軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

現実を突き付ける

ー騎士宿舎オルターネンの部屋ー

「魔力値鑑定の魔道具だと…」

オルターネンはローズにマーギンからの届け物の箱を開けて手紙を読んでいた。

「こんな貴重というか、世に出回っていないものを寄越して来るとはな」

マーギンからの手紙では斥候や剣士は自分でも見付けられるだろうから、遠距離攻撃可能な者を見付けるのにこれを使えと書いてある。実戦で攻撃魔法を使える奴は少ないだろうから、魔法使いにこだわらずに弓士を探した方がいいかもしれないとのアドバイスもあった。

試しに自分をこの魔道具で鑑定してみる。

ぴっぴぴっ

光が少し伸びて止まった後に脱力感で立てなくなる。

「なるほど、こうなる訳か…」

鑑定後はしばらく立てなくなるから休みの日に鑑定を行うか、寝る前にやったほうが良いと注意書きがあった通りだ。

オルターネンの人選は難航していた。明日で特務隊発足だがまだメンバーは決まっていない。今の所は候補者は一人だけ。明日にでもあいつを鑑定してみるか。

オルターネンは体裁を保つ為に慌てて使えない奴を部隊に入れるより、本当に使える奴だけを入れる事にしていた。明日の発足発表会でだれも隊員のいない隊長として恥をかくだろうが5年後の事を見据えてあえてその恥を飲み込む覚悟をしていたのであった。

ータイベに出発する日ー

「姫様、本当に連れて行きませんからね」

マーギンの家にやってきたローズとカタリーナ。

「えーっ、ちゃんと準備して来たのにっ」

カタリーナは「てへっ、来ちゃった」をやるつもりで旅の準備をして来たのだ。

「姫様、今回はしょうがないなぁとは言いません。遊びに行くのではなく、アイリスの里帰りとガキ共のハンター修行の為に行くのです」

「じゃあ、私はタイベ視察の公務って事で行くわ」

しれっと公務と言うカタリーナ。

「公務なら王家としてきちんとした手続きを取って下さい。私はそれに関してはノータッチです。国に仕える身ではありませんので」

「どうしてそんな意地悪を言うのっ」

いつもはアイリス達に接するようにタメ口で話すマーギンも敬語を使ってカタリーナに姫様として話す。

「姫様、これ以上のワガママを言われるようなら、戻ってきてからも相手をしませんよ」

「えっ?」

「今後ずっと姫様として接します。二度とフェアリーとして接する事はないでしょう。そうなればうちでご飯を召し上がられる事も出来ませんし、職人街にも本当の姫様とバラして、職人達に平伏してもらう事になります。この旅にどうしても同行されるとおっしゃるのなら今からこのように姫様として接します。いかがなさいますか?」

「い、いやよ…」

マーギンにパシッと一線を引かれて涙目になるカタリーナ。

そしてボロボロと泣き始めた。フェアリーとしての生活が楽しくて仕方がなかったカタリーナ。城の中でもワガママは大抵聞いて貰え、マーギンもずっとワガママを聞いてくれていたのだ。

「私も行きたい…」

泣きながらそう言うカタリーナ。

「かしこまりました。ではご同行してくださいませ、カタリーナ姫殿下」

マーギンが姫殿下と呼んだ事でうわぁぁあんと大声で泣いた。

「マーギン、もう少し言い方というものがだな…」

ローズが口を挟む。

「フェアリーローズ・バアム様。姫殿下のご遠征となれば護衛の方がお一人では心許ございません。出発は延期致しますので、護衛の方の増員と馬車の手配をお願い致します。あと、陛下のご許可の手続きをお願い致します」

「マーギン、お前は何を…」

「では宜しくお願い申し上げます」

マーギンはローズにも距離を置いた態度を取る。

「アイリス、今日の出発はなしだ。ロッカ達にも出発は延期になったと伝えて来てくれ。もしかしたらこのまま出発出来ないかもしれないともな。そうなったらアイリスの母親の墓に成人の報告は無理になる。すまんな」

