軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 肉祭り2

「では、簡単な質問からです、フィーア」

にこりと綺麗な笑顔をつくると、シリル団長が私に視線を合わせてくる。

あ、やばい。この魂の底まで見透かそうという感じ。全力で追い詰めにくる気だわ。

私は、うふふふーと笑顔を作って団長を見つめ返したが、背中には尋常でないくらいの汗が流れ出している。

「なぜ、あなたはフラワーホーンディアについて詳しいのですか?」

「え? あ、ええと、それは、図鑑で見たからです」

よ、よかった!本当に、簡単な質問がきた!

「魔物図鑑には、発見されている魔物が全て載っていますよね。図鑑で見て、角が花のようになるなんて綺麗な魔物だなーと思って、覚えていたんです」

「は? お前、討伐経験があるって言っていたよな?」

得意気に話す私を見て、第3小隊の一人が、驚いたようにつぶやいた。

「そんなの、はったりに決まっているじゃないですか。図鑑で読んだって言ったって、誰も私に任せようとは思わないでしょ? ふふふ、物は言いようというやつです」

私は、騙し切ったという満足感でにやりと笑った。

まぁ、前世ではそれこそ何百頭ものフラワーホーンディアを倒したけれど、それを今世での経験とカウントするほど図々しくはないですよ。

どのみち、倒したって言い張っても、入団するまで領地から一歩も出たことがないことは調べたら分かるから、嘘ってすぐにバレるだろうし。

前世の体験って、……うーん。……例えるなら、夢の中での体験、みたいなものかな?

「そうですね、夢の中では倒したことがあるので、上手くいくかなとは思いましたけど」

「お、お前……」

第3小隊の騎士たちが口をパクパクと開いたり閉じたりし出す。

「か、簡単に言っているが、図鑑で読んだだけで、特徴とか特性とかを掴んで、実戦として対応なんて出来るわけがないだろ!」

「というか、普通、図鑑で見ただけの特性なんて忘れるだろ! オレたちだって、リストを見たから一度は学習しているはずだが、目の色が変わるってこと、お前に言われて思い出したくらいだからな!」

「仮に目の色が変化するという特性を覚えていたとしても、どんなタイミングで変わるのかとか、見てはっきり分かるくらい色が変わるのかとか不明点が多すぎるから、動けないだろ!」

「お前は、天才か! 初見の魔物討伐を指揮できるなんて、お前は戦闘の天才なのか?!」

「えええ、どうしよう。まさかのべた褒め……!!」

嬉しくなって、赤くなった頬を両手でおさえていると、その場の全員から突っ込まれた。

「「「ちげ―――よ!!」」」

えええ、何この裏切り。褒められたと思ったのに、結果、ディスられていますよ!

それまで口を差し挟まずに沈黙を守っていた団長が、確認するように尋ねてきた。

「では、フィーアは、討伐経験がなかったにもかかわらず、経験があると宣言して、フラワーホーンディア討伐の指揮を買って出たということですか。それで、経験というのは、図鑑の知識と夢の中での経験ということですか。……へー、図鑑と夢。これを経験と言って差しさわりがないと思ったのですねぇ」

……あ、あれ?またもや雲行きが怪しくなってきたぞ。

黙っとこう。

「………………」

口を開かずに、視線も足元に落としていたが、しばらく沈黙が続いたので、恐る恐るシリル団長をちらりと見ると、いつの間にかシリル団長の隣にはデズモンド第二騎士団長が立っていた。

デズモンド団長は、黙って首を横に振っており、シリル団長は何かを考え込んでいる。

んん?何をやっているのかしら?

「では、フィーア。次の質問です。あなたはなぜ、フラワーホーンディアの赤目と青目の入れ替わるタイミングが分かったのですか? 『7秒後に青目になる』とあなたは言い、正確に7秒後に青目になりましたよね」

「えっ、だって、団長がくる前に、既に数回、目の色が入れ替わっていましたから。特徴を知るには十分です」

一旦言葉を切ったが、納得していないようなので補足する。

「ええと、あの個体は、炎が3段階で消失するタイプでした。第2段階から第3段階に移る時間は、第1段階から第2段階に移る時間の3分の2でしたので、計算したら7秒後と分かりました」

シリル団長の隣に立つデズモンド団長が、再度首を横に振っている。

そして、シリル団長の顔がだんだん強張ってくる……

「では、最後の質問です。あなたは、あの個体の生命力と残存生命力を数値化しましたよね。どうやったら正確に数値化できるのですか」

「ええと、例えばフラワーホーンディアの場合は、体の大きさと角の枝数で生命力が量れますよね。残存生命力は、どの騎士がどれくらい攻撃をしたのかということからでも、魔物の立ち姿とか発汗とかの状態からでも、どちらからでも量れますよね。まぁ、でも、半分以上は勘と感覚で量りますから、誤差はありますけど」

魔物の生命力と残存生命力を量るのは、聖女の基本だもの。

そして、前世の私は数えきれない程の魔物を倒してきたから、サンプルには事欠かないんです。幾つもいくつも倒していくと、一見しただけで魔物の生命力が量れるようになるんですよ。

「……つまり、フィーア。あなたは、魔物を見ただけでおおよその生命力を数値化できるし、騎士の攻撃1回がどれくらいダメージを与えるかも分かる、ということですか?」

「まぁ、そういうことですね……」

私の答えを聞いたデズモンド団長が、またもや、首を横に振っている。

何をやっているんだろ、本当に。

こっちは、シリル団長からのお説教だか尋問だかをしこたま受けているというのに、首を振って遊んでいられるなんて、団長ってのは、いいご身分ですよね。

あああ、もう、お説教に飽きてきた。

「フィーア。あなたが言っていることが本当なら、これは、すごいことですよ。第四魔物騎士団に相談が必要ですが、従魔の…………フィーア、どうしました? 言いたいことがあるなら、言ってごらんなさい」

「そう言われましても、本当に言ったら怒るでしょう」

「怒りません。約束します」

「でしたら! どうして今日は肉祭りのはずなのに、説教大会になっているんですか! 私のお尻は、この固くて座り心地の悪い椅子に座るためにあるんじゃありませんよ! 私の手だって、団長の説教にいやーな汗をかきながら、団服のズボンを握りしめるためにあるんじゃありません。この手は! 美味しいお肉とお酒を掴むためにあるんです!!」

「………………それは、失礼、しました」

私の発言が予想外だったのだろう。毒気を抜かれたような顔をして団長はつぶやくと、総長を仰ぎ見た。

総長は、私と視線を合わせると、一つ頷いた。

「フィーア、後からオレのところにこい。うまい酒を飲ませてやる」

「了解しました! 私は、絶対に命令に逆らいません!」

それから、総長は第3小隊の騎士たちを見渡すと、口を開いた。

「お前らは、魔物についての学習が必要なようだな。フラワーホーンディアの特性と戦闘方法についてのレポートを作成して、ザカリーに提出しろ」

「はい、総長!! 承りました!!!」

ザカリー第六騎士団長は、厳めしい顔のまま部下たちを見つめると、おもむろに口を開いた。

「レポートは、一人30枚だ」

「ひ、ひいいいいいいいい」

怒号のような悲鳴が、会場中に響いた。