軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ズルいですよ

朝飯はバネッサが半熟目玉焼きを焼いてくれている。そして、

「パンケーキも焼けたぞ」

と、ローズがパンケーキを焼いてくれた。

「あ、ありがとう」

そう、2人が朝飯を作ってくれたこの状況、どっちのを先に食べるのか試されているようだ。

じーーっ。

2人に見つめられるマーギン。

「おはようございまーす!」

と、アイリスが匂いを嗅ぎつけたかのように戻ってきた。ナイスタイミングだ。

マーギンはその隙に目玉焼きをパンケーキの上にのせて、ナイフで切って一緒に口に入れる。

「うん、旨い!」

「わー、美味しそうです。私にも焼いてください」

「別にいいけどよ、生焼けとか言うなよ」

「アイリスは甘い方がいいか?」

「えっ? マーギンさんが作ったんじゃないんですか?」

「2人が作ってくれたんだ。旨いぞ」

マーギンはこの状況を乗り切った。アイリスよ、ありがとう。

ローズはカタリーナと自分の分を持って、向こうのテントに戻っていった。

「おいひいでふよ、ふぁねっふぁふぁん」

美味しいとほおばるアイリスの目が真っ赤だな。寝てないのか、泣いてたのか……

◆◆◆

「姫様、ごめんなさい」

ローズをテントから追い出したあと、アイリスはカタリーナにそう言ってから会話を始めた。

「マーギンのことだよね?」

「そうです。姫様がマーギンさんを後回しにした理由を聞きました」

「うん……」

カタリーナもあのときのことがずっと心に残っている。もし、マーギンが助からなかったらと思わずにいられないのだ。

「だから、謝りにきました。あれから無視するような感じになってしまってごめんなさい」

「ううん、アイリスの気持ちは当然なの。私もマーギンが死んでたらと思うと……」

そう言ったカタリーナの目に涙が溜まっていく。

「理解はしましたけど、納得はしてません。私はやっぱり誰よりもマーギンさんを優先して欲しかったんです」

「ごめん……」

「私に治癒能力があったら……私が聖女だったら、そうしたのに……」

アイリスもまた目に涙を溜めている。こんなことを言いに来たつもりじゃなかったのに、自分の心の中にこびりついて離れない想いが溢れ出してしまったのだ。

「貸してみてください」

「これを?」

アイリスはエクレールを指差した。

「はい。私がその聖杖を使えたら、聖女の役割を代わってあげます」

「えっ?」

「そうすれば、姫様もそんな辛い思いをしなくて済みます。私は何があってもマーギンさんを優先しますから、迷うことも、後悔することもありません」

そう真っ直ぐな目をして言い切ったアイリスにカタリーナは何も言えず、聖杖エクレールをアイリスに渡した。

ボウッ。

「あっ……」

アイリスは自分の腕を焼いた。

「うぐっ……」

アイリスは痛みをこらえながら、

《シャランラン!》

シーン。

《シャランランッ!》

シーン。

「……やっぱりダメですね」

やはり、自分には誰も救えないのかと、火傷を負った腕よりも、心が痛いアイリスはうつむいて涙をこぼした。

それを見たカタリーナはアイリスにシャランランをして、一瞬で治癒をする。

「うっ、うっう……」

ポタッ、ポタッ。

アイリスはどうしようもない想いが涙となって溢れてくる。そして、その涙が聖杖エクレールに流れていった。

ドクン……

「えっ?」

突如としてアイリスの頭の中に何かが流れ込んできた。

な、なにこれ……これは記憶……?

