軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

覚悟を決めておかねば

ーリッカの食堂ー

「エライコッチャ エライコッチャっ!」

大将のダッドが慌てて店に戻ってきた。

「騒がしいいねっ、一体どうしたんだいっ」

「マーギンがっ マーギンがっ」

大声でそう叫ぶダッド。

「マーギンがどうしたのっ」

その声を聞いてリッカが走ってこちらにやってきた。

「マーギンがっ マーギンがっ」

「父さんっ、だからマーギンがどうしたのよっ」

もしやマーギンが殺されたとかを想像して泣き顔になるリッカ。

「きっ、貴族に連れて行かれちまった」

「なんだってっっ」

一気に怒りのボルテージが上がる女将のミリー。

「たっ、助けに行かなきゃっ」

リッカは外へ走り出そうとした。

「お待ちっ」

「グエッ」

飛び出そうとしたリッカは女将さんに首根っこをつかまれて、およそ少女が出すような声ではない何かを発する。

「ゴホッゴホッ なっ、何すんのよっ。死ぬかと思ったじゃないっ」

「あんたが飛び出して行って何が出来るってんだいっ」

「だってマーギンが…」

「あーん?もう一度聞くけどマーギンはあんたの何なのさ?」

「べ、別に何でもないけど…」

「だったら出しゃばるんじゃないよっ。ダッド、本当にマーギンは貴族に連れ去られたんだね?」

「い、いや、連れ去られたというか、自分から馬車に乗ったというか…」

「は?」

少し落ち着いたダッドは女将さんに自分が見たことを話した。

「高そうな宮廷魔道士みたいな服を着て自分から馬車に乗り込んだんだね?なら、連れ去られたわけじゃなさそうだね」

「でっ、でもよ…」

「ダッド、マーギンは自分の意思で貴族の馬車に乗ったんだろうよ。なら、私等が口を出す問題じゃない」

「でも母さん…」

ギヌロッ

「いいかいリッカ、マーギンにはマーギンの人生があるんだ。そこにあんたは入っちゃいない。いい加減に現実を見なっ」

母親のミリーに自分でも分かってはいたが認めたくない現実を突き付けられたリッカ。

「マーギンは… マーギンは…」

「確かにマーギンはあんたを可愛がってくれていたさ。それはあんたを女として見ていたからじゃない。妹や親戚の子供みたいな感じで可愛がってくれていただけなんだよ」

「そ、そんなの分かって…」

「リッカ、マーギンはきっと前に進み出したんだ。邪魔するんじゃないよ」

「私が邪魔だっていうのっ」

「今までみたいに普通に接してたなら問題なかったさ。でもあんたもちょっと大人になってきてマーギンを男として意識し始めた。そして他に女の影が見えだしたマーギンに腹を立てた。マーギンはあんたの物じゃないんだよ。マーギンにはマーギンの人生がある。こんな場所でくすぶってるような人生じゃないんだよ」

「だって…」

「ダッド、貴族の馬車って、あの美人さんの所のじゃないのかい?」

「そ、そうだ」

「やっぱりね。リッカ、マーギンは大人なんだよ。すでに結婚して子供が居てもいい年齢だ。それに対してあんたはまだ子供。そしてマーギンを連れて行ったのは大人で年頃の美人貴族だ。これがどういう事かわかるだろ?」

