軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

マーギンの優しさとは

晩飯は地引き網漁師達の奥様が運営する食堂で食べる事に。

「マーギン、卓上コンロを増やしておくれでないかい。テーブルごとの鍋が人気で足りないんだよ」

「あ、そうなの。シスコ、手配宜しくな」

「あなたって人は……」

両手を広げてモンゴリアンビンタの体勢に入るシスコ。

「な、なんだよ? ここがカニドゥラックのモデルになるかもしれないだろ?」

ほっぺを両手で押さえて怯えるマーギン。

「カニドゥラックのモデル?」

「そう。料理人を雇って料理して出してた

ら大変だろ? というかそれをしたら値段が高くなりすぎて客を選び過ぎる。だから材料だけ用意して自分で作ってもらえばいいんだよ」

と、カニドゥラックをどんな形態の店舗にするか提案していくマーギン。

「なるほど」

「それと、あの漁港の倉庫だけどな、あそこにも食堂作ったらいいと思うぞ」

「あんな所に誰が食べにくるのよ?」

「王都で食べるより格段に安くて新鮮な魚介類を食べられる場所になれば食いに来る人がいると思う。漁師の奥様達の働く場所にもなるし、遊女上がりとかの受け入れ先にもなるんじゃないかな。それにタイベ産の米や酒がありゃ、それを食べてタイベに行ってみたいと思う人も出てくるかもしれない。そうすりゃ売れ残りの魚介類も金になるしな。ここも売れない魚を料理にして出してるんだぞ」

「こんな美味しい魚なのに?」

今シスコが食べているのはメゴチの天ぷら。

「食うと旨いけど、ヌルヌルしてるから売れないし、売れても二束三文だ。だけど、こうして料理になればまともな金を取れるから奥様達の収入になる。いいことずくめだとは思わないか?」

「そうね」

「あの倉庫がライオネルの産業の1つとして成長することで、建設費用を負担してくれた領主へのお返しになると俺は思う。商売人は受けた恩はちゃんと返すのが筋だろ?」

「ええ」

「王都、ライオネル、タイベ、北の街。これを繋ぐのがハンナリー商会だ。これが大きくなると他の領主もハンナリー商会に頼るようになってくる。ここできっちりと地盤を固めておいたら、他の貴族に無理難題を言われても断れる商会になる。そうなりゃ王都どころか王国で1番の商会だな」

「王国で1番の商会……」

「ほら、想像してみろよ。ハンナリー商会が王国で1番になった姿をよ」

シスコはハンナリー商会が多くの人を幸せにする姿を想像する。

「いいわねそれ」

ここで初めて笑顔を見せるシスコ。

よし、成功だ!

マーギンは心の中でガッツポーズをする。これでネチネチと言われる心配がなくなったのだ。後は任せておこう。

「ねぇ、マーギン。それはタイベでもやるのかしら?」

と、一緒に来ていたシシリーが聞いてくる。

「何を?」

「遊女上がりの就職先確保よ」

「シャングリラみたいにちゃんと教育受けてる所ってあるのか?」

「それはどうかしらね? でも踊りや接客とかは教育を受けているとは思うわよ。何もできない娘は上客を掴めないから」

なるほど。

「ならなんとかなるんじゃないか? これから船の接客員も必要になってくるだろうし。飯屋はどうだろうな? タイベの人達にとっては魚介類は身近過ぎるからな。まぁ、なんなとやれる事はあると思うけど」

「それなら遊女達も先の人生に希望が持てるようになるわね」

シシリーの言葉は遊女達の悲哀を感じさせるものであった。

翌日、

「シシリーもタイベに行くのか?」

アニカディア号を見送るのに桟橋まで来たのかと思ってたら船に乗り込むシシリー。

「マロ兄がタイベの孤児院を見てほしいと言うからよ」

「そうか。ガキども喜ぶんじゃないか。母親の愛に飢えてるだろうからな」

「私が母親?」

「そう。シシリーなら甘やかせてくれそうだろ?」

「ふふふ、ならマーギンも甘えてみる?」

と、シシリーが両手を広げておいでおいでをする。

「く、癖になりそうだからやめとく」

ちょっとポフっとしそうになったマーギンは自重した。マーロックから威圧が飛んできたのだ。

「あら残念。チュッ」

と、ほっぺにキスされた。

「野郎どもっ、出発だ!」

ガクッ!

