軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ないと思うか?

ゴルドバーンの騎士達はしかめっ面をしながら、カタリーナがノウブシルクの兵士を治癒しているのを見ていた。

「続きは明日だな」

マーギンは下っ端であろう者達から治癒させ、上の立場だろう者と、魔導銃を持っていたものは後回しにしていた。もちろん、魔導銃は回収済みだ。

さすがに骨折したまま飲まず食わずで3日以上経っているので、治癒されていないものは死にかけている。

ちっ。しょうがない。

マーギンは土魔法でコップを作り、水を飲ませていく。

「うっうぅ……どこのどなたか分かりませんが……あ、ありがとうございます……」

「お前らを助ける義理はないんだけどな。うちの慈悲深い仲間が全員助けて欲しいと願ったんだ。感謝するならそいつにしろ。明日治癒してやる」

意識を失いかけていた者達はこうしてマーギンに水を飲ませてもらい、相手が誰だか分からないまま、感謝の言葉を口にするのであった。

治癒の終わったノウブシルクの兵士達はゴルドバーンの兵士によって、一箇所にまとめられている。一応捕虜扱いになるので、暴れない限り何もするなと言いつけてある。

「マーギン殿、ノウブシルク兵の処遇は我々に任せていただきたい」

ゴルドバーン軍の隊長がマーギンにそう言ってきた。

「どうする予定だ?」

「のちほど処刑します」

「ならダメだ。気持ちは分かるが、殺すなら任せられん。なんのために治癒してると思ってるんだ」

「しかし、我が国は食料も足りない状況なのです。これだけの人数を生かしておける余裕がないのです」

「なら、上の者だけ残してあとは敵地に返せ」

「えっ? それではまた戦力として我が国を攻撃してくるではありませんか」

「お前らに戦争している余裕があるのか? ここに街を滅ぼした化け物が出たんだろ? 次は国ごと滅ぼされるかもしれんだろうが。それに南側に人型の虫の化け物が出てるだろ。あれに襲われたら、剣や弓矢で対抗できないのは分かってるよな? 先住民達を見殺しにしたぐらいだからな」

「な、なぜそれを……」

「俺達はここに来る前に南側に行ったんだよ。滅ぼされた村も見てきた。他の街で避難していた先住民達にも話を聞いた。お前らは先住民達の扱いが酷すぎる」

「い、今はノウブシルク軍に対抗するのが精一杯で……」

「それはそうかもしれんが、そもそも先住民達のことを下に見てるだろ? だから後回しにしたのも仕方がないと思ってる。違うか?」

そう問うと、返答できない。

「ま、軍人は上の命令で動くからな。現場のお前らに言っても無駄なのは分かってる。お前らは国軍か? それと領軍か?」

「領軍です」

「なら、領主がそういう考えだということだな。ノウブシルクの兵士を解放したら領主から処分を食らいそうか?」

「はい」

「分かった。ノウブシルク兵の治療は明日には終わる。それまではここで見張るだけにしてくれ」

ゴルドバーン軍の隊長は、見ず知らずのマーギンの言葉に従わざるを得なかった。見た目は若いが、歴戦の猛者の風格を纏っているこの男がこの場を掌握していると悟ったからだ。

その夜、大隊長と6人の騎士を交えて話をする。

「貴殿らは領の騎士で主任務は領都の守りであるか?」

「そうだ」

「我らはこの地の土地勘がない。この港街は貴殿らの領の管轄か?」

大隊長が管轄のことを質問し、誰が責任者か確認をする。騎士の話によると、領都とこの港街、そして港街へと続く2つの街、先住民達の地域すべてが同じ領主の管轄なのだそうだ。

