軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

違っていく日常

時は少し遡り、北西の辺境伯領へと向かっている大隊長達は途中の町でノイエクスの治療を終えていた。

「まったく。ボアごときに後れを取るとは情けない」

オルターネンに呆れられているノイエクス。

「しょうがないだろっ。一度にあんなたくさんのボアに襲われたんだからっ」

「1匹ずつ倒せば済む話だ。慌てて硬い眉間を攻撃するから何も成せずに死ぬハメになるのだ」

そう、オルターネン達が助けに入らなければノイエクスはあの場で命を落としていただろう。それはノイエクスにも理解はできている。ボアに突き飛ばされて周りを囲まれた時の事を思い出すと足がカタカタと震えるのだ。

「いいか、特務隊は誰か魔物に襲われてヤバくなっても助けに入ることはない。今回はボアだったから助けに入ったがな。あれが見知らぬ魔物であれば見捨てて、他の者は撤退する。それを肝に銘じておけ」

ノイエクスは返事をしなかった。この事は訓練時に何度も言われてきたのだ。

宿を取り、晩飯を食べた後にノイエクスは外に出た。皆と一緒に居たくなかったのだ。

「はぁ〜」

ノイエクスは深いため息をつく。ホープには及ばないものの、自分は強いと思っていたプライドがズタズタに引き裂かれたのだ。

しばらく町をフラフラとさまよい、翌日も夜明けと共に出発すると言われていたので渋々宿に戻る。体力を回復しておかないと、皆に付いて行くこともままならないのだ。

翌朝

「ノイエクス、付いて来るか? それとも王都に戻るか?」

「誰が戻るなんて言ったんですか。当然行きますよ」

大隊長にそう返事をしたノイエクス。まだ心は折れてないようだと判断され、すぐに出発をしたのだった。

「今日は遅れんなよ。護衛もなしにしたからな」

と、オルターネンにポンと肩を叩かれた。その時にボア寄せの薬を付けられたとも知らずに。

「クソッ、なんでボアがこんなに出やがるんだよっ」

当然、今日もボアが最後尾にいるノイエクス目掛けて襲って来る。他の皆はボアに見向きもせずに走って行く。そしてボアに追い付かれるノイエクス。

「クソッ」

ズザザザザザッと立ち止まりボアを迎え撃つ。

「頭は硬い、狙うなら首だ」

突っ込んで来たボアを躱して首に斬りつける。

ブシュッ。

「当たった」

ボアから血が出るのを見て、やった! と止まるノイエクス。

ドンっ。

「グホッ」

その隙を他のボアに狙われ突き飛ばされる。

ボンっ、ボンっ、ボンっ。

次々に襲ってこようとしたボアが燃え上がる。その隙にノイエクスは立ち上がり、がむしゃらにボアに斬りつけてなんとかこの場を凌いだのであった。

ずるるるっと木の上からアイリスが降りてきた。

「アイリスが助っ人に入ってくれたのか。助かった」

「ノイエクスさん、1匹倒したと思って気を抜くと死にますよ」

「あぁ、すまない。それよりお前はいつの間に木に登ってたんだ?」

「木の上だとボアは襲ってこれないんですよ。それにどこにボアがいるのかよく見えるので狙いやすいんです」

質問と違う回答をするアイリス。

「いや、いつ木に登ったのだ?」

「あーっ、置いていかれてしまってますっ。早く行かないとお尻が大変になってしまいますっ」

アイリスはテテテッと走り出す。いつ木に…… と聞くノイエクスに構わず大隊長達を追いかけていくので、ノイエクスも慌てて走り出すのであった。

ーシュベタイン王都ー

シスコは商業組合に来ていた。大勢の男達から、この冬の薪も何とかしてくれるのかと詰め寄られて理由が分からなかったのだ。

「あー、それはこの冬にマーギンさんが大量の薪をハンナリー商会名で寄付してくれたんですよ。通常の値段で売ることを条件にして。マーギンさんから何も聞いてないんですか?」

「聞いてないわよ」

「マーギンさんの名前で皆に伝えますと言ったら、ハンナリー商会が新規参入の挨拶代わりに寄付したと伝えてくれと言われたんですよ」

「あの男、何をやってくれてんのよっ」

「皆さんとても感謝されてましたよ」

「次の冬も用意してくれるのかと聞かれて困ってるのよっ。マーギンがいないとそんなの無理に決まってるじゃないっ」

「やはりそうですか。どこも薪不足なのに、あんなにたくさん寄付してくれたのが不思議だったんですよね。薪は木を伐ってから最低でも半年から1年、夏場に伐った木なら2年近く寝かせておかないとダメですから」

