軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王、まさかの……

「マ、マーギン……お前、なんてことをしてくれんだよ……」

トナーレの岩兵衛のような腕を持つ食堂の大将は、王妃を連れてきたことに青ざめていた。

(ごめん、俺だけが来るつもりだったんだよ)

(ど、ど、どうすりゃいいんだよ)

(普通にしててくればいい。一応お忍びだから、王妃ではなく、デーエ夫人ということになってる)

お忍びといっても、護衛騎士付きの馬車だし、店の前を騎士が守ってるから他の客も近寄れない。自動的に貸し切りだ。

食堂の人も誰も配膳をやりたがらないのでマーギンがするハメになり、ソーセージとミードを王妃に運んでいた。

「大変美味しいですわ」

「だってよ、褒めてくれてるぞー」

と、厨房に叫ぶ。

「あ、ありがたやんした」

何だその口調?

結局、ふわふわソーセージもご所望になった王妃は、ハンター広場で寝泊まりして、翌朝ふわふわソーセージも堪能したのであった。

「あー、やっと帰ってきた」

王妃が戻ったとの知らせを聞いたカタリーナは王妃の部屋に飛んできた。

「戻りましたわ。どう? 上手くいったのかしら?」

「全然開かないっ!」

カタリーナはあれからノーヒントで延々と金庫にパスワードを打ち続けていたのだ。

「研究者に任せなさいと言っておいたでしょ?」

「私が開けたいのっ。私がマーギンの役に立ちたいのっ!」

ほんと、カタリーナはマーギンさんのことが大好きなのね。と、王妃は呆れながらも、マーギンのために頑張る娘を微笑ましく思う。

「お母様がいなくなってから、お父様はずっとノイローゼの熊みたいにウロウロしてたんだからね」

「そう?」

王妃はそれを聞いても冷ややかな返事しかしない。

「明日、マーギンさんにここに来てもらいますから、今日ぐらいはちゃんと寝なさい。あなた、ひどい顔をしているわよ」

カタリーナは寝食を忘れたかのように、延々とパスワードを打ち込んでいたので、目の下にクマができている。

「マーギンも帰ってきてるなら、今から会いに行ってくる」

「今日ぐらいはゆっくり休ませてあげなさい」

「えーっ」

「あなた、ローズも付き合わせてたんでしょ? ローズも今日はもう休ませてあげなさい」

ローズも付き合わされてげっそりとしているのだ。

「何時に来るの?」

「午前中には来られますわ。魔道具とかの発注もあるとおっしゃってましたから」

「分かった」

ぶすっと返事をするカタリーナはローズを今日はお休みにしたのだった。

そして、その夜。

「オ、オルヒ……」

王妃の寝室にやってきた王様。

「陛下、こんな時間にどうされました?」

王様を「あなた」ではなく、陛下呼びを崩さない王妃。

「こ、今回はワシが悪かった」

「何か謝られるようなことをされたのですか?」

と、ツンと答える。

「それはその……」

「陛下はこの国の王。たとえ、王妃である私に無礼なことをしても謝る必要はありませんわ」

「い、いや。王ではなく、夫、エンゲイルとして妻に謝りたいのだ」

「そうですか。では、何を謝られるのか伺います」

王は突然の水着姿に驚いて、心にもないことを口にしてしまったことを素直に謝った。

「そうですか。では、確かに謝罪は受け取りました。わざわざありがとうございました」

「詫びの品をと思ったが、オルヒが喜ぶようなものを用意するのは難しいと思った」

「でしょうね」

「そこで、物ではなく、ワシの気持ちを受け取って欲しい」

「気持ち?」

なにそれ? という顔の王妃。

王は大きく深呼吸をしてから王妃に跪き、左手をうしろにやり、右手を王妃に差し出す。

「あー、愛しのオルヒデーエよ♪」

王の選択、まさかのアカペラ。

愛の言葉を歌にのせたあと、

「オールヒッ、オルヒ、オールヒッ。オールヒッ、オルヒ、オールヒー、オルヒきーれーいー♪」

バックに白い鳩が飛び立つような歌。

「なによそれ……」

王妃は思わずプッと吹き出してしまった。

「き、気に入らなかったか? これでも練習したんじゃが……」

歌など歌ったことがない夫が顔を真っ赤にしながら、綺麗だと歌ってくれたのは素直に嬉しかった。

「もういいですわ。少し困らせようと、黙って出掛けて心配を掛けましたわね」

と、王に笑顔を見せた王妃。

「ゆ、許してくれるのか?」

「えぇ。先程の歌を新年の社交会で歌ってくださいましたらね」

と、ウィンクされ、王は口から煙を吐くのであった。

翌日、マーギンが城にやって来た。

「マーギン、お帰りっ!」

ヒョイ、べしゃ。

飛び付いてきたカタリーナを避けるマーギン。

「なんで避けるのよっ!」

「城でそんなことをすんな」

「もうっ、久しぶりなんだからいいじゃない」

「いいから、大人しくしてろ。王妃様に呼ばれてんだよ」

「なんの話をするの?」

「さぁ? 今日来てくれと言われただけだから、なんの話か知らん。それよりお前、その顔どうした。目の下にクマができてるし、頬がコケてるじゃないか」

と、マーギンはカタリーナの頬をさする。

「うん、ちょっとね。でも大丈夫!」

こいつ、城の飯をあんまり食ってないのか?

