軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隙を狙う

王妃の私室から退出した後に大隊長を睨み付ける。

「約束は?」

「あ、後で何とかしておく」

「なんの話?」

マーギンが大隊長を責めていると、カタリーナが間に入ってくる。

「お前には関係ない」

思いっきり関係のあるカタリーナにそう言うマーギン。

「あっ、そうだ。みんな怒ってるよ」

「誰が怒ってんだ?」

「だからみんなだよ。大隊長からマーギンが帰って来てるのを聞いたのに会いに来ないって。特にシスコが怒ってるよ」

「シスコも訓練に参加してるのか?」

「ううん、マーギンを探しに家とか職人街に行ったの。シスコは職人街でガラス工房で打ち合わせしてて、そこで会ったの」

「あいつ、ガラスも取り扱うつもりなのか」

「多分、店舗に使うガラスだと思う」

「そうか。いや、みんなの邪魔したら悪いなと思って、家にこもって作業をしてたんだよ」

「なんの作業?」

「これだ。大隊長、中身を確認して問題がなければオルターネン隊長に渡しといて」

「なんだこれは?」

「対魔物の軍を編成したり、討伐作戦を組む時の参考書みたいなもの。使うなら使ってくれたらいいよ。これだけが正解じゃないから必要であれば」

大隊長はガインの書いた記録の写しを見る。そしてそのまま読みふけった。

「これはマーギンが考えたのか?」

「いや、たまたまいいのがあったから、読みやすいように写しを作ったんだよ。あまり綺麗な字じゃないからみっともないけどね」

「美しい字ではないが、なかなか味のある字だから気にするな」

味のある字か。便利な言い回しだ。

「オルターネンに渡す前に熟読したいが構わんか? それとマルクにも読ませたい」

「どうぞ。皆で共有してもらって構いませんよ。オルターネン隊長に渡すかどうかの判断もお任せします」

その後、カザフ達の訓練を見に行かずに職人街に移動する。当然カタリーナも付いて来た。

「ねー、お土産って何買って来てくれたの?」

「後のお楽しみにしておけ。先に用事を済ませる」

呪いの人形かもしれないのにお楽しみだと言うマーギン。護衛のローズも一緒にいるがまだ一言も言葉を交わしていない。

「はい、マーギン。お帰りなさぁい」

シシリーはマーロックのことはなかったかのように今までの態度と変わらない。

「昼のシャングリラは順調みたいだな」

魔道具ショップのシャングリラは人がたくさん来ていて盛況のようだ。

「他の街の商人達も仕入れに来るようになったわよぉ。価格交渉はこっちでやってあげないとダメなのが大変ねぇ」

職人達に価格交渉を任せたら商人にいいようにやられるだろうからな。

「シシリーはいつまでここを手伝ってくれんだ?」

「んー、他の娘達に任せられるようになるまでかしらぁ。それでも心配ねぇ」

ふぅ、と頬に手をあててため息をつくシシリー。

「そうだな。お前という柱がいなくなると大変だな」

「私がいなくても接客とかは問題ないけどねぇ。それかいっそのことハンナリー商会の一部にしたらどうかしらぁ?」

「シスコに任せるのか?」

「そう。あの娘、頑張ってるわよぉ。最近すっごい怖い顔してるけど」

「そんなに怒ってるのか?」

「ほら、最近お仲間も一緒にいないでしょぉ? 孤軍奮闘ってやつじゃないかしら? それとリヒトも怒ってるわよ」

「リヒトが? なんで?」

「会いに行けば分かるんじゃないかしら?」

とシシリーに言われてガラス工房へ。

「あっ、来やがった。来やがりましたぜ親方っ」

マーギンを見るなりリヒトを呼びに行くガラス工房の従業員。来やがりましたってなんだよ?

「よぉ、マーギン。よく俺の所に面を出せたな」

来るなり悪玉の親方のようなセリフを吐くリヒト。

「何怒ってんだよ?」

「うるせえっ。さっさとこっちに来やがれっ」

ズルズルと引っ張られていくマーギン。

「これを見ろっ」

「おー、ステンドグラスじゃん。よくこんな細かい模様を作ったな。大変だったろこれ」

「あー、大変だった。大変だったんだよっ」

リヒトは大きな声を出してマーギンに顔を近づける。

「リヒト工房は高品質高単価の製品を作るんだろ? 大変なのは当たり前じゃないか」

「それが報われるならこんなに怒るわきゃねーだろうがっ」

「ん? 仕事のキャンセルを食らったのか?」

「あーそうだ。それが誰のせいか分かってんのかっ。お前のせいだ! お・ま・え・のっ」

「あうっ、あうっ、あうっ」

リヒトに人差し指でゴンゴンゴンとデコを突かれる。

「俺のせい? なんでだよ?」

その時に後から冷気と共にシスコが現れた。

「マーギン、お帰りなさい」

マーギンは恐る恐る後ろを振り向いた。

「た、ただいま……」

「で、あなたはフェアリーの家に何をしたのかしら?」

「カタ…… フェアリーの家に? なんもしてないぞ」

「なら、どうして改装工事ができなかったのかしら?」

「改装工事? あっ……」

マーギンはカタリーナの家を襲撃されても問題ないように思いっきり強化したのをすっかり忘れていた。

「あなたって人はっ、あなたって人はっ! どうするのよこれっ。 このステンドグラス、リヒトの儲け抜きで1千万Gもするのよっ。それが全部無駄になったじゃないのっ。だから隣の家を何軒も買い取って、新たな店を作ることになったじゃないのっ。店の規模が変わっちゃったから、ショーケースとかの設計から全部やり直しよっ」

