軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

253 聖女フィーアのお薬作り教室 5

「じゃあ、次は……」

どの薬を作ろうかしらと小首を傾げたところで、聖女たちが慌てた声を上げた。

「フィ、フィーア! 気付いていないかもしれないけど、私の魔力はゼロになったの」

「私もよ! 本当にギリギリのところで薬が完成したから、魔力はカラッカラで、一滴だって残っていないわ」

泣き言を言う聖女たちを見て、私はにこりと微笑む。

「そうだとしても、何の問題もないわ! なぜ一番に魔力回復薬を作ったと思っているの?」

聖女たちは戸惑ったように瞬きをした。

「え?」

「それは、第二次審査が終了した翌日に、第三次審査が実施されるからでしょう?」

「第三次審査でも魔法を使用するから、第二次試験の期間中に魔力回復薬を作製して服薬し、第三次審査に備えるようにって、事務官が勧めていたじゃない」

聖女たちの言うことはその通りだったけど、それじゃあ、今日作る理由としては弱いわよね。

第二次審査は全部で5日もあるのに、今日はまだ2日目なのだから。

「その通りだけど、その理由じゃあ、最終日に作ってもよかったはずよ。それに、今日一番に作る必要もなかったわ」

言われている意味が分からないとばかりに、聖女たちが眉根を寄せる。

代表してプリシラが、勢いよく反論してきた。

「今日一番も何も、薬を一つ作ったら、それで体中にある魔力は使ってしまうわ! だから、今日はお終いよ」

「もう、プリシラったら、そのために魔力回復薬があるんじゃないの! ぐぐっと飲んでしまえば、あら不思議、たちまち魔力が回復して、もう一本新たな薬が作れるようになるわ。このやり方を取れば、毎日魔力回復薬ともう1種類の薬を作ることができるわね」

にこにこと微笑む私に、プリシラが大きな声で言い返す。

「冷静になるのはフィーアよ! いい、教会に所属するのは常識的な聖女ばかりだから、魔法を使ったら、中3日空けるルールがあるの。一晩眠ったくらいじゃ、魔力は回復しないのよ! だから、たった今魔力回復薬を飲んで、今日もう一本新たな薬が作れたとしても、その後は3日休まないといけないんだからね!!」

「そ、そうだったわ!」

私は衝撃のあまり、後ろにのけぞった。

すっかり忘れていたけど、今世の聖女たちの魔力量は少ないから、毎日、魔法を行使できないし、一度魔法を行使したら、中3日空けないと全回復しないのだった。

つい自分を基準に考えてしまい、一晩寝たら全回復するものだと思い込んでいた。

だから、第二次審査の期間中は、魔力回復薬+何かの薬を毎日作るつもりでいたけど、聖女たちは一晩寝ても魔力が回復しないから、そもそも毎日薬を作れないのだった。

あああ、何てことかしら。

本命の薬を作る前に魔力回復薬を作って飲めば、どんどん練度が上がっていって、最終日にはとてもいい魔力回復薬を作れるようになると考えた私の完璧な計画が、始める前に崩れてしまったわ。

