軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟があるなら

朝起きると、バネッサが小さく丸まったまま寝ていた。

「お前、夢の中で泣いてたのかよ……」

バネッサは、カタリーナがゴルドバーンのことを気に病んでいたときに平気そうな顔をしていたが、生活に苦しんでいる子供達のことが心に引っ掛かってたんだろう。ネズミも捕ってやってたからな。

マーギンはバネッサの涙を指で拭ってやる。

「さて、どうしたもんか……」

やろうと思えばノウブシルクを滅ぼすのは可能。が、それをするのが正解なのかどうかは分からない。自分が知らないだけで、ノウブシルクが他国を攻める正当な理由があるのかもしれないし、正義や当たり前の定義はその国や時代によっても変わるのだ。

俺の使命は魔王を倒すこと。

マーギンの中に葛藤が生まれる。魔王を倒すのは平和をもたらすためだ。では魔王や魔物の脅威以外のことは放置していいのか? 俺が得たこの力は何のためにある? ミスティがいれば、こんなときになんて言うだろうか。

『自国のことは自国でなんとかするのが当然じゃ。よそ者が干渉すると余計にこじれ、関係のなかった国まで影響が及ぶのじゃ』

なんとなく、こんな声が聞こえた気がした。

「もう朝かよ?」

「起きたのか? 飯にするから顔を洗ってこい」

マーギンが動いた気配で起きたバネッサ。まだ起きるには早いが、泣いた跡が残ってる顔を洗わせにいかせた。

暦の上では春になっているが、王都は肌寒いので、朝飯はうどんにすることに。カツオ出汁に鶏肉を入れよう。野菜も食わさないとダメだからほうれん草も入れるか。卵は食べる前に投入でいいな。

「マーギン、おはよう」

出汁を作っているとカザフ達が起きてきた。

「アイリスも起こしてきてくれ。飯ができる」

と、カザフ達にアイリスを起こしに行かせ、うどんを茹でる。

自分のとバネッサのは半熟卵にして、他のみんなはかた茹でにして、ほうれん草を入れて完成。

「珍しい朝飯だな」

と、バネッサ。いつもはパンかパンケーキのことが多いからな。

「まだ肌寒いから温かい飯にした」

「マーギンさん、美味しいです」

「たまにはいいだろ?」

「はい」

と、ゆっくりとした朝飯を食べ、皆は宿舎へ、マーギンは城へと移動したのであった。

「マーギンっ!」

城に到着すると、遊んでくれるのを待ちかねていた子犬みたいに飛び込んでくるカタリーナ。入り口で待ってたのかこいつ。

あまりにも嬉しそうに飛び込んでくるので、避けてベチャッとさせずに受け止めてしまった。

「あのね、あのねっ!」

マーギンの胸の中で嬉しそうな顔で見上げながら何かを言おうとする。

「マーギン、陛下がお待ちだ」

と、大隊長も来た。

「カタリーナ、先に王様に報告があるから待っててくれ」

「えーっ、そんなのあとでいいじゃない」

「ダメ。今日はこれが本題なの」

「じゃあ、終わったら私の部屋に来てねっ!」

なんかいいことでもあったのか? まぁ、気持ちが切り替わったのなら良かったけど。

大隊長にさっさとしろと怒られる。予約の時間が過ぎているらしい。俺のせいじゃないよね?

謁見の間ではなく、別室で大隊長がゴルドバーンでの出来事を説明する。

「スタームは、ゴルドバーンがどうなると見る?」

「ダメでしょうな。マーギンが手を打ってはくれましたが、ノウブシルクもゴルドバーンも、はいそうですかとはならんでしょう」

「そうか……ゴルドバーンが滅ぶか」

「ノウブシルクは他国を攻めたあと、住民を虐殺するのでしょうか?」

人対人の戦争の結末がどうなるかよく知らないマーギン。

「報告ではウエサンプトンはあまり抵抗しなかったようじゃ。初めから勝てぬと思い降伏したのじゃろう。ゴルドバーンは交戦を選んだ。しかし、国力からしてノウブシルクとウエサンプトンの2ヶ国相手に勝てるとは思わぬ。ゴルドバーンの貴族と兵士は皆殺しにして、残った民は奴隷のように扱われるじゃろう」

