軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フェアリーローズ

暇な魔法書店でスープを大量に作るマーギン。

「よし、こんなもんか」

出来たスープを1食分ずつ小分けして水分を抜いていく。魔法で作るフリーズドライ食品みたいなもので、お湯で元のスープに戻るインスタント食品だ。今度、インスタントラーメンを作っておかないとな。

勇者パーティー時代にミスティとあれやこれやと作っては試していたのを思い出す。インスタントラーメンはよく食べているので在庫がもうないのだ。

「おぉ、やっと戻って来たか」

そう声を出して入って来たのは前に来た美人ハンターだと思われる人だ。

「もしかして俺を探していた美人ってお姉さんってお客さんのことかな?リッカの食堂で俺の事尋ねた?」

「ふふっ、私を美人と言ってくれるのは恥ずかしいな。リッカの食堂には2回訪ねはしたが」

「ならそうだね。リッカが美人だと言ってたぞ」

そういうと顔を赤くしてハハハと笑う。それに今日の服装はロングではあるがちゃんとスカートをはいている。

「うん、その服よく似合ってるよ」

「スカートは股がスカスカして頼りないから余り好きではないのだが、こうして褒めて貰えるならたまにはいいかもしれん」

美人が股って…

「ロングだから色っぽくはないけど、買うならおまけしてやるよ。ミニスカートならもっとおまけしてあげるんだけどね」

ミニスカートと言われて顔を真っ赤にするのは大変ウブな感じがして宜しい。

「では店主、鑑定と水を出せる魔法を頼みたい」

「了解。スカート姿を見せてくれたから鑑定は無料でしてあげるよ」

「これだけで10万Gの鑑定代を無料にしてくれるのかっ。ならばミニスカートであれば…」

顔を赤くしてブツブツ唱える美人さん。

「水魔法はどれにする?」

「どれにするとは、まさか、種類があるのか?」

「そ。水を出すだけの魔法は前にも言ったけど100万、これにオプションという形になるけど、温度調整機能、氷を出せるようにする、炭酸水を出せるようにするのがそれぞれ100万G。全部セットにするなら300万Gに割引するけど。お勧めのオプションは温度調整機能だね」

「そんなに種類があるのか。よ、予算は100万Gだったのだが…」

むむむむっと考え込む美人。

「ま、温度調整機能は火魔法適性も関係してくるから鑑定してから考えたら?後でも追加出来るから」

「同時じゃなくても良いのか?」

「本来は魔法陣そのものが違うから同時なんだけど、おまけの代わりに後で追加したいなら書き換えてやるよ」

「うむ、値段は高いが良心的であるな」

「良心的かどうかはお客さんによるけどね」

そう言って二人で笑う。

「じゃ、先に鑑定しようか。この玉に手を置いて」

マーギンが取り出したのは水晶玉のようなもの。実際にはガラス玉であるが透明度が高く、今の時代だと水晶より高価になるようだった。本来、鑑定は魔法で行うので玉は必要ないが、鑑定魔法は希少過ぎてバレるとまずいので魔道具ということにしてある。

「これに触れればいいのか?」

「うん、手を出して」

マーギンは差し出された手を握り、玉の上に置く。女性だというのに剣ダコの出来たゴツゴツした手だ。手を握っても嬉しくない感触だが随分と努力してきた手だなと感心した。

「では、どこまで見て欲しい?本来は魔力値と魔法適性だけ見るんだけど…」

「お邪魔するよ」

美人さんの鑑定を始めた時に女性3人が店に入って来た。

「今、他のお客さんの対応中だから待ってて」

いつも誰も来ない魔法書店なのに人が来るときには重なるものだと思いながら鑑定をする。

「他の何が鑑定出来るのだ?」

「んー、色々とね。例えば何の武器が向いてるとかだいたい分かるよ」

「そんな事が判るのか?」

「本当は見えていても伝えないんだけどね、おまけの追加だよ」

「では、見えるもの全て頼む」

「了解」

マーギンの鑑定魔法は強制的にすべてを見る事も出来るのだが、相手の同意があったほうが良いし、昔、勝手にミスティの情報を見て死ぬほど怒られたのだ。

あっ、これ…

名前:フェアリーローズ・バアム

性別:女性

年齢:21歳

魔力値:106

火:C

水:C

風:D

土:D

無属性:C

光と闇は適性なし。

体力値:A

腕力値:C

敏捷性:A

持久力:C

魔法適性は普通の上という感じだが、体力値と敏捷性がAか。それに家名があるってことは…

鑑定結果を見て少し考えるマーギン。

「ど、どうだ?」

「ちょっと聞いていい?」

「いいぞ」

(お姉さんって貴族?)

