軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

合格はバネッサだけ

「なんで俺たちも連れてってくれなかったんだよぉ」

大隊長と訓練所に戻るとカザフ達が拗ねていた。

「お前ら訓練があるだろうか」

「えー、マギュウ狩りも訓練みたいなもんじゃねぇかよ」

「なら今から俺と戦うか?」

昨日、カザフがバネッサマーライオンを食らって戦うのがうやむやになったからな。

「やるっ!」

「バネッサは参加するか?」

「いや、いい。見とく」

「ロッカはどうする?」

「私も見ておこう。ラリー、お前たちも見学しろ」

皆が集まってきたので参加者を聞いてみるが皆見学だけするようだ。

「さて、カザフ、タジキ、トルク。そこそこ本気で相手をするからお前らは俺を殺す気でこい。もしそれで俺を殺せたらお前らが世界を救えるからそれはそれでいい」

「えっ?」

「何をしてきてもいい。特にトルク、お前も本気で魔法を使え。俺を人間と思うな」

そう言われたトルクからいつものふわふわ感が消える。

「……いいの?」

「お前らに1つ言っておこう。実戦の時に訓練の方がきつかったと思えるようにしとけ。訓練より実戦の方がきついと思ったら訓練が足りない証拠だ。それにこれからやるのは実戦だ。訓練とは思わないように」

「分かった」

マーギンから軽く威圧が漏れているのに気付いたカザフ達は本当に訓練ではないと理解した。

ぐっぐっぐっとマーギンは屈伸をする。

「いつでもいいぞ。一応ソフトプロテクションを掛けておくけど、生身と変わらんと思っとけよ」

「お願いします」

「おう」

マーギンがそう答えると3人はパッと距離を取った。それを見たマーギンも自分にスイッチを入れる。

ゾワッ。

マーギンから殺気の混じった威圧が放たれ、見学者達は思わずうっと声を上げた。

「マーギンのやつ、なんて威圧を放ちやがる」

オルターネンも大隊長と見学をしている。その横にはホープ、サリドン、カタリーナ、ローズもいる。

「いつものマーギンと違う」

カタリーナはちょっと見世物感覚で見学をしようと思っていたが、今の殺気のこもった威圧を感じて怖くなった。

「姫様、どうやらマーギンはこれから特務隊が経験したことがない戦闘を経験させておくようです。怖いなら私が城まで送りましょう」

「う、ううん。ちゃんと見とく」

大隊長に城に送ると言われたのを断る。これは見ておかないといけないと直感したのだ。

ゴゴゴゴゴゴゴ。

マーギンはさらに威圧感を高めていく。今までも訓練で威圧を放たれた事があったが、これほどまでに殺気がこもった威圧は初めてだ。その威圧を受けたカザフ達は本気で攻撃しようとしていたのに足が震えて動けない。

フッ。

マーギンがカザフ達の視界から消える。

ドゴンっ。

ぐほっ。

3人は何が起こったのか分からない。いきなりマーギンが視界から消えて腹に攻撃を食らったのだ。

ドカッ、ドゴン、バキッ。

その後も情け容赦のない攻撃が続く。本当にソフトプロテクションを掛けてくれているのかと思う痛みが走る。このままでは死ぬ。そう思った3人は本能的に思いっきり身体強化をして自分をガード。トルクは見えない手でマーギンを掴もうと試みる。

ほぅ、心が折れずに反撃してきたか。上出来だ。

カザフが消えるようにその場を離脱、タジキはトルクのガードに回った。

「くっ、掴めない……」

トルクはありったけの魔力を込めてマーギンを掴もうとするが見えない手を閉じる事ができない。

カザフ達の戦法はトルクが見えない手で掴み、カザフが高速で攻撃する。タジキはトルクのガードをするというもの。

「グホッ」

マーギンに突進をしたカザフはマーギンにカウンターを食らい、失神しかける。

「お前ら覚悟しろ」

殺気を纏ったマーギンが妖剣バンパイアを抜いた。ドス黒い魔力が妖剣バンパイアを包み、さらに凶悪なオーラを纏った恐怖の塊が静かにこちらに歩いてくる。

ガタガタガタッ。

カザフ達は恐怖で身体が固まり動けなくなった。

「死ね」

マーギンがそう呟いた後に妖剣バンパイアを天高く掲げた。

「ヒッ」

カザフ達はその場で腰を抜かしてうずくまった。

「はい、終了。お前らまだ全然ダメだな。自分が強くなったと自惚れたまま実戦に出たら死ぬぞ」

いつものマーギンに戻ったあとは治癒魔法をかけてやる。

「マーギン、怖ぇよ」

「当たり前だ。本当の生命のやりとりはこういうものだ。魔物は自分の強さを誇示してくるからな。で、お前らどの段階まで俺に勝てるかもと思ってた?」

「思ってないけどさ、どこまで通用するか試したかったんだ」

「これは実戦と思えと言っておいただろ? 実戦ならどうしないとダメだったんだ?」

「逃げる……」

「そうだ。今回はトルクが奥の手を使って通用しないと分かった段階で敗北確定。無駄にカザフ突っ込ませて死亡、お前らもそれを見て動けなくなって死亡だ。トルク、お前は無理と思った段階で撤収の合図をするべきだったな」