「かなり大きな領なのだな。明日の治癒が終わりしだい、貴殿らの領主に会いに行きたいが可能か?」

「身元の知れぬ貴様らを連れていけるか」

「そうか。それは残念だ。領主と話をしておかねばならんと思ったが、こちらが出向いて会えぬのなら、そちらから来るように仕向けるしかないな」

「どういう意味だ?」

「なに、貴殿らがいつまで経っても戻らぬなら、代わりの者が来るだろう。それを続けていけば、話の分かるやつがそのうち来るかもしれんからな」

と、大隊長はすくっと立ち上がり、ヴィコーレをぶんっと、一回してから、騎士の首に当てた。

「焼かれて死ぬより、首を落とされた方が楽に逝ける。覚悟せよ」

「わ、我らを殺すつもりかっ」

「今は非常時であるからな。話しの通じぬ者と交渉する時間はないのだ」

ヴィコーレを当てられた首からツゥーと血が滴る。

「まっ、待て」

「待てばどうなる?」

「取り次ぐだけ……取り次いでみる。領主様がお会いになるかまでは分からん」

「そうか。貴殿らが話の分かる者で手間が省けた」

大隊長はニヤッと笑って、また座ったのであった。

「で、マーギン。ノウブシルク兵をどうするつもりだ?」

「下のものは解放しようかと思ってます。立場のある者は条件付きで解放したらいいかと思います」

「条件とは?」

「ここで何があったかを上に報告すること。ゴルドバーンの人が向こうで捕虜になってるなら、捕虜交換も必要ですね」

「分かった。領主とは俺が話を付けてくる」

「宜しくお願いします。じゃ、俺はノウブシルク兵に粥でも振る舞ってきますよ」

と、マーギンはタジキに手伝わせて、薄い粥を作り、ノウブシルク兵に配るのであった。

全員の治癒を終えたカタリーナは気が緩んだのか、その場でへたりこんでしまった。

「大丈夫ですか」

「う、うん。大丈夫」

カタリーナはローズに抱えられながら戻ってくる。

「タジキになんか甘いものでも作ってもらえ。それ食ったら寝ろ」

「マーギンが作ってくれないの?」

「俺はまだやることが残ってるんだよ。なんかできるまで、これでも食っとけ」

と、ライチに似た果物、サモワンを渡しておいた。

「この度は我々まで救ってくださり、ありがとうございました」

カタリーナ達がテントに入ったあと、マーギンの元に礼を言いにきた男。国に妻と子を残して死ねないと言ってきた男だ。

「お前、役付きだったんだな」

「小隊長をしております」

若そうなのに小隊長か。軍人として優秀なんだろうな。

「明日、役付きでないものは無条件解放するように、うちの仲間が領主に交渉しに行ってくれる」

「えっ? 我々は攻め入った兵士であります」

「せっかく助けたのに、処分されたら無意味な行為になるだろうが。それとお前ら役付きは条件付きで解放してもらう予定だ」

「条件ですか」

「そうだ。ちょうどいいわ。役付きの者を集めろ。領主に出す条件をお前らに伝える」

と、役付きの者を集めさせた。

戦艦を指揮する者達、魔導銃隊隊長、歩兵隊隊長とそれぞれの小隊長達だ。

「お前らに出す条件はここで何があったかを正しく報告することだ。あと、ゴルドバーンの捕虜がいるなら、その捕虜と交換になるだろう」

「それだけか?」

と、歩兵隊の隊長が確認してくる。解放条件が余りにも簡単なのだ。

「これはとても重要なことだ。お前らを助けたのはこのこともあったからだ」

「なぜこのような条件で解放する?」

「この街を壊滅に追いやったのは化け物だろ?」

「あれが何か知ってるのか?」

「さぁな。ただ、あの化け物は人の争いを好む。特に兵器を使った戦いをな」

「なんだと?」

「あいつは前にも現れたことがある。ノウブシルクがシュベタインに攻め入ろうとしたときだ」

「貴様……なぜそのことを知っている?」

「俺達はシュベタインから来た。そしてそういった情報を知り得る立場のものでもある。これ以上は話すつもりはないから詮索をするな」

威圧を込めて余計なことを聞くなと脅す。

「で、個人的に聞きたいことがある。魔導兵器を担当するお前、あの兵器を魔物ではなく、なぜ戦争に使う? 自国で魔物に対応できるなら、他国に攻め入る必要はないだろ?」

「お前は知らぬかもしれんが、我が国に見たことがなかった大型の魔物が出て、生活圏を奪われているのだ。今の魔導兵器では倒せん」

「だから、人相手に使う方が手っ取り早いと判断したのか」

「国の判断だ」

「誰も反対しなかったのか?」

「しても無駄だ。シュベタインはどうか知らんが、我々は国が決めたことに異を唱えることは許されん。命令に従うのみなのだ」

「なら、ノウブシルクはここにでた化け物に国を滅ぼされるのは間違いないな。そして、お前らの命だけでなく、家族も無残に殺される」

「そんなことをさせるものか」

「お前ら、手も足もでなかっただろ? あれは化け物どころの話ではない」

「やはり正体を知っているのか?」

「俺はあれを追ってるからな」

「なんだと……? あれはいったいなんなのだ」

マーギンは一呼吸おいて、全員をぐるっと見回した。

「魔王だ」

ノウブシルク兵はその言葉に息を飲む。

「そ、そんな戯言を……」

「魔物が増え、強くなり、見たことがない魔物が出始めた。これはノウブシルクだけの現象じゃない。大陸各地で発生している現象だ。特に最北、最南にその傾向が強く出ている。言っとくが、これは始まりだからな」

