軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256 聖女フィーアによるデズモンド団長個人面談 2

カーティス団長が食堂の扉を開いてくれたので、私は恐る恐る中に足を踏み入れた。

初めて見る騎士団長専用の食堂は天井が高く、壁や床に高級建材を使用してあり、一般騎士用の食堂とは造りから異なっていた。

そして、ありがたいことに誰もいなかった。

「ああー、よかったわ! 私は新人騎士だというのに、高級娯楽室に続いて、騎士団長専用食堂にまで足を踏み入れてしまったわ。バレたら、シリル団長に怒られるところだったわ」

安堵しながら独り言を呟くと、カーティス団長がとんでもないと首を横に振った。

「シリルがフィー様を怒るはずがありません! そもそもフィー様の気高さと誇り高さは圧倒的ですから、どの騎士団長に見られたとしても、誰もが新たな騎士団長が誕生したと思うだけでしょう。あるいは、慈悲深い聖女様にお訪ねいただいたと思うかのどちらかですね」

カーティス団長が言い終わると同時に、後ろに立っていたデズモンド団長が文句を言ってくる。

「カーティス、お前いい加減にしろよ! 騎士団長は全員フィーアと顔見知りなんだから、ちょっとばかし聖女っぽい服を着ていても、フィーアだって一発で見抜かれるに決まっているだろう!! フィーア・ルードが食い物につられてきたんだと、誰だって気が付くさ!!」

カーティス団長はデズモンド団長に返事をしなかったけれど、会話は聞いていたようで、誇らし気に私を見てきた。

「さすがフィー様ですね! 1年目の騎士でありながら、その圧倒的な存在感で、騎士団長全員に認知されるなんて、通常ではあり得ないことです」

カーティス団長はすごいわね。どんな言葉もプラスに捉えてしまうわよ。

こんな考え方をするのだから、彼の毎日は楽しいでしょうねと思っていると、なぜかデズモンド団長が高笑いを始めた。

「はーっはっはっは! その天下の騎士団長がオレだ! しかも、第一騎士団と並び立つ、第二騎士団の団長様だ! いいから、オレがいかに有能かという話を聞け!!」

カーティス団長はまたもや無視すると、私を近くのテーブルに案内した。

「どうぞ、お座りください。こちらでは、給仕の者が料理を持ってくる形になっています。温かいものを供するため、料理人たちは姿を見てから作り出しますので、少々お待ちいただけますか」

それは楽しみだわと思いながら、カーティス団長に質問する。

「メニューがないということは、全員同じ料理を食べるの?」

だったら、バイキング形式で好きな物を選べる一般の食堂の方がいいわねと考えていると、カーティス団長はそうではないと首を横に振った。

「いえ、ここでは各人が食べたいものを事前に申告し、その料理が供されるシステムになっています。ただ、事前に料理を申告するのは意外と面倒でして。今となっては、クラリッサとイーノックがデザートを指定するくらいです」

「なるほど、誰も事前申告しないから、料理人が全員に同じ料理を作るというわけね。でも、食べたいデザートを指定するなんて、クラリッサ団長は分かるけど、イーノック団長も甘い物が好きだったのね」

意外だわと思っていると、カーティス団長が言いにくそうに口を開いた。

「……いえ、イーノックが愛読している『大聖女様の力の秘密・完全大聖女食』という本がありまして」

「か、完全大聖女食!?」

不穏なタイトルを聞いてぎょっとする。

一方のカーティス団長は、どことなく誇らし気に説明を続けた。

「その本には、大聖女様の力の源になったという料理が載っているのですが、9割がスイーツらしいのです。イーノックは毎日必ず、その本の料理を食べることにしているので、自然とスイーツを指定するようになりました。それにクラリッサが便乗して、同じ物を食べているようです」