何をやってくれてるのよ、あの男は。

「次の冬も例年より寒くなるなら、薪は絶対に足らなくなりますよね。去年も今年も寝かせておく分まで販売してしまったようですし」

商業組合のミハエルも冬の心配をしている。確かに暖房を薪に頼っている家は多い。薪がなければ冬を越せない可能性もある。

「違う方法を考えるわ」

シスコはそう言い残して、職人街へと向かった。

職人街の食堂でお好み焼きを食べていたカタリーナはシスコの姿を見付けてコソコソと隠れる。

「そこにいるのは分かってるのよ」

ローズとお好み焼きを食っていたので、ローズがそこにいる。カタリーナだけ隠れても無駄なのだ。

「か、隠れてなんかないわよ」

「私にも豚玉」

シスコもお好み焼きを注文をして、薪の事を愚痴る。

「魔法で薪にするのは無理かもしれないが、マーギンは前に木を伐る魔道具を使っていたな。あれがあればもっと薪を増やせるのではないか?」

ローズは以前、マーギンがチェーンソーの魔道具を使っていたのをみたことがあったのでその事をシスコに説明する。

「何よそれ?」

「こんな感じの魔道具だったと思う」

店の人に紙をもらって絵を描いて説明する。

「仕組みは分かるかしら?」

「ノコギリの歯が回転していたんじゃないか?」

「誰か作れるかしら?」

「ジーニアに相談してみる?」

カタリーナがそういうので、魔道具回路職人のジーニアの所へ行くことに。アチアチお好み焼きを急いで食べたシスコは上あごに水ぶくれを作りながら急いだ。

「ジーニア、作って欲しいものがあるの」

シスコはジーニアの所に訪れるなり、ビシッと指を差し、そう大きな声で言った。

「口を拭く魔道具とか作るの無理だぞ」

シスコの口の周りにはべッチョリとソースが付いていたのだった。

ー軍の訓練所ー

「ほらほら、あんたら動き遅いで」

「ぐぬぬぬぬぬっ」

サリドンは実戦形式の訓練から、基礎訓練に戻していた。まずはスピードと体力、そして身体強化能力の会得を重視してハンナリーにスロウを掛けさせていた。

「合格者にはマギュウの焼肉を用意してあるぞ。不合格者は魔狼肉だ」

ホープが飴とムチを使う。

「マギュウ肉!? うぉぉぉぉっ」

タジキのマジックバッグにはマーギンがたくさんのマギュウ肉を入れておいてくれてある。魔狼肉は冬に狩った肉だ。孤児院にも差し入れをしているが、それでもまだたくさんある。

血気盛んな軍人達には脂ののったマギュウ肉はたまらないご馳走だ。一度食べてから虜になっている皆は死ぬ気でスロウに抗おうと奮闘した。

「先頭の奴らはだいぶスロウに慣れてきているな。ハンナ、もっと強くかけられるか?」

「マーギンがやりすぎたら死ぬかもしれへん言うてたから怖いわ」

「じゃー、僕が掴んであげるー」

ゴール近くまで来ている軍人を見えない手でワシッと掴むトルク。

「ぬおっ、か、身体が動かん……」

トルクの見えない手は身体強化では跳ね除けられない。身体強化をしつつ力技で動かねばならないのだ。

「後ろにも引っ張れるけどどうするー?」

「じゃあ、1番後ろに引っ張ってから解除してくれ」

ズザザザザザッ。

「うわぁぁーーーっ」

哀れ、先頭にいたやつは最後尾まで連れ戻されて、またぐぬぬぬぬぬっとゴールを目指すのであった。

皆がゴールして倒れ込んだので訓練終了。これからお楽しみの焼肉パーティーだ。サリドンとホープは厳しい訓練だけより、こうして楽しい時間も必要だと自分達の経験から取り入れたのだ。マーギンは訓練終わりや討伐後にいつも美味しい飯を提供してくれていた。それで心と身体のバランスを保てていたのだと後から分かったのだ。オルターネンが訓練を仕切ると厳しいだけで終わる。だんだんと皆の顔から生気が消えていくように感じていたのだ。

「ハンナちゃんっ、アレやってアレ」

「あんたら欲しがり屋さんやなぁ、ほないくでぇっ。ラリパッパ!」

「イヤッホー! ぷっちょへんざっぷっちょへんざっ」

ドンツクドンツクドンツク♪

食べ終わった後はラリパッパで踊る軍人達。見る阿呆になるまいとハンナリーも踊る。こうして皆と騒いで楽しむ事でハンナリーは軍人達からちょっとしたアイドルと化していたのだった。

「おっぱいは踊らねーのか?」

「うちは留守を任されてんだ。もし今強ぇ魔物が出たら誰が対応すんだよ?」

バネッサは酒も飲まず、踊りにも参加せずに、くるくるとオスクリタを投げて自在に操れるようにずっと自己訓練を続けていた。

「俺にもやらせてくれよ」

「しょーがねーなぁ。ほらよ」

バネッサはカザフにオスクリタをぽいっと投げて渡す。

「おっ、サンキュー。あっ」

カザフの手に渡ろうとしたオスクリタがヒュッとバネッサの元に戻る。

「バーカ。素直に手を出してんじゃねーよ」

「このおっぱいお化けがっ。ムカつくんだよっ」

「へっへー、やってみたいならうちから奪ってみろよ」

「やってやらぁっ」

喧嘩のようなじゃれ合いを始めるバネッサとカザフ。

「あの2人はよくも飽きないもんだな」

サリドンが戦闘を始めたバネッサ達に呆れる。

「じゃあ、掴んでおくねー」

トルクが2人を見えない手で掴む。

「ぐぬぬぬぬぬっ」

バネッサとカザフは掴まれながらもじゃれ合いをやめない。トルクもそうはさせないと2人を掴み続ける。これが自然と3人の能力の底上げに繋がっていく。

それに参加できないタジキ。

「サリドン、ホープ。ちょっとぶつかってきてくれよ」

タジキは盾を構えて2人に突進してもらい、それを盾で止めたり、いなしたりとこちらも違う訓練をするのであった。

ーナムの村ー

「ミスティ……」

マーギンは自分の目を疑う。これは本当にミスティなのか。

「ロブスンっ、王国の人間に応援を求めることなんぞ許さんぞっ」

そう叫ぶ少女の元にツカツカと歩み寄るマーギン。

「なっ、なんじゃっ」

大きなマーギンにずんずんと歩み寄られて引く少女。マーギンはその少女の頬に両手を当ててそっと顔を上げる。そして真っ赤になる少女。

「なっ、何をするかーーっ」

……

…………

………………

「お前、誰だ?」

マーギンはそう言って厳しい顔をしたのであった。