軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仕事の借りは仕事で

ケツから串を抜いたマーギンはローズの浮かない顔にどうしたものかなと考える。恐らくいくら言っても急にローズが変わるとは思えない。

厳しい自己鍛錬をしてきたとはいえ、貴族の家と騎士隊の中で育って来たローズは考えがどうしても甘い。オルターネンもきっとローズには甘かったのだろう。今ですら過保護だからな。

騎士隊見習い期間が他の騎士より長くて、ようやく力を付けて楽しくなって来た所にカタリーナの護衛になってしまったからな。本来なら 誉(ほまれ) ある任務だが、頭では分かっていても、カタリーナがフランクだから貴人を護衛しているという実感が湧いていないのだろう。

例えると、まだ遊び足りない若夫婦が子育てより自分の遊びを優先してしまうような感じか。

訓練後のタイベ行きで思う存分力を振るわせてやろうと思っていたけど、この状況でそれをさせても無駄だろうな。まずはカタリーナの護衛を成功させてやってからの方がいいかもしれない。仕事の失敗は仕事でしか取り返せないだろうしな。

その夜、マーギンはハンナリーのテントで寝ることにしたが、ハンナリーがこっちに寝に来やがった。

「お前、カザフ達と一緒に寝ろよ」

「なんかマーギンがおらんかったら、うちだけ異物感が凄いねん」

「なんだよそれ?なら俺が向こうに行くぞ」

「えーっ、一緒に寝てや。知らん所で一人で寝るの怖いやん」

こいつ…

まぁ、タイベの時と違ってキルディアとの戦闘で皆苦戦しているのを見てたからな。怖いイメージが残っているのかもしれん。

なら、気になっていた事の検証をこいつでするか。

マーギンは自分の近くにいる、もしくは密着していることで魔力が増えるのかどうかをハンナリーで検証してみることにした。

寝る時のハンナリーの姿はタンクトップにショートパンツ。検証するにはちょうど良い服装だ。

マーギンがゴロンと寝転がるとハンナリーも横に寝転がる。1人用の市販テントは狭いから同じ布団で寝ているのと変わらない密着感だ。

「二人っきりやいうても、みんな近くにおるから、おいたしたらあかんで」

「お前はまだ子供だろうが。しょうもないことを言うな」

「う、うちは18歳やで」

と、目を泳がせて嘘を吐くハンナリー。

「あのな、鑑定したら年齢も見えるんだよ。本当は14歳だろうが」

「えっ、知ってたん?」

「まぁ、獣人の血が出てるから成長も早そうだから黙っててやったけどな。酒とかもあんまり飲むなよ」

「い、嫌やなぁ、知ってたなら知ってるって言ぃや」

「この世界は全て自己責任だから別に構わんけどな、身体が成長しきってないうちから酒を飲むとアホになるぞ」

「えっ?ほんま?」

「ほんまや」

と、マーギンはハンナリーの口調に合わせて返事をしておいた。そしてそのまましばらく黙るとクカーと寝る。寝たらマーギンを抱き枕のようにしてくっついて来た。

あの野良猫を家に連れて帰れてたら、こんな風に寝たのだろうかと思い、マーギンはハンナリーの頭を撫でたのであった。

ー夜間の見張りをするシスコー

一人で見張るのは暇ね…

シスコは気配を探りつつ、ノートに王都での商売でやらないといけない事をまとめていく。

一番の問題は商売が軌道に乗って収入が入るまでの従業員の給料をどうするかなのよねぇ。元海賊だから普通に雇う人の半額支払うとして月に一人当たり10万G程度。確か海賊って70人ぐらいいたのよね。だとすると単純計算で月に700万G、11月から雇って、まともな収入が入るようになるまで1年間売上がないとすると、支払い給料として7000万Gが必要。それ以外にも設備投資とかも必要でしょうから、最低1億Gは必要ね。私とハンナリーの手持ちを合わせても1億Gには届かないわね。

ハンナリーがマーギンにくっついてクカーと寝ている時に金の算段を考えていた。マーギンは商売の基礎を作ってくれているので、マーギンにこれ以上投資してくれというのも違う気がする。そうするとロッカかバネッサに…

