてるだろ? マーギンの一番弟子だからな」

ピコスを倒し終わったバネッサと隠密執事。

倒したピコスをまだ燃えているピコスの山にポイポイと投げ入れていく。誰か食うかもしれないが、この血の臭いがチューマンを引き寄せてしまうかもしれないとの判断だった。

《シャランラン、シャランラン、シャランラン》

怪我した人達を治癒していくカタリーナ。この港街は前のときのことを覚えているものも多く、皆から歓迎されていた。

「港街に戻りますか」

「そうだな」

倒したチューマンを焼き尽くし、港街に戻るマーギン達。

《パラライズ!》

その場から去ろうとしたゴルドバーン兵に気配を消して近付き、パラライズを掛けてから港街に戻るのであった。

ゾクッ。

バネッサはピコスを焼いている最中に、嫌な感じがしてオスクリタを投げた。

キンッ。

「ちっ、おっさんっ、カタリーナ達に逃げろと伝えてくれ。うちはこいつらをここでなんとかする」

「お一人で対峙するつもりですか」

ゾロゾロとやってくるチューマン。

「だから、逃げろと伝えてくれ。うち1人でこの数を止めれるわけがねぇだろ」

バネッサはそう叫んでオスクリタを投げ続ける。関節を庇うことはしないが、前より硬いようで、一発では動きを止められないのだ。

「少しでもここで足止めしねぇと」

バネッサは必死でオスクリタを投げ続けるのであった。