軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247 聖女フィーアによる騎士団長面談 5

何だか混沌としてきたわね。

やり過ぎるのはよくないから、ここら辺で止めておこうかしら。

満足気なカーティス団長、楽しそうなクラリッサ団長、顔をしかめるデズモンド団長を前に、私は心の中で呟いた。

実のところ、デズモンド団長にこれ以上質問する必要はないのだ。

なぜなら団長の不調が何なのか、既に分かってしまったのだから。

恐らく、デズモンド団長の問題は味覚障害だ。

基本的にデズモンド団長は鋭いから、一度飲んだ大聖女の薔薇の紅茶の味を覚えていて、もう一度飲んだらすぐに気付くと思っていた。

それなのに、ちっとも気付くことなく何杯も飲んでいたから、味覚に問題があるのだろう。

「どうしました、聖女様? ありがたいお言葉でもいただけるんですかね」

じっと見つめていると、デズモンド団長が嫌味を言ってきたので、ずばり質問する。

「デズモンド団長、いつから味が分からないんですか?」

すると、デズモンド団長はすっと目を細めて無言になった。

わあ、団長は真実を悟られまいとする時、こんな顔をするのね。後学のために覚えておこう。

「……なぜそんなことを聞く?」

デズモンド団長が用心深い声で尋ねてきたので、私は邪気のない笑みを浮かべる。

「騎士団長の皆さんは以前、『大聖女の薔薇』入りの紅茶を飲んだことがありますよね。ですから、味でバレないよう、紅茶にこれでもかと蜂蜜を入れたんです。デズモンド団長であれば、一口飲んだら『甘い!』と怒り出すかと思ったのに、4杯も飲むから驚きました。紅茶の味が分かっていませんよね?」

実際には、私は紅茶に蜂蜜を入れていない。

つまり、これはデズモンド団長を引っ掛ける質問なのだ。

騎士の十戒に「誠実さ」というのがあるから、騎士団長たるデズモンド団長は当然守らなければならない。

だから、デズモンド団長が正しく騎士道を歩んでいるか、確認をしているというわけだ。

結局のところ、己を救ってくれるのは正しい行いだけだから、デズモンド団長が心を入れ替え、嘘をつかなければ、意思に反して踊り出すことはないのだから。

……まあ、私の中に、せっかくデズモンド団長が面白い紅茶を飲んだから、悪戯をしてみようという気持ちが1ミリくらいはあるかもしれないけど。

「ああ、そういうことね」

私たちの話を隣で聞いていたクラリッサ団長が、楽しそうに頷いた。

それから、クラリッサ団長は紅茶の入ったカップを目の前に掲げると、ゆらゆらと揺らす。

「だから、前回と比べて、今日の紅茶はすごく飲みやすかったのだわ。前回のものより、今回のものの方が私は好きよ」

クラリッサ団長がごく自然に話を合わせてくれたため、まあ、私に協力してくれるつもりのようだわと嬉しくなる。

というのも、クラリッサ団長は私たちと同じ紅茶を飲んでいるから、紅茶に蜂蜜が入っていないことは分かっているはずだ。

それなのに、話を合わせてくれたのは、私がデズモンド団長を引っ掛けようとしていることに気付いて、協力してくれるつもりなのだろう。

しかも、カーティス団長の言葉を聞いて、嘘をついたら踊り出す花びらであることに気付いたようで、ギリギリ嘘にならないよう上手な言い回しをしている。

さすがクラリッサ団長だわと感心していると、今度はカーティス団長がうっとりした声を出した。

「確かに美味しい紅茶でした。しかし、私はフィー様の優しさが紅茶になって溶け出てきたのだと思っていました」

カーティス団長が真顔でとんでもないことを言ってくる。

ああー、カーティス団長が踊り出さないところを見ると、本気でそう思っているのね。知りたくなかったわ。

クラリッサ団長とカーティス団長が私に賛同したことで、デズモンド団長に疑う余地はなくなったようだ。

デズモンド団長は口元を緩めると、もったいぶった表情を浮かべた。

「紅茶が甘いことくらい分かっていたさ! しかし、これでもオレは聖女様を敬っているんだ! 崇拝する聖女様がわざわざオレのために淹れてくれた紅茶だ。多少甘かろうが、文句を言わずに飲むのが騎士団長ってもんだ!!」

