軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

癒しのカタリーナ

「大隊長、マーギン1人で行かせたのかよ?」

「他の者がいたら、あいつは全力を出せんだろ」

マーギンが1人でチューマンの巣を探しに行ったと聞いたバネッサは不服そうだ。

「我々は住民の保護と村の安全確認を行う。まだ村の中にチューマンがいる可能性もあるから、バラバラになるなよ」

「うちが先行する。大隊長は最後尾でいいかよ?」

「それで構わん」

ローズは村の周りに倒れている、おぞましいほどのチューマンの死骸を見て、マーギンが姫様を連れて行かなかったことに納得した。

「大隊長、マーギンはどうやってこの数の化け物を倒したんですか?」

ノイエクスも啞然とした顔で大隊長に質問する。

「見事な剣の腕前だったぞ。騎士の剣とは違うが、まるで敵がどう動くのかを全て把握しているような動きだった。チューマンは魔物ではないが、マーギンが魔物討伐のスペシャリストだというのがよく分かった戦いだった。どれだけ研鑽を積めばあのようになるのだろうな」

大隊長は満足気にそう答えた。とてもいいものを見たという感じだ。

「オルターネンはお前にあのようなものを見せたかったのだろうが、自分がその場にすら来れなかったことを胸に刻んでおけ」

アイリスからも力不足を指摘されていたノイエクス。努力すればホープに追いつけると思っていたが、皆が目指している先がマーギンなのだと思えば、追いつけない理由が分かった。

「もっと努力します」

「そうか」

顔付きが変わってきたノイエクスに、大隊長は戻ったときが楽しみだと感じたのだった。

「ハイン、ユン。ハイン、ユーーンッ」

応援を呼びにきた男は養蚕工場で妻と子供の名前を呼び探し回る。しかし、そこにいた人々は目を伏せた。

「な、なぁ、お前ら。ハインとユンがどこにいるか知らないか」

しかし、誰も答えてくれない。

「ま、まさか……嘘だろ。嘘だと言ってくれぇぇぇ」

人々の態度から、妻や子が殺されてしまったのだと悟って、その場で泣き崩れる。

「おっちゃん……」

カザフ達もどう声を掛けていいか分からない。

カタリーナはその光景を見て涙を堪える。

『お前なら残された人達の悲しみを癒してやれるかもしれない。人が亡くなっても、亡くなった人はこの世での役目を終えて天に還ったのだと、微笑みながら教えてやってくれ』

自分の目指すものはマーギンが望む聖女。全ての人に癒しを与え、愛する人を失っても、それを癒す聖女。

「私は癒しの聖女カタリーナ」

悲しみに包まれる人々の前で高らかに宣言するカタリーナ。

「悲しくも突然のお別れになってしまった人々に祈りを捧げます」

「祈りなんて……祈りなんて何の役に立つんだっ。役に立つんなら、殺される前に祈ってくれよっ」

愛する人々を失った人達に罵倒されるカタリーナ。

「間に合わなくてごめんなさい……」

「こんなときに祈りなんかっ!」

カタリーナに掴み掛かろうとする男。ローズが間に割って入る。

「ローズ、いいの。私を殴って癒やされるなら殴られてもいいの」

「姫様……」

ゲシッ!