(そんな事までわかるのか?)

(いや、名前に家名が付いてるし…)

(名前まで分るのかっ)

(うん、フェアリー…)

と、コソコソ話であるにもかかわらず見えた名前を言おうとしたらゴツゴツとした手で口を塞がれた。

「そ、それは見えなかった事にしてくれ」

「い、いいけど」

どうやら名前を知られたくなかったらしい。バラの妖精とは随分と可愛らしい名前だ。

真っ赤になったフェアリーローズ。

「どうした?」

「す、すまない。ちょっとあっちを向いていてくれ」

どうやら真っ赤な顔を見られたくないらしい。

「じゃ、落ち着くまであっちのお客さんの対応をしてていいかな?」

「あ、ああ。今日は非番で時間があるから問題ない」

非番か… 名前といい、ハンターじゃなかったようだな。

「そっちのお客お待たせ。どんな魔法を探してんの?」

「その前に聞きたい事があるのだが」

「何?」

「お前、先日、世間知らずの少女を助けたか?」

「は?」

「ライオネルから王都に向う途中で狼に襲われた娘がいてな。それを黒髪黒目の男が助けたらしい。私達はその男に用があるのだ。黒髪黒目の男がこの店にいると聞いてな、どうやら当たりだったようだ」

こいつら、俺を探してるだと?

見知らぬ奴に自分を探されていると聞いて警戒するが顔には出さない。

「残念ながら俺は客の来ない魔法書店の店主だ。狼を追い払えるような男じゃないよ。確かに黒髪黒目は珍しいだろうけど人違いだろ?」

「ほう…」

「なに?」

「確かその娘も男は狼を追い払ったと言っていたな」

そうニヤリと笑う。

「狼なんて一般人だと追い払うのが精一杯だろ?」

「ふふふ、まぁいい。ここは魔法書店なんだな?」

「そうだぞ」

「では水を出せる魔法書は扱っているか?」

「あるよ。100万Gだけどな」

高っけ、とバネッサが呟く。

「わかった。今使っている水を出せる魔法があるのだが上書きは可能か?」

「可能だぞ」

「ではそいつを売ってもらおうか」

「ちょっとロッカ、100万G払ったら文無しになるわよ」

シスコが止めようとする。

「いい、これは自腹で払うから」

え?と驚くバネッサとシスコ。水魔法を買うとしてもパーティーのお金を使うと思っていたのだ。

「了解。すでに水を出せる魔法を使ってるなら適性は問題なしだな」

「あぁ、問題ない」

そう答えると女はカバンからドンっと金貨を置いた。マーギンはひーふーみーよーと、聞き慣れぬ言葉で小金貨を数えた。

「はい、小金貨100枚確かに。これが魔法書」

「これだけか?」

「そう。うちのは慣れたら詠唱すら不要だ」

「ほう… それは面白い」

「ただ、無詠唱はお勧めはしない」

「なぜだ?」

「夢の中で発動させたらおねしょしたと勘違いされるからな」

いい歳の女性をからかうマーギン。

「おねしょなんかするかっ」

「怒んなよ。じゃ、手を出して」

「ん?魔法書に描かれた魔法陣を転写するのではないのか?」

「そうだよ」

マーギンの魔法書に描かれている魔法陣はそれらしく描かれたダミーだ。魔道インクで魔法陣を描いてから人に転写するのが一般ではあるが、魔法発動効率が著しく落ちる。魔道インクを用いた他人の魔法陣は魔力が余計に必要になるのだ。対してマーギンのやり方は直接魔法で人に描き込む事で元から自分で魔法を使えるようにしているのと同じ状態にする。

マーギンはそれっぽく、魔法書を転写するが如く手の上に魔法書を置き、人体に魔法陣を刻むと共に魔法書の魔法陣を消した。

「はい、成功。詠唱はそこに書かれているようにソフトウォーターと唱えるだけで大丈夫だ」

ソフトウォーターとは自動翻訳をしたこちらの世界の言葉ではなく元の世界の言葉だ。いわゆる軟水という飲水や調理用水として適したもの。詠唱は軟水でもよかったのだが、厨二病全開だった頃のマーギンは知っている英語を使いたくてしょうがなかったのは黒歴史だ。

