軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

水と油の決闘

『カラカラ荒野』最北端。

そこには巨大なダンジョンが鎮座している。

誰が呼んだか『巨壁回廊』――――

それは壁のような山と同化しているようで、その向こう側へと渡るにはこのダンジョンを攻略しなければならない。

一人のプレイヤー“BAN”は『巨壁回廊』の前に立っていた。

そう、たった一人で。

――――正確には、裏で配信を回しながら、 あ(・) る(・) 人(・) 物(・) を待っていた。

「また会ったな。BAN」

ふと、もう一人のプレイヤーがやって来た。

プレイヤーネーム“赤月”。

その者は赤き衣を身に纏っており、飄々とした態度を崩さずに問う。

「……えぇ。奇遇や言うには、出来すぎてますけどね」

BANが彼の前に立つ。

プレイヤー赤月、プレイヤーBAN――――

2人が一堂に会するのはこれで2回目だった。

「赤月さん」

BANは一歩、前に出る。

「貴方――――このダンジョンの情報、もう掴んではりますね?」

「あぁ知ってるな」

あっさりと肯定。

隠す気すら無いその態度に、一瞬BANは目を細める。

「やはりそうですか」

くすり、と笑う。

「いやね、私、貴方みたいに物事の分かる人間は好きなんですよ」

BANは柔らかい声音で囁く。

「その上で、ちょっと気になりましてね」

そして少々怒りを漏らすように、不満を伝える。

「その情報、全部ご自身のためだけに抱え込むつもりなんか? という点がね」

「別におかしくはないだろ」

赤月は肩をすくめる。

「情報をどう扱うかは、手に入れた奴の自由だ。お前だって、俺に全部話す気は無いだろ?」

「……否定はしません。ただね、それやと一部の人間だけが得する構造になる。それって、ゲームとして健全なんやろか……って話ですわ」

「言いたい事は分かる。が、綺麗事だな」

「そう聞こえます?」

BANは軽く首を傾げる。

論理的に、しかし逃げ道を塞ぐように問い詰める。

「でも実際、情報を独占する人間が増えたらどうなるか……分断が進んで、結局は誰も得せえへん状況になると思いません?」

BANはわざとらしくため息をついた。

「君、冷たいな。「自分さえ良ければええ」、ですか。それで他のプレイヤーがどうなっても構わへん、と」

「なら「自分は違う」とでも言いたいのか? お前だってそうだろ」

赤月の声色は変わらない。

ただ冷酷に自身の主張を突き付ける。

「他人を出し抜こうとしてる時点で信用ならない。どうせ裏切られるくらいなら、最初から信用しない方がマシだろ」

横薙ぎの風と共に、一抹の沈黙が流れる。

「あぁ別に、俺はそれを悪いとは言わん。誰もが自分の利益を求めるものだからな。だからこそ、お前の言うそれは 綺(・) 麗(・) 事(・) だと言ったんだ」

互いの主張、それは水と油の如く反発し合うものだった。

まさしく水掛け論であり、どちらの主張にも一理あるからこそ交わる事は無い。

BANが語るは全体の論理。

それは 仲(・) 間(・) となるプレイヤー全員が得をするべきと主張する。

しかし、これを認めれば個人の利益などあって無いような物となり、結局BANが得をする結果となる可能性が高い。

赤月が語るは個人の論理。

それは個人の利益を尊重する考え方であり、その一種である情報を何でも開示するのは良くないと主張する。

しかし、これを認めればプレイヤー間の情報格差が生まれてしまう。

「……話になりませんな」

「こっちの台詞だ。ただ、一人で来た点については好印象ではあるがな」

「えぇ。まぁ、最低限の誠意いうやつですわ」

それを聞いた赤月は指を動かす。

直後――――

[プレイヤー 赤月から決闘申請を送られました]

[承認/拒否]

「構えろ」

「……なるほど」

BANはそれを見て、僅かに笑う。

「言葉で決まらへんなら、そらそうなりますわな」

迷いなく、承認を押す。

「ええですよ。どっちの理屈が 通(・) る(・) か、試してみましょか」

お互いに理解していた。

討論で決着が付かなければ、残るは意思と意思による闘争しかないと。

この場では、力の強い者が理屈を押し通せるのだと。

次の瞬間、周囲の空間が歪む。

景色が再構築され、外界から切り離されていった。

『決闘場 コロシアム』

決闘場に選ばれたのはコロシアムだった。

このドーム状のフィールドは、正々堂々戦うには丁度良い広さの空間だった。

余談だが、決闘場の景色はランダムで決定される。

要するに戦いを盛り上げる為の雰囲気作りである。

だが、その雰囲気が2人の決闘を 配(・) 信(・) 映(・) え(・) する決闘ものと化していた。

[決闘開始まで]

両者、武器遺物を構える。

[3]

BANは一見すれば、刀身の 無(・) い(・) 剣のような武器遺物を持っていた。

柄のみの剣、赤月は逆に警戒を強める。

[2]

対する赤月は溶岩の如く赤黒い拳銃を構える。

あの武器遺物がどんな物か分からない以上、不用意に近づく訳には行かないと瞬時に判断した。

[1]

両者、緊張が走る。

「――――先、言うときますけど」

BANが静かに口を開く。

「私は 勝(・) つ(・) た(・) め(・) の(・) 理(・) 屈(・) しか使いませんよ」

[0]

[決闘開始]

「【光刃】」

――――次の瞬間、赤月の視界が 光(・) に包まれた。