「無理ね」

思わず声が出た所にホープの気配がした。

「何が無理なんだ?」

「あら、見張りを代わってくれるのかしら?」

「俺達は昨日見張りをしただろ。なんか寝付けなかったから外の空気を吸いに出て来ただけだ」

「そう…」

「で、何が無理なんだ?」

「ちょっとね」

「キルディアの事か?」

「違うわよ。聞いても面白い話じゃないわ」

「ならちょうどいい。つまらん話なら眠くなるからな」

と、ちょっと意地悪そうに笑うホープ。

「本当につまらないわよ。お金の話だから」

「金?」

「そう。足りない資金をどうするか考えてたのよ」

「お前ら稼いでるんだろ?」

「そうね。マーギンのお陰で今までより全然稼がせて貰ってるわよ」

「それでも足りないのか?」

「普通に暮らすだけなら困らないわね。でも商売を始めるには足りないのよ」

「商売?」

「えぇ。私達はいつまでもハンターが出来る訳じゃないでしょ?ハンターを引退してからの方が人生は長いもの」

「それはそうか。俺も生き残れたら、特務隊を引退した後何かしないとな」

「あら、ホープは貴族なんだから貴族給があるでしょ」

「俺は家から籍を抜いたからな。爵位持ちじゃないと貴族給はない。何か働いて給料をもらわないと収入がないのは庶民と同じだ」

「そうなのね。それなら貴族籍だけならなくても問題ないわね」

「そうかもな。で、どんな商売をするんだ?」

「ハンナリーに雇ってもらうのよ」

「は?」

「ハンナリーはハンター登録をしているけれども、目指しているのは商売人。もうすぐ自分の商会を立ち上げるのよ。私はそこで雇ってもらうの」

「あいつに商才があるのか?」

「まだないわよ」

「なんだそれ?」

「あなたには関係ないでしょ。ほら、見張りを代わってくれないならもう寝て来なさい。休むのも訓練よ」

「何をするかぐらい教えろよ。気になるだろ?それとも言えないような内容か?」

「ハンナリーは流通、私は王都で売れそうな物を販売するの」

「売れそうな物?」

「そう。男の人が興味なさそうなものよ」

「男が興味ないもの?」

「化粧品と服よ。はい、話は終わり」

「服を扱っている店は多いだろ?」

「特別な服よ」

「特別?」

「そう。魔カイコの糸を使った服。これで全部話したわ。さ、終わり…」

今の話を聞いたホープはえっ?という顔をする。

「魔カイコの糸だと?ゴルドバーンから仕入れるのか?」

「あら、魔カイコの事を知っているなんて珍しいわね」

「まぁ、うちの家系は元々服飾を扱っていた家だからな。他の奴らより詳しいとは思うぞ」

「そうだったの。仕入れはゴルドバーンではなくてタイベよ」

「え?」

「マーギンが魔カイコの養殖に挑戦してくれているの。それが上手くいけば安定して魔カイコの糸が手に入るようになるわ」

「魔カイコの養殖だと!?成功したら一大事だな。どこかの貴族の庇護下に入るのか?」

「いいえ。マーギンが姫様を一緒に働かせようとしているから問題ないわよ」

「姫様を… なるほどな。しかしマーギンはそんなことまで出来るのか」

「魔物の事に詳しいからじゃない?」

「それはそうかもしれん。しかし、庶民には高くて買えないだろ?」

「そうね。販路をどうするかの問題も残ってるわね」

とシスコが言うと、本当に魔カイコの糸が安定して手に入るなら、貴族の販路ならここがなと、ホープは貴族の事をシスコに教えていくのであった。

ーカタリーナのテントー

「ねぇ、ローズ」

「はい、姫様」

「ローズは私の護衛から外れたい?」

「えっ?」

「マーギンに怒鳴られてからずっと塞ぎ込んでるでしょ?」

「も、申し訳ございません。姫様の護衛を疎かにした挙げ句にご心配をお掛けしてしまって…」

「ううん、ローズは本当は特務隊みたいな事をしたかったのかなぁって。私が無理やりローズを護衛にしてって頼んじゃったから悪いことをしちゃったなって」

「そっ、そんな事をおっしゃらないで下さい。こんな未熟者が姫様付の護衛に任命される誉を頂いたのに力不足で申し訳ございませんっ」

「ううん、私はローズが護衛になってくれて本当に嬉しかったの。護衛というよりお姉さんみたいな感じだし、今までよりずっと楽しいの。でも、そのせいでローズが嫌な思いをしたり、しんどい思いをしているなら申し訳ないなあって…」

「ひ、姫様…」

「マーギンは私が暗殺される事を心配してくれているけれど、私には暗殺されるほど価値はないの。王族といっても王位を継承することはないだろうし、暗殺するメリットがないと思うのよね」

「姫様、価値がないとか仰らないで下さい。姫様は国にとっても大切なお方なのですから」

「心配してくれるとしたら暗殺より誘拐だと思うの。前に護衛訓練した時も誘拐の訓練だったでしょ?」

「あの護衛訓練は姫様の安全を考えた結果、誘拐になっただけで…」

「でも暗殺より、誘拐の方が可能性は高いでしょ?お金目的だったり、他国が条約の条件を有利にするためにとか」

「そ、それはそうかもしれませんが」

「でね、あの時の護衛訓練は騎士隊がたくさんいたのに私は拐われちゃったでしょ?」

「も、申し訳ございませんっ」

「ううん、責めてるんじゃないの。あれだけたくさんの騎士が居ても拐われる時は拐われちゃうの。だから護衛がローズだけだと防げないのは当然だと私は思っているの」

ローズは自分の力の無さと、意識の低さを叱責されていると受け取った。

「申し訳ございません。私は護衛失格です…」

「だから責めてるんじゃないの。もし私が誘拐されそうになっても命を懸けて守ろうとしてくれなくてもいいの。もしそれでローズに何かあったら私の心が壊れちゃうかもしれないもの」

「姫様、私は…」

「でね、拐われちゃったら、みんなで助けに来てくれる?」

「えっ?」

「ローズがいくら強くなっても、護衛一人だと限界があると思うの。完全に防ごうと思えば、私はずっとお城の中に居て、第一隊の人達に囲まれて暮らさないとダメになっちゃう。私はそれがとってもいやなの。だからそうならないように自分の出来ることはするつもりだし、ローズにも側にいて欲しいと思ってる。でもローズが他の事をしたいならしょうがないかなって…」

カタリーナは自由奔放に見えて、自分の事もローズの事もしっかりと考えていた。「自分の出来る事はするつもり」と言ったカタリーナ。カザフとの勝負の為に騎士隊の訓練にも耐え、マーギンに延々と木登りをさせられても文句も言わずに黙々と努力をしてきた。それに比べて自分は…

「姫様」

「はい」

「ローズは命懸けで姫様をお守り致します」

「だから、命は懸けなくっていいって。でも拐われちゃったら助けに来てね」

と、屈託なく笑うカタリーナなのであった。