「うん……」

「お前らがこれからも3人で組むのか、バラバラになって他の人と組むのかは分からん。だが、誰と組んでも勝てない相手だと分かった瞬間に撤収しろ」

「分かった」

この戦闘は見ていた特務隊の心を凍りつかせた。これから自分達が戦う相手はこんなやつになっていくのかと。そして、訓練所に明かりがついてるとはいえ、そこそこ暗い中での戦闘。目で見るより感じる事の多かった内容だった。

「ハンバーグっ!」

まだ恐怖に当てられて動けなくなっている者たちが多い中、壺から飛び出してきた魔王のようにハンバーグを希望するアイリス。

「マギュウ100%ハンバーグを網焼にしてやろうか?」

「はいっ!」

ここでやると大量に作るハメになりそうなので宿舎の屋上に移動する。希望者はいつものメンバー。大隊長、あんたしこたま焼肉食ったよね?

マギュウ100%のハンバーグを作って網焼きにしていく。当然タジキにも手伝わせた。

「おぉ、まるでステーキを食っているようだ」

ホープがそんな褒め方をする。

「ホープさん、それならステーキを食べればいいんですよ」

アイリス、よく言った。俺もハンバーグをステーキに例えて褒めるのはよくないと思う。まるでステーキを食べられないからハンバーグで我慢した時のセリフだと思うからだ。

「マーギンさん、このハンバーグも美味しいですけど、いつものハンバーグの方がいいです」

「合い挽きのやつか。作り置きがないからちょっと時間掛かるぞ」

「これ食べて待ってます」

そんな事をしてたら口から出るぞ。

玉ねぎを刻んで炒めて合い挽き肉でせっせとハンバーグを作る。これは鉄板で焼いた方がいいな。いくつ食べるか分からんけど、残ったらアイテムボックスに入れておこう。

ジュウジュウと焼いているといつの間にか横にカタリーナもいる。

「チーズ掛けるか?」

「うんっ♪」

アイリスもチーズ掛けを希望したので、チーズを炙って掛けていく。

「す、ストップ!」

学習済の2人はちゃんとチーズをかけすぎる前にストップを唱える。

「熱いから気を付けろよ」

「うーん、おいひぃ」

「うちにもくれよ」

「チーズは?」

「いらねぇ、甘辛がいい」

そんな味付けをしたらつくねみたいになるじゃないか。

バネッサにはつくね風ハンバーグにしてやると、あっちいっ! と言いつつ嬉しそうに食べたのであった。

「オルターネン隊長」

皆が腹パンになった時にオルターネンに声を掛けるマーギン。

「どうした?」

「タイベに行くときにバネッサを連れていってもいいかな?」

「何かあるのか?」

「しばらく出ないかもしれないんだけどね、もしチューマンが出たら体験させておこうと思ってさ」

「バネッサが適任なのか?」

「そう。チューマン相手にはバネッサ、カザフ、ラリーみたいなタイプが要になる。チューマンは炎耐性、氷耐性もあったから気候に関係なく出る可能性がある。だから倒し方を教えておきたいんだよ」

「カザフでなくバネッサを選んだのはなぜだ?」

「バネッサは合格、カザフは不合格だったからね」

「さっきのはそれも兼ねてたのか?」

「そう。それと大隊長、しばらくカザフ達を鍛えてやってくれません?」

「訓練で戦えば良いのか?」

「というか、実戦に出る時にパーティを組んでやって欲しいんですよ。さっきの戦闘で伝えたつもりなんですけど、多分、同じ過ちを繰り返すと思うんですよね。痛い目に合うぐらいならいいんですけど、それじゃ済まなさそうな気がするので」

「オルターネン、それで良いか?」

「かまいませんよ。ラリー達はロッカが面倒見るでしょうし。マーギン、アイリスは良いのか?」

「アイリスは大丈夫でしょ。さっきの威圧でもケロッとしてましたし」

「本当か?」

「ええ。狼を怖がっていた娘と同じとは思えません」

「そうか。それには気付かなかった。俺も鳥肌が収まらなかったのにな」

と、オルターネンは苦笑いをした。

「マーギン、私もタイベに行く」

突如として会話に割り込んでくるカタリーナ。

「何しにくるんだよ?」

「ほら、今回シスコが行けなくなったでしょ? だからハンナリー商会会頭代理代理で行く」

代理代理なんて聞いた事ないぞ。しかし、ハンナリー商会の事も進めておいてやらないとダメなのは確かだ。それとカタリーナをワー族とつなげておくのも悪くないな。ハンナリーはラリパッパ隊みたいなのをまとめているから連れて行くよりここで頑張らせた方がいいか。