「うわわわわっ!」

いきなりスピード全開で出港したアニカディア号はその後もマーロックにガンガン飛ばせと言われて、海面をバンバンと跳ねるようにしてタイベに進んだ。

タイベに到着してからも船酔いで死んでいるシスコをマーギンはおぶって宿へ。マーロックとシシリーは孤児院へと向かった。

「まだ気持ち悪いか?」

「まだ船に乗っているのかしら……」

宿のベッドの上でも揺れているような状態に感じるシスコ。

「なら、朝までそのまま寝とけ」

と、マーギンが隣の部屋に行こうとする。

「そ、そばに居てよ……」

「なんでだよ? 1人の方がゆっくり寝られるだろ?」

「いいからここに居て……」

ったく……

マーギンはベッドの隣に椅子を移動させて座った。気持ちも悪いし、1人になるのが不安だったのかもしれない。落ち着いたら自分の部屋に移動しようと思っていたが、寝入ったシスコがうんうんとうなされたり、涙をポロっとこぼしたりするものだから、心配になって部屋を出るに出られず、そのまま朝まで椅子に座ったままだった。

翌朝、

「太陽が黄色い……」

マーギンはタイベに来る時に跳ねる船の中で、シスコとシシリーが落っこちないように掴まえてずっと踏ん張っていたので疲れていた。その上、シスコを心配して椅子に座ったまま朝を迎えたのだ。

「ずいぶんと疲れているわね?」

「まぁな」

シスコはあれでもよく寝れていたのか、すっかりと復活し、スッキリとした顔をしていた。昨晩マーギンに一緒に居てと言ったことは記憶にないようだ。

「おう、マーギン。酷ぇ顔をしてやがんな」

宿の前で待ち合わせをしていたマーロックとシシリーがやってきた。

「大丈夫だ」

マーギンは1晩中椅子に座ってたせいで腰や身体がガチガチなので、腰をトントンと自分で叩きながら返事をした。それとは対照的にシスコはスッキリした顔をしている。それを見たシシリーはふーん、と薄い目になりながら自分の腕を組んだ。

「今日からどういう予定だ?」

「まずはタイベ領主の所へ行く。マーロックとシシリーはタイベの遊女がどんな感じなのか調べておいてくれないか?」

「何を調べるのかしら?」

「男女関係なく、人を楽しませることができるダンスとか音楽とかできるかどうか」

「男女関係なく楽しませる?」

「そう。客船の中と領都で何か仕掛けが欲しいんだよね」

マーギンはダンスショーみたいなものができるかシシリーに聞いてみる。

「へぇ、1人で踊りを見せるんじゃなくて、大人数で踊るのね」

「そう。王都側からタイベに来ようという動機が必要なんだよ。タイベの飯屋は王都から来るとどこも珍しくて安い。それも売りになるんだけど、それだけじゃ足りないからね。なんか楽しみがあればいいなと思って」

「分かったわ。調べておいてあげる」

この件はシシリーに任せておけば安心だ。

マーギンとシスコは領主邸に向かう。アポなしだけど、エドモンドは問題ないだろう。

テクテクと移動して夕方前に到着。

「マーギン君、よく来てくれたな」

「いつも突然の訪問すいません。報告と相談をしに参りました」

ハンナリー商会がこれからしていく予定の事を報告し、客船の中でダンスショーをしてはどうかと相談する。

「素晴らしい! この冬に2隻とも改装する予定だから是非取り入れよう」

「踊り子は遊女をやめた人を予定していますが問題ないですよね?」

「なぜ遊女なのかね?」

「遊女を辞めた後の就職先の確保と即戦力になるからです」

マーギンは遊女が現役を引退した後どうなるかを説明する。

「そうか、それは就職先をなんとかしてやらないとダメだな」

「はい。娼館はこの先も無くならないと思います。自ら遊女になるものもいれば、生きていくのにやむにやまれずになるもの、親に売られたりするものと理由は様々ですけど、遊女を辞めた後の方が人生は長いですからね」

「うむ、それはそうだな。いや、そういう事を知らなかったでは済まされない問題だ。良い提案をありがとう」

娼館で遊んだことのない貴族だとこういう世界があるということを知らないのは当然か。

「あと、商売とは別件なのですが」

と、チューマンの事と、アイリスの母親が育てていた防虫作用のある花の事を説明する。

「人類の脅威は魔物だけではないのか……」

「はい。素材も取れないので、厄介なだけです。それと効果があるかどうかまだ不明ですが、花を増やして各町や村の周りに植えてもらえませんか? 先住民の村には自分が広めますので」

「プリメラが育てていた花が人類を守るかもしれないのか?」

プリメラとはアイリスの母親だ。

「まだ確証はありませんけど、今から準備しておいた方がいいと思います。それともしチューマンを見かけたら戦わずに逃げて下さい。あいつらは戦いを学習します。それに普通のハンターでは討伐は難しいでしょう」

