軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

わだかまり

「どうだった?」

家に戻るとローズが結果を聞いてくる。

「問題なし。家や食料も提供してくれるって」

「それは良かった。タイベ領にとっても悪い話ではないからな」

「そうだね。じゃ、これからタイベに行って、シシリーに食料の手配を頼んでからゴルドバーンに戻るよ」

と、転移魔法でタイベに移動して、孤児院へ向かう。

「あら、どうしたの?」

こんな時間にやってきたマーギンに驚くシシリーに、ゴルドバーンから150名ほど移住してくることを話す。

「どうやって連れてくるのかしら?」

「魔法だ。そのへんは詮索するな」

「はーい。で、その人達が来たら魔カイコの養蚕が一気に進むってことね」

「シシリーは魔カイコの村に行ったことあるか?」

「あるわよぉ。魔桑木がまだそんなに大きくないから、魔カイコの数も少ないみたい。繭から糸にするのも難しいようね」

「その工程は王都の職人に任せるんじゃなかったのか?」

「商会としてはそれでもいいんだけど、村の収入が落ちるでしょ? 商売が大きくなる前に、自分達で全部できるようになった方がいいかと思って」

「それはそうだな」

「ゆくゆくは縫製工場みたいなのも作りたいなと思ってるの。魔カイコだけでなく、麻や綿花も植え始めてるのよ」

シシリーはすでにあの村の将来を見据えて、エドモンドと相談の上、手を打ってるようだ。だから集合住宅を作ってたのか。シシリーがタイベの責任者をしてくれたのが、領にとっても、ハンナリー商会にとっても最大の幸運なのかもしれない。

「畜産も規模を大きくしてもらってるわよ。タイベ産の豚肉は王都で高値で取り引きされ始めてるから」

向こうの畜産をしている人達とか揉めないか聞いたら、購買層が違うから問題ないらしい。

他にもタイベで進めていることの説明を聞いたあと、移住者達の食料を頼んでおいた。請求は領主にするので、エドモンドから預かった書類を渡した。

「これ急ぎよね?」

「うん。どれぐらいで可能だ?」

「3日ちょうだい。今から手配して、運ぶのに最短でそれぐらいね」

「悪いけど頼むね。じゃ、4日後に移住させるから」

「分かったわ。そのうち、ゆっくり遊びに来てね」

「そうだな。夏前ぐらいにはそうしたいね」

じゃあ新しい水着用意しておくわね、とウインクされた。

そして、ようやくゴルドバーンに戻る。

「お帰りなさいっ!」

真っ先に迎えてくれたのがアイリス。

「ハンバーグorハンバーグ?」

なんだそれは?

「それだとハンバーグしか選択の余地がないだろうが。チーズのせかインのどっちだ?」

「両方です」

「先に住民達に結果を伝えてからな」

マーギンはふと違和感を感じたが、なんの違和感か分からなかったので、大隊長に結果を伝えてから住民に説明したのであった。

「住むところも食料も提供してくださるんですか?」

「住むところはまだ足りないみたいだから、ぎゅうぎゅう詰めで寝ることになる。食料関係は生活が落ち着くまでな。ずっと提供してくれるわけじゃないぞ」

そう説明すると、ざわざわが止まらない。

「どうした?」

「い、いえ。シュベタインはそんなに優しい国なのですか?」

「どういうことだ? いきなり移住して、自分達でなんとかしろと言われても無理だろ?」

「い、いや。ゴルドバーンではそんなことをしてもらったことがなく……魔カイコの糸を生産するだけの生活でしたので」

「魔カイコの糸は高く売れるだろ?」

「生地になると高くなるのは知ってますが、糸そのものは安いですし、贅沢品ということで、税金も高いんですよ」

今までのことを聞くと、搾取と呼んでいいような状況だった。

「移住先ではちゃんと暮らせるようにするから心配すんな。領主もお前らに期待してたから粗末に扱われるようなことはないぞ」

そう伝えると、全員の顔がほころんだのであった。

「ハンバーグ、ハンバーグ、ランラランラランラン♪」

上機嫌のアイリス。異様にテンション高いな。違和感の正体はこれか?