「今日はハンバーグにしてやるから、ちゃんと食え」

「マーギン、やっさしーっ!」

と、抱きつかれてしまった。やめれ、みんな見ていいかどうか分からんような反応をしているだろうが。

とりあえず、王妃は二人で話をしたいとのことだったので、部屋で待ってろとカタリーナに伝えて、王妃の元へ。

「マーギンさん、昨日の今日で申し訳ありませんわね」

「いえ、特務隊の訓練所に来るつもりだったので大丈夫ですよ。王妃様こそお疲れは出てませんか?」

「私も大丈夫ですわよ。今回の旅で随分とリフレッシュさせていただきましたので」

「それなら良かったです。で、お話とは?」

「あの女神像のことです。やはり先住民の物で間違いなかったのですね?」

「はい。ラーの神殿の物でした。そして隠し部屋の鍵になっていました」

「隠し部屋に何があったのか伺ってもよろしくて?」

「はい。隠し部屋には古代のシャーラム……先住民達の国ですね。その文字でしたので、全部が判明したわけではないのですが、恐らく、シャーラムの成り立ちみたいなものが壁画に描かれてました。歴史的な価値はあると思いますが、金銭的な価値はありません」

「そうですか。でも文字とは不思議ですね。そこに人々は居続けているのに、読めなくなってしまうなんて」

「そうですね。いつからどう変化していくのか不思議です」

「不思議と言えば、マーギンさんのお生まれになられた国の文字も不思議なものでしたわね」

王妃は以前の回路特許事件解決の際に、マーギンが漢字で自分の名前を仕組んだことを話す。

「自分が生まれた国の文字、元々は他国の文字だったみたいですけど、文字一つ一つに意味があるんですよ」

「一つ一つに意味が?」

「ええ。文字一つでも読み方が幾通りもありますし」

「例えば?」

「自分の名前は真田銀次郎と書くのですが、この文字は一つだけだと、サナとは読みません。マやシンと読みます」

「そうなんですの。どうやって読み方を判別しますの?」

「覚えるしかないです。自分が生まれた国は義務教育というものがありまして、15歳、この国だと16歳ですかね、そこまでは全員教育を受けることを義務付けられています。そこから3年の学校にもほとんど人が進学しますし、その次の学校に進学するものも多いです。ですので、働き始めるのは23歳とかからなんです」

「全員が学者みたいな国なのですね」

「自分は途中で学校に行ってなかったので、勉強はできないままですけどね」

「簡単な文字でいいので少し教えてくださらないかしら? とても興味深いですわ」

と、王妃はマーギンの名前の文字を一つ一つ解説してもらう。

「ちなみに名前という文字はどう書きますの?」

マーギンは漢字を書いて説明する。王妃は先程聞いたマーギンの名前の漢字、「真」が「本当の」といった意味があること、それと名前を組み合わせると、真名、つまりマナと呼ぶことを理解した。

「マーギンさんの本当のお名前は親御さんが名付けられたのかしら?」

「多分そうです」

「名前は親から子供への初めてのプレゼントですからね。きっとお名前には親御さんの気持ちがこもっていますわよ」

「そうですかね? 兄が金一、自分が銀次郎って、単純な付け方だったと思いますよ」

と、マーギンは王妃が何を言いたいのか理解をせずに笑って答えたのだった。

「マーギンさん、貴重なお時間をありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

「あと、お願いがあるのですけど」

と、炊飯器の発注をされてしまった。さっき、ライオネルの漁師達のものを頼んだばっかりなのに。社交会で肉巻きおにぎりやマグロの漬け丼を出すらしく、早めに30台欲しいとのこと。大変だなシス……

「痛てっ!」

マーギンはほっぺたを押さえる。

「どうされました?」

「べ、別に何もありません。では失礼致します」

と、マーギンは王妃の部屋を退出したのであった。

◆◆◆

王妃はその夜、研究者達を呼び寄せる。

「金庫のパスワードはこれを試してみなさい」

「姫殿下がずっと挑戦されていますが」

「開いたら、中身を見ずに閉めなさい。カタリーナはしばらくマーギンさんと行動をともにするはずです」

「かしこまりました」

そして、王妃が研究者に渡したパスワードは「サナダギンジロー」なのであった。