軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

非情になるのは私

「カザフ、チューマンが居たのは街までどれぐらいの距離だ?」

「まだ街に行くか、港街に行くか分かんねぇくらいの場所だ」

あのあたりか。街には壁があるが港街にはない。それにさほど復興も進んでないだろうからチューマンに狙われたら全滅するな。

「カタリーナ。お前とローズはシュベタインに帰れ」

「えっ……どうして私達だけ……?」

「初めにチューマンが出たら帰らせると言っておいただろ。一匹、二匹ならこんなことは言わん。かなりヤバい状況だということを理解しろ」

「でも……」

カタリーナは自分が仲間外れにされたような気持ちになり、シュベタインに戻らされることを渋る。

「姫様、マーギンの言うことを聞いてください。複数のチューマン相手では私もお守りする自信がありません」

それを諫めるローズ。

「でもっ、でも私は聖女なのよっ! 人々の危機のときにいないでどうするのよ」

「だから戻すんだ。多方面からチューマンに襲われたら、必ず怪我人や死人がでる。俺達は討伐にかかりきりになるから、怪我に構ってる暇がない。それにお前が救うべきはシュベタインの人々だ」

マーギンはカタリーナが危険を顧みず、チューマンに襲われた人々を助けようとするだろうと予想する。そして、それに自分が気を取られていては、もっと多くの犠牲を生むことになるのを懸念した。

「どこの国の人でも関係ないじゃない……」

「言い争ってる場合じゃない。ほら、魔法陣を開くから帰れ」

時間がない状況で、これ以上有無を言わさないようにとブォンと転移の魔法陣を展開した。

「一緒にいたい……」

泣きそうな目でマーギンを見るカタリーナ。

「俺達は遊びに行くわけじゃないんだ。ほら、早く行け」

カタリーナの背中を押そうとしたら、その腕を掴む。

「私は、私はマーギンと一緒にいたいのっ!」

そう叫んでボロボロと泣くカタリーナ。

「これ以上わがままを……」

と、大声を上げかけたマーギン。

ブラーン。

マーギンに飛びついて、背中にぶら下がるアイリス。

「おい、アイリス。こんなときにふざけるな」

「マーギンさん、一緒に行けばいいじゃないですか。姫様がいれば転移魔法で行けますし、ここから走るよりいいと思いますよ」

「余計な口を挟むな。遊びに行くわけじゃないって言ってるだろ」

と、背中にぶら下がっているアイリスの手を外そうとすると、ぎゅうっとしがみつく。そして、真面目な声で、

「お願いします。姫様を連れていってあげてください。私が姫様を守りますから」

「お前が守るって……」

「お願いします。自分だけ仲間外れにされて、何もできないのって辛いんです。それに、チューマンがたくさん来るなら、誰が怪我をするか分かりません。マーギンさんが戦っていたら、助けられるのは姫様だけなんです。それにまたマーギンさんが死にかけでもしたら……」

と、アイリスの感情がブワッと膨れた。あのときのことを思い出して、髪の毛が逆立つアイリス。

「アイリスお前……」

「姫様、次は何があってもマーギンさんを最優先すると約束してください」

マーギンの背中に張り付いたままのアイリスがカタリーナに怖い顔をして凄んだ。

「う、うん」

マーギンはアイリスの本気さにハァっと、ため息を1つつき、

「カタリーナ」

「はい」

「俺を優先しなくていい。お前が助けるべきだと思ったやつを助けろ」

と言って、マーギンは転移の魔法陣を消した。

「連れてってくれるの……?」

「役に立て」

「マーギンっ、何を言っているのだ。お前は姫様を危険に近付けるなと言ったではないか」

激昂するローズ。しかし、そこにトルクが間に割って入った。

「僕もロッカ姉と一緒に姫様を守るよ。だから一緒に行こう。アイリスがいれば対応できる幅も広がるし。タジキも姫様の護衛に加わって。カザフは勝手に突っ込んで死なないでね」

カタリーナの手を持って僕も守るよと言いながら、しれっとカザフには辛辣なトルク。

「ローズ、どうする?」

護衛対象を危険に近付けないのは護衛の仕事。マーギンもそのことをローズに何度も言った。今回はローズが正しいのだ。

「ローズ、お願い。私はマーギンの役に立ちたいの」

カタリーナの泣きそうな顔を見たローズは、任務かカタリーナの要望を聞き入れるか悩む。

『お前は心の護衛もしないといけないのだ』

大隊長に言われた言葉がローズの心に残っている。

姫様の心をお守りするのも私の役目か……このままシュベタインに戻らせたら、臥せってしまわれるかもしれない。

「……分かりました。姫様が治癒すべきものは私が判断します。それは必ず守ってください。それが条件です」

「うん、分かった」

こうして全員でチューマン討伐に向かうことになった。

「港街に向かう」

港街? と隠密執事が疑問に思う。

「陛下、人の多い街に向かうのではないのですか?」

「街は壁があるだろ? 少しは持ちこたえられる。それに対して港街には壁がない。チューマンが狙うとしたら、楽に襲える方を狙うと思う。チューマンは行き当たりばったりで襲っているようには思えないんだよ」

今までのことから、チューマンは効率良く狩りをしているものと思われる。多分、斥候のような役目をしているやつがいるはずなのだ。

「そうでしたか。余計なことを申しました。領都の調査はそのあとでございますね」

野営の後片付けを終わらせ出発する。騎士団長の顔は死んでいる。地獄の移動がまた始まるのだと。

ブォン。

マーギンが展開した転移の魔法陣にオルターネン、大隊長が先に入っていく。そのあと、バネッサ達が続いた。

「なっ……なんですかこれは」

先程のカタリーナとのやりとりを理解してなかった騎士団長と隠密執事。

「いいからさっさと行け」

ドンっと騎士団長蹴飛ばして魔法陣に入らせると、隠密執事もあとに続き、最後にアイリスをぶら下げたマーギンとカタリーナ、ローズが入った。

オロッ……

で、止まったマーギンの転移酔い。カタリーナは甘い匂いをまとっていた。

「これは伝説の転移魔法……なのですね」

隠密執事は転移魔法があるということを知っていたようだ。騎士団長はキョロキョロしっぱなし。

転移したのは港街入り口。まだ街から悲鳴が聞こえてこないので、間に合ったようだ。

「バネッサとカザフは?」

「偵察に出た。マーギン、作戦を教えてくれ」

と、オルターネンが皆を含めて作戦会議を練りたいと言ったので、改めてチューマンの特性と、対処方法、それに関節を庇うかどうかの確認作業が必要なことを説明する。

「チューマンは学習するのか」

「それはまだ不確定。学習していたときもあるし、していなかったこともあった。一度戦ったことのあるチューマンと同じ巣のやつが学習しているんだと思う。それも多分だけどね」

「姫様の守りはどうする?」

「アイリスのスリップ、トルクの見えない手は使える。俺達が戦っている間にカタリーナが襲われたら、トルクが掴んで、アイリスがスリップで足止め。その間に逃げてもらう。誰かの治癒途中だとしてもすぐに逃げろ。治癒してたやつは見捨てろ」

そのときのことを想像して、マーギンの見捨てろという言葉にカタリーナとローズの心が締め付けられる。

(私が非情にならねば……)

ローズは自分にそう言い聞かせたのだった。