軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれ

「しばらく留守にするわ」

医術本の翻訳が終わったあと、マーギンはそれだけを言い残して消えた。いつもならどこに行くのか、しつこく問い詰めるカタリーナも何も聞けない雰囲気だったのだ。

「アイリス、マーギンはどこに行ったのかな……」

「どこでしょうね」

アイリスはなんとなく察しが付いていたが、余計なことは言わなかった。

「カタリーナ、このまましばらくここを手伝え。この時期でこんなに寒いと、冬本番はどれぐらい気温が下がるか分からん。今から薬を作り始めるぞ」

「うん。分かった」

カタリーナとローズは特務隊からの要請がない限り、ヘラルドの手伝いを兼ねて、このまま医術と薬のことを学ぶことになり、アイリスは特務隊へと戻っていった。

◆◆◆

「トルク、バフを掛けるのが遅い。私がガッと力を入れるタイミングで掛けてくれ」

「ガッって、どこー?」

「だから、こうバーっとして、ガッとするときだ。そして、スッとするときには不要なのだ」

ロッカはタイベから戻ったあと、トルクに身体強化魔法を掛けてもらう特訓をしていた。が、マーギンに掛けっぱなしにしてもらったような感覚にはならない。試しに、トルクに掛けっぱなしにしてもらうと、すぐに体力が切れる。マーギンは掛けっぱなしだと言っていたが、やはり何かが違うのだろう。

「口で言っても分からんか。では戦おう」

ロッカの理屈が分からないトルク。しかし、ロッカとの対戦は剣の稽古になるので、言われるがままに戦いに挑むのであった。

◆◆◆

「ちょっと、ホープ。あいつ何とかしてよ」

「俺のせいじゃないだろ」

休みの日にシスコの仕事を手伝ったあと、カニドゥラックの個室で愚痴られるホープ。シスコはカニの足をぺきぺきと折ってはズルんズルんとカニを食べていく。

シスコの言うあいつとは、ハンナリー商会を不採用にした男だ。入社試験を不合格になったあと、同じく平民落ちする貴族たちを集めて商会を立ち上げた。そして、ハンナリー商会が独占しているカニやマグロを売れと漁師たちにしつこく迫っていたのだった。

「結局売るのか?」

「さばき切れそうにない分は売ってもいいと言ったんだけど、現場の人達が絶対に売らないと言い切ったのよ。もう私にはどうしようもないわ」

「なら別にいいじゃないか」

「だからしつこいって言ってるのよ。ハンナリー商会は不当に独占していると商業組合に訴えたりしてるのよ」

「そんなの取り合わないだろ?」

「商業組合もこっちの味方だけど、書類は完璧にしてくるから、受け付けをしないとダメらしいの。それで、こちらにも聞き取り調査もしないとダメらしくて」

何かこちらに不利益になるようなことはないが、とにかく時間を取られてたまらないと、愚痴ってはズルん、愚痴ってはズルんが止まらない。

「それ、カニとマグロだけか?」

「化粧品も探りを入れて来てるわ」

「あー、なるほどな。社交会シーズンに間に合うように仕入れをしたいのか」

「それならそれで、自分で商品開発をすればいいのよ」

いつにもましてハンナリー商会は忙しい。大隊長の家を改装して、貴族向けのサロン的な店をオープン予定なのだ。来年の社交シーズンはその宣伝を兼ねるらしい。担当は大隊長の奥さん、ダニエラ夫人、そしてなぜか北の領地夫人まで絡んできている。ランジェリーと化粧品だけの予定だったが、高級ワインを担当してくれるらしいのだ。