「分かった。情報はハンター組合と共有しておく」

「領主様」

「まだ何かあるかね?」

「花の種は増やせるだけ増やしておいて下さい。王都や他の領でも必要になるかもしれません」

「了解だ」

その後、夕飯をご馳走になり、翌朝馬車で領都の港まで送ってもらったのだった。

夕方、シシリー達も孤児院に戻ってきた。

「調べてきたわよ」

「どうだった?」

「踊りと音楽の教育は受けてるわね。計算とかは普通の人と同じぐらい。演者としては通用するんじゃないかしら」

「そうか。こっちも領主に説明してきて問題なしだ」

さて、これを誰が仕切るかだな。シスコは王都にいるから、タイベで人を探さねばならない。エドモンドに人の事も頼めば良かったな。

それは後で考えるか。王都に帰る時にエドモンドに相談しよう。

マーギン達は晩飯は売れ残った魚のすり身の天ぷらを食べ、子供達には手持ちの肉を出してやった。

夜、

「ねぇ、シスコ」

「なにかしら?」

「マーギンとそういう仲だったの?」

「そういう仲ってどういう意味かしら?」

「男と女の仲なのか聞いてるのよ」

「どうして私がマーギンの女になるのよっ!」

怒るシスコ。

「だって、宿で2人で泊まったでしょ? マーギンはぐったりしたし、あなたはスッキリしてたわ」

「私は船酔いが酷くてすぐに寝たからよ」

「じゃあマーギンはどうしてあんなにぐったりしてたのかしら? 寝てなかった感じだけど」

「知らないわよ」

マーギンが心配して朝まで起きてたことを知らないシスコはその後シシリーに愚痴り始める。

「シスコって、何でも1人でやろうとするでしょ?」

「できる人がいないんだからしょうがないじゃない」

「できるわよ」

「何が?」

「魔道具ショップにいる遊女上がりは全員帳簿管理できるわよ」

「えっ?」

「当たり前じゃない。私はマーギンが仕掛けた仕事を任されてたのよ。有力な人材しか連れていくわけないじゃない」

「そっ、そんな……誰も手伝ってくれなかったじゃない……」

「私がシスコが助けを求めてくるか、誰かにやらそうと指示を出すまで黙って見てなさいと言っておいたの。まさかまだ誰にも何もやらせてないなんて驚いちゃった」

「そ、それなら初めから教えておいてくれても……」

「上に立つものはまず自分でできるようになること。それと働く仲間をちゃんと見て仕事を与えること。あなたはそれができてないのよ」

「わ、私は皆が忙しそうだから……」

「それだけかしら? あなたの心のどこかに遊女を下に見ていたってことはない?」

「そ、そんな事は……」

シスコはシシリーに言われて知らぬ間に自分がそう思っていた事に気付く。

「マーギンはね、とっても優しいの。遊女だからとかそんな目で私たちを見ない。ちゃんと普通の女性として扱ってくれる。そんな男なんてマーギンが初めてよ。それにエッチな事をしてくるわけでもなく、私達を下に見るわけでもない。それだけでなく、将来のことまでなんとかしようとしてくれる。あなたはそんな優しさを理解できるかしら?」

「マ、マーギンは無茶ぶりを……」

「あなたが1人で背負い込むからでしょ? 王都に戻ったら皆に仕事を振りなさい。あなたがやるべき事は方向性を示す事。どういう商会にしたいのか、何を成したいのか。それには何が足りないのか皆で考えるのよ。儲け話はマーギンが取ってきてくれてるでしょ」

シスコはシシリーに言われた事に何も言い返せなかった。

「で、あなたは私を雇う気がある?」

「あなたを雇う?」

「そう。タイベで色々と業務をする人が必要でしょ? 誰かあてがあるの?」

「な、ないけど……」

「今回の仕事はタイベの遊女達の将来がかかってるの。この話を成功させたいと私は思うわ。誰かがやってくれるならいいけど、彼女達の気持ちを分かってあげられるのは私かマーギンしかいないわ。どうする?」

「お、お願いしていいのかしら?」

「なら決まりね。私を雇うのは高いわよ」

「い、いくらぐらい給料を払えばいいのかしら?」

「マロ兄達は私をシャングリラから自由にするのに1億G払ったわよ」

「えっ? 1億Gですって?」

「そう。そのお金もマーギンがマロ兄達に稼げるようにしてくれたお陰なんだけど。ハンナリー商会もマーギンが稼げるようにしてくれてるでしょ? 大変なのは分かるけどこんなチャンスをもらえる人なんていないわよ」

「……」

「私の給料はそっちで決めてちょうだい。私の価値がどれぐらいあるのかシスコが決めればいいわ」

シスコはそう言われて、一晩中悩むハメになるのであった。