「えっ?」

「カタリーナ姫殿下、王族の方が遠征に出られるという事は準備に時間が掛かります。訪問地の予定もございましょう。恐らく王族の方のご移動を伴う公務は年間スケジュールとして決まっております。今回公務としてご同行される事の許可が降りる可能性は低いのです。ですから我々も出発することは叶いません」

「そっ、そんな…」

「では、ご出発の予定が決まればご連絡をお願い致します」

マーギンがそう切って捨てるように言うとカタリーナは大泣きして止まらない。ローズも自分ごと突き放されたのがショックだった。

「フェアリーローズ・バアム様。ご自身のなすべきことをなさって下さいませ。なぜ姫殿下の護衛を任されたのかをお考え下さい。単なる護衛であれば警護能力があれば良いのです」

「私のなすべき事…」

「姫殿下のこれからの数年間はなにをなさるのですか?」

「それは社会見聞を広める為の期間で…」

「すべてのワガママが通るのが勉強の期間と言えますか?市井に混じって社会見聞を広める。皆がどのように暮らし、何に困っているのか、何をすれば良い国になるのかを知る為の期間でありましょう?あなた様の役目は護衛だけではなく姫殿下の教育担当でもあると私は思っておりましたが違うのですか?」

「マーギン…」

「もう一度お尋ねします。本当に今回の旅に公務としてご同行されるのですね?」

ヒック、ヒックと泣きながらマーギンの問いかけに下を向くカタリーナ。

「わ、私の事を嫌いになったの…?」

「私は平民というよりこの国の者ですらありません。姫殿下と異国の者の関係に戻るだけです。好きとか嫌いの問題ではありません。元々接する事の無い関係なのですよ」

「うわぁぁあん。そんなのいやぁーっ」

「マーギンさん、マーギンさんっ」

「なんだアイリス。早くロッカ達に伝えて来てくれ。あいつらも待ってるだろ?」

「そんな冷たい言い方をしないであげて下さい」

「アイリス、これはとても重要な事なんだ。お前も友達みたいに接しているが相手は姫様なんだ。本来は平伏して接しないとダメな人だと言うことを理解しろ。もし姫様に何かあったら俺だけでなく、ローズは当然、お前達も責任を問われる。目的が姫様の公務として領地視察に行くための護衛依頼というのであれば引き受けてもいい。そこが俺が譲れる唯一の選択だ。それにカザフ達を巻き込むな」

「でも…」

「俺はアイリスには最低限自分の身を守れる為の事は教えた。それでも体力やスピードはまだまだだ。姫様にはそれすらない。常に守っていないとダメなんだぞ。そんな状態でカザフ達に色々と教える事なんて出来ないだろう?あいつらはこれから先ずっと自分達の力で生きていかないとダメなんだ。姫様の遊びの言い訳としての公務で行くのとは理由が違う。人生が掛かってんだよ」

今のマーギンの言葉を聞いて皆と遊びに行きたい一心で付いていきたいと言ったカタリーナは胸が痛む。自分より小さなカザフ達の人生が掛かっているなどとはまるっきり思っていなかったのだ。

「マーギン、姫様にそんな冷たい言い方をしてやるなよ。俺達は俺達でなんとか頑張るからさ。俺達がここに残ってアイリスだけなら姫様を一緒に連れてってやれんだろ?バネッサ達も一緒に行くんだし。俺達はそれでいいよ、リッカの食堂を手伝ってるからさ」

カザフ達は自分用のナイフと防具を何日も前から身に着けては脱ぎを繰り返してこの旅をとても楽しみにしていた。それが泣いているカタリーナを見て、自分達より優先してやれと言う。

