軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

失念

風の神ロムを祀る集落の近くに転移してきたマーギン一行。

「オロロロロ」

転移酔いで口から胃が出てきそうなマーギン。

《シャランラン!》

それを見たカタリーナはすかさず治癒魔法を掛けて、マーギンの顔を覗き込む。

「大丈夫?」

「あぁ、ありがとう。助かった」

「うん♪」

マーギンに感謝され、微笑むカタリーナの横にローズがいる。

「あれ? ローズも来たの?」

「い、いや、付いてくるつもりはなかったのだが、姫様に手を引っぱられて来てしまったのだ」

ゴツン。

「痛いっ。なんでぶつのよっ!」

感謝の次はゲンコツを食らうカタリーナ。

「あのなぁ。転移魔法は危険なんだぞ。ローズが転移の魔法陣に入り切る前に閉じたらどうなってたと思うんだっ!」

「どうなるの?」

「どうなるって……」

はて? ミスティからクドクドと注意されただけでどうなるかまでは覚えていない。しかし、あれだけしつこく言われたのだ。何かヤバいのだろう。

「自分で体験してみるか? 今から魔法陣を出してやるから首だけ突っ込んでみろ。そのときに魔法陣を消してやる」

「い、いやっ!」

カタリーナは首だけ自分の部屋に戻る姿を想像して青ざめる。

「分かったら、次から絶対にやるなよ」

「う、うん」

ローズも来てしまったけど、まぁいいか。1人だけまた転送して戻すってのもなんだしな。それに今回はカタリーナの魔法でロプロウスの石化が解けるか試すだけだし。

3人で風の神を祀る集落に向けて歩いていく。

「へぇ、こんな谷になってるところに住んでるんだね」

「常に風が吹いてるらしいぞ。だからこそロプロウスが出たんだろうけどな」

「風と何か関係あるの?」

「ロプロウスは巨体で重いから、自分の力だけで飛ぶより、風を利用して飛ぶほうが効率がいいんじゃないかな」

「ふーん」

あまり意味が分かってなさそうだな。この世界は飛行機とかないからピンとこないのかもしれん。それに、どうして? としつこく聞かれてもこれ以上説明できないからこれで良かったのかもしれない。

集落に到着すると、丁寧に出迎えられ、村長の所に連れて行かれる。

「ロプロウスの石化を解くですと?」

「そう。いつ解けるかドキドキしているより、解けるなら解いて、俺がその場で討伐した方がいいかと思ってね」

「ラーの使徒様でも石化するのがやっとの魔物をマーギン様は討伐可能なのでしょうか」

「石化が解けたら討伐は可能だと思うぞ。ミステ……ラーの使徒は魔物を弱体化させる能力は高かったけど、倒す力はなかったからな。ラーの使徒が使った石化魔法は闇魔法という種類の魔法で、それの対極の魔法が光魔法なんだよ。こいつの光魔法はかなりのものだから、もしかしたら解けるんじゃないかと思ってね」

