軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

278 筆頭聖女選定会 三次審査 3

「聖女様方にはこれから森の中に入っていただきます。全ての聖女様にはそれぞれ事務官が付きますが、決して邪魔はいたしません」

事務官の話を聞いて、そういう話だったわねと頷いていると、クェンティン団長が後ろから囁いた。

「もしも事務官が邪魔だと思ったら言ってください。オレが遠くに追い払いますから」

本当にやりそうだと思ったため、聞こえない振りをしていると、事務官が聖女たちをぐるりと見回す。

「しかしながら、全員が同じ地点からスタートすると、なかなか魔物に遭遇しないチームが生じてしまいます」

それはそうでしょうね。

全部で12組もいるのだから、全員で同時に歩き出したら森の中が渋滞しそうだわ。

「そのため、この地点以外にも2か所のスタート地点をご用意しました。それぞれ、この地点から10キロ東側と、10キロ西側になります。それらの地点からスタートする場合は、いったん森の外に出ていただき、馬車でそれぞれの地点までお連れします」

へー、つまり、普段行かない場所に馬車で行けるってことね。面白そうだわ。

「行きます!」

即座に手を挙げると、プリシラも手を挙げた。

「私もフィーア聖女と同じ地点に行きたいです!」

あら、プリシラも冒険が好きなタイプなのね。

そういえば、プリシラは幼い頃に森に入って竜に襲われたと言っていたし、意外とお転婆なのかもしれないわ。

そう思っていると、アナやメロディ、ケイティ、ローズも手を挙げた。

そして、最終的にはプリシラとローズと私が森の東側に、アナとメロディとケイティが西側に移動することになった。

聖女たちが馬車に乗り込み、その後ろを騎士たちが馬に乗って付いてくる。

東側の森行きの馬車には、私とともにプリシラとローズが乗ってきたので、これ幸いと騎士団長たちをアピールしてみる。

「プリシラはザカリー団長を選んだのよね! ザカリー団長は男気があるし、強いし、この森に一番詳しいから、すごくいい選択だと思うわ。それから、ローズが選んだイーノック団長は寡黙だから、ちっとも邪魔にならないし、魔法の腕がすごいらしいわよ」

騎士団長たちの素晴らしさを力説していると、プリシラから質問される。

「フィーアが選んだクェンティン団長はどうなの? 騎士に詳しいフィーアが選ぶくらいだから、相当手練れなのかしら」

「そうねえ……もちろん騎士団長だから、剣の腕はすごいわよ! 他の人が思いつかないような独創的な行動をすることもあるけど、必ずいい結果につながるの! それから、魔物に対する愛情がすごいわ」

これでもかとクェンティン団長を褒めたというのに、プリシラは顔をしかめた。

「ふーん、独創的っていうのは、変わり者を表現する時によく使う言葉よね。それに、人間の敵である魔物に愛情を抱くって時点で普通じゃないわ。つまり、クェンティン団長は変わり者ってことね!」

「い、いえ、変わり者では……」

ない、と言い切っていいのかしら。

きっぱり断言する自信がなかったため、言葉を濁していると、プリシラが考えるように窓の外を見つめた。

「ところで、第一次審査でも思ったけど、第二次審査も聖女が成長することを願って、私たちに学習させる内容になっていたわね」

「えっ、プリシラもそう思ったの?」

私も同じことを思ったため、驚いて聞き返すと、その通りだと頷かれる。

……そうなのよね。

第一審査では聖女と医師が協力するようカルテが導入されていて、聖女の能力を最大限活用できるような工夫がしてあった。

第二次審査では聖女たち全員に同じ部屋で薬を作らせ、互いの技術を見て知れるような仕組みが施されていた。

「ということは、第三次審査もそんな工夫がしてあるのかしら? うーん、でも、騎士たちの戦闘に、いきなり聖女が参加できるはずもないわよね。騎士たちの戦いを見ることで、聖女に何かを獲得してほしいのかしら?」

