軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6.楽しい日にしよう

これ【感覚鈍麻】や【干渉力低下】、あと諸々の【耐性脆弱】とかも一旦解消されてるみたいだ。

ごきげんよう。 人類体(この姿) では初めまして、束の間の肉体を楽しむエナです。

というわけで、私のログイン十数日目であり、かつイベント当日。

今の私は、諸々の弱体化が外れた状態の人の身体で【ファスティア】を観光している。曰く、1日目は、日が落ちてから腕利きのNPCたちによるエキシビションマッチが開催される、言わば前夜祭のようなものらしい。ので、ゲーム内時間で午前の間にログインし観光してやろうというわけだ。

「おお、初期装備だ……」

ショーウィンドウに映る私の身体。私の身体!!あっさりした無地の、みすぼらしいとすら言えそうな初期装備!!

「服を着てる……」

ああもう泣きそう。実際の私がこうなれるまでに一体どれほど掛かるだろうか。気が遠くなる。

ああ懐かしい私のフルスキャンアバター!!!!高1で170cmに達したのがちょっとした自慢な私の身長!ややうねったクセのある私のショートヘア!いつも見慣れているはずなのになんだか愛おしいよ。

なおちゃんと真顔である。安心してほしい。

「……大丈夫?そこのアイテム、ただの高級オシャレ着だけど……」

女性に声をかけられた。露骨に心配されてる。

……うん、ちゃんと真顔だったけど、真顔でショーウィンドウを見つめてる奴は確かに大丈夫じゃないね。すみません。

「すみません。その……私、本当は非人類キャラクターなので装備を着てるのが何か変な感覚なんです」

「なるほど。……ん?装備も出来ない非人類キャラクター?」

「あはは、ランダムでハズレを引いて」

「……あー、頑張ってね……?」

引かれた。今ドン引きされてたよね?ランダム生成ってそんなドン引き案件?マジかあ。

そうこうしているうちに女性はどこかへ行ってしまった。あはは、完全に関わりたくなさそうでウケる。まあ大丈夫、十数日も一人で【魔素操作】の練習をしてた私はもうボッチ上級者。あはは。

あー……。

「……3日間で散財しちゃお。どうせお金を使う当てもないし」

全部屋台飯につぎ込んでやる。いくら食べても太らないし、今ここで買った装備やアイテムも使えるかすら分からないんだから、今楽しめるようなもののためにお金を使うのが一番賢いはずだ。

というわけで。

「すみません!この【クリムゾンブルの串焼き】一つと_」

「あいよ_」

ジューシーな肉汁がしたたる肉。

「【ヒールオレンジのクレープ】、クリームとオレンジ増しチョコソーストッピングで_」

「はーい!こちらオレンジクレープ_」

ホイップとソースでボリュームたっぷりなクレープ。

「【アウェイクミントサイダーフロート】一つ_」

「はいどうぞ!お気をつけて_」

でっかくて御機嫌な爽やかフロート。

その他色々。たっぷり食料を買い込んだ私は、それら全てをインベントリにしまい込み、観戦専用エリアの席を確保しにいったのだった。

「ガラガラだ……」

観戦専用エリアにはほとんど人がいなかった。せいぜい数人がうろついている程度。モニターの真ん前、スタジアムの最前線にあるテーブルにだって、荷物の一つも置かれていない。

何せ前夜祭すら始まっていないので、本来は観戦エリアに来たって何も見るものなんかないのだ。しかしそこは運営が機転を利かせたか、【ファスティア】のそこかしこで行われているちょっとした出し物を観戦モニターに映し出してくれている。

おお、見ているだけでも結構ヒマを潰せるね。スキルを交えたトンデモ大道芸だとか、ちょっとしたファッションショーなんかも行われていた。……あれはなんだ、アイドルのライブ?

「意外と穴場だったな」

これ幸いとばかりに最前の大きめなテーブルへ陣取って、ゴソゴソと買ったものたちを並べていく。串焼き肉、ケバブらしきもの、クレープ、サイダー、アイス、チップス、ぬいぐるみ、バルーン……。

……ごめんなさい、調子に乗りました。テーマパークの家族連れくらい財布の紐が緩い。

「どうせ装備とか買ったって……持ち帰れるわけでもなし……行けるお店の当てもないし……そんな状況でお金なんか持ってたって……持ってたって……」

おかしい、こんな散財するタイプじゃなかったはずなのに。お祭りの魔力ってやつか、これが。

「えーい!今日は目一杯愉しむからな!」

とりあえず出しすぎた食べ物たちはしまい込んで……ぬいぐるみもしまおう。バルーンは出しておこう、目印代わりになる。

さて、テーブルがスッキリしたところで……まずは串焼き肉からいただきます。

「いただきます……ん。んむ!?」

これは。これは!?

「おいひい……」

はじける肉汁。ほとばしる旨み。舌に突き刺さる塩味、鼻を突き抜けるコショウ。炭火焼きの香り。噛む度にそれらが溢れ出す。嘘だろ?最近のフルダイブVRゲームの味覚再現ってここまでいってるの?

「本当の私には口も何も無いのが悔やまれるな……」

たっぷり噛み締めておかないと。いつまたこれを味わえるのか分からないんだから。本当に。ようく噛み締めておこう。あ、なんか涙が出てきた。別に影……今は魂か。魂をやめるつもりはないけれど。

そうやって超技術による超再現ごはんを楽しんでいると、だんだんとスカスカの観戦エリアにもまばらに人がやってくる。ふと見上げると、すでに日が落ちかけていた。開会式とエキシビションの開始まではまだそこそこ時間があるけれど、席を取りたい人たちが来たのかもしれない。

「すみません。相席させてもらっても?」

「ん?へ、ふひまへん……んぐ、どうぞ」

ぼんやりとスタジアムを眺めていると声をかけられた。ややむせながらどうぞ、と促す。やっと飲み込み、その人を見上げた。

「すみません……俺、ごはん買い込みすぎて」

「……私もです」

その相手は、両手にポテトとハンバーガーと串焼き肉と……たくさんの食べ物を抱えた青年だった。