軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロッカの憂鬱

「バネッサ、昨日はどこに行ってたんだ?」

休み明けのバネッサにそう話し掛けたカザフ。

「いちいちうっせぇな。ウチが休みの日に何をしてようがお前には関係ねぇだろうが」

カザフはバネッサを誘ってどこかに遊びに行きたいと思っていたのだが、休みの前日からどこかに消えて誘えなかったのだ。

「そんな言い方すんなよ」

関係ないだろと言われてむくれるカザフ。

「くだらんことを聞いてくるからだ。小姑かてめぇは」

「けっ、可愛げのねぇおっぱいお化けめ」

「うるせぇ、クソチビ」

「誰がクソチビだ。もうバネッサと同じぐらいになってきてんだ。すぐ追い抜くからな。そんときゃ見下ろしてやる」

カザフ達は急激に身長が伸び始めていた。トルクとタジキはすでにバネッサより大きくなっている。

「心配すんな。お前はもうそれ以上伸びねぇよ」

「なんだとっ」

「ま、デカくなりゃ、お前の能力を生かせなくなるかもな」

「なんでだよ?」

「身軽じゃなくなるってことだ。背が伸びてお払い箱になったら笑いもんだな」

「なんだとっ!」

挑発に負けたカザフはバネッサに飛び掛かった。

それをひょいと避けるバネッサ。

「トロくせぇ」

「甘いっ!」

カザフはバネッサが避けるのを前提で飛びかかり、裏拳でバネッサに攻撃を仕掛けた。

ポイン。

「あっ……」

寸止めするつもりの裏拳がお触りになってしまったカザフ。

「てんめぇ……いい度胸してんじゃねぇか」

「ちっ、違っ……そんなつもりじゃ」

パシッ。ゴスンッ。

バネッサはカザフの足を払ってコケさせる。

「痛って……」

「お前みたいなエロガキはこうしてやんよっ!」

バネッサはコケたカザフの両足を掴み、電気あんまを食らわせる。

グリグリグリグリグリグリイィィィ。

「ギャァァァっ、やめろっ。やめてくれぇぇぇ」

靴で容赦なくグリグリされるカザフ。

「仲いいねあの二人」

「まったくだ。もうほっといて行こうぜ。大隊長が睨んでる」

「そうだね」

カザフとバネッサを呆れた目で見ていたトルクとタジキはカザフを見捨てて大隊長の所へ向かおうとする。

「お前らっ、助けろよぉぉぉ。んぎゃぁああ」

カザフは立ち去ろうとする二人に手を伸ばした。

「マーギンから、敵わない敵だと判断したら見捨てろと言われているからね。勝てない相手に絡んだカザフが悪い」

トルクはそう言ってカザフを見捨てたのであった。

「いいのか?」

タジキは助けに入ろうと思っていたようだ。

「嬉しそうだからいいんじゃない?」

「あれがか? めっちゃ痛そうだぞ」

「そうだね」

トルクは振り向かずに大隊長の方へ歩いていくが、タジキは何度も振り返っていた。トルクにはあれが嬉しそうに見えるのかと。

「ノイエクスさん、もっと本気で走らないと燃えちゃいますよ」

「アイリスっ、これ以上無理だっ!」

「じゃあご愁傷様です」

ゴォォォォォォ。

燃えるスライムに追い立てられるノイエクス。

「うっぎゃぁぁぁっ、燃えるっ、燃えるっ」

アイリスはノイエクスの背中が焦げる寸前まで燃えるスライムで追い立てる。

「熱っ」

後頭部に高熱を感じて手で触ると、髪の毛が焦げている。

「ハゲるだろうがっ」

「足が遅いからですよ。そんな直線的に逃げたら魔狼にでも追いつかれますよ」

ノイエクスの足は遅い訳ではないが、直線的に走ると、魔物から離脱するときに追いつかれる。相手を撒くように工夫して走らねばならないのだ。

高熱を放ちながら迫ってくるスライムにノイエクスは本気の本気を出して逃げるのであった。

