軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

本能が告げる

プロテクションスライダーで行くつもりだったのだが、ノウブシルクの王家の馬車に乗っていかないと、ゴルドバーンで信用されないと騎士団長に言われてしまった。これで長旅決定だ。

馬車3台に分かれて出発。先頭の馬車にはオルターネン、ロッカ、カザフ達。次にマーギンが乗る馬車には騎士団長、カタリーナ、ローズ。最後尾は大隊長、アイリス、バネッサだ。

ゴトンゴトン。

ノウブシルクの馬車には板バネのサスペンションが付いている。ガタガタ道とはいえ、突き上げてくる衝撃は少しマシだ。

「バネッサ、オルターネンにずいぶんと辛辣なことを言ったな。なぜだ?」

カタリーナがノウブシルクに到着したときのことを聞く大隊長。

「別にあんなことを言うつもりはなかったんだけどよ」

「何か理由があるのか?」

「あのメンツでなんかあったら、死ぬのはロッカだろ?」

「どういう状況を想定した?」

「ノウブシルクに近づくにつれ、シュベタインの北側より魔物が多かった。うちや大隊長は移動、隊長とロッカは護衛だ。移動だけなら魔物を避けて通れる」

「そうだな」

「ローズも弱いとは思ってねぇけど、日頃から魔物討伐してる者と比べると、あの道中の護衛としては物足りねぇ。もし強い魔物と出くわしたら、隊長とロッカが接近戦で戦うことになる。魔物の数が多けりゃローズとカタリーナを逃がしながらの戦いになるだろ?」

「あの2人なら対応可能だろ?」

「そうだけどよ、戦いには何があるか分かんねぇ。もし本当にヤバいときに隊長は誰を優先するんだろうな? 護衛対象のカタリーナ、妹のローズ、愛するロッカ」

「うむ……姫様だろうな」

「うちもそう思う。だけど、一瞬迷いが生じるもんなんじゃねーか? その一瞬が命取りだ。結局、隊長がカタリーナとローズをセットで守りながら逃がして、ロッカが追撃を防ぐのに 殿(しんがり) をすることになるんじゃねーかと思ったんだよ」