「大隊長、どう思います?」

「陛下か王妃様の許可次第だな」

だよなぁ。

「カタリーナ、付いてくるなら早急に許可を……いや、明日王妃様に会えそうか?」

「どうかな? 今晩に聞いておく。お母様がいいって言ったら連れてってくれるの?」

「許可もらえたらな」

「やったぁ」

ヒョイ。

ベチョ。

「どうして避けるのよっ!」

「いちいち抱きつこうとするな」

マギュウハンバーグ会解散後、

「マーギン、姫殿下をタイベに連れていく事になったらローズはどうするつもりだ?」

オルターネンと2人で話をする。

「連れていきませんよ」

「護衛任務があるだろうが」

「俺が代行します。恐らく王妃様はカタリーナのタイベ行きを許可します。その時にローズを連れて行かない事の許可も取ります」

「もしかしてローズを避けているのか?」

「いえ、嫁入り前の女性に何かあったら大変ですからね。もし何かあったら俺はカタリーナを優先せざるを得ません。2人を守るより1人を守る方が楽なんですよ」

「そうか」

「はい。ローズは自己鍛錬を続けているでしょうけど、実戦形式の訓練はしてないでしょ? それにチューマン相手になると相性が悪いというか通用しない。正直に言うと足手まといになります」

「分かった」

翌日、

王妃の時間を空けてもらったと聞いたマーギンはカタリーナと共に王妃の元へ。ローズも護衛に付いている。

「王妃様、自分としてもカタリーナを連れて行きたいと思ってます」

「商売以外に何か理由があるのかしら?」

「はい。タイベには先住民がいるのはご存じかと思います。その先住民の中にミャウ族という太陽神を祀る民がいます。今までは排他的な民族だったのですが、繋がりができました。自治をどうするとかに口を出すつもりはないのですが、王都民と先住民の繋がりをもう少し持っても良いのではと思っております」

「なぜかしら?」

「お互いに協力しなければならない時が出てくるからです。特にワー族、真なる獣人の民族がミャウ族を守護しています。その獣人達と協力関係を組んだ方がいいと思うのです」

「それにカタリーナが必要だと?」

「はい。ミャウ族、ワー族は王国に対して不信感というか嫌悪感を持っています。歴史上の背景もありますし、こちら側の事をよく知らないというのもあります。カタリーナは王族ですし、人との関わり方がとても上手いです。きっと王国と先住民達との架け橋になれるんじゃないかと思うのです」

「そう。良かったわねカタリーナ。マーギンさんがあなたを認めてくれているみたいよ」

「マーギン、ほんと?」

「あぁ。他の民族とも触れ合って、自分の世界観を広げておけ。それがきっと国の未来につながる」

「うんっ!」

「マーギンさん、カタリーナを連れて行くことを認めます。宜しくお願い致しますね」

「はい。それとあと2つ許可が欲しいのです」

「何かしら?」

「1つは今回だけで良いので外して欲しいのです。というか、付いて来れません」

何かを言わなかった事で隠密のことだとすぐに分かった王妃。

「了解です」

「もう一つはローズ様をこのタイベ行きの期間だけで良いので護衛から外して下さい」

それを聞いたローズはえっ? という顔をする。

「カタリーナと2人で行きたいのかしら?」

「いえ、バネッサを連れて行きます。バネッサには戦闘体験をさせるつもりです。カタリーナの護衛は自分がします。それと同じテントに寝る事になると思いますがかまいませんか?」

「許可します。何かあっても許可します」

いや、その許可はいらない。

「ありがとうございます。明日か明後日には出発しますので」

「はい。ではカタリーナを宜しくお願いします」

「責任を持って守ります」

と、許可を取ったことで、もう一つの許可を取らないといけない事をすっかり忘れていたマーギン。

「あの、質問があるんですけど聞いていいですか?」

「どうぞ」

「貴族への面会願いってどうやるんですかね?」

「誰と会いたいのしら?」

「ライオネルの領主です。漁港に倉庫を作りたいんですけど、領主の許可が必要みたいなんです。いきなり訪ねても会ってもらえないかなと思いまして」

「そう。なら、紹介状を書きますわ。それを持ってお訪ね下さいな」

王妃の紹介状なんて持っていったら大事になるんじゃなかろうか?

「いえ、そこまでして頂かなく……」

もう書き始めてる……

マーギンは王妃直筆の紹介状を受け取る事になってしまったのであった。

「マーギン、私は邪魔だというのか?」

王妃の私室から出たところで久しぶりにローズから声を掛けられる。

「そうですね。今回は強い敵が出る可能性があります。ローズ様では守りきれないんですよ」

「愚弄するなっ。私はこの生命を懸けてでも姫様をお守りする」

「生命を懸けてもローズ様では守りきれません。相手は魔物でもない何かなのです」

「なんだと?」

「恐らく虫系の人間になりつつあるものです。数が増えたら今の人類と生存権を賭けた戦いになります。その時に備えて倒し方を学ばねばならないのですよ」

「私には無理でバネッサには可能だと」

「はい。そのとおりです。カザフ達でも良かったんですけど、昨日戦ってみてまだ早いと判断しました。バネッサとはその前に戦ってみて合格でした。虫系の人間、チューマンと名付けましたが、剣士は相性が悪い。相性が良いのはバネッサタイプのものです。自分の言い方が悪く、お気持ちを害したなら申し訳ありません」

マーギンはローズ相手に敬語を崩さず話すのであった。