軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

243 聖女フィーアによる騎士団長面談 1

騎士団が誇るデズモンド第二騎士団長、クラリッサ第五騎士団長、カーティス第十三騎士団長が待機している部屋の扉を、私はこんこんとノックした。

それから、扉を開けるとにこやかに挨拶する。

「おはようございます。喉が渇いているだろうと思って、紅茶をお持ちしました」

見回すと、中央にあるテーブルを囲むように置かれた椅子に3人の団長が座っており、部屋の隅には事務官が控えていた。

デズモンド団長は私を見ると、ネズミを見つけた猫のような顔をする。

「フィーア・ルード!」

「はい、騎士団長様。フィーア・ルードです」

同じ部屋の中にいる事務官を意識し、私はよそ行きの声を出した。

第二次審査の説明会で、他人の振りをし続けてくれたデズモンド団長のことだから、今日も知らんぷりしてくれるわよね、との期待を込めて見つめたけれど、なぜかあっさり打ち砕かれる。

想定外なことに、デズモンド団長は座っていた椅子から立ち上がると、腹立たし気に睨みつけてきたからだ。

「フィーア、どうしてお前は騒動を起こさずにいられないんだ! 筆頭聖女選定会だぞ! 我が国ナンバー1の聖女様を決める会だぞ! それなのに、なぜお前が参加している!!」

「えええっ!」

何てことかしら。知らない振りどころか、面と向かって文句を言ってきたわよ。

そもそも、私が選定会に参加したのは、私が強く希望したからというよりは、シリル団長たちの希望に従ったからなのよね。

そこのところを理解してもらわなくっちゃ。

私はしおらしい表情を作ると、3人の騎士団長たちにちょうど聞こえるくらいの音量で囁いた。

「私は王家に秘匿されていた優秀な聖女ですが、できれば表舞台に立ちたくなかったんです。けれど、シリル騎士団長の強い希望があって、選定会に出ないわけにはいかなかったんです」

私が出たのはシリル団長の希望ですよということを、はっきり言う。

私が従順な騎士だからこそ、選定会に参加しているのだと理解すれば、デズモンド団長も引いてくれるだろうと思ったけれど、団長はぐぐぐっと奥歯を噛み締めた。

「そ、それはその通りだが……お前だったら、承諾せずに断ることだってできただろう! ……というか、自分で優秀な聖女と自画自賛するのはおかしくないか」

「私は謙虚な聖女ですから、普段であれば、自ら褒めるようなことを言いはしません。そんな私に自画自賛の言葉を言わせたのは、デズモンド団長ですよ」

私は片手で頬を押さえると、ほうっと憂いに満ちたため息をついた。

目の端に、くやしそうな顔をしているデズモンド団長が見える。

ほほほ、デズモンド団長の発言が子どもの喧嘩みたいになってきたわ。

これは正面から言い返す正義が、デズモンド団長にないと気付いたからよね。

つまり、私の言葉に分があることを、分かってもらえたのじゃないかしら。

表面上は悲しそうな表情を作りながらも、内心でにまりとしていると、デズモンド団長の隣に座っていたカーティス団長が叱るような声を出した。

「デズモンド、いい加減にしろ! 心優しいフィー様がシリルの図々しい頼みを断れるわけがないだろう! そもそもお前はなぜここにいる! 慈悲深き聖女様に怪我を治してもらうためだろう。それを理解したら、口を慎め!!」