と、カタリーナを指さした。

村長はマーギンがラーの使徒の能力を知っていることに疑問を抱いたが、それには触れなかった。

「こちらの少女は?」

すくっと立ち上がってポーズを決めるカタリーナ。

「私は聖女カタリーナ。鰯を与え……癒しを与えしものよ」

また肝心な時に言い間違える。

「はて、我々に魚を下さると?」

「ちっがーうっ! 癒しよ癒し! 私は鰯を……癒しを与えしものなの」

口が勝手に鰯と言ってしまうので、自分の口をつねって訂正する。

「マーギン様、この少女は大漁祈願か何かをされているので?」

「いや、そんなことはしてない。カタリーナも格好付けて名乗るなら言い間違えんな。そのうち鰯の聖女とか呼ばれんぞ」

「誰が鰯の聖女なのよっ。そんなのすっごく生臭そうじゃない」

「鮮度のいい鰯はきちんと調理すれば生臭くないぞ。煮てよし、干して良し、揚げてよしの魚だ。それに鰯の多い海は豊かな海なんだぞ」

「そ、そうなの?」

「そうだぞ。小鰯のオイル煮も旨いからな。俺は好んで食う。鰯は食べるだけじゃなく、釣りの餌としても優秀だ」

「な、なら、鰯の聖女でもいいかも……」

鰯の聖女もまんざらではないと思い始めるカタリーナ。

「姫様、それでは人々に鰯を与え続けることになりますよ」

それに突っ込むローズ

「じゃあ、ローズも剣じゃなく釣竿を腰に差す?」

「嫌です」

ローズが釣竿を持って戦う姿を想像するマーギン。ピエロと戦って石畳をひっくり返せそうだなとかいらぬことを口走りそうになる。

「鰯はもうどうでもいい。今からロプロウスの討伐に向かう。見届人が必要なら付いて来てくれ」

脱線した話を元に戻して、ロプロウスの所へ。山登りみたいな道なのでそこそこ疲れる。

「マーギン、おんぶ」

甘えるカタリーナ。

「しません」

即答するマーギン。

「えーっ、前に来たときにはおんぶして、ピューって移動したじゃない」

「ダメです。他の人もゾロゾロと付いて来てるんだぞ。あんな移動をしたら気持ち悪いだろうが」

「マーギン、気持ち悪い移動とはなんなのだ?」

「スリップと風魔法を併用して、スーッと移動することができるんだよ。走るより断然速いんだけど、曲がる、止まるが苦手な移動方法。だから、危ないときもあるんだよ。障害物がなければいいんだけどね」

「坂道でも可能なのか?」

「ここでやって、風魔法を上手く纏えなかったら、下ってしまうだろうね」

プロテクションスライダーのときは恐怖だったからな。あれをこの砂利道でやって、下っている最中にスリップを解いたら、すりおろされてしまいそうだ。

おんぶ移動を断られてブーたれるカタリーナを可哀想な目で見るロムを祀る民。歳の割に幼く見えるとはいえ、おんぶをせがむような年頃ではないのだ。

「姫様、散々マーギンの特訓を受けたんですから、これぐらいどうってことないはずでは?」

「ローズ、人はね、楽なことに流されるものなのよ」

ふふんと、自慢気にろくでもないことを言う。確かにそうかもしれないから自分も気を付けておこう。ホバー移動をすると走るのが馬鹿らしくなるからな。今回は封印だ。

それと、ローズがカタリーナを姫様と呼ぶが、それもまた可哀想な目で見られる要因になっているようだ。カタリーナはロムを祀る民からはすっかり、そういう扱いになってしまったな。

そして途中で休憩を挟み、ようやくロプロウスを閉じ込めた建物に到着。

「じゃ、今から試してくるからみんな外で待ってて」

「わ、我々も中に……」

「石化が解けて、討伐前に暴れたら巻き添えを食うぞ。それでも良かったら一緒に来い」

そう言われたみんなは苦笑いして外で待機することに。ローズは付いてくるようだ。

「こ、これがロプロウス……なんと大きい魔物なのだ」

ローズは想定していたより大きな石像を見て驚く。

「わーっ、すっごーい。このまま持って帰って、城の前に飾っておく?」

何を言い出すのだカタリーナ。王都で石化が解けたらどうすんだ?

「魔物は討伐する。それだけだ。さ、石化が解けるか試してくれ」

「分かったから、そんな怖い顔しないでよ」

マーギンに睨まれたカタリーナは杖を構えた。

《わが名はカタリーナ。人々に癒しを与え、悪しきものを浄化するものなり。我が力に応えよ聖杖エクレール。石化解除シャランラン!》

お前、いつの間にそんなの練習してきたんだ?

