軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

58 サザランド訪問5

「それで、私は具体的に何をすればいいのでしょう?」

この地の強心剤になってほしいと言われたものの、具体的に何をすればよいのかが分からないため、シリル団長に尋ねてみる。

「そうですね、私やカーティスとこの地を巡っていただければと思います。あなたが何かをしなくとも、あなたを見た住民たちは強烈に反応するでしょう。立ち止まることを止めて、考えはじめると言い換えても良いかもしれません」

「なるほど…………」

シリル団長の言葉にうなずいていると、静かに片手を取られた。

「フィーア。……私が同行していない時に住民たちに言われたことや取られた行動は逐一報告してください」

「了解しました」

心配そうに見つめてくるシリル団長の気持ちが分かるので、にこりとして答える。

それでもまだ心配が尽きないとばかりに私の片手を握りしめているシリル団長を見て、団長業務は大変だなと思う。

……まぁ、心配性なところも優しいところもシリル団長の長所で、悪いことだとは思いませんけどね。

私は首をこてりと傾けると、シリル団長にこれからの行動を確認する。

「シリル団長、ファビアンと私はこれから街で買い物をしようと思っていたのですけど、予定を変更した方がいいですか?」

「……いえ、でしたら私たちも同行させていただければと思います」

シリル団長の発言により、その場にいた全員で街まで足を延ばすことになった。

カーティス団長は慣れた土地のためリラックスしていたけれど、シリル団長は落ち着かない様子だ。

……うーん、シリル団長って色々気をまわしすぎて苦労するタイプだよね。

せめてこれ以上シリル団長に気苦労を与えないよう、迷惑を掛ける行動は止めようと心に決める。

心の声が聞こえたわけでもないだろうに、ファビアンがちらりとこちらに視線を送ってきた。

「そんな真剣な顔をして、フィーアは何を考えているのかな? 君は普段通りがいいと思うよ。違う事をしようとすると、問題を呼び寄せそうな気がする」

「し、失礼な! 私は普段から従順でおとなしい新人騎士ですよ」

「………………」

「………………」

「その通りだね。君は控えめな騎士だと思うよ」

どういうわけか、肯定してくれたのはカーティス団長だけだった。

そのことを不満に思いながら、街の中に入る。

さすが公爵領の街だけあって、賑わいのある通りだった。

道幅は広く、両側にびっしりとお店が並んでいる。

果物をかじりながら歩いている人や、友達と話をしながら店先を覗いている人など、多くの人が楽しそうに往来していた。

お店もパンやお肉といった食べ物屋から日用品や雑貨の販売店など様々なものが並んでおり、眺めるだけでも楽しそうだ。

私は突然あることを思い出し、得意げに3人を振り返った。

そして、内ポケットに入れていた封筒をじゃじゃんと取り出す。

「見てください、私は今回軍資金持ちなんですよ! なんと、デズモンド団長がおせんべつをくれたのです!」

見せつけるようにひらひらと振って見せた封筒の中には、デズモンド第二騎士団長からもらったせんべつ金が入っていた。

「へぇ、デズモンドは直属でもない部下にせんべつを渡すんだ? なんだか意外だな」

不思議そうに首をかしげるカーティス団長に対して、シリル団長はにべもなく切り捨てた。

「デズモンドには妻も恋人もいませんからね。高給取りだというのに、お金を使う機会も相手もいないだけです。フィーアにせんべつを渡すくらいには、十分お金が余っているのでしょう」

