軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一緒に幸せになります

「アイリスさん、2人で話をさせていただけないかしら」

アイリスが挨拶を終えたあと、2人で話したいと言うダニエラ。

「エアリス、おいで。父さんとあっちに行ってよう」

エドモンドはエアリスを連れて部屋を出る。マーギンもそれに続こうとすると、

「マーギンさん、一緒にいて下さい」

と、うつむきながらアイリスはマーギンの服を掴んだ。

「夫人は2人で話したいと言ってるぞ」

「お願いします。一緒にいて下さい」

アイリスは下を向いたまま絞り出すような声で一緒にいて欲しいと言う。その手は少し震えながら、マーギンの服をギュッと掴んだまま離さなかった。

「ダニエラ夫人、俺も一緒にいていいですか?」

ダニエラはアイリスの様子を見て心が痛む。うつむいた顔は青く、小さく震えながらマーギンの服を掴んでいるのだ。

「かまいません。どうぞ一緒にいてあげてください」

そしてダニエラは以前、マーギンに話した内容をそのままアイリスに伝えて、頭を下げた。

「アイリスさん、本当にごめんなさい。私はこんなにもあなたを追い込んでしまった」

「もう、大丈夫です。顔をあげてください」

ダニエラが誤魔化さずに、本心から謝ってくれたことで、手の震えはマシになった。

「あのときは目の前が真っ暗になって、どうしていいか分からず、自分でもどうやって歩いたのか覚えてないんです」

アイリスが軒下に蹲っていたとき、放心状態だったからな。

「でも、あのときに受け入れてもらってたら、こうしてマーギンさんと一緒にいることはなかったんですよね」

「だろうな」

「私はあのときに追い返されたことで、幸せになれたんだと思います」

「えっ?」

「マーギンさんは私を拾ってくれて、それからもずっと守ってくれています。だから今の私は幸せなんです」

ダニエラはそれを聞いて、どう答えていいか分からない。

「別に気を遣って言ってるわけじゃないですよ。マーギンさんは何もできなかった私に魔法を使えるようにしてくれて、自分の力で生きていけるようにしてくれました。それに、星の導きの方々や姫様まで仲良くしてくれてます。本当に私は幸せなんです。だから、夫人ももう気にしないでください」

