軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔物を呼ぶ男

マーギン達が出発した後の訓練所

「隊長、姫様がお戻りになられるまで、訓練に参加させて頂けませんか」

しばらく時間の空いたローズは自分がもっと強くなるために特務隊の訓練参加を申し出た。

「お前、今の特務隊の訓練に付いてこれると思ってるのか?」

「皆と同じようにいかないのは承知しております」

「分かった。訓練中は妹扱いせんぞ」

「望むところです」

「なら、軍人に混じって基礎訓練をしろ」

「分かりました」

ローズはハンナリー率いるラリパッパ隊に混じって訓練をする事になった。

「ここで訓練するん? 1人だけ別メニューにでけへんからキツイと思うで」

「遠慮せずにやってくれ、私のたるんだ気持ちと身体を鍛え直さねばならぬのだ」

「ほならええけど。まずは走り込みやねん。全力ダッシュでやりや」

「分かった」

こうしてローズはハンナリーにスロウを掛けられながら全力ダッシュを繰り返していくことになる。それは身体強化魔法の使い方の向上へとつながっていくのであった。

◆◆◆

ライオネル邸を出たマーギン達は貨物船の事務所に向かった。

「なんか港が騒がしいね」

カタリーナの言う通り、港全体がざわざわしているのだ。

「マーギンっ!」

マーギン達を見付けて走ってきたのは大型漁船で働く獣人達。

「なんかあったのか?」

「ちょうど良かったぜ。中型漁船がシャチにやられたらしいんだ。近くにいた漁船が救助に行ったがそれもヤバいみてぇだ。うちの船も救助に向かうが間に合わんかもしれん。マーギンも来てくれねぇか」