「うむ、やはりアイリスは化け物じみてきているな。さすがはマーギンの一番弟子だけのことはある」

ロッカは自由自在に炎のスライムを操るアイリスに感心していた。軍の魔法使い達は単純なファイアボールを数発撃つだけで魔力が切れる。

ボォゥゥゥゥゥ。

次は逃げ惑うノイエクスを炎の壁が包んだ。

「ほら、敵に囲まれちゃいましたよ。何とか逃げてください」

「こんなもんどうやって逃げろってんだよ……」

そのセリフを最後にノイエクスは酸欠と熱で倒れた。

「実戦なら死亡ですね。隊長、このあとどうしたらいいですか?」

「救護班、ノイエクスを回収してくれ。アイリス、今のはまだできるか?」

「大丈夫ですよ」

「次はラリー達を頼む」

「ゲッ。俺達はロッカと訓練が……」

「ならロッカも参加しろ。救護班、ノイエクスが目を覚ましたら見学しろと言ってくれ」

ラリー達とロッカも今の訓練をすることに。逃げるラリー達とは違いロッカは炎のスライムを迎え撃つ。

「フンッ」

「ロッカさん、無駄ですよ」

斬られた炎のスライムは二つに分かれたまま襲い掛かる。

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

ロッカは全身を思いっきり強化して炎のスライムを滅多斬りにしていく。

「あわわわわわわっ。スライムが蹴散らされてしまいます」

「ラリーっ、ボサッと見てるな。アイリスを攻撃しろっ!」

斬っても斬っても分裂して襲い掛かってくる魔法は術者を倒さねば止まらない。ロッカはラリー達がアイリスを無効化するまで耐えるため、全魔力を使って身体強化をして剣を振り続けた。

「アイリスっ、もらったっ!」

ラリー達3人が一斉にアイリスに飛び掛かった。

《バーナー!》

ゴォォォォォォ。

「ぎゃぁぁぁぁぁ」

アイリスはラリー達に死なない程度に温度を下げたバーナーをお見舞いした。

「救護班っ、ラリー達を回収しろ。早くっ!」

隊長のオルターネンが慌てる。まともに正面からバーナーを食らったらヤバすぎる。

「アイリス、やりすぎだ」

「大丈夫ですよ。だいぶ温度を下げましたから見た目だけで、そこまで熱くありません」

「お前なぁ……」

一応、手加減していたと分かりホッとするオルターネン。

「ロッカ、大丈夫か?」

「た、立てません……」

「魔力切れか。動けるようになるまで休んでおけ」

「はい……」

ロッカはラリー達を使い、自身もあれだけ身体強化をしたのにアイリスに敵わなかったことで落ち込んだ。

その夜、

「ロッカ、なぜ逃げずに対峙したんだよ? 炎のスライム相手に剣だけで敵うわけがないだろ」

ロッカが落ち込んでいたのに気付いたバネッサが心配してロッカの部屋に来ていた。

「どこまで対応できるか試したかったのだ」

「炎相手に剣で対峙するなんて無謀なの分かってんだろうがよ」

「それでもだ。それでもなのだっ」

ロッカが大きな声を出した。

「ど、どうしたんだよ?」

「私は魔法が使えん」

「そうだな。というか、使えないやつの方が多いだろうがよ」

「剣は魔法に勝てないのか?」

「そ、そりゃあ、アイリスぐらいの使い手なら無理なんじゃねーの?」

「バネッサならどう対峙する?」

「うちか? うちはまぁ、オスクリタもあるし、アイリスみたいなトロ臭いやつならどうとでもできると思うけどよ」

「そうか……私はすでにバネッサにも敵わなくなったから当然か……」

「なっ、なんだよ。ロッカらしくもねぇ。人には向き不向きってもんがあんだろうがよ。うちはスピード、ロッカはパワー。得意分野が違うんだからよ、戦う相手の相性ってもんがあんだろうがよ」