「ええと、デズモンド団長のおみやげは何にしようかな?」

面倒くさそうな話になりそうだったので、あくまで自分の話に切り替えたのだけれど、横からごちゃごちゃと口を差し挟まれる。

「女難防ぎのアイテム、あるいは逆に縁結びアイテムあたりがいいと思いますよ」

「シリル団長のアイデアもいいけれど、デズモンドなら食べ物じゃないかな。肉とか肉とか肉がいいと思うよ。燻製させたものなら日持ちするしお薦めだよ」

全く性質の異なるおみやげを提案されて困っている私に、ファビアンも新たな提案をくれる。

「サザランドは貝が有名だから、貝で作られたチェス盤とかどうかな?」

くうっ、別々の物を提案するのは止めてくれないかしら。

どれを選んでも角が立つじゃあないの。

だからって、全部買ったらおせんべつの金額を超えそうな気がするし……

困ったなぁと思いながら、取り敢えず目の前で売っている葉っぱに包まれた煮魚を買うことにする。

「1つください! すぐ食べます」

お店の主人は笑顔で商品を渡そうとしてきたけれど、私の髪を見た瞬間ぎょっとしたように目を見開いた。

「え? ど、どうかしましたか?」

あまりに驚かれるので、思わず聞いてしまう。

「い、いや、何でも……」

もごもごと口ごもりながら商品を手渡してくれたお店の主人だったけれど、今度は明らかに視線をそらされた。

わぁ、これがシリル団長が言っていた「赤い髪拒絶反応」かしら。

ここまで分かりやす過ぎると、さすがに見逃すことはないわね。

そう思いながら葉っぱをぺりぺりっと開いて、中の魚を食べやすいように剥いていく。

「あら、ほんとに煮てあるのね。この魚は焼き魚のイメージだったわ……」

緑の丸い模様が特徴のサザランド海域にしか生息しない魚だけど、前世で食べた時は焼いてあって、それが美味しかったのを思い出す。

私のつぶやきをひろった店主は、はっとしたように顔を上げて私を凝視してきた。

……あ、あれ? 魚を食べる時、大口を開けすぎたかしら?

それとも口元にソースが付いているのかしら、と思ってさり気なく手の甲で口元を拭ってみるけど、手にソースは付いてこない。

ああ、この穴が開くほど凝視されるというのも「赤い髪拒絶反応」なのかしら?

そう思いながら、シリル団長、カーティス団長、ファビアンを振り返る。

「このお魚、すごく美味しいですよ? 団長たちも食べます?」

3人は揃ったように首を横に振った。

あら、美味しいのに。

私はもぐもぐと残りのお魚を食べながら店先から離れ、隣のお店を覗く。

隣の店先には、私の頭位の大きさがある茶色い木の実が幾つも並べてあった。

「あ、これ美味しい木の実ジュースだ!」

私の声にその店の店主は笑顔で顔を上げたけれど、赤い髪を見るとやはり驚いたようにぎくりと体を竦ませる。

……あら、またもや「赤い髪拒絶反応」だわ。

こんなに姿を見られただけで竦まれると、自分が怪物にでもなった気分になるのだけど。がおー。

「おじさん、私の赤い髪って怖いです? それとも、気付いていないだけで、私って実は恐ろしい外見をしているんですかね?」

人の良さそうな店主だったので、素直に尋ねてみる。

店主は数秒間無言で、私を頭のてっぺんから足先までじろじろと眺めると、恐る恐るといった風に口を開いた。

「お嬢ちゃんは騎士……なのかな? それとも、騎士の格好をした聖女様?」

「はい、騎士ですよ。普段は王都に勤めていますが、慰問のためにサザランドを訪問しているところです」

「騎士、騎士なの……。そんな赤い髪をしているというのに」

「赤い髪にも色々ある。大聖女様の赤は暁の色だ。……きっと、この色じゃあない」

「ああ、でも、もったいない。せっかく赤い髪をしているのに……」

いつの間にやら人だかりができており、私たちの会話を拾った人たちが周りで発言していた。

シリル団長が言っていたように、住民たちが赤い髪に思い入れがあるというのは事実のようだ。

住民たちの会話の一部が何かの記憶に触れる。

「暁の赤……。そういえば、以前どこかで私の髪を暁の赤と表現されたことがありますよ」

ええと、どこだったかな。

前世だったのは間違いないけど、みんな好き勝手に私の赤髪を表現していたからな。

「こ、この髪色が暁の赤……」

「これが……あの……」

住民たちは突然、あり得ないものを見るかのように私の髪をまじまじと見つめ出した。

あ、あれ?

そんなに注目を集めるようなことを言ったかしら?

何か言うべきかと思い口を開きかけたところで、どすんと勢いよく何かが背中にぶつかってきた。

驚いて振り返ると、私にぶつかった勢いで跳ね返り、尻餅をついている子どもの姿が見えた。

よく見ると、先ほど海辺で出会った子どもの一人のようだ。

「大丈夫?」と声を掛けながら助け起こすと、子どもは動転したかのようにがくがくと震えだした。

「た、た、助けて。み、みんなが森で魔物に襲われた……!」

「えっ?」

驚いて思わず声を上げたけれど、まずは子どもを落ち着かせようと同じ目線になるためにしゃがみ込む。

……魔物ですって?

あまり強くないといいのだけれど……

口を開きかけたところで、離れた場所に位置していたはずのシリル団長たちが、すぐ後ろに立っていることに気付く。

……あ、そうでした。私は精強な3名の騎士と一緒でした。

ちょっとくらい強い魔物でも、問題ないですね。