王の話では、ウエサンプトンが交戦を選んでいれば、ゴルドバーンが応援に入り、ノウブシルクを退けられたかもしれないが、その場合、戦地はウエサンプトンとなり、多大な被害が出る。例え勝てたとしても国が疲弊して、いずれノウブシルクかゴルドバーンに飲み込まれる。ならば、初めから降伏したほうが被害が少ないと判断したのだろうとのことだった。

「しかし、気になるのはチューマンを切り札と口を滑らせたことか」

「はい。ゴルドバーンが交戦の道を選んだのはそれが要因かもしれません。しかし、あの化け物をどのように切り札に使うのかは分かりかねます」

「マーギンでも分からぬか?」

「チューマンは感情がないと思います。操れるとは思えないんですけど、自分の知らない方法があるかもしれません」

「操るのでなく、誘導するようなことは可能か?」

「誘導?」

「そうじゃ。獲物をウエサンプトンに逃げるように仕組めば、それを追うのではないか?」

「チューマンより、スピードも体力もある動物が思い浮かびませんね。馬でも追い付かれると思いますから」

「ならばそれも無理か……」

マーギンが無理だと答えると、考え込む王。

「いずれにせよ、制御できない化け物を切り札にするまで追い込まれているようですから、先はありませんな。我が国は、増えたチューマン対策を考えておかねばなりません」

大隊長の中では大陸西側がチューマンに飲み込まれる前提で、対策を取るべきと進言し、王は予算の確保を宰相に命じるのであった。

「マーギン、ゴルドバーンのことで動く必要はないからな。ノウブシルクにもだ」

別室から出たあとに大隊長から釘を刺される。

「そうですね」

と、どっちとも取れる返事をしたマーギン。

「お前が何をするかをシュベタインが決められるわけではないが、俺は動かぬ方がいいと思う」

「どうしてですか?」

「何をしてもお前の心に傷が残る。しなくても残るだろうが、見なければ済む話だ。魔法の師匠に魔法で人を殺すなと言われていたのだろ?」

「そうですね」

「国同士の争いは国に任せておけ。お前はお前の成すべきことを優先しろ。お前はできることはすでにした。それでも争いを続けるのであれば、いくらお前が動こうと争いは続く」

「王同士で戦えばいいのにね」

「王同士で戦っても終わらん。代わりの王が出てくるだけだ。結局は戦えなくなるまで戦って勝ち負けが決まる。もしくは降伏して、少しでも条件を甘くしてもらうかだな」

大隊長にそう言われて黙るマーギン。大隊長はこれだけ言っても、行動を起こすであろうことは想像が付いた。

「どうしてもなんとかしたいなら覚悟を決めてやるんだな」

「人を殺す覚悟ですか?」

「いや、君臨する覚悟だ」

大隊長はそうなればそれでもいいと思うのであった。

「まだかな、まだかなー。マーギンが来るのはまだかなー♪」

カタリーナは何度も扉を開けて、マーギンが来ないかキョロキョロする。

「姫様、見てても同じですよ」

「でも早く教えたいんだもん。お父様のところに行く?」

「大事な話をされているのです。きっと怒られますよ」

カタリーナはミスティの魔道金庫を解錠したあと、中身を見ずにもう一度閉めた。マーギンが来たら、自分でパスワードを入力して開けてもらうのだ。

マーギンがくるまで、ちゃんと開くかパスワードを押して再確認。

カチャ。

「開いたー、開いたー、ランラランララー♪」

解錠する音を聞いて歌いながら踊るカタリーナ。

その頃マーギンは、大隊長から君臨する覚悟を持つ必要があると言われたことを考えていた。

君臨する覚悟、すなわち自分が王になるということだ。

「俺には無理だろうなぁ……シスコにやらせ……」

ビタビタビタっ!

脳内で往復ビンタを何度も食らうマーギン。

想像ビンタで頬を腫らしたマーギンは、カタリーナの部屋に行くことを失念し、家に戻ってしまったのであった。