「へー……」

どうして大聖女のどうでもいい情報ばかりが、本になって遺っているのかしら。

というか、私も出版されていたことを知らなかったくらいだから、ものすごくマイナーなもので、イーノック団長がたまたまどこからか見つけてきたのかしら。

どちらにしても、知らなくていい情報だったわと遠い目をしていると、デズモンド団長が私の前に座り、ばしんとテーブルを叩いた。

「フィーア、繰り返すがオレはお前の尾行に気付いていたからな! オレほどの者が気付かないわけないだろう」

デズモンド団長がまたもや同じ言葉を繰り返してきたので、そろそろ同意すべきねと、空気を読める私はうんうんと頷く。

「ですよね。さすがデズモンド団長です!」

すると、デズモンド団長はまんざらでもない顔をした。

「お、おう。フィーア、お前もやっと分かったか。それで、実績をひけらかすわけではないが、この間も……」

デズモンド団長がどうでもいい話を延々と始めたけれど、その間に美味しそうな料理が運ばれてくる。

目の前に置かれたお皿から湯気が出るのを見て、私は目を輝かせた。

「うわあ、熱々ですね! 騎士団長たちは毎日こんな料理を食べているんですか?」

お皿の上に載っていたのは、分厚いお肉だった。

それから、野菜スープにナッツ入りの白パン、煮詰めた貝に数種類のフルーツまである。

「フィーア! オレの話を聞いているか?」

食べるのに夢中になっていると、デズモンド団長から文句を言われた。

私は顔を上げると、口の中の味を楽しみながら返事をする。

「もちろんです! デズモンド団長の人徳は……もしゃもしゃ……霊峰黒嶽と同じくらい高いと思います!!」

「え、そんなにか? フィーア、お前は意外とものが分かっているんだな! よし、オレの白パンもやろう」

「ありがとうございます!!」

いいわね。美味しい物を食べると頭の回転がよくなるようで、デズモンド団長お好みの言葉がスラスラ出てくるわ。

ひとしきり自慢話をして満足したのか、デズモンド団長は話を切り上げる様子を見せた。

「お前もようやくオレの偉大さが分かったようだな。ところで、どうしてお前はオレの後をつけたんだ」

デズモンド団長が質問してきたので、そうだったわと手に持っていたカトラリーを皿の上に置く。

「それは、偉大なるデズモンド団長がお困りのようでしたから、何かお役に立てないかと考えたのです。それから、団長の不調をそのままにはしておけないと、薬を持ってきました」

私はポケットに入れていた小瓶を取り出すと、テーブルの上に置いた。

それから、にこにことデズモンド団長を見つめたけれど、団長は明らかに不審な物を見る目つきで瓶を見つめた。

「なぜお前が持ち込んだ怪しげな薬を、オレが飲むと思うんだ!」

腹立たし気に文句を言うデズモンド団長を見て、疑い深いわねと思いながら、私は白パンに手を伸ばす。

それから、もしゃもしゃと白パンを咀嚼した。

「それは、多くの者は美味しい物を食べると『美味しい』と感じ、幸せになれるからです。味覚というのは、とてもありがたい感覚ですよね」

この白パンは本当に美味しいわーと思いながら、空っぽになったお皿を恨めしく見つめていると、カーティス団長が自分の白パンの皿を私の前に置いてくれた。優しい。

デズモンド団長は私の言葉を黙って聞いていたけれど、私が再び白パンを食べ出したのを見ると、苛立たし気に瓶を指差した。

「まさかこんな色水を飲んだだけで、オレの味覚が正常に戻るとか言うんじゃないだろうな! 言っておくが、味覚障害を治す薬がないことくらい、知っているからな!!」

明らかに薬の効能を疑っているデズモンド団長を前に、私は内緒ごとを話すかのように声をひそめる。

「ご存じの通り、ただ今筆頭聖女選定会の真っ最中です。そして、第二次審査では色んな薬を作っています。聖女の一人が、王太后から借りたという貴重な本を持ってきまして、それには古に存在したという薬の処方が載っていたのです」

