軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

舐めたマネしたやつの後始末

「あなたはこちらに並んでください。あなたはこちらです」

ローズはシスコと手分けして、運ばれてきた怪我人達の治癒する順番を決めていた。

「まだかね、早くしたまへ」

「あなたは軽症ですので、最後の方になります」

「なんだとっ! こんなに血が出ているではないか。早くしないと手遅れになったらどうするんだ。私は貴族だぞ、そんな庶民より優先するのが当たり前ではないか」

そうだそうだと、他の貴族らしき人達が文句を言い出した。今はそれどころではないというのに。

「ローズ、領主様を呼んでくるわ」

「その必要はない」

と、ローズはシスコを止めた。

「治癒の順番は重症度合いで決めておりますので、ご理解ください。そうでないと助かるものまで助からなくなります」

ローズはカタリーナと共に、ヘラルドのところで学んでいた。

◆◆◆

「一度に多くの怪我人や病人が出たときは、素早く順番を決めて治療していかねばならん。今すぐ治療をしないとダメな者。まだ耐えられる者、軽症の者の順番だ。これは年齢、身分関係なしにだ。聖女様よ、それと、もっともしてはならんことは何か分かるか?」

「してはダメなこと?」

「そうだ。もう間に合わない、もしくは死んだ者に治療することだ」

「もう亡くなってるなら治癒しても仕方がないじゃない。そんなの分かるわよ」

「……そうか。分かってるならそれでいい」

ヘラルドは何かを言いかけたが、順番を間違えると、助けられた者まで助けられなくなるからなと締めくくった。

◆◆◆

「うるさいっ。私を先に治療しろっ。そこをどけっ!」

一番文句を言っていた貴族が、重症者を運び込もうとしたときに割り込もうとした。

「分かりました。それでは次にあなたを治癒してもらいます」

「やっと分かったか。さっさとしろ、このグズめ」

と、ローズが次に治癒すると言ったことで、男は満足そうな顔をした。そのうしろに他の貴族も並ぶ。

「では、ゴメン」

スパッ。

「うぎゃぁぁぁっ」

ローズは剣でその男をバサッと斬った。

「これであなたは生死を彷徨う方となりましたので、次にご案内します」

ローズは血まみれになって倒れた男に冷ややかな目線を送り、そう伝えた。

「うしろにお並びの方々もすぐに重症にして差し上げますね」

「ひっ、ヒィィィ」

他の貴族達は一目散に逃げ出した。

「さ、次の方急いで」

と、他の重症者を案内する。

「ちょっ、ちょっとローズ。今斬った人どうするのよっ!」

「大丈夫だ。まだ2〜3時間もつだろう。血の気の多そうな御人だから、少し血を抜いた方がいい」

そして、ある程度血が流れたところで、傷口を凍らせたのであった。

「早くっ、早くっ!」

そこに運び込まれてきたのは血まみれで意識のない男と頭から血を流した子供。

「うちの子をっ、うちの子と主人を助けてください」

泣き叫ぶ母親。父親は子供を庇って瓦礫の下敷きになったらしい。

ローズは男と子供の脈を計る。

そして、男だけをカタリーナの元へと連れていく。

「子供はっ、うちの子供もお願いしますっ」

と、叫ぶ母親に振り向かず男だけを連れていった。

「姫様、こちらの方を……いや、何でもありません」

カタリーナは死にかけている男の治癒で手いっぱいだった。そして、抱きかかえてきた男の脈はもう止まってしまった。

ローズはそのまま、先ほどの女性の元に戻る。

「残念ながら、お助けすることができませんでした」

「人殺しっ! 子供を見捨てておいて、主人まで助けられないなんてっ。うわぁぁぁっ」

男を下に降ろすと、女はローズの胸をバンバンと叩いて泣き叫ぶ。

「申し訳ありません」

ローズは女を引き剥がし、次の重症者をカタリーナの元へと連れていくのであった。

◆◆◆

「これで全部か?」

「どうでしょう。炎の壁を広げられるだけ広げて追い込みましたけど、全部かどうか分かりません」

「そうか。追いかける手間が省けて助かった」

アイリスが炎の壁で敵兵を追い込み、オルターネンとロッカが中心となり、ほぼ壊滅させたのだった。衛兵やハンター達は敵兵を殺したが、オルターネンとロッカは致命傷にならない程度に倒していた。