魔法陣の転写成功確認の為に眼の前にいる女にコップを渡す。

「ソフトウォーター」

そう唱えるとじょろろっとコップに水が注がれた。1度に出るのは200ccほど。水魔法適性がC以上であれば使用魔力は1。対して魔道インクを使った一般的なものなら魔力を10以上使うことになる。

女は今出した水を一口飲んだ。

「バネッサ、シスコ、この水を飲んでみろ」

仲間の二人にも今出した水を飲ませる。

「あ、同じだ」

「そうね、同じだわ」

「決まりだな」

「そうね」

「何が決まりなんだ?」

3人の決まりだなという言葉に疑問を覚えたマーギン。

「狼から助けて貰った娘が持っていた水筒の水と同じ水の味だ。やはりお前があの娘を助けたのだろう?」

あいつ、コイツらにあの水を飲ませたのか。しくったな… もう誤魔化すのは無理そうだ。

「だったらどうなんだ?」

マーギンは少し声を低めて今度は隠さずに警戒態勢を取った。

「おっと、そう警戒するな。私達は王都ハンター組合に所属する星の導きというパーティーで私はロッカ、後はバネッサとシスコという者だ。実はこの水を出せる魔法と他にも…」

チラリとロッカと名乗った女はフェアリーローズの方へ目をやる。

「夜にでも時間はあるか?」

「ん、俺は金を貰って魔法書を売った。これでお前たちとの関係は終わりだ。他に何の用がある?」

マーギンがそうぶっきらぼうに答えると

「そう構えるな。随分と警戒をさせてしまったのは申し訳ない。聞きたい事があるのだ。酒でも飲みながら話をしたいのだがどうだ?店はそちらが決めてくれれば良い。高い店でも良いぞ」

ここで断るとしつこく店に来そうだなと思ったマーギン。

「わかった。じゃ、20時に近くの食堂、リッカの食堂は分かるか?」

「あぁ、ダッドさんの所だな。じゃ、20時に待っているぞ」

と、星の導き達はフェアリーローズにお先にという感じで手を上げて店を出ていったのであった。

「終わったか?」

「あぁ、ごめん待たせて」

「何やら面倒ごとのようだな」

「そうだね」

面倒臭くなるならマーギンはあの時、娘に声を掛けずに狼を追い払うべきだったなと後悔した。

「じゃ、鑑定結果を伝えるね」

「頼む」

マーギンは鑑定した結果を伝える。

「私の特性は理解した。つまり、私に向いている武器は剣ではないのか?」

「この前持っていた剣はロングソードだろ?あれは腕力値が高くないと超一流にまではなれない。努力し続けて一流ってところかな。風魔力適性もあまりないから弓も向いていない。体力値と敏捷性は文句なし」

「つまり何が向いているのだ?」

「敏捷性を生かした、短剣、レイピア、サーベルといった所だね。力技で戦うより、スピードと斬れ味を生かした方がいいと思うぞ」

「そうか…」

少し残念そうなフェアリーローズを見てマーギンはフォローを入れる。

「腕力も女性としては男並みにあるとは思う。どうしてもロングソードが良ければそのまま努力を続けるのも悪くはないけどね。目的が個人の自己満足ならそれも有りだ」

「自己満足だと?」

フォローを入れたつもりがカチンとさせてしまったようだ。

「ごめん、フェアリーローズの…」

名前を言ったらキッと睨まれた。美人の睨み顔はなかなか良いものでもあるが怖さも増す。

「あなたの…」

「皆は私の事をローズと呼ぶ」

「貴族相手に愛称呼びは不味くないか?」

「いや、私がローズと名乗っているから問題はない」

あー、フェアリーの部分が恥ずかしいのか。

「ではローズ、お前が努力している理由はなんだ?趣味や自己満足だけでその手にはならんだろ?」

そういうと恥ずかしそうに手をさするローズ。

「女だてらにみっともない手だということは理解している。だが、私は強くなりたいのだ」

「みっともなくなんかないよ。そうやって努力してきた証は好きだぞ」

そう言うと微笑んでくれた。

「ありがとう。皆はこの手を女らしくないと蔑むのでな…」

「そんなの気にするなよ。で、どうして強くなりたいんだ?」

「話しても良いが少し長くなるぞ」

「なら店を閉めようか。また邪魔が入るのも嫌だしね」

「良いのか?」

「いいよ。どうせ開いてるか開いてないかわかんないような店だから」

マーギンは店を閉めて、ローズの話を聞くことにしたのであった。