「でも……」

ダニエラの様子を見て、謝罪として何かを要求した方がいいと感じたアイリス。

「では、一つだけお願いがあります」

「なんなりとおっしゃって」

「領主邸の近くに、私のお母さんのお墓があります。そのお墓に挨拶をしていただけませんか。お父さんのことを最後までちゃんと面倒をみますって」

「分かりました。きちんとご挨拶させていただきます」

そうダニエラが返事をすると、アイリスはいつものアイリスに戻っていった。

マーギンはエドモンド達を呼びにいく。

「もういいのかね?」

と、エドモンドがダニエラに聞く。

「はい。領都に戻ったら、プリメラさんのお墓参りをさせてくださいませ」

「えっ?」

アイリスの母親の墓参りをすると聞いて驚くエドモンド。

「お父さん、私がお願いしたんです」

「そ、そうか。では戻ったら墓参りに行こう。それよりアイリス、もう大丈夫か?」

アイリスの様子を心配していたエドモンド。

「はい。大丈夫です。私は幸せです。そして、これからもマーギンさんと一緒に幸せになります」

「お、おぉ、それでは……」

ごすっ。

「誤解を招くような言い方をすんな」

「別にいいじゃないですか」

「あんな言い方したら、結婚するみたいに聞こえるだろうが」

「だって私は妻ですから」

ごすっ。

「だからそれやめろって言ってるだろうが」

それからも、別にいいじゃないですかと、言うアイリスはゴチゴチと頭を小突かれるのであった。

晩飯はハンナリー商会のコテージの庭でバーベキュー。マーギンが何もしなくていいようにスタッフを配置したシシリー。

「食べたいものや飲みたいものはスタッフに言ってくださいね」

と、晩餐会がスタートした。

「これは何?」

串肉を初めて見たエアリス。

「豚串ですよ」

と、アイリスが教えると、スタッフがエアリスの串を外そうとする。

「外さなくていいよ。エアリス、串肉ってのはこうして食うんだ」

と、串焼きの食べ方を教えるマーギン。

「こ、こう?」

と、下手くそに食べる。

「おいひいっ。まーひん、おいひいっ」

こういう食い方するとアイリスとそっくりだな。

「良かったな。他にも色々用意してくれてるから、好きなものを食べろ」

「うんっ」

「エアリス、口の周りがベタベタですよ」

と、アイリスがお姉ちゃんぶって、エアリスの口をナプキンでフキフキする。

「お前も口の周りに付いてるぞ」

と、マーギンが言うとアイリスが、はい拭いていいですよ、という感じで顔を近付けてくるので、魔法で綺麗にしてやった。

他のものは大丈夫そうだけど、ハマグリは火傷しそうなので、身を外して皿に入れてやる。

ハマグリがたくさんあるので、マーギンは自分の分を土鍋で酒蒸しにする。

「マーギンくん、それはなんだね?」

「酒蒸しですよ。食べます?」

エドモンドが、バーベキューで鍋? と、不思議に思ったようだ。

「なるほど、網焼きとは違った旨さがあるのだな」

「そうですね。土瓶蒸しにしても旨いですよ」

「土瓶蒸し?」

別にいつ食べてもいいのだが、土瓶蒸しは秋から冬の食べ物だろうな。

エドモンドと酒を飲みつつ、ハマグリの酒蒸しをつまんで土瓶蒸しの説明をしたり、雑談をする。

そうこうしているうちに、エアリスはお腹いっぱいでウトウトしだした。

「アイリス、俺の部屋でいいから寝かしてやれ」

「分かりました」

と、エアリスを連れていった。

「マーギンくん、アイリスのこと、本当にありがとう」

「いや、俺もアイリスがいなかったら、こういう生活をしてなかったと思います。俺こそありがとうございますと言わないとダメなんですよ」

「マーギンくんは誰とでもすぐに打ち解けられる性格をしているのではないかね?」

「アイリスと出会うまでは、ほとんど知り合いがいなかったですよ。この国に来てから3年ぐらいずっと家にいましたしね。あの頃の俺は人と触れ合うのがちょっと怖くなってたんです」

「そうなのかね」

「はい。アイリスがうちに住むようになって、やっぱり俺も頑張らなきゃなと思ったんですよね。あいつ、手が掛かりますし」

と、マーギンは思い出し笑いをする。

「本当に迷惑ではないのだね?」

「ええ。ぜんぜん」

「では、アイリスを妻に……」

「それはないです」

間髪入れずに否定するマーギン。

「マーギン、うちにもそれくれよ」

と、酒蒸しをねだりに来たバネッサ。

「甘くないぞ」

「うちが好きそうな味にしてくれればいいだろ?」

まったくこいつは……

バネッサの好きそうな味といえば、煮ハマグリだな。少し甘めにして作って渡す。

「おっ、甘辛で旨ぇ」

「バネッサばっかりズルい」

バネッサが煮ハマグリをうまうましていると、カタリーナが乱入。

「スタッフがあれやこれやしてくれてるだろ?」

「バネッサには作ってあげたじゃない。私にも作って」

何もしなくていいと思ったら大間違いだ。

カタリーナにはバターと白ワインで作る。

「ほら、土鍋ごと持ってけ。熱いから気を付けろよ」

そうこうしているうちに晩餐会もお開きに。

「エアリスはこのままここで泊めますよ。たまには夫婦2人でゆっくりしてください」

「迷惑じゃないのかね?」

「いつも俺の部屋に誰か寝に来ますから、気にしないでください。明日はそちらのプライベートビーチで遊ばせましょうか」

後片付けもしてくれるとのことで、部屋に戻るとアイリスとエアリスが同じベッドで寝ていた。

「あー、先越されてる」

今日もここで寝る気満々だったカタリーナ。

「自分の部屋で寝ろ」

「アイリスもいるじゃない」

「弟を寝かしつけて、そのまま寝ちゃったんだろ。そっとしといてやれ。それにお前らがここで寝たら、俺はまたソファで寝ることになるだろうが」

そう言って、追い返すとぶーたれながら出ていった。

2人に洗浄魔法を掛け、マーギンは風呂に入ってからベッドに入る。

ウトウトしたころに、アイリスがこっちのベッドに寝にきた。

「なにしてんだよ?」

「別にいいじゃないですか」

アイリスはそのままマーギンにくっついてスヤスヤと寝る。

今日はあのときのことがフラッシュバックして、心が落ち着かないのかもしれん。

そう思ったマーギンはアイリスを追い出さず、そのまま横に寝かせておくのだった。