軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防衛戦再び

「マーギンが前に話していた人……?」

「そうだ」

「まだ子供だったのに師匠なの?」

「見た目はガキだが、俺より歳上だ。それは気にしなくていい」

「この石像、壊れてるけど、石化が解けたら凄いことになったりしない?」

惨劇を想像するカタリーナ。

「分からん。だから俺は普通の治癒魔法を掛けてるから、カタリーナは石化が解けるように祈って治癒魔法を掛けてくれ」

「分かった」

マーギンはミスティの石像に触りながら治癒魔法を流す。そしてカタリーナは目を瞑り、聖杖エクレールを両手で握り締めながら祈りを捧げた。

パァァァっと優しい光がミスティの石像に降り注いでいく。

ミスティ、戻ってこい……

マーギンはそう強く祈りながら治癒魔法を流し続けるのであった。

◆◆◆

「ローズ、マーギンは姫様を連れて行ったのだな?」

「はい、大隊長……」

「どうした? 浮かない顔をしているな」

「はい……もしかしたらマーギンは帰って来ないのかと思いまして」

訓練所に戻ったローズは大隊長と話していた。

「なぜそう思う?」

「姫様 は(・) すぐに送り返すとマーギンは言いました」

「姫様 は(・) 、か……」

「はい」

「帰って来るかどうかを今悩んでも仕方があるまい。それよりお前は北の街への魔狼討伐に参加するのか?」

「いえ、姫様がお戻りになられるのを待っております」

「そうか。なら我々は出発する」

「お気を付けて」

北の街のハンター組合から、王都の組合と特務隊に応援要請が入っていた。

「では、魔狼討伐隊、出発!」

オルターネンの号令と共に多くの馬車が北の街に向かって出発した。

「大隊長、応援ありがとうございます」

北の街に到着すると、王都ハンター組合のロドリゲスと北の街の組合長のマッコイが特務隊を迎えた。

「特務隊の指揮権は隊長のオルターネンにある。俺は戦闘部員だから、作戦の打ち合わせはオルターネンとやってくれ」

「大隊長が戦闘部員ですか、ずいぶんと贅沢な隊になりましたね」

直接報告を聞いたわけではないが、星の導き経由で大隊長が戦闘員になったことを聞かされていたロドリゲスは肩をすくめて返事をした。

「オルターネン隊長、宜しくお願いします」

「では作戦会議をしようか」

領主の庭を埋め尽くすほどのテントが張られ、各自が自炊の準備を始める。

「カザフ、ラリー、うちらは偵察に出るぞ」

バネッサが偵察に出ると言い出した。

「まだなんの指示も出てないのにいいのかよ?」

「お前、北の街の雪がどんなのか知らねぇだろ? 作戦が始まる前に体験しとけ」

「バネッサ、俺は体験する必要ねぇぞ」

ラリーは雪の戦場を知っているようだ。

「ラリーは不要か。ならカザフだけ来い」

バネッサはカザフを連れて領都から出る。二人の全力疾走は速い。

「うわっ!」

北に進むにつれて道路も雪が深くなっていく。その雪にカザフは足を取られてしまった。

「足が沈む前に進めよ」

「なんだよそれ?」

「そういうイメージで走るんだよ」

バネッサは雪の上での疾走方法を会得していた。身体の大きいマーギンが雪の上とは思えないほどのスピードを出していたのを見て覚えたのだ。

「カザフ、今回はうちに張り合おうとするな。後ろに付いて走れ」

バネッサはカザフに雪の上での走り方を見せるために、いつもの調子ではなく、先輩として接する。

「うっせぇな。張り合ってなんかねぇよ」

と、反発するカザフに返事をせずにバネッサは走りだした。自分はマーギンからカザフを頼むと言われている。戦うにしろ、逃げるにしろ、本番前に雪の上を自在に走れるようにしてやらねばならない。バネッサはいつものような子供の張り合いをすることなく、カザフに自分の走り方を見せるのであった。

「じゃ、明日の早朝出発ってことで」

作戦が決まった。領都から北進した中央付近はハンナリー率いる軍人部隊。敵の殲滅を目的とせず、領都へ魔狼を入り込ませないようにする。東の雪の深い地域は領都軍と北の街のハンター達。西の湖近くは大隊長達と王都ハンターが担当することとなった。オルターネンは中央で指揮を取る。