「わっ、わかんないもんっ。私ももうすぐ大人だもんっ。母さんのバカぁっ」

リッカは母親の話に耐えきれず自分の部屋に閉じこもってしまった。

「み、ミリー、マーギンのヤツまさか貴族と結婚…」

「本当の所はわかんないよ。けどね、タバサも背の高い美人だったろ?あの貴族のお嬢さんも背の高い美人だ。マーギンはああいうタイプが好きなんじゃないのかねぇ?」

「身分の釣り合いが…」

「彼女がマーギンの力を知っていれば身分なんざどうとでもなるさね。宮廷魔道士みたいな服を着て行ったんだろ?親に紹介でもされてんじゃないのかね?」

「…………」

マーギンの力を知るダッドは何も言えなくなってしまったのであった。

ー貴族街ー

「ローズ様、本日はお手数をお掛け致しましてありがとうございました」

「マーギン、私に様付けなんて…」

ハッ…

「マーギン、まさかこの国を出るつもりか?」

今の他人行儀な口調を聞いたローズはピンと来る。

「そうですね」

「なぜだっ」

「オルターネン様のお立場もお有りでしょう。今の話を上に報告しない訳にはいかないのでは?」

ローズの兄は返事をしない。

「ち、ちい兄様はそのような事をする方では…」

「ローズ、マーギンの言う通りだ。我々はこの国の貴族であり、騎士だ。国にとって重要な情報を入手した場合、報告する義務がある」

「そ、それは…」

「ローズ様、別に構いませんよ。騎士というものは感情より任務を遂行せねばなりません。そうせねば守るべきものを守れなくなりますから」

「ならばなぜ話したっ。マーギンならば上手く誤魔化せただろうっ」

「そうですね… どうして話してしまったのか自分でもよくわかりませんね。もしかしたらローズ様に聞いて欲しかったのかもしれません」

「私に聞いて欲しかっただと…」

「はい。美人さんの表情がクルクルと変わるのは目の保養になりますから」

マーギンは笑顔で冗談めかして言う。

「お、お前はまたそのような私をからかうようなことをっ」

「オルターネン様、もし良ければこちらをどうぞ」

マーギンは自分のお気に入りだった刀を差し出した。

「これは…?」

「賄賂です」

「は?」

「私の元に保護をしている少女がおります。その少女は来年の成人の儀の後にハンターになる予定にしています。来年の3月までに独り立ち出来るように仕込んでいる最中なので、それまで報告をお待ちいただけると幸いです」

「3月末か…」

「はい」

「それは約束出来ないと言えばどうなる?」

「その剣は刀という私の国の剣です。魔剣ではありませんがローズ様にお渡しした剣と同じ素材と手法で造られた物です。おそらくこの国では入手することは出来ないでしょう」

オルターネンからゴクッと唾を飲む音が聞こえた。

「約束が無理であればそちらをお渡しするのを止めます」

「わ、私は騎士だぞっ、賄賂など…」

「騎士である前にローズ様のお兄様ですよね?オルターネン様もローズ様と同じ業を背負ってあげるべきなのでは?」

「業を背負うだと?」

「はい、オルターネン様にはその刀は不要かもしれません。しかし、ローズ様が今よりも上を目指すにはあの剣が必要です。でもあの剣はこの国では目立って使用出来ないかも知れないと伺いました。オルターネン様がその刀を使うことでローズ様の目立ち具合も減るのでは?」

「兄妹揃って余計に目立つわっ」

「そこはバアム家の家宝だとでも言えば辻褄が合います。バアム家は建国以来の名門貴族。珍しい家宝の剣をお持ちであっても不思議ではありません」

「バアム家の家宝の剣は長兄が…」

「どうせ宝飾の付いた飾りものでしょ?剣は実戦で役立って初めて価値があるのですよ。実戦に出ない方にはそちらの方が価値があるでしょうけど、実戦向きの家宝は騎士のお二人がお持ちになられているのは当然かと」

マーギンがここまで言うとオルターネンは黙った。

「こちらが報告を止めていても先に上からお前の事を聞かれたら報告せざるをえんぞ」

「それは仕方がありません。その際には下手に誤魔化さずにきちんと報告をして下さい。そこまでご迷惑をお掛けするつもりはございませんので」

「分かった…」

「本日はありがとうございました。ではこれにて失礼させて頂きます。あとオルターネン様」

「なんだ?」

「刀はロングソードと扱い方が異なります。私で宜しければ使い方を伝授させて頂きますのでご希望であればあの森の開けた所で行いましょう。では失礼」

マーギンはそう言い残して消えるように去って行ったのであった。

気配断ちをしてその場を去ったマーギンはそのまま気配を消して貴族街を出ていく。

あー、やっちまったな。こんな服を着ているせいで王や宰相とのやり取りみたいな事をしてしまったじゃないか。まぁ、俺の事はそのうちバレるだろうからしょうがないな。

マーギンはアイリスが宮廷勤めを選んだ場合に攻撃魔法を教えようと思っていた。その時に色々とバレて問題になるだろうから、この国を去る覚悟を決めていたのだ。結局アイリスは宮廷勤めを選ばなかったが、今日地図を見てここが元魔国だと確信したことで、過去の調査に出ることを決めたのであった。

気配断ちは疲れるので貴族街を出てしばらくしてから普通に戻る。しかし、見慣れぬ服装のマーギンは人目を引く。

しまったな、着替えてから気配断ちを解除すればよかった。

注目を集めてしまったあとに気配断ちをすると余計にややこしくなりそうなのでそのままスタスタと歩いた。

そして家近くまで来た所で

「マーギンっ」

リッカが走ってきてマーギンに飛び付いた。

「リッカ、ど、どうした?」

「うわぁぁぁぁんっ 行っちゃいやぁぁぁ」

「行っちゃ嫌って、何言ってんだ?今から帰るところだぞ」

ぐすっ ぐすっ

マーギンの言うことを聞かずにしがみついたまま泣き止まないリッカ。

「リッカ! リッカお待ちっ」

遠くからドスドスドスっと酒樽が転がっ… 女将さんが走ってくる。

「ゼーハーっ ゼーハーっ ま、マーギン…」

「女将さん、この辺の空気がなくなるぞ」

どすうっ

いらぬ事を言ったマーギンは女将さんのダイナマイトボディアタックを喰らった。当然しがみついて泣いていたリッカも巻き添えを喰らい、ぐへぇぇとなっていたのだった。