「パワーでも大隊長には敵わん」

「あんな化け物に敵うやついるかよ」

「何か1つだけでもいいのだ……」

「何がだ?」

「一番になれるものだ。スピードではバネッサに敵わない、パワーでは大隊長に敵わない。総合力では隊長に敵わない。統率力ではハンナリーに敵わない。私には一番になれるものが何もないのだ……」

「別に一番じゃなくてもいいだろうがよ。ロッカは十分に強ぇんだからよ」

「私も自分が強くなったと思っていた。だが、それは勘違いだったのだ。サリドンやホープの伸びが著しい。特にサリドンに魔法を使われると勝てん。それにあと1〜2年でカザフ達にも勝てなくなるかもしれんと思うと……」

「まぁ、あいつらは大隊長にしごかれてるからな。それにうちもあと何年かしたらカザフに敵わなくなるんじゃねーか。タジキはまぁ、うちより速くなるとは思えねぇけど、トルクにはもう負けているかもしんねぇしな」

「トルクに?」

「あいつ、マーギンみてぇなところがあるんだよ。多分、本気で魔法を使ったら、特務隊の誰もが敵わなくなってんじゃねーか。今は体術や剣術でしごかれてるけどな」

「そんなにか?」

「多分な。マーギンも魔法が使えても、体術や剣術もバケモンみてぇだろ? 大隊長はトルクをマーギンみてぇにするつもりなんじゃねーかと思う」

「素質ってやつか……」

「だろうな。それに他人と比べて一番や二番とかどうでもいいだろうがよ? 敵は魔物だ。人間じゃねーんだからよ」

「ふっ、ふはははは」

ロッカは落ち込んだ顔から笑顔に変わった。

「な、なんだよ? いきなり笑いだして気持ち悪ぃ」

「いや、まさかバネッサに教えられる立場になるとはな、と思っただけだ」

「教えるも何も、マーギンがこんなことを言ってたろうが。うちが考えたわけじゃねーよ」

「そうか。私達の中でバネッサが一番マーギンと近しいからな」

「ま、まぁ、そうかもしんねぇけどよ」

「バネッサはマーギンとキスぐらいはしたのか?」

「なっ、何でそうなるんだよっ。うちとマーギンはそんな仲じゃねーてのっ」

「お前、魔力が相当伸びただろ?」

「そんなの分かんねーよ。まぁ、身体強化をしてられる時間がかなり伸びたから、魔力が伸びたと言われりゃそうかもしれねーけど」

「それな、シスコがマーギンとくっついているやつほど魔力が伸びるんじゃないかと言ってたんだ」

「は? なんだよそれ?」

「アイリスも化け物じみてきたろ?」

「そうだな。えげつねぇことやりやがる」

「アイリスもマーギンとべったりくっついていた時期が長い。バネッサもだ」

「う、う、うちはべったりくっついてなんかねぇっ」

真っ赤になるバネッサ。

「そうか? いつも抱っこされたり、おんぶされたりしていたではないか」

「あっ、あれはあいつが勝手に……」

「されてただろ?」

違うと言えないバネッサ。

「私も魔力が伸びたら、身体強化をしていられる時間が伸びる。もしくはもっと強めに掛けられると思うのだが、どう思う?」

「長く使えるのは分かるけどよ、あれ以上強く掛けるって意味あんのか?」

「パワーで大隊長に勝てるかもしれん」

「だから勝ってどうすんだよ?」

「心が満たされるではないか」

「しょーもねぇ……」

「私も敵は魔物だということは理解している。だが、人は自信が力に繋がることもあるのだ」

「なら、マーギンが戻ってきたら、おぶってもらえよ」

「そうだな。少し恥ずかしいが頼んでみることにする」

こうして、マーギンの帰りを楽しみに待つものが一人増えたのであった。