「シャチだと? シャチとぶつかったんじゃなく、シャチに襲われたのか?」

「詳しいことは分からん。もう船を出すから来てくれ」

「あの漁船じゃ間に合わんだろ。仲間の船がライオネルに来てるからそっちで向かう。場所はどの辺だ?」

「口で説明すんのが難しい、とりあえず乗ってくれ」

「じゃ、ここで待っててくれ。仲間の船を連れてくる。バネッサ、ここでフェアリーと待機しててくれ」

「分かった、任せといてくれ」

マーギンは地引き網漁師の所へ風魔法併用でダッシュする。

「マーギン、速っやーい」

ピュウンっ、と音が聞こえたかのように消えたマーギンを見てカタリーナははしゃぐ。バネッサはチッと舌打ちをしていた。

「マーロック、船を出せ。シャチ、いや多分マルカが出た。すでに中型漁船がやられたらしい。討伐と救助に向かうぞ」

「分かった。おいっ、お前ら40秒で支度しな」

マーギン達は大急ぎでアニカディア号に乗り、大型漁船が停泊しているところへ向かう。

「なんだこの船は……」

「討伐船アニカディア号だ。船長のマーロックに場所を説明してくれ」

何やら専門用語で場所を説明されている。

「マーギン、場所が分かった。出るぞ」

「了解。バネッサ、これは海の魔物討伐になると思う。組合に緊急依頼を出すように言っといてくれ。出てる数にもよるが高くなるぞともな」

「いくらぐらいなんだよ?」

「1匹に付き1千万Gぐらいだな。魔物の名前はマルカ。頼んだぞ」

バネッサに伝言を頼み、すぐに出発する。

「アニカディア号発進。敵はマルカ、全速力で向かう」

「ヨーソローっ!」

マーロックが出港の号令を出すと乗組員達がオールを降ろして一斉に漕ぐ。

「オーエスオーエスオーエスオーエスっ!」

それ、綱引きじゃねーか? と思う掛け声が下から聞こえてくる。

「マーロック、マルカは強くて賢い。こっちを罠に嵌めてこようともするし、集団で仕掛けてくるからサメとかと同じに思うなよ」

「サイズはどれぐらいだ?」

「ノーマルで10mは超える。デカいのは20mはあるぞ」

「まるでクジラだな」

「クジラとはまったくスピードが違うぞ。クジラがマグロ並のスピードで泳ぐような感じだ」

「そいつぁヤべぇな」

「全員に電撃矢を準備させとけ、バリスタの出番もあるかもしれん」

オーエスオーエスと全速力で向かうと、沈みかけている船と周りに何隻もの漁船が集まっているがパニック状態のようだ。

ズザザザザッ。

いきなり海が盛り上がり、大きな波が漁船を襲う。

ザッパーン。

波を食らった漁船が転覆する。

「救助に迎えっ!」

「マーロック、先に討伐だ。救助している間にやられるぞ。とりあえず1匹撃って、ロープで曳行して現場から引き離せ。他のヤツらも追ってくるはずだ」

「テメーらっ、戦闘準備開始。目標マルカ」

パニック状態になっている漁船のところに突っ込んでいくアニカディア号。

「撃てぇぇっ!」

マルカ達は落とした人間を食う前にここに集まった船を全部沈める気なのか次の船を品定めしていた。1匹に狙いを定めて特製クロスボウを射る。

バシュバシュバシュバシュっ。バチィィィ。

見事全電撃矢が命中し、そのままロープを船体に括り付けてその場を離脱する。

「漕げぇ漕げぇっ! 力の限り漕げぇ!!」

「どっせー、どっせー、どっせー!」

マルカを曳行することで重くなったオールをスピード重視からパワー重視に変えたのか掛け声も変わった。

ズザザザザッ。

「マーロック、追ってきたぞ。もう少ししたらロープを外せ。他のマルカはバンパイアアローで弱らせていけ」

マーギンの指示を受けてマーロックは各自に指示を出していく。

バシュバシュバシュっ。

大きな波と共に追ってくるマルカ。バンパイアアローが当たっているかどうか不明だ。

「バリスタ用意」

「バリスタ用意」

それを見たマーロックはバリスタの準備をさせる。

「用意完了っ!」

「船180度転換」

「180度転換」

「各員衝撃に備え」

全速力で漕いでいた船がグギギギギっと悲鳴を上げながら追ってきたマルカを迎え撃つ体勢になる。

「バリスタ攻撃目標っ、最大サイズのマルカっ! 他の者は雑魚を狙えっ!」

ザバッ!

巨大なマルカが波の塊の中から飛び出して空高く舞う。自身が着水した時の大波を利用する気なのだ。残念だったなマルカ。お前が水中戦を挑んできたら苦戦しただろうが、普通の船と思って飛んだのは愚かな判断だ。

「貫けっ!」

ドンッ。

空中でマルカの大きくあけられた口の中からバリスタの矢が頭を貫いた。

ザップーンッ!!

海に落ちたマルカが大きな波を立てる。

ドバッシャーーン。

アニカディア号は波に巻き込まれたが沈没することはなかった。

「やったか?」

マーロックがマーギンに確認をする。

「あぁ、命中だ。残党を狩り尽くせ。1匹1千万Gだぞ」

「てめーらっ、一匹も逃すなっ!!」

もはや海の脅威ではなく、お宝と変わったマルカを船員達は嬉々として狩るのであった。

「ノーマル5匹にボス1匹か。ボスの値段は別にしとくんだったな」

「それでもこれで6千万Gだろ?」

「手数料が引かれるけどな。5千4百万Gの報酬だな」

「よしっ」

マーロックは小さくガッツポーズをした。早くシシリーを迎えにいってやれるといいな。

マーギン達は漁船が集まっているところに仕留めたマルカを曳行しながら戻る。

「死人はでてるか?」

「怪我したやつがいる」

どの船に怪我人がいるか確認してその船にアニカディア号を横付けしてマーギンが飛び移った。

「意識はあるか?」

「足が……俺の足が……」

片足を食われたのか。出血は布で縛って止血してあるけどヤバそうだな。

《スリープ》

マーギンは片足を食われたやつにスリープをかけて眠らせ、手先から水を出して傷口を洗っていく。

《ヒール》

洗浄が終わった後に治癒魔法をかけると傷口が塞がった。

「止血はもういいぞ。他にも怪我をしているやつはいるか?」

他にも傷だらけになった人達の怪我を治していく。

「あ、あんたら何者なんだよ……」

「通りすがりの魔法使いだ。お前らを襲ったのはシャチじゃない。マルカという魔物だ。ボスを討伐したからしばらくこの海域には出ないだろ。壊されてない船で他の船とマルカの曳行を手伝え」

もう無事だと分かった漁船達は手分けして、自力で動けない船とマルカを分散して港へと戻ったのであった。

ざわざわざわざわ。

ライオネルの漁港に戻ると人が大勢集まっている。

「戻ってきたぞーーっ」

「おーい、マルカを引き上げるのを手伝ってくれーっ!」

ロープを持ってきてもらい、マルカの尻尾に括り付けて大勢の人達で港に引き上げていく。

「なんてデカいシャチだ」

人々が集まってきて口々に驚いた声を上げる。

「こいつはシャチじゃない。マルカって海の魔物だ。1番デカいのがボスだな。こいつを仕留めたからしばらく大丈夫だろ。これからシャチみたいなものを見かけたら全員港に引き揚げろ。仲間の船が襲われたらそのまま見捨てろ」