バネッサが男を蹴飛ばした。

「いい加減にしろよてめえっ。お前が助けてくれと頼んだから、なんの関係もないお前らを助けに来ただけだろうが」

そう怒鳴られて、崩れ落ちる。

「ぐっ、うぐっ、うあぁぁぁぁ」

そして、やりどころのない悲しみを天に向かって泣き叫んだ。

「ごめんなさい。もう私には祈ることしかできなくてごめんなさい。せめて、亡くなられた方達の魂が安らかに天に還れるように……」

《シャランラン!》

目には見えないはずのカタリーナのシャランランの光が村を包んでいく。

「突然のお別れになってしまったけれど、次に生まれ変わってくるときには、もっと安心して暮らせる世界にしていきます。だから、天から見守っていてくださいね」

カタリーナが天に還っていくだろう魂にそう伝えた。

「あ、ありがとうございます……」

他の村人達からお礼の言葉が掛けられた。愛する人を亡くしたのはこの男だけではないのだ。

「タジキ、マギュウはどれぐらい残っている?」

「たんまりとあるぜ。むこうに残してくるの忘れてたからな」

「ソースもあるな?」

「もちろん!」

「では、動けるものに手伝わせて、亡くなった者達の送別会を行う」

「了解!」

大隊長がそう宣言したあと、養蚕工場の外に出て、焼肉の準備をしていくのであった。

立て籠もっている間、ろくにご飯を食べていなかった村人達は、焼肉の旨さに癒されていく。しかし、応援を呼びにきた男はまだ立ち直れずにいた。

「ほら、お前も食えよ」

バネッサが肉をドサッと男の前に置く。

「ほっといてくれ……」

「そうかよ。ま、好きにしろ」

「………」

「一応、言っとくがな。お前の家族の仇をマーギンが1人で討ちに行ってる。お前らとなんの関係もないマーギンがな」

「仇を……」

「あいつは自分のことを後回しにして、世界のために戦ってんだ。ちっとは感謝しやがれ」

バネッサはそれだけを伝えて、カザフと肉の取り合いをしにいったのだった。

「聖女様、ありがとうございます」

カタリーナはケガをした人や、病気を患っている人達にシャランランを掛けて回っていた。

「もう大丈夫よ。痛くないでしょ?」

皆に笑顔で接して、少しでも傷付いた心も癒されますように、と願いながら、シャランランをし続けるのであった。

◆◆◆

「見付けた」

マーギンはプロテクション階段を使って、空中から肉ダンゴを持ったチューマンを探していた。

見付けたチューマンは森の中に入り、盛り上がった土の小山にある穴の中に入っていく。

「あの小山、元からあったものじゃないな」

土を掘って盛り上がったような感じだ。小山には木々や草も生えてない。あれが巣の入口に違いない。

マーギンはしばらく時間を置いてから、そこに潜入していくと、奥に進むに連れて、坑道のようなものが広くなり、チューマンが出てきた。

ギチギチギチギチっ。

警戒音を出したことで、奥からどんどん湧いて出てくるチューマン。

広くなったとはいえ、ここは妖剣バンパイアを振り回すには狭い。まともに戦うにはかなり不利な状況だ。

《プロテクション!》

まずはこちらに近付けないようにプロテクションを張る。

《スリップアンドエアプレッシャー!》

チューマン達にスリップを掛けたあと、プロテクションごと空気圧で奥へと吹き飛ばす。

「このまま巣まで押し込んでやる」

グチャグチャグチャとチューマン達が絡み合うように重なり、どんどんと奥に押し込められていく。そして、それは地中に広がる大きな空間に到達した。

「こいつら、蟻が人化したものかと思ってたが、ハチだったのか……」

その大きな空間にあったのはスズメバチのような巣。マーギンはハチだと言ったが、卵を巣に産み付けていく女王蜂らしきものは、チューマンと同じような顔に、イモムシみたいな胴体を持つものだ。

「あいつは焼き殺せそうだが、ここにいるチューマンは無理だな」

自分をプロテクションボールで包み、しばらく様子を見て、どうやってこの状況を打開するか考える。

「ギィー」

女王蜂らしきものは、マーギンの方を見て、口から粘液を垂らしながら威嚇していた。

プロテクションボールにチューマンがたかり過ぎて、何も見えなくなったことで、マーギンは自身に強烈なバフを掛けてから深呼吸をする。

《プロテクション解除》

解除と同時に妖剣バンパイアに魔力を込めて縦横無尽に振り回す。

ドンっ。

鈍い音と共にチューマンが刻まれて弾け飛ぶ。マーギンは坑道に向かって飛んだ。

《プロテクション!》

巣と周りにいたチューマンを巨大なプロテクションボールで包む。そして、その中を水で満たしていく。

「キツイぞこれ……」

魔力が切れるかもしれないので、自身の魔力値を見るも、エラー表示のまま。このふらつき加減は体力を失ったものと判断して、そのまま水を満たしていった。

「しぶといなこいつら」

プロテクションボールの中を水で満たされても、マーギンに向かって攻撃をしてこようとするチューマンの群れ。女王蜂は巣の中の子供を守るような仕草をしている。

プロテクションボールの中が満水になってからどれぐらいの時間が経ったかよく分からない。これだけのサイズの満水となったプロテクションボールを維持するのは魔力と精神力をバンバンと削っていく。

「ちっ」

マーギンは自分が限界だと判断し、ダッシュでその場を離脱した。

外に出たマーギンはプロテクション階段で上空に上がる。

《フェニックスっ!》

火の鳥を巣穴に入れ、魔力を込めて温度を上げていく。

「爆ぜろっ!」

◆◆◆

「マーギン戻って来ねぇな」

バネッサが心配そうな声で呟く。

ズンっ。

「なっ、なんだ? 地面が揺れたぞ」

鈍い衝撃が村に伝わってきた。そして一呼吸おいたあと、

バーーーーン。

「キャーーーっ!」

「うわぁぁぁぁっ!」

衝撃波が村を襲ったのだった。