300年前は聖女が戦闘に参加することが当たり前だったけれど、今はそんなことをする聖女は一人もいない。

そして、戦闘時の立ち回りというのは一朝一夕で身につく技術ではないので、騎士たちが魔物と戦う姿を見たからといって、突然できるようになるものではない。

だから、運営側は聖女に何を期待しているのかしら、と疑問に思っていると、プリシラがぽつりと呟いた。

「多分……私たちに、聖女としての心を取り戻してほしいのじゃないかしら」

「聖女の心?」

一体どういうことかしらと聞き返すと、プリシラは考えながら言葉を続けた。

「この選定会を策定した人は、聖女の素晴らしさを信じているのだと思うわ。だから、今より優れていた、昔の聖女に戻ってほしいと考えているんじゃないかしら。選定会には国中から選りすぐりの聖女が集まるでしょう。きっと、聖女に変化をもたらす絶好の機会だと考えたのね」

「つまり、第一次審査と第二次審査では聖女のスキルを上げる仕組みを施して、第三次審査では聖女の心を育てる仕組みを用意したってこと?」

確かに、必死に戦う騎士たちを見たら、聖女として力になりたいと思うわよね。

だから、プリシラの言うことは当たっているかもしれないわ。

「ええ。とはいえ、策定者も思い描いた通りに上手くいくとは思っていなかったでしょうし、私たちの誰かが策定者の意図に気付くとは思っていなかったんじゃないかしら」

プリシラの言いたいことが分からずに質問する。

「どうして?」

「多分、フィーアが参加していなかったら、こんな風に上手くいかなかったからよ」

「そんなことはないわ」

プリシラったら真面目な顔をして何を言っているのかしらと思いながら否定すると、彼女は勢いよく言い返してきた。

「そんなことがあるのよ! 私だってフィーアに会って、その力を見て、あなたの考え方に触れなかったら、何を見ても、何を聞いても、心に響かなかったはずよ。それなのに、先ほどの筆頭聖女のデモンストレーションがすごく心に響いたの。それは、フィーアに出会ったからだわ」

それはたまたまじゃないかしらと考えていると、プリシラは頬を赤くして言葉を続けた。

「だから、以前の私では考えられないことだけれど、訓練を重ねれば私にも筆頭聖女のようなことができるかもしれないと考えたし、たとえできなくても、他の方法で聖女として皆を感動させたいと思ったの」

「素晴らしい考えね」

さすがプリシラだわと感心して褒めると、彼女はさらに頬を赤くした。

「だから、それは全部フィーアのおかげだって言っているの!」

「私は何もしていないわ」

きょとりとして言い返すと、彼女はさらに言い募ってきた。

「フィーアはそこにいるだけで、聖女のお手本になるのよ!!」

「さすがにそれは言い過ぎだわ」

プリシラったらどうしちゃったのかしら。私を褒め過ぎだわ。

それに、私がここにいるだけで聖女のお手本になるって言ってくれるのはありがたいけど、実際に私が色々とやってみた方がお手本になると思うわよ。

私が笑みを浮かべていると、プリシラは綺麗な髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。

「ああ、もう、フィーアは本当に自分の価値が分かっていないわね! だけど、実際にフィーアのおかげで私たち聖女は少しずつ変わってきたのよ! ね、ローズもそう思うでしょう?」

私相手では埒が明かないと思ったのか、プリシラはローズに同意を求める。

けれど、ローズはちらりとプリシラを見ると、ぷいと視線を逸らした。

「……聖女の誰を尊敬しているかという話なら、私は王太后様を尊敬しているわ。王太后様は何者でもなかった私を見出してくださったんだもの。古の大聖女様は尊き金の瞳を持っていたというけれど、王太后様の金の瞳も特別なのよ」

それはそうね。王太后の右目に入っているのは、王家に伝わる精霊王の瞳だから……と考えたところでふと思う。

前世の私は精霊王の金の瞳を受け継いでいたから、様々なことができた。

もしかしたら王太后の瞳にもその力があるのかしら?