「なんだとてめぇっ。仲間を見捨てろってのか」

「そうだ。今回はたまたまマーロック達がライオネルにいたから討伐が間に合った。間に合わなければ救出に向かった船は全滅してただろうな。そうなりゃマルカに餌場だと認識されてどんどん集まってくる。漁場を失う事になるぞ」

「そんなにやべぇのか?」

「そうだ。大群でこられたら討伐が難しくなる。餌がないと分かると集まったマルカの大群が近隣に散らばる。ライオネル近海は魔物に占領されることになり、他の魔物も集まってきて手が付けられなくなるぞ。魔物は他の魔物を呼び、やがて強い魔物が勝ち残る。この辺が強い魔物の海になりうるんだ」

そう説明すると集まった人達は黙った。

「マーギンさん、マーギンさーん」

「マーギン、組合長を連れてきたぜ」

バネッサがハンター組合のトッテムを連れてきた。

「おう、トッテム。元気だったか?」

「ハイゲンキデス、トッテムハツヨイコダカラ」

マーギンを見るなり防衛反応が出るトッテム。

「緊急依頼は承認したんだよな?」

「はい。ダイジョウブデス」

「討伐報酬はすぐに払えそうか?」

「しばらくお時間を頂けますでしょうか」

「緊急依頼の承認と報酬が払われるならいいよ。マーロック、金の準備に時間が必要みたいだけどいいよな?」

「分かった」

依頼の受領と完了確認のサインをマーロックとトッテムにさせて終了。予定通り5千4百万Gの報酬だ。

「マーギン様っ!」

「あ、領主様。わざわざ来たんですか?」

「もう怪物を退治して下さったのですか」

「やったのはマーロック達ですけどね」

「ありがとうございます。報酬はこちらに」

領主自ら報酬を持ってきてくれたようだ。数えると6千万G入っていたので、トッテムに600万Gを手数料として渡そうとすると、

「手数料もこちらで支払いますので、そのままお受取り下さい」

「いいんですか?」

「もちろんですっ。その代わりライオネル領もお願い致します」

何をお願いされたのか分からんが、マーロック達の収入が増えるならいいか。

「マルカを解体して魔結晶を取るけど、肉はどうしようね。多分クジラみたいな味なんだけど」

「なら皆で食うか」

とマーロックが言うので解体魔法をかけようとすると、

「マーギン様、この1番大きいのを買い取らせて頂けませんか」

「領主様、肉はそんなに高く売れるとは思いませんけど?」

「いえ、食べるのではなく、剥製にして倉庫の看板にしたいと思います」

「了解です。なら剥製職人に魔結晶だけ返却するように手配をお願いします」

「かしこまりました。買い取りは4千万Gでよろしいですか?」

「そんなにくれるの?」

「はい。討伐報酬として1億G用意して参りましたので」

ということでマーロック達は合計1億Gの報酬を受け取ったのであった。肉は醤油と砂糖と生姜で甘辛煮にしていく。集まった人達で消費したまへ。

領主も何やら使用人に手配をかけてボスマルカを運んでいった。

港がお祭り騒ぎになるなか、沈んだ顔の漁師達がいる。船を壊され、怪我をした人達だ。

「お前らこれからどうすんだ?」

「せっかく助けてもらったが船を再建してもこの身体じゃな……」

「そうだな。お前ら魚はさばけるよな?」

「当然だ」

「なら王都で働くか?」

「えっ?」

「まだ店はできてないんだけどな、王都でライオネルの魚を売るんだよ。仕入れは丸でするから魚をさばけるやつを雇わないとダメなんだよね。魚をさばくだけなら片足でもやれんだろ?」

「こ、こんな身体になっちまった俺を雇ってくれんのか?」

「多分大丈夫だと思うぞ。船が壊れて漁師を辞めるやつがいるなら手伝ってくれ。今すぐには無理だけど、秋にはなんとかなってるだろ。どこで何をするかはまた改めて話そうか」

「いっ、いいんですか?」

「おう。それまで暇なら地引き網漁師を手伝ってくれ。頭には話を付けとくから」

こうしてライオネルでのマルカ騒動は幕を閉じたのであった。

ピキーンっ。

「はっ、カニよ。カニを食べないとダメな気がする」

「どうしたの?」

ブリケに仕事を教えていたシスコがいきなりそう言い出した。

「マーギンがまたやらかした気がするの。タジキのところに行ってくるわ」

シスコは予防薬のようにカニを食べにいくのであった。