軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【SIDE】第一騎士団長シリル

ナーヴ王国黒竜騎士団の第一騎士団長にして、王国の南端を治めるサザランド公爵。

それが私だ。

加えて、私は国王の従弟でもあるため、王位継承権第2位が設定されていた。

そのためか、デズモンドが「王国の虎」と呼ばれるのに対し、私が「王国の竜」と呼ばれることがあった。

しかしながら、竜は王家の紋章であり、王を指して竜と呼ぶことがある。

いくら私に上位の王位継承権が設定されているにしても、これは不敬極まりないだろう。

そう考え、若い頃の私は竜と称されることに度々憤っていたが、ある時、サヴィス総長が私に言った。

『例えば、お前が王太子になれば、竜と呼ばれても違和感はあるまい』

その言葉を聞いて、私ははっとした。

なぜならこの時、コレットは既に長い眠りについていたし、ローレンス国王の体は成長を止め、影武者を立てていたからだ。

だから、誰に言われなくとも、総長は予見していたのだろう。

いずれローレンス国王は退位し、サヴィス総長が王になるのだと。

その際、私の王位継承権が1位に繰り上がり、王太子と見做される立場になるのだと。

世の中には、どうにもならないことがある。

どんなに能力があっても、どんなに努力をしても、どうにもならないことがあるのだ。

10年前、総長が右目と感情を失われた時、そのことをまざまざと思い知らされた。

私は総長の隣にいたのに、何もできなかったのだから。

あの日から、私は総長の右目になった。

総長の右目として、見るべきものを目にし、見るべきでない一切のものを排除してきた。

戦場では、必ず総長の右側に立ち、彼の右目として働いた。

私の全ては、王国に捧げたのだ。次期国王であるこの方のために惜しむべきものなど、何一つない。

◇◇◇

「……そう、長年考えてきましたが、果たして私の考えは正しかったのでしょうか?」

それはつい先ほど、サヴィス総長とフィーアの会話を聞いた際に浮かんだ疑問だった。

サヴィス総長が右目を治すべきかと尋ねた時、フィーアは迷いもせずに肯定したのだ。

『私は今、聖女として選定会に参加しているので、聖女的な考えを持っているのかもしれません。聖女としては、治せるものは全て治して、健康な肉体を持つことが、幸せへの道だと考えます』

そのような選択肢があるとは、夢にも思わなかった。

しかし、フィーアは他の聖女と協力し、10年前に欠損したモーリスの脚を治してみせた。

そうであれば、10年前に失った目を再生することだって、できるのかもしれない。

フィーアが胸にかけていたきらきらと輝くネックレスを思い出しながら、そう考える。

サヴィス総長が隻眼であるということは、私の中で今後もずっと変わらない決定事項だった。

しかし、フィーアの中ではそうでないのだ。

彼女はモーリスの脚を治すことで、サヴィス総長の目が治る可能性を示したのだから。

私はずっとサヴィス総長と同じものを見つめてきたから、総長の望みは分かっているつもりだった。

そうして、これまでずっと、総長の望みを叶えるために尽力してきた。

そのはずだったが……フィーアが総長の右目を治した方がいいと発言した時、私は初めて自分が間違っていたかもしれないと考えた。

フィーアは『治せるものは全て治して、健康な肉体を持つことが、幸せへの道だと考えます』ときっぱり言い切ったのだから。

私は総長の気持ちを慮り、同調するばかりで、異なる意見を出すことなど考えもしなかった。

そもそも異なる意見など、総長の意向に沿うはずがないと思っていたから、余計なものだと思っていた。

それなのに……

「フィーアの意見がサヴィス総長の決意を揺らすなんて……」

そのことは、傍で見ていて明らかだった。

だからこそ、サヴィス総長は己に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返したのだ。

『オレの右目は王太后にくれてやった! オレには必要ないものだ』

フィーアの言葉はサヴィス総長にとって金言に思われたが、彼女は自分の考えを押し付けることなく、あっさり引いた。

彼女は己の考えが絶対だとも、正しいとも思っておらず、選択を本人に任せたのだ。

私はため息をつくと、頭を振った。

「……いえ、これは今考えるべきことではありませんね。何といっても、選定会の最中なのですから、余計なことは考えずに、やるべきことに集中すべきです」

そう呟いたところで、先日、上級娯楽室でクラリッサが言った言葉を思い出す。

『あっ、……嫌だ! 考えてみたら、10年前のメンバーが全員揃うことになるじゃないの。うわっ、何も起こらないといいけど』

サヴィス総長が隻眼になった理由を騎士団長たちに語ったことはないけれど、彼らは薄々何が起こったのかを察していたようだ。

そして、再び悲劇的なことが起こるのではないかと心配していたから、私はきっぱり宣言したのだ。

『何も起こりはしませんよ。少なくとも、悲劇が再現されることは決してありません。私がいる以上、何も起こさせません』

10年前の悲劇は様々な事柄が絡み合い、連鎖していたが、―――発端は『サザランドの嘆き』だった。

だからこそ、私は起こった悲劇の多くを、自分の責任だと考えた。

もうこれ以上、悲劇を繰り返してはならない。

イアサント王太后のデモンストレーションは終わり、後は粛々と第三次審査を実施するだけだ。

それに、フィーアは選定会の途中で抜けると言った。

だから、もはや何事も起こり得るはずがないけれど……何か決定的な出来事が起こってしまうような、そんな不安を覚える。

私は無言のまま、己の心臓がある部分を服の上からぐっと押さえたのだった。