ぐうっとデズモンド団長が黙り込んだので、私は紅茶ポットから4つのカップに紅茶を注ぐと、団長たちの前にそれぞれ置いた。

それから、空いている席に座ると、自分の分のカップを手に取る。

「よかったらどうぞ。温かい紅茶です」

「ありがとう、フィーアちゃん。ちょうど温かい飲み物がほしいと思っていたところだったの」

クラリッサ団長はお礼を言うと、カップを手に取って口をつけた。

それから、紅茶をごくりと飲むと、不思議そうに首を傾げる。

「とても美味しいわ。でも、なぜかしら。私、この味を知っているみたい」

クラリッサ団長の言葉を聞いた私は、そうでしょうねと少し前の出来事を思い出す。

先日、王都在住の騎士団長が全員参加したお茶会が開催された。

その際、『大聖女の薔薇』入りの紅茶が提供されたので、騎士団長たちは全員、『大聖女の薔薇』の紅茶の味を知っているのだ。

あの時は騎士団長ごとに異なる症状が表れて大変だったわ、と私は遠い目をする。

それから、当たり障りのない必要最低限の説明を行った。

「こちらはローズティーになります。よくある紅茶ですね」

ああ、美味しいわねー、と思いながらごくごくと紅茶を飲んでいると、デズモンド団長が挑むような表情で紅茶のカップを持ち上げる。

「フィーア、オレたちをリラックスさせて情報を引き出そうとしているのかもしれないが、オレはそう簡単にいかないからな!」

デズモンド団長はきっぱりそう宣言すると、紅茶を一気に飲み干した。

それから、空になったカップを差し出してくる。

「美味いな! もう一杯くれ」

ううーん、デズモンド団長は警戒しているようで、全く警戒心が足りていないわよね。

出された紅茶を疑うことなくがぶがぶ飲んでいるわ。

無邪気なデズモンド団長とは異なり、カーティス団長はこのお茶が何なのか気付いたようで、ぼそりと呟く。

「強欲はしっぺ返しをくらうものだと、前回、身をもって体験したはずだ。それなのに、まだ懲りていないのか」

カーティス団長の言う通り、前回のデズモンド団長は一人だけ『大聖女の薔薇』入りのお茶をおかわりして、2つの効果を身に受けたのだ。

一つは「茶飲み相手が可愛く見える花びら」で、一つは「麻痺状態になる花びら」だったから、どちらも大変な目に遭っていた。

今回も前回同様、紅茶に薔薇の花びらを浮かべているから、見てぴんとくるかと思ったけど、全く気付いていないようだ。

とはいえ、今回使用したのは「悪いことを考えたら踊り出す花びら」だから、悪いことを考えない限りただの美味しい紅茶で無害なものだ。

私はにこやかな笑みを浮かべると、3人を見回した。

美味しい紅茶を飲んだから、次は聖女らしいことをしないといけないわ、と考えたからだ。

「ご存じでしょうが、第二次審査では騎士団長たちにヒアリングしたうえで、症状に合った薬を作ることが審査対象となっています。なので、いくつか質問してもいいですか?」

「もちろんです! よければ私の方から全ての症状をお話しします」

カーティス団長は椅子から腰を浮かすと、熱心に言い募ってきた。

あまりに協力的なカーティス団長の言葉を聞いて、私だけ特別扱いするのは止めてちょうだい、と笑顔でお断りする。

すると、今度はクラリッサ団長が楽しそうに微笑んだ。

「あ、知っているわ! こういう場合、まずは成育歴から答えるのよね? では、いくわよ。私が初めて男の子を好きになったのは……」

「いえ、私は成育歴を尋ねないタイプの聖女です!」

クラリッサ団長がべらべらと恋愛遍歴をしゃべりそうになったので、慌てて制止する。

聞くだけなら楽しいのだけれど、クラリッサ団長はきっと、自分がしゃべったことと同じ質問を私にしてくるに違いない。

そして、私は恋愛について何一つ語るエピソードがないから、こんな打ち明け話に参加しても惨めになるだけなのだ。

話を逸らそうとデズモンド団長に顔を向けると、なぜか挑むように見つめられる。

「フィーア、オレから情報を引き出せるというのなら、やってみろ! 万が一にも成功したら、お前を一人前の尋問官と認めてやる!!」

どういうわけかデズモンド団長が、尋問されている捕虜のようなことを言ってきた。

赤と白の可愛らしい聖女服を着ている私に向かって、一体何を言っているのかしら。

それに、デズモンド団長に一人前の尋問官と認められても、何もいいことはないわよね。

デズモンド団長は明らかに興奮しているので、落ち着かせようとカップに紅茶をさらに注ぎ足す。

「まあまあ、温かい飲み物を飲んでください。落ち着きますよ。それでは、順番に質問させてもらいますね」

3人とも個性が強過ぎるから、一人ずつ対応していった方がよさそうだわ。

私は至極当然の結論を出すと、さて誰から質問しようかしらと考えたのだった。