「バネッサ、姫様のところの状況を確認してきてくれないか」

「敵も治すのか?」

「死なん程度にな。聞き出さねばならんこともあるし、捕虜をどうするか、領主に判断を仰がねばならん。殺せと言われるなら治療は不要だ」

「了解。なら、領主にも聞いてくるぜ」

一段落ついたところで、アイリスとロッカがへたり込む。2人とも魔力と体力切れだ。

「まだ油断するなよ。座っててもいいが、気配は探っておけ」

「隊長が探っててください。もうへとへとです」

と、いつものアイリス。

「ったく、お前は」

と、呆れたふりをするオルターネン。アイリスがいなければ、こんなに早くカタが付くことがなかったのだ。

「一番弟子か……」

そう呟いたオルターネンは気配を探り、奇襲がないか気を張ったまま、バネッサの報告を待つのであった。

「マーロック、何人殺られた?」

港に戻ってきたマーロックとマーギン。

「3人だ。若頭はなんとか一命を取り留めた」

「大型船の戦闘でか?」

「いや、陸に残ってたやつらだ。女子供を庇って殺られたらしい」

元海賊達。本来はマーギン達と戦ったときに死んでいてもおかしくなかった。あのときにセイレーンやサメに殺られた仲間も多い。生き残った者達は、マーギンに陽のあたる場所に連れ出してもらい、心を入れ替えた自分達を受け入れてくれたタイベの人達に心の底から感謝していた。