がっくりと項垂れた瞬間、もう一つ大事なことを思い出す。

「思い出したわ! 第二次審査の間は、自分で作った物以外の魔力回復薬を飲んではダメだと、事務官が言っていたわ!!」

「それは当然のルールよね。そもそも毎日魔法を行使した第一次審査の方がおかしかったのよ! あれが異常な状態だったのだから、今の状態の方が至極普通だわ」

冷静なプリシラの言葉を聞いて、いや、でも、と心の中で反論する。

でも、今日は2日目だから、自然に魔力が回復するのを待っていたら、次に薬を作れるのは最終日だわ。

しかも、中3日空けていないから、最終日の魔力は全回復していない状態じゃないの。

「あっ、そうだわ! 昼食をいっぱい食べれば……」

言いかけた私を遮るように、プリシラが言葉を被せてくる。

「フィーアが何を閃いたつもりになっているのか分からないけど、魔力と体力は違うのよ! 食事を大量に取ったからといって、すぐにどうにかなるようなものではないわ」

これまた、そうだったわ。

でも、私は食べればどうにかなるのよね。

大量の魔力を使った後は、通常の何倍も食べるけど、そうしたら魔力が回復するわ。

私と同じような体質の聖女が、他にいないとも限らないんじゃないかしら。

「それはまだ、試してみたことがないだけじゃないかしら。何事もやってみるのが一番よ」

笑顔で聖女たちを見回したけれど、全員からさっと視線を逸らされる。

唯一視線が合ったプリシラは、両手を腰にあてると、ふんと鼻を鳴らした。

「そして、筆頭聖女選定会の最中に、腹痛でダウンするの? あり得ないわね!」

「うっ、確かに、そうなる可能性もあるわよね……」

でも、そうしたら、どうすればいいの。手詰まりじゃないの。

「プリシラ、このままでは、この後に1種類の薬を作ったら、次に作れるのは最終日よ」

絶望的な気持ちで告げると、プリシラはあっけらかんと微笑んだ。

「それは、皆、分かっていたわ。初めから、第二次審査で薬を作れるのは2回だけだろうって。あ、ちなみに、今日はもう薬作りはやらないわ。フィーアの言うように、これから魔力回復薬を飲んだら、もう1種類作れるかもしれないけど、あくまで理論上の話だから」

「いや、理論じゃないわよね。プリシラは第一次審査でも魔力回復薬を飲んで、連続で患者を回復させていたじゃない」

びっくりして言い返すと、プリシラは顔をしかめた。

「あなたがくれた魔力回復薬を飲んでね! でも、フィーアの魔力回復薬は私が作ったものとは全然効能が違うはずよ。多分、ここにいる聖女たちが作った魔力回復薬を飲んでも、あんな風に劇的に魔力は回復しないわ」

「……初めて作ったのだから、そういうこともあるかもしれないわね」

プリシラの言うことにも一理あるわと頷くと、彼女は分かっていないわねという目で私を見てきた。はて。

それから、プリシラは謙虚なことを言い始めた。

「私は最終日の早い時間にこの薬を飲んで、1日かけて魔力を回復させるつもりなの」

慎重なことねと思いながら、プリシラのやり方に同意する。

「念には念を入れるってわけね。通常であれば1時間で回復するから、1日あれば間違いなく全魔力が回復すると思うわ」

さすがプリシラね。よく考えているわ。

ああー、でも、残念だわ。私だってよく考えたつもりだったけど、お薬作り教室の計画はおじゃんになってしまったわ。

がっかりしていると、プリシラが取りなすような言葉をかけてくれた。

「フィーア、全てあなたのおかげよ! 第二次審査で薬が作れる数少ない機会に、これほど貴重な薬の作り方を教えてもらったからこそできたことだわ」

「いえ、その数少ない機会に、たまたまプリシラの魔力が満タンだったから上手くいっただけ……」

返事をしかけたところで、プリシラのみならず聖女たち全員の魔力が満タンだったことに思い至る。

つまり、初日である昨日は、誰も魔法を使っていないということだ。

「第二次審査は全部で5日あるわよね。そして、教会の教えでは、魔法を使った後は、中3日空けるのよね。ということは、第二次審査では、初日と最終日に薬を作るよう、想定されていたんじゃないかしら」

「……そうだとしても、必ずしも従う必要はないでしょう」

プリシラらしくないことに、彼女は私の質問にストレートに返してこなかった。

そのため、嫌な予感を覚えながら質問する。

「私は昨日、薬草を摘むことに夢中になっていて、この調合室に来なかったわ。もしかして皆は私を待っていたのかしら。そして、私が来なかったから、薬を作らなかったの?」

「……そうだとしても、自分たちで勝手にやったことだわ」

またもやプリシラは、変則的な回答をしてきた。

そのため、私の推測が当たっていたのだわ、と確信してしまう。

「えっ、本当にそうなの!」

申し訳なさで眉尻を下げると、プリシラは自嘲するように唇を歪めた。

「知っているでしょうけど、教会直伝の魔力回復薬は酷いものだわ。酷くマズいうえ、飲んだら超激痛の問題薬で、回復する魔力も半分だけよ」

「そうだったわね」

その説明は以前聞いたものだったので、思い出しながら頷く。

すると、プリシラはきりりとした表情で私を見てきた。

「だから、第三次審査を万全の状態で迎えたければ、最終日に半分の魔力が残っているよう調整したうえで、魔力回復薬を飲むしか方法がなかったの! それなのに、私たちはフィーアのおかげで、第二次審査も、第三次審査もきちんと力を出せるのよ」

