軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

240 選定会におけるとある出会い 4

しばらく無言の見つめ合いが続いた後、地面に寝そべった男性は不思議そうに尋ねてきた。

「あなたはオレを見て、不快に思わないんですか?」

まるで自分のベッドのように堂々と地面に寝転がっていたから、何事も気にしないタイプかもしれないと思ったけれど、そういう質問をするあたり繊細なのかもしれない。

だとしたら、発言に気を付けないといけないわと思いながら、体格のいい男性を見下ろす。

「あなたは体調が悪そうなので、寝そべったまま話をされることを無作法だとは思いませんよ」

そのまま横になっていても大丈夫よとの気持ちを込めて答えると、気持ちが通じたようで、男性は嬉しそうに笑みを浮かべながら上半身を起こした。

「咄嗟にそんな回答が出るあたり、オレがサザランド出身であることは気にもならないようですね。初めまして、聖女様。カシミルと言います」

「初めまして、フィーア・ルードです。ところで、サザランド出身であることが気にならないかと言われたら、もちろん気になりますよ」

正直に返すと、なぜかカシミルはがっかりしたように顔をしかめた。

「えっ、そうなんですか」

一方の私は、弾んだ声を出す。

「ええ! だって、私はついこの間、サザランドを訪問したばかりですからね!」

にこにこしてカシミルを見つめると、彼ははっとした様子で目を見開き、私の全身をじろじろと見回してきた。

「あなたが最近、サザランドを訪れた? あっ、暁の色をした髪だ! そして、フィーアさん? ああっ、も、もしかして!!」

カシミルが期待を込めて見つめてきたので、その通りだとどんと片手で胸を叩く。

「はい、ご想像の通りです! 私がそのもしかしてサザランドを満喫したフィーアです!」

すると、カシミルは信じられないとばかりに目をむくと、大きく首を横に振った。

「い、いや、そうではなくて! 大聖女様の生まれ変わりのフィーア・ルードさんですよね!?」

「えっ、ああ、そういう私でもありましたね」

そうだった、サザランドではそういうことになっていたんだったわ、と思い出して頷く。

すると、カシミルは感極まった様子で両手を頭の上で組み合わせた。

「ああ、何ということでしょう! あの時オレは、どうでもいい用事で大聖堂に呼びつけられていて、サザランドを不在にしていたんです! そのことが悔やまれて悔やまれて、毎日、大聖堂の総主教を恨んでいましたが、よかったです! これで恨みつらみの日々とおさらばできます!!」

そうだったわ。サザランドの人々は実直で気がいい人が多いのだけど、反面では、大聖女に傾倒し過ぎるところがあるのよね。

「ま、まあ、それは自由になれてよかったですね」

当たり障りのない言葉を返すと、カシミルは地面に座ったまま、じりじりとにじり寄ってきた。

「ああ、すごい、本物ですか? オレは一日千秋の思いで、大聖女様の生まれ変わりに会える日を夢見ていたんです。フィーアさんがサザランドを訪れたのは5か月前のことですから、15万年間も会いたいと思い続けたということですね!!」

顔を赤らめて言い募られたけれど、それは事実と異なるので、冷静に指摘する。

「いや、一日千秋というのは例えですからね。実際に一日を千年とカウントするのはいかがなものでしょうか」

カシミルは私の言葉を黙殺すると、きらきらした目で見つめてきた。

「ああー、フィーアさんの声はこんな風にオレの耳に響くんですね! すごい、新たな黄紋病から守ってくれた救世主様と、オレは今話をしているんですね」

カシミルは悪い人ではないようだけど、何だか面倒そうね、と思ったのがいけなかった。

私の考えを読み取ったザビリアが、すかさず恐ろしい提案をしてきたからだ。

「フィーア、この面倒な大男とまだ話をする気はある? 面倒ならば、僕が黒焦げにしてやろうか」

すると、カシミルはぽかんとしてザビリアを見た後、感激した様子で目を潤ませた。

「な、何てことでしょう! 大聖女様は我が国の守護聖獣様すら従えておられるのですね!!」

ああー、ウォーレンのように『人語をしゃべった!!』と騒がれるのは面倒だけど、『守護聖獣を従えた』ときらきらした目で見つめられるのも面倒だわね。

そう思ったものの、まずはザビリアが暴走することがないよう、できるだけ穏やかにお友達を諭す。

「ザビリア、黒焦げにしなくても大丈夫よ。ええと、意外と……カシミルと話をするのは楽しいから」

ザビリアがホントかなという顔で見てきたので、私はにこりと微笑む。

すると、カシミルが感激した様子で声を上げた。

「オ、オレと話をして楽しいだなんて、フィーアさんは何てお優しいんですか。ああ、これほどお優しいうえ、大聖女様の生まれ変わりで守護聖獣まで従えているのですから、筆頭聖女はフィーアさんで決定ですね!!」

「えっ」

どうして私が選定会に参加しているって分かったのかしら。

咄嗟にそう思ったけれど、現在進行形で選定会が開催されていることは誰でも知っているし、王城にいる聖女ということで、私が選定会に参加していることを推測したのかしらと気付く。

そこまでは正解だけど、私が筆頭聖女になる未来はないわよね、とカシミルの考えをやんわり否定した。

「ええと、確かに私は選定会に参加していますが、第二次審査ではまだ何もしていないし、今日も朝からずっと話をしているだけだし、このあたりで脱落するんじゃないですかね」

すると、カシミルは自信満々な様子で、どんと胸を叩いた。

「そんな心配はご無用です! オレが全力でフィーアさんを支持しますから」

「いっ、いえ、特に必要ありません」

「ああ、そうですよね! フィーアさんであれば実力で簡単に一位になれるでしょうからね。では、陰ながらこっそり応援いたします」

「陰ながら……そ、それなら、大丈夫かしら。ええと、はい、どうぞご自由に」

カシミルが何をするつもりなのか分からなかったけれど、何でも恩を返したいと考えるサザランド気質を受け継いでいるのであれば、全てを拒否するのでなく、無害そうな部分は受け入れるのがいいだろうと考えて頷く。

すると、カシミルは嬉しそうな笑みを浮かべたので、私はほっと安心した。

それから、これで満足してくれたかしらと思いながら、彼の全身を眺め回す。

そもそもカシミルに声を掛けたのは、彼が地面に寝転がっていたからだ。

どこか悪いのじゃないかしらと心配したけれど、……じっくり観察したところ、足が悪いこと以外に不調は見られなかった。

足が悪いというのも随分古い傷のようだし、急いでどうにかしなければならないというわけでもないだろう。

それとも、古傷が痛むのだろうか。

もしくは、私が見つけられない怪我や病気があるのかもしれない。

「カシミルは地面に倒れていましたよね。そして、今も地面に座りっぱなしですよね。どこか悪いんですか?」

ストレートに質問すると、カシミルは感激した様子を見せた。

「そんな質問をされるということは、聖女としてオレを治そうと考えたんですか? 素晴らしいですね! オレはフィーアさんの心根の優しさに感激しました!!」

「いや、普通だと思うのですが……ん?」

カシミルは大袈裟な言葉同様、身振り手振りも大きくて、両手を激しく動かしていたのだけど、その際、彼の手首にウォーレンの手首で見た模様と同じものが見えたため、首を傾げる。

「カシミル、その手首の模様は何ですか? あなたも呪われているんですか?」

「えっ!」

あら、急に静かになったわよ。

そう言えば、ウォーレンも腕の模様について、あまり話したがらなかったわねと思い出していると、カシミルは苦悩した様子で口を開いた。

「これは……、オレの隷属の証です」