軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王妃からの贈り物

特許の不正問題がようやく片付いたので、マーギンは訓練に集中することにした。

「アイリス、もっと早く登れ」

アイリスとカタリーナの木登り指導をするマーギン。

「これ以上無理ですよ」

「靴に付けているスパイク無しでやってみろ」

「そしたら滑って登れないじゃないですか」

「よじ登ろうとするから無理なんだ。木を駆け上がれ」

「えっ?」

二人はマーギンの言うことが理解出来ないみたいなので、マーギンが手本を見せる。

マーギンはタッと走って、一蹴り目は上へ飛び、二蹴り目で木の枝に飛び付く。そして、飛び付いた勢いを活かして逆上がりするように枝の上に乗った。

「ほら、出来ただろ?で、ここからこうして飛び降りるんだ」

ヒョイと飛び降りて、前回り受け身を取って見せる。

「ほら、やってみろ。下にマットを敷いておいてやるから落ちても怪我はしない。でもちゃんと受け身は取れよ」

スパイクを外して言われた通りにやる二人は何回も失敗してマットの上に落ちるのだった。

ー休みの日ー

職人街に来たマーギン。

「シシリー、皆を集めてくれないか」

「いいわよぉ」

と、返事をしたシシリーがベタベタしてくる。

「暑いからくっつくなよ」

「もうっ。ちょっとぐらいいいじゃない」

「時間が無いから早くして欲しいんだよ」

近くにいた人達にも手伝ってもらって、職人達に集まってもらい、今回の顛末を説明した。

「良くやったマーギン」

と、ガラス工房のリヒトに背中をバンバンと叩かれる。

「回路師の人は安全装置を組込んだ回路で申請し直してくれ。ただ、審査する人がいなくなったから、結果が出るのが遅くなると思うけど、製品は先に作り出して問題ないぞ」

店もだいぶ出来てきているので、秋にはオープン出来そうだ。

「じゃ、後は頼んだぞ」

「もう行っちゃうのぉ?」

「組合にも報告しないとダメなんだよ」

マーギンは付いて来そうなシシリーを振り切って組合に走って行く。

「ミハエル、組合長を呼んでくれ」

「あ、マーギンさん。組合長は貴族街の商業組合に行ってます」

「サイラスの所か?」

「はい。この度はありがとうございました」

どうやら商業組合にはすでに連絡が来ているようだ。

「なら結果は聞いたんだな?」

「はい。これからどうするかを組合長は打ち合わせに行ったんですよ」

「そうか。なら良かった。じゃな」

「もう帰るんですか?」

「あぁ、ちょっと予定があってな」

マーギンはバタバタと急いで組合を後にしたのだった。

マーギンが急いでいる理由。それは…

ー王妃の私室ー

「何度もお呼びたてして申し訳ないわね」

「ほん… いえ、ダイジョウブですよ」

申し訳ないと言われて、本当にと答えかけたマーギンはなんとか踏みとどまる。

王妃はトイシャングの不正の話をマーギンに聞かせた。トイシャングはいくつかの部門の統括を代々担っていた貴族のようで、各部門の不正の証拠を集めていたのだが、商業部門の不正の証拠が集められていなかったとのこと。イードン事件にも絡んでいたが、責任を上手く回避したらしい。今回の特許騒動でマーギンが確固たる証拠を作った事で捕縛に至ったとのこと。

「そういう事だったんですね」

「えぇ、それぞれの罪は罰金程度で済ませるしかない不正。それだといずれまた不正を行うでしょう。今回の事で貴族達は代々伯爵家のトイシャング家でも不正をすれば容赦なく処分されるという事を理解するでしょう。例えそれが庶民相手の不正であったとしてもね」

