軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

266 筆頭聖女の最高の魔法 上

チーム編制が済んだ後は、満を持して森の中に入ることになった。

しかしながら、第三次審査がスタートする前に、イアサント王太后の魔法の実演が行われるらしい。

事務官の説明によると、森の中の開けた場所にあらかじめイベント用のスペースが準備してあり、そこで王太后の魔法が披露されるとのことだった。

それは筆頭聖女選定会で恒例となっているイベントらしく、次代を担う聖女たちに向けて、ナンバー1の聖女が魔法を示すありがたい機会らしい。

貴族を始めとした国民たちが集まっているのは、そのイベントを見学するためだとの説明を受け、シリル団長と交わした会話を思い出す。

『どうしてたくさんの人たちが集まっているんですか?』

『聖女様は大変素晴らしいものだと、人々に広く知らしめるための目撃者になるためです』

恐らく、見学する人々は、筆頭聖女の魔法の素晴らしさを広く一般に吹聴する役割を期待されているのだろう。

そして、実際に、人々は期待された通りに動くに違いない。

何といっても、ナンバー1聖女の魔法を目の当たりにするのだから、感動しないわけがない。

人々は家に帰った後、どれほど筆頭聖女の魔法が素晴らしかったか、延々と語って聞かせるはずだ。

そう考えながら森の中を進む。

周りには同じように歩いている人たちがいたのだけれど、誰もが頬を赤らめ興奮しているようだった。

そのため、私の期待と興奮も高まってくる。

しばらく歩くと、開けた場所に出たので、王太后が魔法を披露する会場はここかしら、と思いながら周りを見回した。

すると、複数の天幕が設置されていたため、あれらは何のためのものかしらとじっと見つめていると、カーティス団長が遠慮がちに近寄ってきた。

「……この場所は、王太后のために何週間も前から準備されたものになります。あれらの天幕は、王太后を始めとした貴人が控える場所です」

ということは、王太后は既に到着していて、あれらの天幕のうちのどこかにいるのかしらと思いながらカーティス団長を見上げる。

実のところ、カーティス団長とは昨夜、気まずい別れ方をしていたので、会ったらしっかり話をしようと思っていた。

とはいえ、つい先ほどカーティス団長の自己紹介を聞いた際には普段通りに見えたため、大丈夫そうねと安心していたけれど、どうやら私の勘違いだったらしい。

近くで見たカーティス団長は酷い顔をしていた。

そのため、昨夜、あまり眠れなかったのかもしれないと申し訳なくなる。

「あのね、カーティス、昨夜のことだけれど……」

カーティス団長が感情的になるのは、いつだって私のことだ。

だから、気付かないうちに何かやらかしていたのだろうな、と思いながら口を開いたけれど、話の途中でカーティス団長に遮られてしまう。

「フィー様、昨晩は申し訳ありませんでした! 心から謝罪いたします!!」

そう言って深々と頭を下げてきたカーティス団長を見て、私は目を丸くした。

「い、いえ、カーティスが謝る話じゃないわ。どうか顔を上げてちょうだい」

慌ててカーティス団長にお願いしたけれど、彼は頭を下げたまま動かなかった。

そのため、私は彼の足元にしゃがみこむと、無理矢理目を合わせる。

「カーティス?」

すると、カーティス団長は驚いたように目を剥き、躊躇いながらゆっくり顔を上げた。

「……昨夜の件は、間違いなく私が謝罪すべきものです。さらに、もう一つ謝罪させてください。大変申し訳ないのですが、昨夜の件を、私はまだ自分の中で消化できていません。そのため、一連の話を冷静にご説明できるようになるまで、少々お時間をいただけないでしょうか」

カーティス団長は責任感が強いので、一度自分が話し始めたことについては、相手が納得するまで説明しなければいけないと思っているのだろう。

けれど、そう言い出したカーティス団長の表情がとても苦しそうだったので、必要ないわと首を横に振る。

「カーティス、言いたくないことは言わなくていいのよ。無理矢理言わせて、あなたが嫌な気持ちになる方が、私は嫌だもの。ただ、私はいつだってカーティスの味方だからね。そして、私が役に立てることがあるかもしれないから、あなたが言いたくなった時に話を聞かせてちょうだい」

精一杯、カーティス団長の重荷にならないような言い方を心掛けると、彼は途方に暮れたような顔をした。

「フィー様……」

カーティス団長の声が酷く弱々しいものだったため、大丈夫かしらと心配になる。

それから、カーティス団長がこれほど動揺するのは、きっと300年前のことが関係しているのだろうから、彼は長い間ずっと、一人で苦しいものを抱えてきたのかもしれないという気になった。