「大変だなシスコ」

ぷす。

「うぎゃぁぁっ」

他人事のように言ったホープのほっぺをカニの爪で突いたシスコ。

「こんなのが避けられないなんて、修行不足よ」

「普通、いきなり刺されるなんて思わないだろうが」

「それを油断と言うのよ」

と、シスコはクスクスと笑った。ホープもこんなのは当然避けられるが、シスコのじゃれに付き合ったのだった。

◆◆◆

「ローズさん、医療関係のお仕事はどうですか?」

「サリドンか。人のことより、お前の方はどうなんだ?」

宿舎の食堂でローズが1人で食べていると、サリドンが向かいに座ってきたのだ。

「そうですね。近々北の領地に魔狼狩りに出ますよ」

「ずいぶんと早いな」

「なんかもう冬みたいな感じでしょ? ハンター組合と話して、早めに対策しようかとなってるんですよ」

「ヘラルドもこの冬は大寒波になるだろうと、薬の準備を急いでいるな」

と、ローズはどんよりした顔をする。

「ローズさん、大丈夫ですか?」

「何がだ?」

「タイベから戻られてから、あまり元気がないですよね。そんなに戦争は酷かったんですか?」

「人がたくさん死んだな。敵も味方も……」

「やはり、姫様がおられても対応しきれないんですか……」

「姫様のおかげで助かった者は多いのだ。対応しきれなかったというより、間に合わなかったということだな」

「姫様も心を痛められてるでしょうね」

「そうだな。お前らも北の街の討伐で姫様の手を煩わせることがないようにしろよ」

「大丈夫ですよ。特務隊は大分経験も積みましたし、強くもなりました。それに無茶な突っ込みもさせてませんから。ヤバくなる前に撤退して、立て直すのが基本です」

「そうか。でも油断大敵だぞ」

「はい」

◆◆◆

「なぁ、こっちでも戦争になるんやろか」

「かもしれねぇなぁ」

「そうなったら、あんたらも駆り出されるんか?」

「本軍だけで無理となればそうなるな」

「あんたらやったら勝てると思うけど、人は殺して欲しないわ……」

「俺達も殺したくて殺すわけじゃないけどな。相手は軍人だ。戦争になったら、殺らなきゃ殺られる。お互いそれを覚悟の上で軍人になったからな。そこに遠慮は不要だ」

「そやかて……」

「ハンナちゃん。俺達はハンナちゃん達を守るためには何だってやる。たとえ、あとから人殺しだと罵られようが蔑まれようがな。大切なものを失うよりその方がずっといい」

「戦争になんかならんかったらええのにな……」

「ま、こっちにその気はなくても、攻めて来るときは攻めてくるもんだからな。魔物も人間も変わらんってことだ。俺達にとっちゃ敵か否か、それだけだろ?」

「そやな……」

軍人達の理屈は理解できる。それでも……と、ハンナリーの気持ちは晴れない。その気持ちを察知した軍人達。

「もしノウブシルクが攻めてきたら、思いっ切りラリパッパ掛けてやりゃいいんじゃないか? そうすりゃ相手も戦うのなんてバカらしくなるだろ」

「ほんまや。うちやれることあるやん」

パアッと顔が明るくなるハンナリー。

「だろ? なら、練習のためにラリパッパ掛けてくれよ」

「よっしゃぁっ、ほんなら、キツイのイッパツお見舞いしたんでぇ!」

「待ってましたぁっ!」

《ラリパッパっ!》

「素晴らしいっ、ハーンナリ商会、ハーンナリ商会♪」

チャチャラチャラチャラと憂鬱など吹き飛ばしていく軍人達は、ハンナリーと踊るのであった。

◆◆◆

ホバー移動とプロテクション階段でタイベに移動したマーギンはパイルプリズンで取り囲んだ戦艦のところに来ていた。

「もう人の気配はないな」

戦艦2隻からはすでに人の気配が消えている。閉じ込めてから4カ月ほど経つ。ノウブシルクからここまで来るのに食料はすでに底を突いていたのだろう。

マーギンはプロテクション階段をコツコツと降りて、戦艦の中に乗り込む。

「な、何だよこれ……」

戦艦に乗り込んだマーギンは自分の目を疑うのであった。