「タジキ、お前はハンナリーの盾役を頼む。ロッカとラリー達は雪熊が出たときのために待機だ」

「うむ、これだけの人数がいれば、領都へ入り込ませることはありませんね」

「大隊長、宜しく頼みます」

湖近くの村でロドリゲスは大隊長と担当を分けていた。

「こちらは殲滅を目的とする。それでいいか?」

「そりゃ頼もしいですね。本当にうちのハンター達は住民の警護でいいんですか?」

「それが一番重要だ。人的被害者が出たら我々の負けだ」

「了解です」

「今回は命令を無視するようなやつはいるか?」

「いや、前のことがありますからね。皆理解してますよ。もし飛び出すようなやつがいても助けは不要です」

「分かった。では終わったら酒でも飲もう」

大隊長とロドリゲスはポンッと拳を合わせてそれぞれの持ち場に付く。

大隊長はバネッサ、カザフ、トルク、アイリス、ホープ、サリドン、ノイエクス、アージョンを連れて来ている。

「大隊長、うちとカザフで偵察に出る」

「うむ。魔物を見付けたら攻撃せずに戻ってきてくれ」

「了解」

そう返事をしたバネッサはカザフと共に湖の北側に向かって偵察に出た。

「サリドンとトルクは遠距離攻撃担当。ホープとノイエクスはアイリスの盾になり、魔物をこちらへ誘導せよ。アイリスの炎攻撃は仕留めるのではなく、魔物を誘導するために使ってくれ」

「はい」

「アージョン。お前は俺と接近戦だ。いけるな?」

「はい」

雪の中での戦いに慣れているアージョンをパートナーに選んだ大隊長はバネッサ達の偵察情報を待って作戦決行することにした。

「ええか、あんたら。今日は本番や。今までの成果を見せるんやでっ!」

「おーっ!」

中央では、ハンナリーが皆を鼓舞し、大人数部隊を上手くまとめあげていた。

「しかし、ハンナリーにあんな能力があるとは思いませんでしたね」

「そうだな。大人数を一致団結させるのは才能が必要だからな。誰が何に向いているか分からんもんだ」

ロッカはハンナリーを中心に軍人達が意気揚々としている様子をオルターネンと見て感心していた。

「ラリー、偵察に出てくれるか?」

「了解」

ラリー達は魔物が近付いていないか偵察に出る。

「頑張って頑張って討伐っ!」

「頑張って頑張って討伐っ!」

その間、軍人達は戦いの前の儀式のように一斉に踊っていた。

「大隊長、敵が来るぜ」

偵察から戻って来たバネッサからの報告。

「何が来る?」

「雪熊だ」

「いきなりか」

「しかも群れだ。10匹ぐらいいる」

「雪熊が群れているだと?」

「ああ。一匹めちゃくちゃデカいやつがいた。そいつが他の雪熊を率いていやがる。雪熊って群れんのか?」

「いや、雪熊は単独のはずなんだがな。まぁ、これもマーギンが予測していたことかもしれんな」

前の討伐のときに雪熊が出るのが普通になると言ったマーギンの言葉を思い出した大隊長。これは始まりに過ぎんのだろうなと思うのであった。

「カザフ、ロドリゲスに伝令を頼む。住民を領都に避難させよと」

「分かった」

「バネッサ、雪熊の進路を教えてくれ」

大隊長は地図を広げて、皆の配置場所を決めていくのであった。

◆◆◆

「たっだいまーっ!」

「ひ、姫様? もうお戻りになられたのですか?」

カタリーナはマーギンと転移した翌日に一人で戻ってきた。

「うん、私のすることは終わったの。大隊長はどこにいるか知ってる?」

「大隊長達は北の街からの応援要請を受けて魔狼討伐に出ておられます」

「そうなんだ。もしかしてみんなも?」

「はい」

「じゃあ私達も北の街に行こう」

「えっ? ダメです。王都のハンターにも応援要請が出て、大勢で討伐に向かっているような状況なのですよ。そんな危ない所に行かせるわけにはまいりません」

「あのねローズ。私は聖女になったのよ。そんな危ないことになってるなら、治癒師だけで足りないかもしれないじゃない。だから尚更行かなくちゃ」

「姫様、マーギンも姫様が前線に出る必要はないと言っていたではないですか」

「最前線に出るわけじゃないわよ。後方で負傷した人とか治すの。それが私の役目なの」

「し、しかし……」

「ローズが連れてってくれないなら一人でも行くからねっ」

言い出したらきかないカタリーナ。ローズは根負けして、絶対に後方部隊ですからねと念を押してから、馬車の手配をするのであった。

◆◆◆

「大隊長が住民を避難させろだと?」

「うん。雪熊が群れでこっちに来てる」

「何匹だ?」

「10匹ぐらい。一匹めちゃくちゃデカいのがいる」

「分かった。おい、お前ら。住民と家畜を連れて領都へ避難しろっ!」

カザフから伝言を聞いたロドリゲスは周辺の村にもハンター達に避難させろと指示を出した。

「じゃ、俺は戻るからな」

「俺も行こう。雪熊の群れとかこの目で拝んでおかねぇとな」

「組合長、危ねぇぞ?」

「そうか。なら、特務隊のカザフが守ってくれよ」

まだ成人にもなっていないカザフに心配されたロドリゲスは笑ってそう答えたのであった。