作品タイトル不明
量産開始
社内の備品整理も済んだ所で、フォビアとポンコツ狸に部長の役割を担って貰う事にした。
フォビアは物流営業部長として、流通と営業を主軸とした立ち回りを期待したい。
ポンコツ狸は調薬研究部長として、教えたレシピに加えて更に新たなレシピを開発及び生産を頼んだ。
雪だるまはヌルハートが言うには保安統括として動くようで、俺達のポーション販売の治安を守ってくれるのだそう。
そうした細々とした処理を終えた次の日――――
「え〜私達が左遷なの〜?」
「俺は構わない」
「……え〜私が左遷なの〜?」
「いちいち言い直さなくても、現実は変わらんぞ」
目の前で言い争いをしているのは雪だるまと、1人の少女らしきプレイヤーだった。
プレイヤー“飴雨”。
彼女は現代風の可愛らしいフリフリの衣服を着こなしており、『緩々隠里』の左遷に不服を呈しているようだ。
それを見ながら欠伸をする男性プレイヤー“永年労働者”。
いかにも労働者のような作業服を着ている彼であるが……俺はバトルロワイヤルで彼を一度見かけた事がある。
「お前ら2人が採集者か?」
「…………ねぇ、雪だるま。私の目がおかしいのかな。何でトーナメントの準優勝者がここに居るの?」
「言って無かったか? そもそも『ゆるゆるポーション屋』を創設したのは赤月だ」
「え、総督何も言わないの?」
「総督はここの社長だ」
「………………」
いや、本当に何も聞かされてないのかよ。
正式に創設したのつい昨日だからか、まだ情報が出回っていないのか。
「という事で、ここの現場統括の赤月だ。聞かされてると思うが、これから皆で『緩々隠里』に行くつもりだ」
「……ちなみに、そこって何処にあるの?」
「ここから2、3エリア南下した場所」
「遠っ?!」
今思えば確かに遠いんだよな。
フォビアが「そのくらい俺の友人にかかれば余裕だよ」とは言うが、本当に大丈夫か?
「赤月〜!」
ふと声の方に振り返れば、そこにはバンダナ、ポンコツ狸、フォビア、そして――――
「げっ……」
「久しぶりだな客人よ! いや、特別客人だったかな?」
スパッツが車に乗ってやって来ていた。
水泳選手が車運転してるとかシュール過ぎるだろ。
「赤月、呼んできたよ。エリア移動の達人」
「ねぇねぇ、フォビア。他の奴居なかったの?」
「他の運送業者は忙しいからね。丁度暇してたのがスパッツだけだったんだよ」
運送業者か……確か物の運搬に最適な職業だと聞いたが、プレイヤーも運べるのか。
「何度見ても、大きいな。輸送車というものは」
永年労働者がそう呟く通り、大きさだけで言えば小型トラックに近く、前面には獣の頭骨のような鉄板の装甲が幾重にも貼り付けられていた。
「だがこんなに大きいと、障害物が多い新大陸じゃ下手に移動出来ないんじゃないか?」
『緩々隠里』の周辺は『のこ丘』だ。
森程の木が多いとは言えないものの、それでも複雑な地形が邪魔をする。
この輸送車じゃ運搬は不向きじゃないか?