「へぇ、あの工事はハンナリー商会の店の工事だったのか。えらく急ピッチでやってんなと思って見てたんだよ」

なんの反省もしていないマーギン。

「あなたねぇ……」

その態度がシスコの怒りに油を注ぐ。

「マーギン、てめぇ、この無駄になったステンドグラスどう落とし前付けてくれるってんだ。おうっ?」

「無駄にしなきゃいいじゃん」

「は? 店の大きさが変わったら、サイズも変わるだろうが」

「これどこに使うつもりだったんだ?」

リヒトは従業員に当たり散らかすように設計図を持ってこいと怒鳴り、元の設計図と新しい設計図を持ってこさせた。

「あー、店の正面に使うつもりなのか」

「そうだ。新しい店構えにはコイツは小せぇんだよ」

「なら屋根の一部に使えば? 陽の光が差し込むと綺麗だぞ」

「屋根に使うだと?」

「そう。こんな風にしたら、店の中に綺麗な光が差し込むだろ?」

「コイツは屋根に使えるほどの強度がねぇぞ」

「外面に透明な板ガラスを付けろよ。ガラスは俺が強化してやるから雹とか降っても割れる事はない。俺の強化魔法はフェアリーの家で実証されてるだろ?」

「なるほどな。なら、この力作が無駄になる事はねぇんだな?」

「そうだね。 ふんだんにステンドグラスが使われた店なんて王都初というか大陸初になるんじゃないか? それをやるのがリヒト工房とハンナリー商会ってことだな。歴史に名を刻むかもしれんぞ」

「歴史に名を……」

マーギンの言葉を聞いたリヒトとシスコの怒りが解けていく。

「シスコ、費用は全部お母様が持ってくれるわよ」

と、カタリーナの思わぬ一言。

「え? 建物だけじゃないの?」

「うん。総費用って言ってたから。中途半端なものより、その大陸初ってやつ? その方が喜ぶんじゃないかな」

「でも、ステンドグラスはすっごく手間暇が掛かるからとても高額になるのよ」

「大丈夫じゃない? それよりもっとこうしたら綺麗なんじゃないかなぁ」

カタリーナも新しい店舗の設計図を見ながら、お金のことは気にせずに本当に歴史に残るような店にしようとか言い出して悪ノリしていく。リヒトもそれならとやる気になってるし、お金を気にしないのならとシスコもこれはできるかしら? と止めようとしない。マーギンの事もどうでもよくなったみたいだ。

マーギンはその隙に、

「シスコ、昼のシャングリラをハンナリー商会の傘下にしておくから後は宜しくな」

「分かったわ」

新店舗の構想に夢中になっているシスコはよく話を聞かずに返事をした。

「ローズ、俺は他の用事があるから後は宜しくね」

「分かった」

マーギンとローズが交わした言葉はこれだけだった。

マーギンはすぐにシシリーの所に行き、昼のシャングリラをハンナリー商会の傘下にして、経営関係をシスコに頼んだ事を伝える。

「それなら安心ねぇ。組合に登録しにいきましょ」

シシリーはマーギンと腕を組んで組合へ行き、その日のうちに昼のシャングリラがハンナリー商会と併合して傘下になった登録を済ませたのであった。

最後にロッカの親父さんのところ、武器防具のグラマン工房に向かう。

「親父さん、できてる?」

「あぁ、揃ってるぞ」

クラーケン用のバリスタと手持ちのクロスボウ。

「言われた通りにありえんぐらい強力にしたが、本当に使えんのかこれ? 男2人掛かりでハンドルを回そうとしても回らんのだぞ」

「回れば歯車とかハンドルは壊れないよね?」

「そこは心配すんな。 こっちのハンドルを使えば回って強度も問題ねぇことは確認済みだ」

長いハンドルだと回せるが、弦を張るのに時間が掛かるとのこと。

「ありがとうね。この支払いは本当に魔導窯と引き換えで良かったの?」

「構わん。あの窯でこっちも大助かりだ。まぁ、ロックが温度管理の感覚を覚えたのは無駄になっちまったがな」

「いや、俺の作った窯でも温度管理の感覚は重要だよ。最後は人の感覚がものを言う世界だしね」

「おっ、やっぱりてめぇはよく分かってやがんな。せっかく覚えたのが無駄になったとぶつくさ言うロックとは違うわ」

「ずっと後で理解すると思うよ。あと、数打ちの剣も作りだしてんだよね?」

「あぁ。値段の割には高品質だぞ」

「それなら今売れるだけ売ってくれない?」

「何本必要だ?」

「売れるだけ欲しい。もうすぐタイベに行くんだけど、向こうの剣はあまり質がよくないみたいなんだよね」

「タイベは砂鉄とかいい素材が採れるはずなんだがな」

「職人が育ってないんだろうね。手本になる人がいないと上達するきっかけが生まれないだろうから」

「なるほどな…… 鋳造のが30本でいいか。鍛造のも10本ぐらい用意できるぞ」

「じゃ、全部お願い」

いまお金をたくさん持ってるから値引きしなくていいと伝えて、800万Gを支払った。値引きする代わりに合金のインゴットをいくつかもらっておく。大きなオーブンを作らねばならないのだ。

マーギンは家に戻って大型魔導オーブンを作り、バリスタとクロスボウを特殊な魔道具に改造していく。もちろん照準器付き暗視スコープも搭載だ。

「あとは試射して調整だな」

全てが終わった頃に、

「マーギンっ、お帰りっ」

カザフ達が家に飛び込んできて抱きついてきた。

「お前ら、訓練中なのにどうした?」

「マーギンが来ないから呼びに来たんだよっ。俺達の部屋に泊まればいいじゃんかよっ。おっぱい達も顔出しやがれって怒ってんだ。早く行こっ」

そして、ロッカ達の家にシスコも呼びに行き、騎士隊宿舎へと向かうのであった。