作品タイトル不明
ゆるゆるポーション屋
「バンダナ……まさか、あれじゃないよな」
「あれだよ。流石にビルとまでは行かないけど……」
バンダナが示す方向には、明らかに異彩な存在感を放つ巨大な建物が聳え立っていた。
レンガが幾重にも積み上げられており、周りの景色に合わせた重厚なデザインとなっている。
「どうやら、うちのバンダナは優秀な様だな。まさか、これを僅か 1(・) 時(・) 間(・) で建てるとは」
正面には広めの石階段と大きな両開きの扉があり、その脇には看板を掲げるための金属枠が備え付けられている。
ここに社名さえ入れれば、この建物が俺達の会社だと一目で分かるだろう。
更に建物の裏手には、荷車の出入りを想定した広めの通路が伸びていた。
表は来客を迎えるために整えられ、裏は商品の搬入出に使えるという訳だ。
見栄えだけでなく、商売のための動線まできっちり考えられている。
「ふふん、1時間もあればこれくらい朝飯前だよ!」
「フォビア、普通の建築士って1時間で5階建てを建てられるもんなのか?」
「そんな訳が無いだろ。マイホームの外装を整えるのでやっとのはずだ」
バンダナの建築能力は一体どうなってるんだ?
ヒーローやヌルハートとは別ベクトルで化け物プレイヤーだったとは思わなかった。
「バンダナさんって、相当腕の立つ建築士なんですね……」
「本当に?! やったぁ!」
「……あ〜とりあえず中に入るか」
俺達は正面の石階段を上がれば、正面扉の前に立つ。
扉は分厚い木材に黒鉄の補強が打ち込まれており、会社の正面玄関らしい威厳さだ。
「中はもっとビックリすると思うよ!」
バンダナが得意げに胸を張り、両開きの扉に手をかける。
すると重々しい音を立てて扉が開いた。
中へ足を踏み入れると、まず目に入ったのは広々とした受付ロビーだった。
床には磨かれた石材が敷かれており、壁はレンガを活かした造りとなっている。
無骨な外観に比べると内装は柔らかく、来客を迎える空間としてきちんと整えられていた。
正面には長めの受付カウンターが据えられており、その背後には帳簿や書類、案内用の札などを置けそうな棚が並んでいる。
「わぁ……凄い広いですね……!」
建物の奥へ目を向けると、ロビーの先には商品を保管するためのポーション倉庫が続いていた。
木箱や棚を整然と並べられるだけの広さが十分に確保されている。
瓶を種類ごとに分けて保管する区画、出荷前の商品をまとめて置く区画、予備在庫を積んでおく為の空間まで想定されているらしい。
その倉庫の奥には、裏手へ通じる搬入口が設けられており、荷車で運び込まれた商品をそのまま倉庫へ入れられるようになっていた。
「ちゃんと会社の建物だな……」
「そうだよ〜ここを本社にするつもりなんでしょ?」
「いやまぁそうなんだが……想像してた百倍はしっかりしててビックリした」
「ちゃんと皆が使いやすいように考えてるんだからね!」
ロビーの脇には二階へ続く階段がある。
バンダナ曰く、二階には来客を通すための応接室、日々の処理を行う事務室、打ち合わせ用の会議室、従業員が一息つける休憩室、そして建物内の出入りや保管区画の管理を担う警備室、威厳溢れる社長室があるのだとか。
「フォビア、これどう思うよ」
「悪くないどころか、かなり合理的だね。受付、保管、搬入を1階に集めて、応対と管理を2階に分けてる。本社としては実に分かりやすい」
「でしょでしょ!」
「……でも、これ3時間でやる仕事じゃないのは確かだね」
バンダナは流石に働き過ぎだ。
これはヌルハートからバンダナにボーナスを振り込むよう申請しないといけないな。
それくらいの働きを見せてくれた。
「後足りないのは……赤月、肝心の販売する店舗とポーションを造る場所はどうするんだ?」
「ポーション製造する場所は俺達が居た『緩々隠里』って場所でやるつもりだ。販売は……俺に考えがある」
「……と言うと?」
「今、ヌルハートに頼んであいつの部下に 自(・) 販(・) 機(・) を作らせてるんだ」
「おいおい、『コールド街』にポーションの自販機を置く気かよ!」
ポーションを売りに出すなら、他プレイヤーにもある程度存在を認識させなければならない。
その上で、彼らの中でポーションをもっと身近に、そしてお手軽に購入出来るようにするべきだ。
という訳で、ポーションの自販機を作れば買う時の抵抗感は薄くなりジャンジャカ金を落としてくれるに違いない!
