軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

軽いゲンコツ

王妃の私室でサーモンとイクラ丼を食べる。

「お米はこうして食べるものなのですね」

「いや、食べ方の1つというだけです。丼は材料をのっけるだけなので、様々なバリエーションがありますし、米もそのまま食べるだけでなく、おにぎりにしたり、具材と一緒に炊き込んだり、炒めたりとかいろいろな食べ方がありますよ」

「米はタイベだけでなく、王都でも食べられるようになるのかしら?」

「ハンナリー商会が仕入れる予定にしていますけど、先にライオネルで人気になるかもしれませんね。魚介類と合いますから」

「他にもライオネルでも何か仕掛けを?」

「あっ、そうだ。ライオネル領主へのお口添えありがとうございました。お陰様で領主様が大きな倉庫を建ててくださってまして、そこで魚の競り市とたくさんの食堂を作る予定にしています。そのうち、人を呼び込む施設になるんじゃないかと思います」

「そう。お役に立てて良かったですわ。ライオネルも失点を挽回できるかもしれませんわね」

トナーレの一件がまだ響いているのか。大変だな領主って。

食事が終わった後に、マーギンだけ残れと言われる。まだ何か言われるのだろうか?

「マーギンさん、カタリーナのことですけど」

「は、はい」

「聖女になると答えましたわ」

カタリーナなら聖女になる道を選ぶだろうとは思ってたが、もう結論をだしたのか。

「……あの、本当にいいんですか?」

「あの子が決めたのですから宜しいのよ。まぁ、王が聖女とはどういうものか上手く説明できなかったので、ちゃんと理解できているかどうか不明ですけど」

「個人的な事情は置いといて、本当はカタリーナには断って欲しかったんですけどね」

「断ったら、見知らぬ人との結婚と、意に添わない仕事が待っているかもしれませんわ。どちらが幸せな人生だったかは死ぬときにしか分かりませんわよ」

死ぬときにしか分からないか……俺には縁のない話かもしれん。

マーギンはしばらく黙ってしまった。

「個人的な事情とは何かありました?」

「あの……そうですね。実はカタリーナと訪れた遺跡でこれを見付けました」

マーギンは聖杖エクレールを出した。

「これは魔法使い用の杖でしょうか? ずいぶんと神々しい感じがいたしますけど」

「……これは聖女ソフィアが残してくれたものなのです」

マーギンは少し間を置いてからソフィアの名前を出した。

「遺物というわけですか……」

「はい」

マーギンは、王妃からマーベリックの日記を貰ったときには詳しく話せなかった、勇者パーティメンバーの話をすることにした。カタリーナを本当に聖女にしていいかの判断材料にしてもらわねばならないのだ。

「もしかしたら聖女ソフィアは苦悩を抱えていたかもしれないということですわね?」

王妃はマーギンの話を聞いて、カタリーナを心配している本当の意味を理解した。

「当時はというより、この聖杖を見付けるまで苦手な仲間でした。ソフィアも俺のことを嫌いだったと思います。ですが、こうして聖杖を残してくれたことで、本当は違ったのではなかろうかと思ったのです」

「どう違うと?」

「ソフィアも病気や怪我で苦しむ人を見捨てるのが、本当は辛かったのではなかろうかと。自分には目の前で苦しんでいる人を治せる力がある。しかし、その人数は膨大。全てを救えるわけではありません。どこかで線引きをする必要があったのでしょう。その線が貴族か否かだったのだと思います。魔王討伐後は王妃になる予定でしたので、政治的な思惑も絡んでいたのかもしれません」

「カタリーナと近い立場の方でしたのね」

「はい。自分は貴族のことをよく知ろうとしてこなかったので、ソフィアのことを慈悲のない聖女だと思ってました。勇者マーベリックのこともそうです。それにガインもベローチェのことも……こうだと決めつけて、自分は何も見てなかったんですよ」

マーギンはポロっと涙をこぼした。

「マーギンさん、今の話をカタリーナに聞かせても、きっと聖女になると言いますわ」

「えっ?」

「命の選択をせざるを得ないときに苦悩するでしょう。心に深い傷を負うかもしれません。でも、カタリーナの心を理解して下さる方がおられるでしょ?」

「カタリーナの心を?」

「ええ、誰が何を言おうとマーギンさんが理解してくださるんじゃなくって?」

「俺が理解を……」

「カタリーナはマーギンさんにとても懐いておりますわ。信頼という点では私達より上かもしれませんわね。親の言葉が届かないときでもマーギンさんの言葉なら届くんじゃないかしら」