うわーあ、デズモンド団長ったらすごいわね。

紅茶の味に気付かなかったことを誤魔化しただけでなく、自分自身を持ち上げたわよ。

でも、そうですか。また正しくない発言をする方向に舵を切っちゃいましたか。

「へー、さすが騎士団長ですね。ご立派ですね」

「確かにオレが立派であることは間違いないな! 正直に言うと、この紅茶は舌が痺れそうなほど甘かったが、聖女様への忠誠心が勝ってしまった。オレだけ4杯も飲んだのだから、オレの忠誠心がぶっちぎりだな」

にやりと笑ったデズモンド団長だったけれど、そこでおもむろに立ち上がる。

「あ?」

驚くデズモンド団長は腕を上げると、再び空想上の猫と喧嘩をし始めた。

「フィーア、一体これはどうなっているんだ! オレはお前に文句を言っていないぞ! なのになぜ、また体を乗っ取られたんだ!!」

焦るデズモンド団長に、私はのんびり言葉を返す。

「なぜならその花びらは『他人に文句を言ったら素敵な踊りを踊り出す』ものではないからです。踊りに夢中で聞いていませんでしたか? 一回目の猫ダンスを踊った時にカーティス団長が言っていましたよ。それは『嘘をついたらおかしな踊りを踊り出す』花びらだと」

「何だと!?」

デズモンド団長が顔を真っ赤にし、それならばと思い切り文句を言おうとしたところで、ノックの音が響く。

すぐに扉が開き、プリシラが顔を覗かせた。

「フィーア、聞きたいことがあるのだけど……」

けれど、プリシラは部屋の真ん中で踊っているデズモンド団長を見て、ぴたりと動きを止める。

一方のデズモンド団長は、焦って大きな声を出した。

「ち、違う! これは違うんだ!!」

「あらあら、何も違わないわよ。デズモンドが不格好極まりない踊りを披露しているってことで間違いないわ」

クラリッサ団長は無情にもデズモンド団長の言葉をきっぱり否定すると、楽しそうに続けた。

「聖女様、見逃してやってください。彼は先日、魔物に怪我を負わせられたばかりで気が立っているんです。恐らくですが、これは再び魔物と出遭った時のシミュレーションをしているのでしょうね」

猫パンチを繰り出しているようにしか見えないデズモンド団長だけれど、クラリッサ団長の言葉を聞いた後では、必死のパンチを繰り出しているように見えなくもない。

ただし、最弱の魔物ですら倒せるかどうか怪しいへなちょこパンチだ。

シリル団長と並び立つほどの実力を持つデズモンド団長にとって、弱い騎士だと誤解されることは屈辱的なことのようで、団長は真っ赤になるとクラリッサ団長に文句を言った。

「クラリッサ、お前は同僚に優しくしようという気持ちはないのか! それに、ギリギリ嘘にならないような話し方をするのは止めろ!!」

やっと踊りを止めることができたデズモンド団長は、立ったままクラリッサ団長に文句を言い始めた。

そのため、これはクラリッサ団長の味方をする場面だわ、と言葉を差し挟む。

「クラリッサ団長はいつだってお優しいです。それに、嘘をつかなかったクラリッサ団長のことを誠実だと思いますし、この花びらの秘密に気付き、いち早く対応できた適応力の高さをすごいと思います」

「何だと! いいか、フィーア、お前はいつだってお気楽に……」

デズモンド団長が大声で文句を言ってこようとしたので、私は気弱そうな表情を浮かべると、部屋の隅にいる事務官を見つめる。

すると、事務官がかけている眼鏡を押し上げながら、じろりとデズモンド団長を睨みつけた。

意外と適応力があるデズモンド団長は、すぐに作り笑いを浮かべると、聞いたこともないような優しい声を出す。

「……つまり、フィーア、お前はいつだって楽しそうで素晴らしいな!」

デズモンド団長の言葉を聞いて、やっと良好な関係になれたようねとにこりとする。

それから、ここが去り時だわと思ったため、にこやかに退室を告げた。

「お仲間の聖女が呼びに来てくれたので、これで失礼しますね。騎士団長の皆様、ヒアリングにお付き合いいただきありがとうございました」

私はぺこりと頭を下げると、プリシラとともに騎士団長との面談部屋を退出したのだった。