軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76.「腰を据えて話そうか」

……アルマからここまでの圧を感じたのは生まれて初めてだ。いや、まあ、関わりがそんなに沢山あったわけじゃないけれど。なんと言うか、イメージと違うというか。

「まずは依頼達成の処理からだな。窓口はあっちだ」

「ありがとう……別に逃げやしないよ?」

「あ、そう?じゃあ俺は入口の方で待ってる」

そう言うや否や、アルマはすっと下がって入口に近いテーブルに陣取った。が、剣呑な雰囲気はまるで消えていない。

……言質を取るだけ取ったな、あいつ。あんな抜け目のない仕草をするやつだったのか……?まあいいけど。

「お、さっきのお嬢さん。依頼の受注と完了の処理だな?」

「うん。よろしく」

「はいよ」

さっきの犬頭の職員にギルドカードを差し出す。彼はカードを受け取ると、何らかの機械らしき物にそれを通した。

『依頼達成』

『報酬:30000マナゴールド』

システムメッセージが届く。確認すると、確かに30000マナゴールド増えていた。……具体的な相場は分からないけれど、結構な金額じゃない?

私がよっぽどわかりやすい顔をしていたのか、職員が口を開く。

「緊急性の高い案件は、報酬がより高くなるんだ。これは依頼時のルールとして明記されてる」

「なるほど。……そんなに緊急だったのか?」

「そうなんだろうよ」

俺には分からんがな、とその職員は苦笑した。ギルドカードの窓口の係員とは違い、彼はずいぶんフランクな性格のようだ。

礼を言って窓口を離れる。気は引けるが、にこやかなまま剣呑な雰囲気をまとうアルマの元へ向かった。……器用なやつ。

「……アルマ」

「済んだな。場所を変えるか?」

「そうしよう。このあたりの土地勘は無いから、君に任せきりになるけど」

ぽん、とまた肩に手を置かれる。私の薄い肩を包むそれが、何とも恐ろしく感じた。

「じゃあ、俺の馴染みの店に行こう。……その“連れ”についても教えてくれるよな?」

「……あー……」

『?エナさん?さっきからどうなってるんですかー?』

……気付くことあるんだ。

――――――――――――

笠を被りなおし、アルマの道案内のままギルドを後にする。

彼はずんずんと進んでいき、露店が立ち並ぶような庶民的なエリアを抜けて、やや小さいが豪奢な門をくぐった。やや気後れしながらも続いていく。門の守衛たちは通るアルマに一瞥もくれず、職務に忠実に門を守っていた。

「……おお」

今度は露店が見えなくなり、代わりにしっかりと構えられた店が見られるようになった。櫛や髪飾り、化粧品や鮮やかな衣服などが並ぶここは、恐らく貴族街……もしくはそれに近い、ハイクラスなエリアなのかもしれない。守衛がつけられた門で区切られていたのも納得がいく。

……そんなところに平然と入っていくアルマには、まったく納得がいかないが。

はぐれないように何とかついていく。前に会った時は気付かなかったが、彼はどうやら、少なくともこの世界においてはかなり背が高いらしく、人波の中に茶色の頭が一つ抜けて見えた。

しかもいつぞやの初期装備ではなく、どこで手に入れたのか仕立ての良い青の狩衣を着用している。だが目立たない麻の葉の紋紗である為か、何となくカジュアルさが勝つ印象だ。内は萌黄色の単衣を省略せずに着込み、肩や袖口から覗かせている。指貫ではなく差袴を履き、足は……革靴のような、浅沓のような……なんだろう。後で聞いてみるか。

と、ぼんやり考えていると、不意にアルマが立ち止まった。

「ここだ」

「……【富春楼】?」

落ち着いた作りの料理店がある。空腹を誘う香りが鼻腔をくすぐった。

笠は外しておけ、と言われたので外す。アルマは店員らしい人と二言三言やりとりをして、私を伴って店の中へと入っていった。

給仕の青年が恭しくアルマを案内する。彼らは立ち並んだテーブルに目もくれず、店の奥へとずんずん進んでいった。普通なら、と言うか私なら気後れするような豪奢な店内だというのに。

給仕が一番奥の扉を開く。そこには小さな空間があった。促されるままにアルマとそこに立つと、僅かな振動とともに浮遊感がやってくる。

「エレベーターまであるのか……」

「そういう魔法らしい」

私のつぶやきに、アルマは平坦に返した。給仕はちらりとこちらを見たが、すぐ興味を失ったように目を逸らす。

……やはり妙だ。

『ブルーム』

『はい!何でしょう』

『……最悪、お前に人斬りを任せるかもしれない』

『えっ!?』

ここはセーフティエリア内で、大半のスキルは結界により効果を抑えられている。

でも……何となく、だが。私はそれをすり抜けられるようだ。【魔素感知】を強く意識すると、手に取るように、あるいはそれ以上に鮮明に、 複(・) 数(・) 人(・) の(・) 気(・) 配(・) を感じた。

『……人がいる。穏やかでない相手だ』

『え、ええ……?ここ、エレベーターだって言ってたじゃないですか……』

『どんなエレベーターを想定してる?数分もせずに地上千何メートルに行けるようなもの?』

『……そうですけど』

『違うよ。ひどく遅いんだ。歩いて階段を登るよりもね。そういうものなのかもしれないし、何か目的があるのかもしれない。例えば……今みたいに、人を壁の向こうへ潜ませるとか』

『ど、どうやって潜ませて……?』

『この壁の向こうは……階段になってるみたいだ。とすれば、何処かに隠し扉があって、押し入ることが出来るのかもしれない。見知らぬ存在を見分する、都合の悪い存在を消す、その他色々に使えるだろう』

アルマに視線を投げる。彼はすぐに気付いたが、何も言うなとばかりに軽く首を振った。

澄んだ金属音がして、エレベーターが止まる。通された先は、四安が一望できるテラス席が一つだけある空間だった。どう見てもVIP席だ。

複数の、見知らぬ気配も着いてくる。

アルマがにこやかに給仕へ礼を言う。給仕は薄い笑みを浮かべて腰を折り、頭を下げた。私も倣って頭を下げる。

給仕が去る。ふう、とアルマが息を吐いて、腕を軽く組んだ。知らない気配が霧散する。

「え」

「さ、座ってくれ」

「ええ、と……?」

示された椅子に腰掛ける。アルマも向かいに座って_

「……あ〜〜〜〜……本当にごめん……」

大きく、それはそれは大きく、ため息をついたのだった。