軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

276 筆頭聖女選定会 三次審査 1

「フィーア、体は大丈夫なの?」

聖女たちの控室となっている天幕に入ると、プリシラが足早に近寄ってきた。

他の聖女たちも心配そうに私を見つめてきたため、大丈夫よと頷く。

シリル団長に抱きかかえられて移動した姿を見られたため、どうやら心配をかけたらしい。

「心配をかけてごめんなさい。その、王太后陛下を見てショックを受け、ふらついちゃったみたい」

肝心な部分をぼかして説明すると、上手く誤解してくれたようで、プリシラは訳知り顔に頷いた。

「分かるわ、私も衝撃を受けたもの。いくら筆頭聖女とはいえ、戦闘中に騎士の怪我を治すことができるなんて、夢にも思わなかったわ」

プリシラの言葉を拾った聖女たちが、その通りだと同意する。

「プリシラ聖女の言う通りね! あんなに短時間で治癒できるなんて驚いたわ! さすが筆頭聖女だわ」

「それに、あれほど魔物の近くに立つなんて、すごい勇気だわ!」

「……そうかもしれないわね」

サヴィス総長の話を聞いたことで、イアサント王太后のことがよく分からなくなったため、曖昧な返事をする。

そんな私を見て、聖女たちはまだ具合が悪いのねと心配してくれた。

「フィーア、ベールを取ることができてよかったわね。気分が悪い時は、あの薄布一枚でもあるのとないのとでは大違いだわ」

「フィーアは選定会の開会式でもベールを被っていたわよね。もしかして大勢の人がいる場所が苦手なの?」

「だったら、安心してちょうだい。筆頭聖女のデモンストレーションが終わったから、見学者たちは騎士たちに案内されて森から出ていったわ」

そうなのねと頷くと、聖女たちは興奮を抑えられないようで、再び王太后について語り始めた。

「ああー! 何度思い返してみても、筆頭聖女の魔法はすごかったわね!!」

「でも、さすがにあのやり方は真似できないわ」

「聖女たちへのはなむけと言われたけれど、私たちが同じことをするのは無理よ」

そんな中、アナが考えるように首を傾げる。

「でも、第三次審査では騎士とともに行動するから、魔物と遭遇した際、聖女は少し離れた場所で待機するわよね。そして、負傷して離脱してきた騎士がいたら、その場で治癒するわよね。だから、筆頭聖女の治癒方法と実質的には大きく変わらないんじゃないかしら」

アナの発言内容は非常にごもっともだったけれど、ケイティがおっとりと言い返す。

「人々が受けるインパクトは大きく異なるわ」

「……それはそうね。全然違うわね」

アナはあっさり認めると、顔をしかめた。

「第三次審査で、聖女は一人一人別れて行動するのよね。第一次審査も第二次審査もフィーアに助けられてばかりだったから、一人になるのは心許ないわ」

「……分かるわ。保護者がいなくなる感覚ね」

プリシラが寂しそうに同意してきたので、そういえば言ってなかったことがあるわと、プリシラにだけ聞こえるような音量で囁く。

「あの……プリシラ、言っていなかったけれど、実は私は聖女として人前に出続けることに問題があるの。だから、今後ずっと聖女として活動することはできないから、最終的な順位が付く前に……今日の審査の途中で抜けるつもりなの」

この話は以前、アナたちにはしていたけれど、プリシラにはまだだったわ。

ここで言っておかないと、プリシラに言えないまま選定会が終わってしまうわ。

そう思ったため、アナたちに語ったのと同じ説明をすると、プリシラは目を丸くした。

「……何ですって?」

心底驚いた様子のプリシラを見て、私は申し訳ない気持ちになる。

「その……申し訳ないわ」

「……何で、どういう……フィーア」

プリシラが混乱しながらも心配そうな顔をしたので、あ、違うわと慌てて言い募る。

「私の体調が悪いとかではないから、心配しないでね! その、私には特殊な事情があって、ある人物から姿を隠さなければならないの。だから……不特定多数の前に出る聖女業務を続けるのは難しいから、引退するってわけ」

「ということは、特定少数の前には出られるってこと? あなたは王家が秘匿する聖女だから、今後も王家のためにそのたぐいまれな力を行使するってことね?」

プリシラったら難しいことを聞いてくるわね。

「ええと、それは……分からないわ」

私は聖女じゃないことになっているから、今後、人前で聖女の力を使うことはないと思うのよね。

ただし、聖石を持っているから、この石のせいにできる範囲でなら魔法を使うかもしれない。

つまり、将来のことはさっぱり分からないから、曖昧な言い方にしておくのがいいわよね。

プリシラの顔にはたくさんの疑問が浮かんでいたけれど、彼女はそれらを全部飲み込むと、真剣な顔で口を開いた。

「フィーア、私は心からあなたに感謝しているの。だから、あなたの事情を聞き出すことはしないし、事情を知らずにあなたの決断に口を出すこともしないわ。でも、一つ確認させて。以前、あなたは王国に勤める騎士だと言ったわよね。騎士団に行けば、またあなたに会えるのね?」

その通りだったので、こくりと頷く。

「ええ、その通りだわ」

すると、プリシラはほっとしたように詰めていた息を吐いた。

「分かったわ。……話してくれてありがとう」

プリシラが穏やかな表情を浮かべてお礼を言ってきたので、私の決断を受け入れてもらったのだと嬉しくなる。

「プリシラこそ、聞いてくれてありがとう」

そうお礼を言い返したところで、天幕の外から声が響いた。

「聖女様方、そろそろお時間です! ご準備ができた方は、天幕の外にお集まりください」

「……いよいよ始まるわね」

プリシラが緊張したようにつぶやいたので、そうねと頷く。

プリシラは手を伸ばしてくると、私の両手をぎゅっと握った。

それから、彼女は真剣な表情で私を見つめてきた。

「フィーア、あなたは思うがままに行動することができるし、最後の瞬間まで自分の意見を変えることができるわ。全てあなたの自由よ」

「……ええ」

プリシラは私を認めてくれたのじゃないかしら。

彼女の発言内容からそのことを感じ取り、感謝を込めて頷くと、プリシラは穏やかな笑みを浮かべた。

「だから、選定会の途中で抜けたければ抜けてもいいし、聖女として思いっきり振る舞いたかったら振る舞えばいいわ。あなたが何をしたとしても、私はあなたの行動に聖女を見るし、心から敬うから」