「そういうことになるのかしら」

だとしたらよかったわ。

それに、本物の魔力回復薬のよさを分かってもらえて嬉しいわと微笑むと、プリシラがきっぱり言い切った。

「だから、フィーアが申し訳なく思う必要はこれっぽっちもないわ! 私たちはあなたに対して感謝しかないんだから! そもそもフィーアには、私たちに薬の作り方を教える義理も義務もないのに、教えてくれたのよ!!」

「義理と義務?」

プリシラったら難しいことを言うわね。

「そういうのは分からないけど、私は好きで教えているのだから、覚えてもらった方が嬉しいわ」

笑顔で聖女たちを見回すと、嬉しそうな笑みが返ってきた。

そんな私に、プリシラが暗い声で続ける。

「でも、この現状は私たち聖女が選び取った結果なのよ。だから、甘んじて受け止めないといけないものだったわ」

「どういうことかしら?」

意味が分からずに聞き返すと、プリシラは顔を歪めた。

「フィーア、300年前の大聖女様がいた頃は、今とは比べものにならないほど多くの薬草が認知されていたし、多くの薬が作られていたわ。その知識を失伝したのは私たちよ。多くの聖女たちが長い年月をかけて集めたとても大切なものを、私たちは手放してしまったの」

「それはプリシラのせいではないわ。300年かけて失ったのだから、誰のせいだということはないんじゃないかしら。それに、汎用性の高い、多くの人の役に立つ薬を残すのが一番いい方法だと皆が思ったから、そうした結果よね」

当然の言葉を返すと、プリシラはその通りだと頷く。

「そうね。多分、聖女たちは汎用性が高いものだけを選び取ったのでしょうね。その際に、自分たちができる方法に置き換えて、少しずつ作り方を変えていったのだわ」

プリシラは片手で握りこぶしを作ると、親指を一本立てた。

「なぜそうしたかというと、一つは直伝書にあった通り、作り方が非常に複雑だということ」

プリシラの言葉には納得できないものがあったので、私はそうかしらと首を傾げる。

「それはプリシラたちの志が高くて、難しい方法を選び取ったから、そう思うんじゃないかしら。だって、私のやり方でやれば、10倍簡単になるわよ!」

プリシラは返事をしなかったけれど、代わりに他の聖女たちと一緒になって、じとりとした目で見つめてきた。

あらやだ、私の志が低いと責められているのかしら。

でも、私に薬草を量るやり方を勧められても、今さら無理よ。

そう考え、私の方が目を逸らしてしまう。

すると、プリシラはそれ以上追及することなく、人差し指を立てた。

「それから、フィーアが使った素材が非常に入手困難だからだわ。絶対数が少なくて、滅多に見つけることができないか、人が踏み入るのが難しい森の奥に生えているかのどちらかじゃないかしら」

それはあり得る話ね。

ただ、今回、私はそれらの素材を全て王城の庭で見つけたのよね。

だから、そこは強調しておくべきじゃないかしら。

思わぬ場所で珍しい素材が見つかることもあるでしょうから、興味を持って色んな所を眺めてみるのもいいかもしれないと、啓発の意味を込めて。

そう考えて口を開こうとしたけれど、アナに機先を制される。

「でも、フィーアはこれらの素材を全部、王城の庭で見つけたんでしょう?」

「え? え、ええ、そうなの。その通りだわ」

しまった。絶好の質問をされたというのに、少しだけ後ろ暗いところがあるため口ごもってしまった。

実際のところ、カーティスが深い森から素材を集めてきて、王城の庭に植え替えた可能性が高いけど、それは私の推測でしかないのよね。

だから、確定していないことを色々言って皆を惑わせてはいけないわ、と口を噤んでにこにこしていると、メロディが感心したようなため息をついた。

「多分、フィーアはものすごく運がいいのね!」

隣にいるケイティが、同意するように頷く。

「運がいいという言葉じゃ片付けられないけど、でも、そういうことよね。フィーアみたいに前向きで、何だって全力でやろうとすると、色々と幸運を引き寄せるのかもしれないわ」

そうよねーと皆が同意する中、プリシラがぽつりと呟いた。

「あるいは、……フィーアは精霊に愛されているのじゃないかしら」