「どうだ?」

「はい、魔法使いになれる可能性が高いのはこのお方になります」

アリストリア国王は、王子マーベリックの伴侶となるものを並べてミスティに鑑定させていた。

「治癒魔法は使えそうか?」

「それは分かりません。魔力の伸びも絶対というわけでもありません」

「ちっ、使えんやつだ」

と、鑑定結果を伝えたミスティは王にそしられる。

「ならばお前がソフィアを治癒魔法使いとして育てよ」

「恐れながら、私は治癒魔法が使えません。他の治癒魔法使いのほうが適任だと思います」

そう答えたミスティは、ドガッと王に蹴られ、さっさとこの部屋から出ていけと追い出された。

ソフィアは幼少の頃から治癒魔法の訓練と医学の勉強をさせられていく。将来王妃となるべく教育と合わせて、自由になる時間など何もなかった。そして10歳になったころ、

ザシュっ。

「キャアーーッ」

ソフィアの前で、罪人が斬られた。

「ソフィア、治癒せよ」

「むっ、無理です」

「やりなさい。そうしないと目の前で人が死ぬぞ」

実践訓練として、自分の目の前で人が斬られ、治癒しろと治癒師の師匠に言われる。

ガタガタガタ。

ソフィアは恐怖で身がすくみ、治癒魔法も発動せず、目の前で人が死んでいった。

「私が殺した、私が殺した……」

ベッドの中でうずくまり、自分が人を殺したと言い続けるソフィア。瞼を閉じると、助けてくれと手を伸ばす男の姿が襲ってくる。そして、この訓練は、ソフィアが治癒魔法を発動させるまで続けられるのであった。

「これは聖杖エクレールという。これを持ち、お前は聖女となるのだ」

「はい」

ソフィアは自分の心を殺すことによって、目の前で人が死ぬという恐怖を乗り切った。

「おぉ、ソフィア様。治癒魔法で病気まで治せるようになるとは流石でございます」

治癒魔法の師匠であったものも、ソフィアが正式に王子と婚約を交わしたことで、へりくだるようになっていた。

王は聖女を伴侶とする第一王子が次期王になるのだと周知させるために、ソフィアに次々と貴族を治癒させていく。

聖女ソフィアが有名になるに従い、街に出ると助けて欲しいと懇願されるようになる。だが、護衛が聖女に治癒されるものは特別な人間だけだと蹴散らす。こうして助けてもらえなかった人々は聖女を恨みのこもった目で見るようになっていった。

「あの方々を治癒しても……」

「なりません。聖女は特別なのです。国にとってメリットのあるものだけを治せばいいのです」

「でも……」

「では聖女様は全員を救うことができますか? 無理でしょう」

「全員は無理でも、できるだけ……」

「その線引きはどうされるおつもりですか? 助ける人と見捨てる人をどうやってお決めになられるのですか?」

「そ、それは……」

「ご自身でその線引ができないでしょう? だから、その線引を我々がするのです。聖女様は我々の選んだ人だけを治癒すれば宜しいのです」

ソフィアはそう言われて何も言えず、自ら治癒魔法を誰かに掛けることをしなくなっていったのだった。

アイリスに流れてきたのはソフィアの記憶と、殺したはずの心の底にある想いだった。

そして、異世界から大賢者となりうるものが召喚されたとソフィアが聞かされたところで……

「アイリス、アイリスっ。どうしたのっ」

突如としてフリーズして動かくなったアイリスを揺らしているカタリーナ。

「えっ? あ、はい」

アイリスには何日にも思えた時間だったが、現実にはほんの少しの時間だったようだ。

「今のは夢……?」

「寝てたの?」

「私、寝てたんですか?」

「私がそれを聞いてるのっ!」

噛み合わない2人の会話。

「私は夢を見てたんですか?」

「知らないわよ」

今のことが現実だったのかどうか分からないアイリスは、頭に流れ込んできたものをカタリーナに話した。

「ソフィア?」

「はい。聖女ソフィアと呼ばれてました」

「……それは夢じゃないわよ」

「えっ?」

「この杖の元の持ち主が聖女ソフィアなの。理由は分からないけど、聖杖エクレールがアイリスに何かを伝えたかったのかもしれないわね」

この杖が私に何かを伝えたかった……?

伝わってきたのは、ソフィアの心の中と、聖女としての苦しみと諦め。そして『我々の選んだ人だけを治癒すればいいのです』と言われたときの気持ち。

アイリスは気付く。あの護衛が言った言葉は自分がマーギンを優先しろと言ったことと同じなのだと。

「姫様、聞いてもいいですか?」

「何を?」

「また目の前に死にそうな子供とマーギンさんがいます。どちらかしか助けられないとすれば、今度はどうしますか?」

「2人共助ける」

「そんな答えズルいですよ」

「私は聖女だからね。絶対にそうする」

キッパリとそう言ったカタリーナ。

「ズルいですよ、姫様……」

アイリスは笑いながら、ズルいですよと言い続けたあと、自分が見たソフィアの記憶を朝まで掛かってカタリーナに話すのであった。