「意外とそうでもない。運送業者には【位相通過】の職業スキルがあるから、障害物や地形の不安定さは問題無い」
それなら大丈夫か。
障害物や地形の不安定さを無視出来るなら、確かに2、3エリアくらいは余裕で運搬出来そうだな。
「この車……結構乗り心地良いんですよね……」
「変態が運転してるって事実に目を瞑ればね」
「そんじゃ、早速『緩々隠里』に出発するか」
俺達はスパッツの輸送車に乗り込んで、早速『緩々隠里』への帰還を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『緩々隠里』
「案外早く着いたな」
障害物や地形を無視出来るとなれば、現実の車のような回り込む時間が無くなるに等しい。
感覚的には列車にでも乗っているようだった。
「凄いメルヘンチックな所〜」
周囲に生え並ぶ茸が、故郷に戻ってきたかのような安心感に包まれる。
「お、帰ってきたか」
俺達を迎えるのは、スカーフだった。
今まで留守にしてたが、この変わらない街を見るに何も問題無さそうだな。
「飴雨、永年労働者、こいつが資源調達部長――――要するにお前らの上司だ」
「スカーフだ。資源調達部長を任されたからには、君達をこき使うから宜しくね」
「初対面で「こき使う」宣言……絶対生きて帰れないよ」
「給料さえ貰えれば何でも良い」
早速ブラック上司みたいな事言うんだなスカーフ。
ヌルハートにも「是非ともこき使ってくれ」と言われてるから別に良いのか。
「あ、そうだ。皆に住人招待飛ばすわ。これは承認しても拒否しても構わない」
俺はここに居るスカーフとバンダナ除く全員のプレイヤーに住人招待を飛ばした。
承認を任意にしたのは、あくまで自分の意思で『緩々隠里』に入って欲しいというのと、そのプレイヤー自身の都合にも合わせないといけないからだ。
[プレイヤー ポンコツ狸が『住人』招待を承認しました]
[プレイヤー フォビアが『住人』招待を承認しました]
[プレイヤー 永年労働者が『住人』招待を承認しました]
[プレイヤー 飴雨が『住人』招待を承認しました]
[プレイヤー 雪だるまが『住人』招待を拒否しました]
[プレイヤー スパッツが『住人』招待を拒否しました]
ポンコツ狸、フォビア、永年労働者、飴雨が招待の承認。
雪だるま、スパッツが招待の拒否か。
まぁ妥当な面子だな。
「俺は執政官として色々行く必要があるからな。拒否させて貰った」
「私はもう他に街の住人になってしまっているからな!」
「絶対ならないといけないって訳でも無い。なるべきだと判断した奴だけ入れば良い」
ここを強制にすれば確執が起こる。
組織間の関係もガチガチにするつもりは無い。
この『ゆるゆるポーション屋』の名前のように、東のプレイヤーのような良い意味での 半(・) 端(・) を気風としていきたい。
「そう言えばマイホーム建て無かったんだよね〜赤月、建築士は居る?」
「バンダナが建築士だ」
「バンダナ〜マイホーム建てて欲しいんだけど〜!」
「分かった〜!」
ここに住むならマイホームは必須だろうからな。
是非ともバンダナには頑張って貰いたい所だ。
「そうだ、スパッツもうちに入るか?」
「私も雇ってくれるのかい?」
「そうだな……流通主任とかどうよ?」
「物の運搬メインという事かな?」
「そうだ。ここで作ったポーションを『コールド街』の本社に運ぶ仕事になる」
「それなら任せてくれたまえ!」
これで物流の問題も解決したも同然。
あの運送車があれば、ポーションも楽に運べるだろう。
「まだまだやる事は多いが……何とか形には出来てきたな」
一段落付いたと思い背伸びをしていると、ふとヌルハートから個人チャットが送られていた。
ヌルハート
「自販機の開発に成功した様だ。これから量産体制に入る」
赤月
「最高か? もう出来たのか」
ヌルハート
「この自販機が普及すれば、我々の売り上げは鰻登りに上がるはずだ。大いに宣伝もしよう」
赤月
「こっちもポーションの量産し始めるぜ」
ヌルハート
「頼んだ」
1日2日で出来ると聞いていたが……本当に開発してしまうとはな。
となれば、直ぐにポーションを量産して在庫を確保する必要があるか。
「そんじゃポンコツ狸、ポーション作りまくりタイムと行こうか!」
「今から塵のように使い潰されてしまうんですね……」
「その表現は語弊があるな。現状あんま調薬師居ないから、俺も塵のように作りまくらないと……」
「一緒に頑張りましょう……」
こういう単純作業が一番疲れるんだよな……。
まだ試行錯誤しながらポーション開発してる方が楽しいぜ……。