別に詠唱も必要ないのにそれっぽい決めセリフと共に光魔法が発動した。その光を受けた石のロプロウスはだんだんと生気を帯びていく。それを見たマーギンは妖剣バンパイアを構えた。

「ローズ、下がれ」

「ギャァォォォォォォッ」

その瞬間、ロプロウスは首を上げ、立ち上がろうとする。

「フンッ」

ブッシャァァァァッ。

ゴトンッ。

ロプロウスが立ち上がる前にその首を一刀両断したことで、大きなクチバシを持つ首が下に落ち、激しく血が噴き出した。

《プロテクション!》

血の雨が降って来るので自分達にその血が掛からないようにプロテクションで包み、血が収まるのを待って解除。

「うっ……息をするなっ!」

ロプロウスの血がおびただしい瘴気を放つ。

「ローズ、カタリーナ。ここから離脱っ!」

再び自分達をプロテクションで包んで出口に走る。

ガッ。

「チッ」

プロテクションが引っ掛かって外に出られない。

「ローズ、今からプロテクションを解除するから息を止めて外に出ろ」

「姫様を先にっ!」

「カタリーナの方が耐性があると思うからローズが先だ。外に出たらここの人達をこの建物から引き離してくれ。早くっ!」

失態だ。過去の強い魔物はこういうことがあるということをすっかり忘れていた。外ならともかく、建物の中では瘴気が霧散しない。ここにいてはまずいのだ。

ローズが息を止めたのを確認してプロテクションを解除したマーギン。

クラッ……ドサッ。

しまった。カタリーナが息をしやがった。

「姫様っ……」

ドサッ。

それを見たローズが慌ててカタリーナを助けようとして息を吸って倒れた。

「クソッ!」

マーギンは身体を強化して二人を抱きかかえて外に出た。

「お前ら、ここから離れろ。風上に向えっ!」

外に出たマーギンはロムの民達に叫んだ。

「しっ、失敗されたのですか?」

「いいから早く離れろっ。瘴気を吸うな」

状況を理解できない民達は逃げる前にオロオロとする。

「うっ……これは……」

「だから早く離れろっ。なるべく息を止めて風上に走れっ」

マーギンは慌てて建物の扉を閉めて、民達を谷の下に向かって走らせる。風は下から上に向かって吹いているのだ。

マーギンに怒鳴られ、慌てて坂を下る民達は転げるようにして下に走って行った。

「ローズ、カタリーナっ。大丈夫かっ」

「うっ……うーん……」

良かった。カタリーナは意識がある。耐性があるのと、瘴気を吸い込んだ量か少なかったのだろう。

「ローズ、ローズっ! しっかりしろっ!!」

ローズは意識が戻らない。叫んだ後に瘴気をがっつり吸い込んでしまったのか。

《マジックドレインっ!》

マーギンは鑑定して、ローズから瘴気を抜くためにマジックドレインを掛けた。

「ダメだ。ローズの魔力が先に抜けてしまう。くそっ……どうしたら……」

はっ……意識の戻らないローズが呼吸をしていない。

どうしようかと考えているうちにローズの呼吸が止まった。

「ローズっ、絶対に助けるからなっ」

マーギンは呼吸をしていないローズに治癒魔法を込めながら人工呼吸をし、マジックドレインを掛けながら、ローズの肺に溜まった瘴気を吸った。

よしっ、ローズの魔力は抜けていかない。これならっ!

マーギンは同じことを必死に繰り返した。

「ゴボッ、ゴボッ」

息を吹き返したローズ。

「良かった……」

マーギンは意識を取り戻したローズを抱きしめる。

「マ、マーギン……私はいったい……」

「ごめん、過去の魔物は瘴気を持っていることを忘れてたよ……危険な目に合わせてごめん……」

ローズはあまり意味が分からなかったが、涙を浮かべながら強く抱きしめてくるマーギンをそっと抱き返した。

「マーギン、姫様は無事なのか?」

ハッ、そうだ。カタリーナも瘴気を吸って……

「じーーーーっ」

「わっ! カタリーナ、無事だったか?」

抱き合う二人を見つめていたカタリーナ。それに気付いて慌てて離れる二人。

「人が苦しかったときになにしてんのよ?」

「ロ、ローズの方がヤバかったんだよっ!」

「そんな状況なのにチューしてたの?」

ゲッ、こいついつから意識があったんだ?

「チュー?」

人工呼吸をされていたローズはそのことを知らない。

「チューじゃないっ! 治癒だっ!!」

「私のことはほったらかしで、チューした後に抱きしめたくせに」

どうやらカタリーナはすぐに回復し、一部始終を見ていたようだ。

マーギンはそれからも何度もチューじゃなく、治癒だとカタリーナに叫ぶのであった。