「俺はカタリーナにそこまで思われるような人間じゃ……」

「あら、服の破れたところから裸を覗かれたと言ってましたけど、嫌そうではありませんでしたわよ」

「えっ?」

マーギンは青ざめる。あいつ、何を言いやがったんだ……

「あの、それは誤解でして……」

「他にも……」

あー、聞きたくない聞きたくない。マーギンは耳を両手で押さえそうになった。王妃の話はどれも違いますと言えないものばかりなのだ。

「では、これからもカタリーナを宜しくお願い致しますわね。それと、これからはカタリーナを通さずにこちらにおいでいただいて結構ですわよ。いつでもお気軽にどうぞ」

そう王妃に微笑まれる。

「は、はひ……」

マーギンは一通り話が終わり、切り出すか悩んだが、もう今しか頼むことはできないと思いお願いを申し出る。

「王妃様」

「はい」

「カタリーナの力を借りても宜しいでしょうか。とても個人的な内容なので心苦しいのですが」

「どのような?」

「聖女ならば助けることができるかもしれない人がいるのです」

「もしかして、昔のお仲間かしら?」

「はい。私の魔法の師匠です」

マーギンは真剣な目をして答えた。

「そうですか。カタリーナがお助けできることを願いますわ」

「ありがとうございます。場所はタイベ先住民の集落。この時期だと船の予定が見通せませんので、転移魔法を使います」

「えっ?」

「自分はおそらく転移魔法酔いをして動けなくなると思いますが、安全な場所に転移します。もしカタリーナも転移魔法酔いをするなら帰りは考えますが、問題なければカタリーナだけ王都に戻します」

「マーギンさんはタイベに残られるのですか?」

「自分はしばらくチューマンの討伐に注力します。王都近郊に出るまでに叩き潰さねばならないので」

「分かりました。どうぞ宜しくお願い致します」

「ありがとうございます」

これで王妃との話は終わり、退室をする。カタリーナをもう一度タイベに同行させる許可も取れたけど、本当に聖女になるのか確認しておこう。

「マーギンっ!」

部屋から出たマーギンに飛びつこうとするカタリーナ。

「やめろ。ここをどこだと思ってるんだ」

避けて、ベチャッとさせるのもまずいので、先に待てをするマーギン。

「えーっ。それに遅ーい」

かなり話し込んでいたようで、もう夕方になっていた。

「ちょっと話し込んでしまったからな。それよりお前、ここで待ってたのか?」

「うん。マーギンにお願いがあるから待ってたの」

「なんだ、お願いって?」

「私を女にして」

ザワッ。

ここは王妃の私室前。当然、使用人や騎士もいる。そこでとんでもないことを言い出したカタリーナ。

「ばっ、馬鹿っ。おまえは何を言い出すんだ」

「えーっ、だって、マーギンがお母様に私がそうなれるって言ったんでしょ? だからお母様もマーギンに女にしてもらいなさいって言ったんだもん。ねっ、いつしてくれるの?」

ザワザワザワ。

我が耳を疑う使用人や騎士達。マーギンが見渡すと皆がサッと目を逸らす。

「お前、俺が言ったのはそんなことじゃねーっ!」

「だって、せい……むぐっ」

まだ自分で最終確認を取っていない聖女と言いかけたカタリーナの口を手で押さえる。

ザワッ。

性……?

周りにいた使用人や騎士達は『せい』だけが聞こえた。

「来いっ!」

マーギンはそのままカタリーナを誘拐するかのように、その場から連れ去るのであった。

「お前なぁ、人前で変なことを言い出すな」

カタリーナの私室でお説教。護衛のローズには扉の外で待ってもらっている。聖女の話を断れば、なかったことにしないとダメだからだ。たとえローズであっても知らない方がいい。

「だって、本当なんだもん」

「お前、聖女のことを本当に理解しているのか? お前が聖女と呼ばれる存在になったら大変なことになるんだぞ」

マーギンはどのような未来が待っているのか説明する。

「ふーん。でも、マーギンがなんとかしてくれるんでしょ?」

「なんとかしてやれることと、してやれないことがあるだろうが。お前の心が壊れるようなできごとが待ってるかもしれないんだぞ」

「うーん。でもマーギンがいるから大丈夫」

そう言い切って微笑むカタリーナ。

「お前なぁ……」

マーギンはここまで信頼してくれるカタリーナにどうしてやっていいか分からず、コツンと軽いゲンコツを食らわせるのであった。