軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

貪欲に

「サリドンっ、剣だけで対応するなっ」

剣に慣れしたしんだサリドン。オルターネンも手加減しているが、サリドンは剣で対応するのが精一杯だ。ファイアバレットを撃とうとすると、剣がおろそかになり、オルターネンの攻撃を食らって負けるのが続いている。

「サリドン、遠慮せずに撃ってこい」

「はいっ」

サリドンはバネッサに対して毎日魔力切れになるまで撃っていた割には下手くそ過ぎるな。これは意識の問題かもしれないな。

「ちい兄様、ちょっと代わってくんない?」

「お前がサリドンとやるのか?」

「そう。ちょっと見学してて」

マーギンはオルターネンと交代して、サリドンと対峙する。

「俺には当たらんから遠慮せずに撃ってこい」

「はいっ」

マーギンはオルターネンと同じように木剣でサリドンを攻める。

バシュ バシュッ

単発ではあるがちゃんと剣で対応しながら撃てるな。もうちょい攻めてみるか。

マーギンは木剣での攻撃スピードを上げて、サリドンが受けられるギリギリまで攻撃をしてみる。

ガンッ ガツン

バシュ

お、撃てるじゃん。死角から撃てるほど余裕はないが撃てるのは撃てるようだ。

「ストップ」

マーギンは対峙を止める。

「サリドン、お前の問題は心だな」

「心ですか?」

「そう。ちい兄様の方が爵位が上だから思い切って攻撃が出来ないんじゃないか?」

「えっ?」

「いや、貴族の心の内はよく理解できないんだけどさ、お前は爵位が上だと攻撃出来ないとかあるんじゃないか?」

「そ、そんな事は…」

「なんとなくそんな気がするんだよね。お前は根が真面目だから、歳下のホープにも気を使ってるように見えるからな。それと女に対しても遠慮があるだろ?バネッサには当たらないと心が理解したから撃てるようになってきたけどさ」

恐らくこの読みは当たっている。サリドンは無意識だろうが、貴族の上下関係を小さな頃から叩き込まれていたらこうなってもおかしくないな。

「マーギン、今の話は本当か?」

オルターネンが聞いてくる。

「多分ね。サリドンの家は爵位がなくて貴族籍だけなんだよね?」

「はい、そうです。私はそれも継げないので、このままでは平民になる立場です」

「らしいね。平民になったらどうすんの?」

「その場合は田舎に帰ることに…」

「ちい兄様、特務隊は身分を問わないんだよね?」

「そうだ」

「だって。別に兄弟が貴族籍を継いで、サリドンが平民になっても、特務隊所属は変わらない。だから田舎に帰る必要もない。それより、ここで心の枷をなんとかしないと、特務隊も首になって田舎に逃げ帰ることになるぞ」

「はい…」

「ちい兄様、将来の話をしてもいいかな?」

「好きに話せ」

オルターネンに許可をもらって、特務隊の未来の話をする。

「サリドン、お前がこれから成すべき事で自ら魔物討伐をする事以外にもっと重要な事がある」

「重要な事?」

「そうだ。自ら魔物討伐をすることで、魔物との戦い方の経験を積み、その経験を以て自分の隊を持つんだよ」

「えっ?自分の隊ですか?」

「そう。そうなれば、部下に自分より爵位が上の者もいる事もあるだろう。その時にきちんと指導と命令が出来ないといけない。自分より爵位が…とか気にしていると絶対に失敗する。身分よりもその人個人を見て指示指導が出来ないと皆死ぬぞ」

サリドンは上手く返事をすることが出来ない。

「魔物討伐に爵位なんて関係ないんだよサリドン。命の奪い合いに人が勝手に決めた制度なんて無意味だ」

「それはそうかもしれませんが…」

「でな、上に立つ者は爵位の上下より、何かが優れてないとダメだ。特務隊がもっと大きくなっていけば参謀みたいな知略タイプでもいいけど、初期は部下より強くないと恐らく言うことを聞かない」

「自分が他の者より強くですか」

「そう。お前はそうなれる力を持っている。だが、身分がどうのこうのという心の枷がある限りそれを発揮出来ない。その枷を俺は外してやることが出来ない。俺には理解の出来ない世界だからな」

「マーギンさんは身分とか気にならないのですか」

「俺は元々身分制度が嫌いだからな。この国は身分制度があって国が成り立っているのは否定しないけど、それに縛られるのは納得がいかない。生まれの違いだけで、人の優劣を付けられるなんてバカバカしいだろ?」

「は、はい…」

「俺もまったく気を使わないわけではないけど、それは爵位に対してではなく、その爵位に対して責務を果たしている人に対してだな」

「責務ですか」

「そう。例えば大隊長は伯爵だから凄いとかは思わない。大隊長個人として凄い人だから騎士隊の大隊長なんだよ」

「確かに大隊長は凄いです」

「あの人は強さ以外に懐も深いしな。騎士隊は良い人がトップにいてくれていると思うぞ」

「はい。自分もそう思います」

「サリドンもそう思われるようになれ。まずは圧倒的に強くなることを目標とすればいい。魔法と剣の両方使える奴はそうそうおらんからな。今ならオルターネン様に勝てる可能性があるぞ」