そうだとしたら、彼一人に抱えさせることなく、話を聞き出した方がカーティス団長のためになるかもしれない。

正しい対応が分からずに困っていると、「すみません!」という声とともに、誰かがぶつかってきた。

はっとして顔を向けると、一人の女性が倒れそうになっていたので、咄嗟に腕を伸ばす。

同時にカーティス団長も腕を伸ばして支えてくれたので、女性はよろめいただけで倒れることはなかった。

「し、失礼しました! 見学する場所を探すことに夢中になっていて、前をよく見ていませんでした」

女性はぺこぺこと何度も頭を下げた後、急ぎ足で去っていった。

その姿を見て、そろそろ王太后が魔法を披露する時間なのねと気付く。

思わず周りを見回した私の行動から、王太后の魔法を見たい気持ちを読み取られたようで、カーティス団長が「見学場所に移動しましょう」と声をかけてくれた。

でも、カーティス団長と話をしている途中だわと、返事ができないでいると、弱々しく微笑まれる。

「よければ、この話題はいったん保留にしてもらえると助かります」

カーティス団長の希望であればもちろん従うわ、と思いながら頷くと、私は彼とともに移動した。

王太后の魔法を見るため、今日は一般の人たちもたくさん来ている。

森の入り口から15分程度の場所とはいえ、魔物が出る森だから気を付けなければいけないわ。

そう思ったけれど、見える場所にはどこにでも、騎士たちが等間隔で配置されていたため、十分な対策がなされているようだ。

安全管理上、見学場所も決められていたけれど、出遅れたようで既に多くの人で埋まっていた。

貴族らしい人たちが固まっている中、バルフォア公爵がいたため、最高位の貴族が見に来るようなイベントなのねと、改めて本日の重要性を認識する。

ああ、出遅れてしまったわ。もう後ろの席しか空いていないわねとがっかりしていると、カーティス団長が耳打ちしてきた。

「フィー様、選定会に参加する聖女様の見学席はあちらです」

指差された方を見ると、たしかにゆったりとしたスペースが設けてあり、聖女たちが集まっていた。

聖女たちの後方には、第三次審査で同行する騎士団長と騎士たちの姿がある。

こんな特等席で見られるなんて、選定に参加してよかったわと思いながら、聖女専用の見学スペースに向かうと、一番見やすい場所がぽっかり空いていた。

わあ、運がいいわねと思いながら空いているスペースに立つと、どきどきしながら目の前に広がる空間に視線をやる。

そこは明らかに戦闘用に整えられた広いスペースで、騎士たちが戦うための十分な広さが確保してあり、さらには周りからよく見えるようになっていた。

そして、ザカリー団長を始めとした10名ほどの騎士たちが、剣に手をかけて立っていた。

「近くにフラワーホーンディアのねぐらがあります。騎士たちはそこからザカリーがいる位置まで、魔物を追い出してくる予定です」

隣に立ったカーティス団長が、デモンストレーションの手順を説明してくれたので、私はなるほどと頷く。

つまり、大勢の見学者たちの前でザカリー団長が魔物を倒し、その際に負った怪我を王太后が治すということね。

ということは、ザカリー団長たちは魔物を倒さないといけないけれど、その際に適度に怪我をしないといけないということだろう。難しいわね。

そう思った私は、念のためと聖石のネックレスを首から外すと、手に持った。

ザカリー団長であればフラワーホーンディアを何度も倒しているだろうし、王太后がいるのだから、私が魔法を使う機会はないだろう。

しかしながら、万が一ということがあるので、もしも私が魔法を使った場合、『聖石のおかげです』と言い訳できるよう、ネックレスを手に持つことにしたのだ。

しばらくすると、天幕の一つから王太后が出てきた。

王太后は聖女らしい赤と白の衣装を着ており、1ダースほどの近衛騎士を従えていた。

王太后は背筋をまっすぐ伸ばしてゆっくり歩いてきたけれど、その際、誰もが笑顔になって、王太后に手を振っていた。

さらに、王太后が私たちの前を通った際、聖女たちは憧れの人を見たとばかりに頬を染め、深く頭を下げたけれど、なぜか騎士団長たちはそっけない態度を取った。

頭は下げているものの、慇懃無礼というか、心が伴っていないように見える。

我が国において、聖女はすごく敬われる存在だし、筆頭聖女ならばなおさら敬われるものじゃないかしらと思ったけれど、騎士団長たちの表情は硬かった。

いつの間にかシリル団長が現れ、王太后が出てきたのとは別の天幕に近付いて合図をすると、今度はサヴィス総長が天幕から出てきた。

まあ、重要人物が揃い踏みじゃないの。

つまり、王太后のイベントが非常に重要だということの表れよね。

それほど貴重なものを見られるなんて楽しみだわと思っていると、王太后が人々を見渡せる位置で立ち止まった。

サヴィス総長とシリル団長はそれらを確認すると、私たちがいる場所まで歩いてきて、私の隣に立つ。

そのため、私ははっとした。

私が今立っている場所は、見晴らしがいいのに最後まで空いていたので不思議に思っていたけれど、サヴィス総長のために空けてあったスペースじゃないかしら。

間違いない気がしたため、これはまずいと、そろりと一歩後ろに下がると、シリル団長に止められる。

「フィーア、あなたは1番見やすい場所で、このイベントを見るべきです」

「は、はい……」

私は選定会に参加している聖女だから、シリル団長の言葉はごもっともかもしれない。

少なくとも、一般の人が大勢いる前で、サヴィス総長が聖女を隅に追い払ったという構図はよくないわよね。

そう思いながら、下がった一歩分、前に戻る。

すると、シリル団長が感情を覗かせない声を出した。

「フィーア、よく見ていてください。これからあなたが目にするのは、この世に存在する最高の聖女の魔法です」