「なるほどな」

「ま、これは最悪の想定だけどよ」

大隊長はバネッサのいい読みに感心した。

「で、お前はマーギンとなぜ一緒にいたいのだ?」

「うちはマーギンに死んで欲しくねぇ」

「あいつはそうやすやすと死なんだろ」

「うちの前で2回死にかけてんだ。1回目は白蛇からうちをかばったとき。2回目はチューマンの巣のときだ。あれを見てマーギンが死なねぇとは言えねぇよ」

バネッサは当時のことを思い出して、顔が青ざめていた。

「マーギンに惚れてるのか?」

「マーギンが女として好きなのはローズだろ? うちは別にそんなんじゃねぇよ。ただ、うちの前からいなくならないで欲しいだけだ」

と、オスクリタを出して眺めるのであった。

野営した翌日、大隊長が乗る馬車をロッカと交代する。

「バネッサ……」

到着早々、バネッサとオルターネンが揉めて、あまり話ができていないロッカ。

「なんか話があんのか?」

「今回のことはお前が正しい。私は浮かれていたのかもしれない」

「浮かれ過ぎだ。ま、しゃーねぇけどよ」

ロッカはそう言われて頭を掻いた。

「バネッサはマーギンと上手くいってるのか?」

「前と変わんねぇよ。なんで大隊長といい、ロッカといい、そんなことを聞いてくるんだよ? 前までそんなことなかっただろうが」

「いや、その……お前があまりにも情熱的に一緒にいたいと言ったものだからな。前のお前なら、本当はそう思ってても、口には出さなかっただろ?」

バネッサはロッカに言われて、自分でも不思議に思った。

「そうだな。何でだろうな?」

「なんだ、自分でもよく分からんのか?」

「うちにもよく分かんねぇ。マーギンがいなくなるんじゃないかと思ったら、すっげぇ怖くなったと言うか……今度こそ何かしてやれるんじゃねーかと思ったんだよ」

「今度こそ?」

「ん?」

ロッカに聞き返されてキョトンとするバネッサ。

「お前が今言ったではないか」

「うちが何を言った?」

「今度こそ何かしてやれるかもしれないと言ったではないか」

「そうか?」

「今言ったことを忘れたのか? 変なやつだ、まったく」

「それより、ロッカは隊長と結婚すんのか?」

直球で聞かれて赤くなるロッカ。

「わ、私が気の済むまでやりきってからでいいと言われたのだけれどな……」

「けっ、ロッカに気の済むときなんかくるのかよ? レーキのときもめっちゃはしゃいでたじゃねーか」

「あ、あれはその……なんだ」

葬らんを楽しんでいたロッカは口籠ったのであった。

「オルターネン、お前がロッカを連れてきた理由はなんだ? バネッサの言う通り色ボケか?」

オルターネンはロッカと馬車を交代した大隊長に本意を聞かれていた。

「色ボケと言われればそうかもしれません」

この馬車にはカザフ達も乗っている。

「正直に言え。このままだと隊長としての資質を疑われる」

カザフ達はオルターネンと大隊長の顔を交互に見てキョロキョロしている。

「半分私情が入っていたのは認めます」

「残りの半分は?」

「何か大事になるのではないかと直感したからです。マーギンが1人で動くときには必ず何かある。そう思ったからロッカを連れてきました」

「なぜロッカだ?」

「これがロッカの集大成の場になるのでないかと。恐らく、今が体力と気力のピークです。トルクとの連係も上手くいっています」

「つまり、ロッカの現役引退遠征ということか?」

「に、なるかもしれないと思ったのです。サリドンとホープを残してきたのは、どちらかが次期隊長になるための訓練です」

「お前が隊長を退くのはまだまだ先だろう?」

「いや、自分も大隊長と同じように最前線に立つべきだと思っています」

「なんだと?」

「特務隊は魔物討伐の部隊。自分は魔王討伐メンバーになるつもりです。大隊長もそうなのでしょ?」

「オルターネン……」

「以前マーギンは、魔王の復活は早ければ5年後と言いました。その話を聞いてから3年が経つのです。もう準備を始めないといけないのではないでしょうか」

「うむ……」

「バネッサの真意は分かりませんが、恐らくマーギンから離れないと言ったのは、そのことも関係しているのではないかと思います。そして姫様も」

オルターネン、大隊長、バネッサ、カタリーナ。勇者パーティーが使っていた武器と杖を託された者達は、自分でも気付かないうちに、マーギンのそばにいるべきだと本能が告げていたのであった。

マーギンが乗る馬車ではあまり会話がなく、少し重い空気が漂っている。出発したころはカタリーナが嬉しそうに色々と話をしていたが、マーギンが会話にのってこなかったのだ。

「ねぇ、マーギン。なんか怒ってる?」

「いや、怒ってないぞ」

「じゃあ、どうして難しい顔をして黙ってるの?」

カタリーナはこの空気に耐えられずに、マーギンに聞いた。

「色々と考えごとをしてたんだよ」

「どんな?」

「多分、ゴルドバーンとの交渉は上手くいかない」

「どうして?」

「あの国は先住民を見殺しにした。というより、先住民を餌にしたんじゃないかと俺は思っている」

「餌?」

「あぁ。チューマンを増やすための餌だ」

と、マーギンが説明するとカタリーナは黙った。

「で、先住達はほとんどいなくなり、魔カイコの村民をタイベに移住させただろ?」

「でもマーギンが巣を潰したんだよね? それでも増えるの?」

「タイベに出たチューマンと、この前のチューマンは別の巣のやつだ。他にも巣があるだろう。それと多分の話になるが、チューマンの増える時期は春なんじゃないかと思う」

「今ってこと?」

「そう。冬の間に数を増やして、春になれば増えたやつらが外に出てくる。で、南側に餌が少ないとなれば北上してくるだろうな」

「街中にチューマンがいるかもしれないのね」

「こればっかりは行ってみないと分からんけどな。もしチューマンが出てたら、お前はシュベタインに転移させるからな」

怖い顔をしながらそう言ったマーギンに、カタリーナは返事ができないのであった。