ハンバーグを食べに来ているのはアイリスとバネッサ。カタリーナはローズと食べると言って、こっちには来なかった。

「お前、カタリーナと喧嘩でもしたのか?」

「ひへまへぇんよ」

と、ハンバーグをほおばりながら答える。

「甘めの酒が飲みてぇ」

と、バネッサが言うので、ハチミツレモンソーダ割を渡しておく。俺は酒やめとくか。まだ内臓にダメージがありそうだし、血が足りない気がする。

マーギンは自分の分のハンバーグは焼かずに、鶏肝をタレで焼いて食べると、なんか身体に染みていく気がする。レバーペーストも作っておくかな。

玉ねぎ、ニンニク少々をバターで炒めて、肝投入。肝に軽く火が通ったら、生クリームとスパイス、お酒少々で煮て、魔法でペースト状にして塩コショウを加えて完成。

「それは餌か?」

山犬達のオヤツを作っていると思ったバネッサ。

「違うわ。俺用のパンに塗るレバーペーストだ」

「ちょっと食わせろよ」

ハンバーグを食っただろうがと言えないマーギン。死にかけていた自分を助けてくれたのはバネッサなのだ。

ハードパンを炭火で少し炙ってから、レバーペーストを塗って渡してやる。

「ハチミツとかの方がいい」

と、齧ったやつを返してきた。なんてやつだ……

続きを食べるとちょいと物足りないので、ほんの少しハチミツを足してみる。

「おっ、旨い」

ということで、レバーペーストにハチミツを少し加えてしまっておいた。

食べ終わって、大隊長のところに行くと、夜回りに出るとのことなので一緒に行く。

「マーギン、姫様の様子はどうだ?」

「元気ですけど?」

「ならいいんだが……」

「もしかして、アイリスとなにか有りました?」

「まぁ、そうだな」

と、話を聞くと、カタリーナが自分を助けるのを後回しにしたことが、アイリスは許せないのだろうとのこと。バネッサも口には出さないが同じ気持ちのようだ。戻って来たときに感じた違和感の正体はこれか……

「カタリーナは俺に泣いて謝ってきましたよ」

マーギンは大隊長にカタリーナに伝えた内容を話す。

「アイリスやバネッサはマーギンを優先するのが当然だと思っていただろうからな。死にかけたお前を目の当たりにしたというのもあるだろう」

「まぁ、俺はカタリーナが目の前の子供を優先してくれたことで救われましたけどね」

「大局的に見れば、子供よりマーギンを優先せねばならん。お前が死んだらこの世界がどうなるか分からんからな」

「それでもですよ。もし俺があのときに死んでもカタリーナのせいじゃないですからね。そもそも俺はこの時代の人間でもないし、俺がいなくても、他に誰か世界を救う人が出てくるんじゃないですかね。例えば大隊長とか」

「馬鹿者。お前の代わりが務まるやつがいるか。この時代の人間じゃないと言ったが、この時代を救うために目覚めたのではないのか。お前は昔の仲間に未来を託されたのだろうが。違うか?」

違うとは言えないマーギン。

「そうですね……死なないように気を付けますよ」

「今回の姫様の判断はお前が死ぬはずがないと信じたからこそだったとは思うが、アイリス達とわだかまりは残るぞ」

と、忠告されたのだった。

寝るときにもマーギンのテントに、当たり前のようにいる2人。

わだかまりか……

俺が原因だから俺が解決しておかないとな。そう思ったマーギンは2人に話をする。

「お前ら、カタリーナを嫌いになったか?」

「なんだよ突然?」

「いや、今回のことでカタリーナに思うことがあるんだろ?」

「そりゃあな……あのときのお前を見たら誰だってそう思うってのっ!」

「そうです。もし間に合わなくてマーギンさんが死んでしまったらどうするんですか」

マーギンがカタリーナの話を切り出したことで、2人の感情が爆発した。

「カタリーナを責めるな。あれは俺のヘマだ。カタリーナは聖女として、優先すべきことを優先したまでだ。それに、カタリーナが俺を優先して、子供を見殺しにしてたら、俺は一生笑って暮らせることがなかっただろう。その子供は俺が殺したようなもんだからな。だから、カタリーナは俺のことも救ってくれたわけだ」