「本当ですか?」

「あぁ。お前がちゃんと能力を発揮すればな」

「はい」

「話は済んだか?」

今の話を聞いていたオルターネン。顔は笑っているが、目が鮮血のちい隊長になっていた。当然その気迫に呑み込まれたサリドンは、立ち合いで何度もボコボコにされたのであった。

ーその夜ー

「サリドン、ちょっと飲まないか」

ホープがワイン片手にサリドンの部屋にやって来た。こんなことは初めてである。

「どうしたんだ?明日も厳しい訓練が待ってるんだぞ。酒なんか…」

「少しぐらいならいいだろ?」

サリドンも何かを察したのかそのまま部屋に招き入れた。

「お前、隊長にボッコボコにされてたな」

「そうだな。隊長はやっぱり強いわ」

「でもマーギンはあの隊長を今なら倒せると言ったんだろ?」

「話を聞いていたのか?」

「いや、ここに来る前に隊長の部屋に報告してきたことがあってな。その時に聞いたんだ」

「そうか。多分あれは俺の事を気遣ってくれたんだろうな」

「いや、そうでもなさそうだぞ」

「えっ?」

「マーギンは 今なら(・・・) と言ったんだろ?」

「そ、そうだな」

「恐らく、隊長はそのうち剣と魔法を混ぜた攻撃に慣れて対処出来るようになる。それまでなら勝てると言いたかったのではないか?」

「そういう意味か」

「まぁ、マーギンが見せたように剣で攻撃しながらスムーズに魔法を撃てたらの話だろうけどな。魔法とは撃つのがそんなに難しいのか?」

「いや、マーギンが魔法陣を刻んでくれた事で、昔から当たり前に使えるような感覚になった。これはとても不思議な感覚だ」

「へぇ、それでも上手く発動させられないのは、やはり爵位絡みなのか?」

「自分では気付いていなかったが、そうなのかもしれん。そういう教育を受けてきたからな」

「まぁ、それは俺も同じだな。前にサリドンに爵位が下のくせにと言ってしまった事もあるからな」

ホープはそう言った後、グラスにワインを注ぎ、軽くサリドンのグラスに合わせた。そしてそれを一気に飲み干す。

「俺は正式にナーゲル家から離籍する」

「えっ?」

「口では家を継がないと宣言してはいたんだが、それは正式な物として認められない状態だった。今、父親が死んだら俺が家を継ぐ事になるだろう。だから、次の休みの日に離籍届を出す」

「本当にいいのか?子爵家の跡継ぎを自ら放棄するような奴はおらんぞ」

「俺はどうやら、それを心の拠り所にしていたようだ。もし騎士として失敗してもナーゲル家があるとな…」

ホープは手酌でもう一杯飲む。

「俺はそれに気付いた時に剣技だけでなく、心も弱かったのだと自覚した。俺は子爵家という鎧を着ていたから自信があったのだと」

「ホープ…」

「だが、正式に離籍をすると決めた事でその鎧を脱ぐ。不安がないかというと嘘になるが、身軽にはなる。騎士の鎧を脱いだのと同じような感覚だ。だからいっそ貴族籍もなくなっても構わないとも思っている」

「貴族籍すらも?」

「そうだ。俺はマーギンに言われてガキ共に剣を教えている。俺はあいつらを見て思ったんだ」

「何をだ?」

「欲しいものは自分の力で勝ち取るものだとな。与えられた物よりその方がずっと価値がある。ガキ共は教えて貰う事に貪欲だ。今までそういう機会がなかったから、必死でこのチャンスを逃すまいとひたむきに努力する。俺は教えて貰うのは当たり前、誰かが何かをしてくれるのが当たり前だと思っていた。あいつらと比べたらそりゃ吸収スピードは劣るよな」

ハハッと乾いた笑いをするホープ。

「だがな、ガキ共のお陰で俺はこの訓練期間をガキ共と同じようにチャンスと思えるようになった。まだ俺にはほとんど個別訓練をしてもらえてないが、個別指導の時には必ず貪欲に物にしてみせる」

ホープはグッと拳を握る。

「お前も個別指導をしてもらっているうちに何かを掴まないと、次の個別指導がいつになるか分からんぞ」

ここまで言われてサリドンはホープが自分を励ましに来てくれたのだと気付いた。

「分かった。明日は隊長をぶちのめしてみるよ」

「そうか。それは楽しみにしておくわ」

その言葉を聞いたホープは、ワインが残った瓶を置いて帰ったのだった。

サリドンは色々な事が頭を駆け巡り、寝付けそうにないので自分のグラスに入ったワインを飲んだ。

「ふっ、ホープの奴…」

ホープが持ってきたのはただのブドウジュースなのであった。