「死んだやつらも、少しは借りが返せたと思ってんだろ」

と、マーロックは涙をこらえた。

「そうだな」

マーギンはそれだけを言って、領主の元へと向かう。

「マーギンくん、無事だったかね」

「お陰さまで」

領主の元には縄で縛られた敵兵が並べられていた。そして、敵兵に憎悪を向ける領民達。

「うちの主人と子供を返してっ!」

そう叫ぶ女の人。他にも家族や愛する人を殺された人達が敵兵に石を投げたり、泣き叫んでいる。

「領主様、どう始末を付けるおつもりですか?」

「本来であれば、捕らえた敵兵は捕虜として扱い、王家に指示を仰がねばならんのだが……」

エドモンドは頭を悩ませる。領民達の憎しみが収まりそうにない現状を見て、捕まえるだけとはいかなさそうな雰囲気なのだ。

「捕虜は役付のやつらだけでいいでしょう。下っ端はどうせ何も知りません。拷問するだけ時間の無駄です」

「他は処刑する方がいいと言うのかね?」

「それで領民の気が収まるならね」

と、マーギンは夫と子供を殺された女の元へと向かう。

「殺してっ、あいつらを皆殺しにしてっ!」

「それで気が収まるか?」

「収まるわけないでしょっ」

「そうだろうね。じゃ、はい」

と、マーギンはナイフを渡した。

「あなたには仕返しをする権利がある。誰が旦那さんと子供を殺したか分かんないから、気の済むまで刺しておいで」

「えっ……」

「仇を取りたいんでしょ。俺がやってもいいけど、それで気がすまなさそうだから、自分の手でやった方がいい。ほら早く」

と、マーギンは女を敵兵のところに連れていく。

「ヒッ……」

狙いを付けられた敵兵が小さく悲鳴を上げる。

「殺してやるっ! 主人と子供を殺したお前らを殺してやるっ」

憎悪で溢れていた領民達も固唾を飲んでその様子を見守る。

ブルブルブルブル。

ナイフを持つ女の手が震える。

ガタガタガタ。

縛られて身動きできない敵兵は怯えて震えが止まらない。

「たっ、助け……」

バキッ。

助けてくれと言いかけた敵兵をマーギンは思いっ切り殴った。

「勝手なことを言うな。お前らはここの人らを殺したんだ。殺されて当たり前なんだよ。さ、奥さん。早く刺せ」

口と鼻から血を噴き出し、怯える敵兵。

「こっ、殺してやる……」

そう言いながら、なかなか刺せない女。

「そんな震えてちゃ、刺さらないよ。ほら、手伝ってやるから」

マーギンは女の手を取り、敵兵の胸元にナイフを突き立てる。

「手だけで刺そうと思っても刺さらないからね。身体ごとぶつかるような感じで刺さないと死なないから」

ガタガタガタ。

敵兵の怯えた目を見て震える女。

「しょうがない。しっかり握ってなよ」

ドンっ。

マーギンは女の背中を押した。

「ぎゃぁぁぁっ」

「ヒィィィっ。やめてっ、押さないでっ!」

ナイフが少し刺さっただけで、悲鳴を上げてにトドメを刺せない。

「はい、もう一回」

と、ドンと女の背中を押す。

「やめてっ、やめてぇぇっ」

女はナイフを落として泣き崩れる。

「気が済んだか?」

ガタガタガタと震えて返事ができない。

「旦那さんとお子さんは残念だったけど、こいつらを殺しても戻ってこない。そして、あなたの気も晴れない、手に嫌な感触が残ってるだろ」

ガタガタガタ。

「多分、亡くなった旦那さんもお子さんも、仇討ちとはいえ、あなたに人殺しなんてして欲しくないと思うぞ」

「うわぁぁぁぁっ」

マーギンにそう言われて女は泣き崩れた。

マーギンはしばらく待ったあと、女を抱きかかえて領主の元に戻る。

「シシリー、頼めるか?」

「ええ」

マーギンは泣き崩れている女をシシリーに渡した。

「マーロック、仲間の仇討ちをするか?」

「いや、憎しみは憎しみを生む。あいつらは大義を成して海に還ったんだ。俺が仇討ちする必要はねぇ」

マーロックは血が出るほど拳を握りしめてそう答えた。

「そうか。天じゃなしに、海に還ったのか」

「海に生きる者はいずれ海に還る。それが俺達の定めだ。俺達の生死は海が決める」

「あいつらも一応船乗りだったな」

「そうだな」

「領主様、船乗りの生死は海が決めるらしいです。役付は捕虜として捕らえますが、他のやつらは海に判断させていいですか?」

「溺れさせるのかね?」

「すでに海で何人も死んでますからね。しばらくここの海は魔物やサメが餌場と判断して居座るでしょう。これ以上餌をやるともっと強い魔物を呼び寄せることになります」

「逃がすのか?」

「それは海に判断してもらいますよ」

憎悪を爆発させていた領民達も、先ほどのマーギンと女のやり取りを見て、少し落ち着きを取り戻していた。

「みんな、愛する人を殺された悲しみと憎しみは理解している。しかし、お前たちに同じことをさせるわけにはいかない。ここは私の判断を信じて欲しいと領主様がおっしゃっている」

ざわざわざわざわ。

「どうするってんですか」

「こうするんだ」

マーギンは転移の魔法陣を開いて、敵兵を蹴り込んでいった。

「きっ、消えやがった……」

「あいつらをどうするかは、タイベの海が決める。お前達が愛したタイベの海に任せておけ」

ざわざわざわざわ。

それだけを言い残したマーギン。

「マーロック、クックのところに行くぞ」

と、マーロック達とその場を離れ、元貨物船のところへ行った。

「クック、無茶したな」

「おう、マーギンが強化した船が役に立ったぜ。で、どうケリを付けるんだ?」

マーギンは今からやることを説明する。

「そんなことができるのか?」

「俺は何でもありなんだよ」

そう答えたマーギンは、特攻した戦艦に連れていき、沖に停まっているもう一隻の戦艦に横付けしてもらった。

《パイルプリズン!》

ザンザンザンッ。

2隻並んだ戦艦の周りに石でできた杭が打ち込まれていく。これで戦艦は身動きができなくなった。

「諸君、海がお前らを生かすか殺すかを決める」

マーギンはそれだけを言い残して、クック達と戦艦を去った。

「た、助かったのか……?」

何がなんだか分からない敵兵達。領主の前で縛られていた敵兵達も転移魔法で戦艦に送り込まれていたのだ。

しばらく待っても何も起きないので、恐る恐る甲板に出てみると、船の周りに杭が打たれ、身動きできないことを理解した。

「俺達の生死は海が決めるって……一生ここに閉じ込めておくってことか……」

敵兵達は自分達の置かれた立場を理解し、その場で崩れ落ちるのであった。