そうだとしたら、王太后には普通の者には見えないものが見えるのかもしれない。

でも、強大な力というのは、行使するとその分だけ体に負担がかかってしまう。

そして、王太后は王家の生まれではないから、そもそも金の目に耐えられるような体の造りをしていないかもしれない。

……と考えたところで、ローズが第二次審査の最中に、疲れ目の薬を作ったことを思い出す。

「ローズは第二次審査で目の薬を作ったわよね。あれは王太后陛下のためのものだったの?」

思い付くまま質問すると、ローズは硬い声を出した。

「どうしてそう思うの」

ローズが警戒するように私を見てきたので、そうよね、彼女は王太后の片目にいわくがあることを知らないはずよねとハッとする。

それなのに、私がピンポイントで王太后の目について尋ねたから、訝しく思ったに違いない。

私はローズに警戒されないような言葉を選んで言い直す。

「ええと、もしかしたら王太后陛下の右目は疲れやすいんじゃないかと思ったの。あの金の瞳は特別美しいから、特別なケアが必要なのじゃないかしらってね」

私の発言はローズのお気に召したようで、彼女はふっと表情を緩めた。

けれど、すぐに取り澄ました表情に戻ると、ぼそりと呟く。

「自分で聞けばいいわ」

「どういうこと?」

王太后に直接尋ねる機会があるのかしらと、不思議に思って聞き返すと、彼女は私をじっと見てきた。

「私とフィーアが森の東側に向かっているのは、私があなたを誘ったからよね」

「ええ、そうね」

ローズの言う通り、私が森の東側をスタート地点に選んだのは、彼女が私を誘ってくれたからだ。

ローズが私を個人的に誘ってくるなんて初めてだったから、驚いたけど嬉しかったのよね。

にこりとしてローズを見つめると、彼女はふいっと視線を逸らした。

「私が森の東側に行きたいと言ったのは思い付きじゃないわ。……王太后様の言いつけなの」

「えっ」

思ってもみない言葉を聞いて目を丸くすると、ローズは真剣な表情で続けた。

「王太后様は筆頭聖女として、長年この国を支えてこられたわ。だから、その地位にものすごく思い入れがあるの。そして、次の筆頭聖女になる可能性が高いフィーアと話をしてみたい、と私に言われたの」

なるほど、だからローズは私を誘ってくれたのね。

彼女が敬愛する王太后の頼みだというのならば、納得だわ。

でも、王太后は本当に私と話をしたいのかしら?

先ほど王太后とすれ違った時、これっぽっちも視線が合わなかったことを思い出しながら、疑問に思ったことを質問すると、ローズは「私は嘘を言わないわ!」と顔を真っ赤にした。

それから、王太后に頼まれた時の状況を説明してくれたのだけれど、どうやら王太后は私を名指ししたわけではなく、『次の筆頭聖女の最有力候補に会いたい』と言ったらしい。

現時点で、選定会1位の聖女は私だから、ローズの行動に間違いはないのだけど、言葉にされた時のニュアンスはだいぶ違うわね。

プリシラも同じように思ったようで、呆れたような声を出す。

「プライドの高い王太后様の言いそうなことね。フィーアを認めるのが嫌なんでしょう」

プリシラの言葉は王太后を崇拝しているローズには受け入れがたかったようで、彼女はプリシラをキッと睨み付けた。

「不敬なことを言わないでちょうだい! 王太后様に間違いはないわ! せっかく期待してもらったのに、1位になれなかった私が悪いのよ」

ローズの言葉を聞いて、プリシラがしょんぼりと俯く。

「それなら……私だって1位になると期待されて送り出されたのに、フィーアに負けているわ。でも、これは私が悪いんじゃないわ。私が今の倍の魔力を有していても、フィーアに勝てる気がしないもの! つまり、フィーアが相手だから仕方がないのよ」

ローズはその通りだと頷いた。

「……そうね。フィーアに勝つのは無理ね」

「ええ、太陽が西から昇っても無理よ!」

2人が分かり合ったように手を取り合う姿を見て、私はやれやれと肩をすくめる。

プリシラもローズも、好き勝手言ってくれちゃってるわ。

でも、私が途中で抜けたら、プリシラが1位になるのよ。そのことを分かっているのかしら。

じとりと2人を見つめたところで、馬車が停まる。

どうやら、東側のスタート地点に到着したようだ。

そのため、私たちは3人そろって馬車から降りたのだった。