と、王妃は微笑んだのだった。

「それで、今回マーギンさんに来て頂いたのは、褒美というよりお礼を差し上げようと思いまして」

「褒美とかお礼とか必要ないですよ」

「そういう訳にはいかなくてよ。カタリーナ含めて諸々とマーギンさんにはお世話になっていますもの」

そう言った後、人払いをする王妃。

そして、アタッシュケースのような物をテーブルに置き、マーギンに開けるように促した。

「開けたらいいんですか?」

「はい」

マーギンは言われた通りに開けた。中に入っていたのは、

「本?」

「えぇ。王家の宝物庫に保管されていたものです。かなり古い本ですのよ。マーギンさんにピッタリかと思いまして」

「古い本がですか?」

「えぇ。手に取って良く見て下さらない?」

マーギンは本を手に取り、背表紙を見た。

「あっ…」

「その本の背表紙にマーギンさんから頂いた金貨と同じ模様がありますわね。何かご存知ではないかと思いまして」

「な、中を見ても良いですか?」

マーギンは少し手が震えていた。かなり傷んではいるが、背表紙にアリストリア王国の紋章が入っている。

「ええどうぞ」

マーギンは本を開いて読んでいく。

これは…

マーギンが手にした物は本ではなく、日記だった。

マーギンは時間を忘れたかのように読み進めていく。王妃はそれを黙って見ていたのだった。

そして、マーギンはしばらく読み進めたあと、ボロボロと泣き出したのであった。

日記の前半は魔王討伐後の事が書かれていた。

魔王討伐の功績を以って勇者マーベリックが王に即位した事を各国に知らせたようだ。

これで魔物と戦う日々から解放されると各国も喜び、マーベリック新王を盛大に祝う日々が続いた。

しかし、魔王の核を破壊した事で魔国を覆った瘴気が晴れず、魔物状況は魔王討伐前と何も変わらなかった。アリストリア王国は魔国に近かった分、魔王討伐前より魔物が強くなったようで、ガインガルフを筆頭に軍が魔物と戦う日が続き、苦戦を強いられていたようだ。

その事により、魔王討伐は嘘だったのではないか?と各国が思うようになり、アリストリア王国への不信感が高まっていく。マーベリックも王の座に就いた事により、魔物討伐に出ることが叶わず、魔物対策を根本的に見直す事になった。

「それで魔道兵器を作ったのか…」

ー過去の魔国ー

マーギンを石化した後、魔力をほぼ使い果たし、その場で動けなくなっているミスティ。

「マーベリック殿下、転移魔法に使う魔力もほとんど残っておらん。近くにしか転移出来ぬからそこから走って逃げよ」

「お前も…」

「私の研究室の魔道金庫にこれまでの研究成果の全てが入っておる。貴様が王になった時に必要であれば好きに使えばよい。パスワードはマーギンの真名じゃ」

「お前も来い」

マーベリックは初めてミスティにまともに話しかけた。

「使命は果たされたのじゃ。もう私も不要じゃろうがっ。さっさと行けっ」

「殿下、失礼っ」

ガインガルフがその場を去ろうとしないマーベリックとベローチェを抱き抱え、ソフィアと共にミスティの出した転移魔法陣に飛び込んだ。

皆が転移した後にミスティは石化されたマーギンを抱きしめて大声を上げて泣き、そのまま瘴気の渦に飲み込まれていくのであった。

ー王妃の私室ー

日記によると魔国の瘴気が晴れたのは魔王を討伐してから約20年が過ぎた頃だったようだ。その間に魔導銃や大砲等を開発し、魔物被害が出ている各国にもその技術を提供したようだった。

日記には史実とマーベリックの苦悩が書き綴られていた。

王の言いなりになってマーギンの手柄を横取りしてしまったこと。ミスティを置き去りにした事、そして、瘴気が落ち着いた後に弟と国を二分するような事になってしまった事等。

ー勇者マーベリックの日記より抜粋ー

〜ガインガルフは魔王討伐後もこれまでと変わらず国に尽くしてくれたが、笑顔を見せる事がなくなり、酒も飲まなくなった〜

〜褒賞会で父に向けたベローチェの恨みのこもった目が忘れられない。これ以上国に尽くす気持ちになれなかったのか、その後の行方が分からなくなってしまった〜

〜ガインガルフはマーギンに剣を教えている時と酒を飲む時は実に楽しそうにしている。自分には見せた事がない顔だ。私もマーギンのように笑えたら、ガインガルフもあのような顔をしてくれるのだろうか?〜

〜マーギン達は楽しそうに食べている。何を話しているのだろうか?時折ベローチェに何か怒っているようだが…〜

そして最後まで日記を読んだマーギンは涙が止まらなくなっていた。

「お前… こんな事を思ってたのかよ… それならそうと言えよ… 何も表情に出さないし、俺の事を嫌ってるのか興味がないのかと思っていただろうが…」

ー日記の最終ページー

私もマーギンと一緒に笑いながらご飯を食べてみたかった。ガインガルフを交えて酒を飲んで騒いでみたかった。しかし、幼少の頃から感情を表に出すな、心の内を悟られるなと育てられた自分はどうして良いかわからなかった。ただ父に言われた事をやることしか出来なかった。

もし、自分が生まれ代わって、石化が解けたマーギンと出会う事が出来たら、その時はガインガルフのように一緒に笑って酒を飲みながら楽しめるのだろうか。

お前はこう呼ぶと嫌がるかもしれないが、自分の心の中で呼ぶぐらいは許してくれるだろうか。

「また会おう、我が友よ」

マーベリックはこの日記をこう締めくくった後、弟との最終決戦に向かったのであった。