「い、古に存在した薬?」

「ええ、300年前の大聖女様がいた時代に存在した薬です。作り方さえ分かってしまえば、ちょちょいのちょいです」

デズモンド団長は聖石の数が半分になった私のネックレスを見つめながら、ごくりと唾を飲み込んだ。

「そんな夢のようなことが起こるのか……」

どうやら私の話術が巧みだったようで、やっと薬の効能を信じる気になったようだ。

私はにこりと微笑むと、アルテアガ帝国のことに話題を変える。

「ところで、アルテアガ帝国で恐ろしい病が流行っているという話を聞いたのですが」

すると、察しのいいデズモンド団長は腹立たし気に顔を歪めた。

「くっ、フィーア、お前よくこのタイミングでそんな質問ができるな! 味覚障害を治す対価に、極秘情報を開示しろと言っているのも同じじゃないか! 騎士団長相手に秘密開示を要求するとは何てやつだ!!」

まるで不公平な交渉をしてきたとばかりに詰ってきたデズモンド団長を見て、私は無言になる。

あらあら、デズモンド団長ったら、一体何を言っているのかしら。

パンを買うのにお金がいるように、物事には何だって対価がいるんですよ。

そして、普段であれば、無償で治癒するところだけど、デズモンド団長が私のほしい情報を持っているのであれば、その情報を対価として要求するわよね。

けれど、デズモンド団長の表情を見る限り、簡単には交渉に応じてくれなさそうだわと考えていると、カーティス団長が「そのような情報よりフィー様の薬の方が100倍貴重です!」と言いながら薬の瓶に手を伸ばしてきた。

すると、デズモンド団長がカーティス団長より早く、ぱしりと瓶を手に取る。

それから、瓶と私を見比べながら質問をしてきた。

「……何を知りたいんだ」

ストレートに尋ねられたので、私も端的に答える。

「帝国で流行っている『金持ち病』についてです」

すると、デズモンド団長は用心深い表情を浮かべた。

「なぜお前がその病名を知っている。極秘扱いになっているはずの情報だ」

「ふっふっふ、優秀な聖女のもとには、優秀な騎士団長と同じくらい情報が集まるんですよ」

得意気に胸を張ると、デズモンド団長はがたりと音を立てて椅子に深く座り込み、疲れたように首の後ろに手をやった。

「そうか。お前が知っているくらいだから、大した秘密ではなかったということだな。それなら、オレがちょっとばかり情報を開示したからといって何ということもあるまい」

やったわ。デズモンド団長が極秘情報を話すため、状況を整理してきたわよ。

私が無言で頷くと、デズモンド団長は片手を口元にあてた。

「それで、帝国の金持ち病について知りたいんだったな」

「はい」

プリシラは言っていた。

『「金持ち病」はこれまでになかった病気なの。最初は手足の違和感から始まって、そのうちどんどんしびれが酷くなって、最終的には体の一部が機能しなくなるらしいわ』

しかも、新しい病気のため、治療方法も感染経路も不明らしい。

さらに、帝国は『金持ち病』が国内で流行っていることを伏せたいようで、病気にかかった人は家の中に閉じ込められるとのことだ。

大変な病気であることは間違いないと考えていると、デズモンド団長が核心的なことを口にした。

「一通りの話は聞いているだろうから、世に出ていない話をすると、患者のうち大半は上位貴族だ。それから、上位貴族でない者は全員、帝国の西部在住者だ。そのため、彼らに共通の習慣や食物がないか、洗い出している最中だ」

さすがデズモンド団長。教会が知らない情報を持っているわね、と思いながら質問する。

「西部に何か原因があるかもしれないということですね?」

「その可能性は高いだろう。ちなみに、西部在住者も全員、上位ではないが貴族だ。だから、貴族特有の何かに原因があるのだろう」