「お前等は本当に良い子だな。俺はお前等と出会えて本当に良かった」

マーギンはカザフ達の親ではないが、親のような気持ちになり3人をぎゅっと抱きしめた。

「やめろよっ。俺達はもう子供じゃないんだぜ」

「まだ子供だ。あと3年ぐらいは遠慮せずに甘えろ」

そう言うと3人は照れくさそうに笑った。

「ごめんなさい…」

その光景を見ていたカタリーナが小声で呟く。

「こいつらが留守番してくれるってよ。本当に同行するなら王様に連絡を入れてこい」

マーギンは今のカタリーナを見てタメ口に戻る。

「私は行かないからこの子達を連れてって」

「どうしても行きたいんだろ?」

「我慢する…」

「本当だな?」

「うん」

カタリーナは旅に付いて来ないと言った。

「姫様、良いのかよ?俺達は留守番してるぜ」

「ううん、私のワガママでごめんなさい。カザフ達が行ってきて。私は王都で他の事をしているから」

「うん。姫様がいいならそうするけど…」

「カタリーナ」

マーギンは名前で呼ぶ。

「はい」

「今後本当に遠征に行く時に付いてきたいなら鍛えとけ」

「えっ?」

「俺達の遠征は基本歩くと走るだ。俺達が帰って来るまでに鍛えておけ。で、戻って来てからテストをする。それに合格したら自分の身を守る為の方法を考えてやる」

「鍛えるって何をすればいいの?」

「それはローズと大隊長に相談しろ。少なくともちょっとは走れるようになるのが初めの目標だ」

マーギンはしれっと大隊長を巻き込んでおく。

「マーギン、姫様を鍛えろって正気か?」

ローズは騎士隊の体力トレーニングを姫様にやらせる気か?と驚く。

「全く何も出来ない護衛対象より、動ける護衛対象の方がいいからな。まぁ、無理強いはせんよ。次から遠征する時は内密に進めていきなり出発するだけだ。毎回こんなやり取りをするのも面倒だからな」

「ローズ、私やる。次は絶対に付いて来て良いよって言ってもらいたいもんっ」

「姫様… 幼き頃から訓練をして来た私でも騎士隊の訓練は辛いのですよ」

「大丈夫。置いていかれる方が辛いもんっ」

「本当に辛いのですよ。身体中が痛くなっても容赦なしに走ったりしますし…」

「ローズ、俺達が戻って来た時に姫様がテストに合格するかどうかは大隊長次第と伝えておいて」

姫様次第ではなく、大隊長次第と今から責任をなすりつけておく。そもそも王様と飯を食わせるからこうなったのだ。

「テストとは何をするのだ?」

「カザフと競争。勝てたら合格だ」

「カザフと?」

ローズはカザフの足の速さを知らない。カザフは男の子とはいえ姫様より歳下だし、身体も小さい。なるほど、ちゃんと合格出来るように気を使ってくれたという訳かと勘違いした。

「わかった。では姫様にも訓練に励んで貰おう」

「もし不合格だったら、ローズも泣き叫ばれる事を覚悟しておいてくれよ」

「勿論だ」

ローズは自信満々にそう答えた。

「ローズお姉ちゃん、そんな約束して大丈夫?」

と、トルクがローズに尋ねる。

「カザフに勝てば良いのだろ?期間は短いが姫様も中々に足が速いのだ。なんとかなるだろう」

「ならいいけどね」

「大丈夫だ」

「カザフってバネッサお姉ちゃんより足が速いんだけど、姫様も同じぐらい速いなんて凄いんだね」

「えっ?」

「じゃ、ローズ頼んだぞ。アイリス出発するぞ。忘れ物ないな」

「ありませーん」

「ま、マーギンちょっと待て」

「ローズ、引き受けたんだからしっかりと姫様の訓練宜しくな」

ローズの待ってくれーっとの叫び虚しくマーギン達は出発したのであった。

「ローズ、どうしたの?」

「姫様…」

「はい?」

「私は鬼になります。ご覚悟を」

ローズにそう言われたカタリーナはなんの事か良くわからずにうんと答えた。マーギン達が帰って来るまで地獄の日々になるということも理解せずに笑顔になっていたのだった。