「なる程……だから、この建物に店舗のスペースが無かったんですね……!」
『緩々隠里』で作って、本社に持って行って、自販機に補充して、他プレイヤーが金を落とす。
なんて素晴らしい集金システムなんだ。
「――――もう建物が出来上がっていたか」
「総督……!」
ヌルハートが現れた瞬間、俺とバンダナ意外は跪く。
俺達もした方が良いのか一瞬悩んでいると、ヌルハートは楽しそうに笑い出した。
「バンダナが3時間で建てたらしい」
「ほう、それは素晴らしい腕だな。客人でなければ、私の直属の部下にと推していた所だ」
お前の部下に?
それ半分罰ゲームじゃねぇか?
「総督は、何故こちらに?」
「うむ、この2人に 特(・) 別(・) 客(・) 人(・) としての地位を授けたいと思ってな」
「特別客人?」
ここのヒエラルキーは総督、執政官、構成員、住民、客人、反乱分子と分けられると聞いている。
となれば、特別客人は相当な例外処置なのだろう。
「本来、客人は反乱分子に成り得る可能性を秘めているが故に、ヒエラルキー上では住民より下に位置付けられていた」
薄々そんな気はしてた。
この『コールド街』を1歩でも出歩けば、怪訝な様子で俺達を見てくるのは、ヒエラルキーが低いからというのもあったんだろうな。
「だが、この2人は十分我らの利となる行動をしてくれている。そんな彼らを私が直々に「信用に足る人物である」と認定しよう。2人を含め、今後特別客人となった者は住民と同等の人権を持つものとする」
「「「ははっ!」」」
それでも住民と同等か……まぁ構成員と同等にしてしまえば反発も起きると危惧しての事だろうな。
「えっと……つまり?」
「俺達とは正式に仲間だと宣言した形だな」
「こうでもしないと不満が溜まってしまうからね。秩序を維持するには、これも必要な行動だ」
「雪華辺りが嫌な顔するだろうが……少なくとも表向きはお前達の身元は保証された。良かったな」
それを聞いてもバンダナは微妙な表情を崩さない。
きっと、その余りの堅苦しさに、どのように反応をすれば良いのか分からないのだろう。
個人的には俺もバンダナと同感だな。
ヌルハートらしいといえばらしいが、ヒエラルキーは『ボレアス社』プレイヤーにとって大きな意味を持つらしい。
俺にも彼らの気持ちは分からん。
「そういやヌルハート、自販機の進捗はどうだ?」
「少々時間はかかるが、開発する目処は立っているのだそうだ。1日2日も経てば完成するだろ」
「……総督、あの人達ちゃんと寝てるのか?」
「無論、3時間は寝てるそうだ」
「それ「寝てる」って言うのかよ……」
俺が思い付いたばっかりに、裏方の見知らぬプレイヤーが犠牲になっているみたいだな。
きっと総督万歳三唱を唱えながらブラック環境で必死に脳みそを動かしているに違いない。
可哀想に。
「そんな事より、重要な事があるだろ」
「重要な事って?」
「せっかく会社を作るんだ。 会(・) 社(・) 名(・) を決めなければ示しが付かない」
「……あ〜」
そう言えば会社名決めてなかったな。
確かに、ただ『ポーション会社』じゃ分かりにくいな。
「じゃ、『ゆるゆるポーション屋』で」
「ぶっっっ……!!!」
「は?」
ヌルハート、お前何吹いてんだ?
俺のスーパーネーミングセンスに何か問題でも?
「いやはや……赤月らしい名前じゃないか」
「分かりやすくて良いと思うよ!」
「総督が素で笑ってる所初めて見た……」
「何か名前変えたくなっ――――」
「それでは、会社名を『ゆるゆるポーション屋』とする!」
おいこら、ヌルハート。
絶対変に弄るんじゃねぇぞ。
これは俺の街『緩々隠里』にちなんだスーパーネーミングなんだからな!
「赤月って可愛い所あるんだな」
「よし、ヌルハート。一旦この決闘申請を――――」
「待て待て待て待て! 何総督とバトろうとしてんだ! 抑えろ抑えろ!」
凄い恥ずかしくなってきた!
離しやがれ雪だるま!
こいつをボコさせろ!