「あの大型の魔物の出現が始まりだと……?」

「そう。シュベタインはその魔物の脅威に備えて、訓練を続けている。それと想定外のことも発生している」

「想定外?」

「お前ら獣人は知ってるか?」

「知っている」

「それ以外に虫から進化した人のようなものが出現している。ゴルドバーンの南側、シュベタインの南側にな。南方だけの脅威だと思うなよ。あいつらは気温なんて関係ない。炎の攻撃魔法も氷の攻撃魔法も効かない。剣でも斬れない。もちろん弓矢なんか刺さるわけがない」

そういうと信じられないといった顔をするので、収納してあったチューマンの死体を出した。

「それがこいつだ」

ざわっ。

「これは人なのか……?」

「分からん。人型ということだけ分かっている。死んでしまえば剣でも斬れるし、燃やせば燃える。しかし生きている間は何も効かん。効くのは、電撃を与えたら1秒ぐらい動きが止まるというぐらいだ」

「そんな化け物をどうやって倒した?」

「唯一、斬れるのが関節部分だ。ここを狙って、倒したあと、首のここから剣を刺す。頭は他の部位に比べて潰せる可能性があるから、お前らの魔導砲を当てれば倒せるだろう。が、動きが速いから、頭に当てるのは難しいだろうな」

ざわざわざわざわ。

「こいつはゴルドバーンで数を増やしていてな、ここの先住民達の村はほとんど壊滅した。そのうち、餌を求めて北上してくる。ゴルドバーン、ウエサンプトン、そしてノウブシルクだ。ノウブシルクまで来る頃にはものすごい数になっているだろう。魔王が出なくても、大陸の西側は全滅する」

「シュベタインにも出ていると言ったな。そっちはどうなっているのだ?」

「うちは対策を進めている。今のところは駆逐した。増える前に倒しているからまぁ、大丈夫だろう。が、西側を滅ぼすほどの数になれば、シュベタインもヤバい」

「どんな対策をしたのだ?」

「協力だよ」

「協力?」

「そう。各地で情報収集し、どうやったら倒せるかの情報共有を行い、それに向けて訓練をしている。対魔物も同じだ。これからは人類の生存をかけた戦いになる。人間同士で争っている暇なんかないんだ」

「人類の存亡をかけた戦い……」

「そう。と言ってもノウブシルクの上のやつらは聞く耳を持たんだろうから、あと数年で滅びると思うぞ」

そう言うと黙ってしまった。

「お前、この化け物がやってきたらどうなると思う? そのときのことを想像できるか?」

「自分が命をかけて家族を守ります」

「無理だね。お前の目の前で、妻や子が殺されて肉団子にされるんだよ。鋭い爪で切り裂かれて、この牙を使って刻んで肉団子にして巣に持っていかれる。それがお前らの未来だ」

「……」

「こいつらには感情がない。淡々と餌を巣に運ぶことを実行するのみだ。まだ魔物の方が可愛げがある」

「わ、我々はどうするべきなのだ……」

「国が進言すら聞き入れないのなら、集団で離脱するか、クーデターしかないだろうな。ウエサンプトンのやつらとゴルドバーンのやつらを巻き込めば成功するんじゃないか?」

「我々に国を裏切れと? 本当はそれが解放する条件なのだな?」

「別にクーデターを起こせとか国を裏切れとは言ってない。単に事実を伝えろというのが条件なのは本当だ。伝えただけで何も変わらず、同じことを続けたら、西側全部が滅びるだけだ。そこまでチューマンが増えたら、シュベタインもそうとう厄介だから、勘弁して欲しいとは思うがね」

「もし、西側が滅びて、この化け物が大量に攻めてきたら、どうするつもりだ?」

「まぁ、そのときは俺が全力で戦うわ。お前らの動きを見て、こっちもその対策を考えておく」

「お前にそんな力があるというのか?」

「ないと思うか?」

そう淡々と言ったマーギンを見たノウブシルク兵は、魂を鷲掴みにされたような気がしたのだった。