「で、でも……あのときにバネッサさんがマーギンさんを助けてくれなかったら、本当に死んでたんです」

「なら、カタリーナが俺を優先してもバネッサがいなかったら俺は死んでたってことだ。そして子供も死んでいた。違うか?」

「せ、聖女の力なら……」

「聖女の治癒魔法と言っても万能じゃない。治癒魔法はその人の回復能力を魔法で高めるものだ。それは聖女の治癒魔法でも同じだ。あのとき、吐血して窒息しそうになっていたのを、バネッサが血を吸って息ができるようにしてくれた。これは治癒魔法ではできないことだ」

「お前、あのときのことを覚えてんのかよ?」

「当たり前だ。よく咄嗟に血を吸い出してくれたと思ったよ」

「う、うちも必死だったんだよ」

「それはカタリーナも同じだ。あいつはまだ聖女としての経験がない。誰かを助けるのに必死になっているだけだ。それにあいつは俺を後回しにした理由もちゃんと持ってる。俺は治癒魔法を使える。子供は使えない。だから、自分が助けないと絶対に死ぬ方を助けた」

「でもよ……」

反論しようとしたバネッサに食い気味にマーギンが話す。

「バネッサ、ヘビのときのことを覚えてるか?」

「当たり前だ」

「あのとき、俺が治癒魔法を使えなかったらどうなってた?」

「し、死んでた……」

「そしたら、お前はどう思う?」

バネッサは自分のヘマでマーギンが死んでしまったことを想像する。

「一生後悔する……」

「だろ? 今回の俺がそうなんだよ。俺のヘマで子供が死ぬところだった。カタリーナに感謝する気持ちが理解できたろ?」

バネッサはそう言われて、黙ってしまった。

「マーギンさん、私は1人しか助けられないとなったら、理由がどうあれ、もう1人が誰であろうとマーギンさんを優先します」

「アイリス、そんなときが来ても、お前はどちらも助けられない」

「それはそうかもしれませんけど……」

「カタリーナはどちらを助けても、助けられなかった方から恨まれる。理不尽だよな、どちらも助けられなかったものは恨まれず、どちらかを助けた人は恨まれるんだから」

「……」

「カタリーナはそれでも誰かを助けるために聖女になる道を選んだ。せめて、仲間はそれを理解してやらないとダメなんじゃないか?」

「でもマーギンさんが死んでしまってたらと思うと……」

「それでカタリーナを責めるのは間違ってる。責めるならヘマをして死んだ俺を責めろ」

「マーギンさん……」

「カタリーナとお前は友達がいなかった。でも、同じ年だと分かって仲良くなったじゃないか。そんな2人がこのまま俺のせいで仲違いしてしまったら俺は悲しい。お前がカタリーナの味方になってくれる方が俺は嬉しい」

アイリスはマーギンにそう言われて、少し黙ったあと、

「姫様のところにいってきます」

アイリスはそう言い残して、テントを出ていった。

そして、アイリスが出ていったあと、ローズがこっちにきた。

「すまない、今夜はここに泊めてもらってもいいだろうか?」

どうやら、アイリスはカタリーナと2人で話したいとローズを追い出したようだ。

「なら、俺が外に……」

「けっ、うちらとならよくて、ローズはダメな理由はなんなんだよ?」

と、バネッサがローズだけ扱いが違うのが気に食わないようだ。

「いや、マーギンに気を遣わせてしまうのであれば、私が外で寝るから気にしないでくれ」

そういうわけにもいかず、結局、3人で寝ることになり、ローズとバネッサに挟まれたマーギンは、翌朝、身体がガチガチに固まっていたのであった。