軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222 筆頭聖女選定会 一次審査13

「わ、私が立派な聖女ですって?」

プリシラはうわずった声を上げると、なぜか頬を赤らめた。

プリシラであれば『立派な聖女だ』と言われ慣れているだろうし、何なら自分でも言っていたはずだ。それなのに……

「どうして赤くなるの?」

不思議に思って尋ねると、プリシラはもっと顔を赤くした。

「ば、馬車の中が暑いからよ!」

「えっ」

今は秋だから、ちっとも暑くはないわよね。

もしかしてプリシラは褒められて、照れているのかしら。

「プリシラは優秀な聖女だから、褒められ慣れているんじゃないの?」

「そ……そうだけど、皆が私のことを褒めるのは、何かしてもらおうと下心がある時よ! フィーアみたいに思ったことをそのまま口に出す人はいないわ」

ふうん、私の真心が伝わったということかしら。

「そ、それよりも、モーリスの話よ! 明日こそは彼の脚を治すつもりだけど、アドバイスがあるなら聞いてあげてもいいわ」

まあ、いつだって自分が一番優れていると言っていたプリシラが、私の意見を求めてきたわよ。

「どうして私の話を聞こうと思ったの?」

プリシラは少し迷った後、不承不承といった様子で答えた。

「オルコット公爵がフィーアは優れた聖女だと言っていたからよ」

オルコット公爵のロイドは、私のことをなんちゃって聖女だと思っていて、全ては聖石のおかげだと考えているのよね。

だから、ロイドが私のことを優れた聖女だと発言したのは本心じゃないのに、プリシラは彼の言葉を信じたのね。

まあ、教会勤めの聖女ってのは、本当に純粋培養なのかしら。

言われたことを全て信じるなんて、これほど騙されやすいと心配になるわね。

「それから、フィーアは王家が秘匿するほど優秀な聖女で、普段は聖女であることを隠すために騎士に扮しているって言っていたわ」

プリシラが続けた言葉を聞いて、うーんと唸る。

ロイドは口から出まかせを言っているつもりなんでしょうけど、結果として全て事実になるというミラクルが起きているわ。

というか、ロイドは高位貴族でありながら道化師に扮しているから、騎士に扮する聖女という作り話をしても、もっともらしく聞こえるわね。

ロイド本人もそれを分かっていて、ぺらぺらと適当なことを言っているのだわ。

ロイドといい、セルリアンといい、どうしていつまでも子どもみたいな行動をするのかしら。

私はため息をつくと、話を元に戻す。

「プリシラ、モーリスを治すイメージはできるかしら?」

「……できないわ」

悔しそうに答えるプリシラに、さらに質問する。

「何が問題かしら?」

プリシラは考える様子で言葉を続けた。

「私はどうしてもモーリスの今の状態を、怪我が完治していると認識してしまうの。血も出ていないし、痛みもない様子だもの。だから、回復魔法をかけても、これ以上どこを治癒していいのかが分からないわ」

体の一部が欠損したまま生活する者は少なくない。

だから、欠損している状態を完治していると認識してしまうプリシラの気持ちはよく分かる。

けど、それじゃあ治せないのよね。

「欠損を治す時は勢いが必要なのよ。塞がっている切り口を開いて欠損部分を生やすわ! という強い気持ちで、ずどんと魔力を押し出すの」

「ずどん?」

さすがプリシラ。大事なところを聞いてくるわね。

「そう、分かるでしょう? ずどんと魔力を放てば一発よ!」

私の言葉を聞いたプリシラは、意味が分からないとばかりに顔をしかめた。

「フィーアが何を言っているのかさっぱり分からないわ。本当は欠損の治し方なんて知らないのに、意味不明なことを言って誤魔化そうとしているんじゃないでしょうね」

プリシラったら何を言っているのかしら。

私は長年かけて編み出した、欠損の最も効果的な治癒方法を伝授しているのよ。

それなのに、プリシラもアナたちと同じように、私の言っていることが分からないと言うなんて、これ以上どうすればいいのかしら。

「プリシラ、あなたもなのね」

私はがっくりと項垂れると、これ以上の説明を諦めたのだった。

馬車が王城に着くと、私はプリシラと別れた。

「明日は一緒にモーリスを治しましょうね」

別れ際にそう言うと、はっきりとプリシラは頷いたので、私はそのまま裏庭に向かう。

即効性の魔力回復薬を作るため、材料となる薬草を採取しようと思ったのだ。

さくさくと必要な分だけを摘み、急ぎ足でお城に戻っていたところ、後ろから声を掛けられる。

「フィーア様!」

振り返ると、クェンティン団長が嬉しそうな表情で立っていた。

団長は私の姿を興味深そうに眺めると、笑みを浮かべる。

「今日は聖女様の格好ですか! サザランドで披露したという大聖女様の姿を見ていなかったので、フィーア様の聖女姿が見られて嬉しいです」

しまった、私は聖女服を着ていたのだったわ。

クェンティン団長も筆頭聖女選定会の開会式に参加していたから、私の聖女服に見覚えがあると厄介よね。

というか、先ほどのセリフは私の着衣が『聖女っぽい』って意味で使ったのであって、私が選定会に参加していることには気付いていないわよね。

何とか誤魔化す方法はないかしらと考えながら、クェンティン団長の全身に視線を走らせる。

すると、これまでとは異なる剣を腰に佩いているように思われたため、そのことを話題にしてみた。

「クェンティン団長、とってもカッコいい剣ですね!」

「さすがフィーア様、お目が高い! これは黒竜王様の角で作った世界で最も貴重な剣なのです!!」

興奮した様子のクェンティン団長を見て、しめしめ、いい話題を振ったようだわ、とにまりとする。

ザビリアの角で作った剣を話題にするなんて、我ながらとっても冴えているわ。

ザビリア絡みの話であれば、クェンティン団長はたちまち夢中になって、それまで考えていたことを忘れ去ってしまうに違いないもの。

と、自分の閃きに嬉しくなったけれど、クェンティン団長の話は想像の10倍面白くなかった。

そのため、2分ほど聞いたところで、これ以上聞いていられないとギブアップする。

「ええと、とっても面白い話でした。ただ、こんなに面白い話を私が独り占めするのは申し訳ないので、他にも人がいる時に改めて聞きますね」

「えっ、待ってください! これからこの黒竜王様ハイパーデラックスソードの輝きについて、とっておきの話が」

クェンティン団長が話を続けようとしたので、私は空を指差す。

「ああっ、空が暗くなってきました! 急がないと、晩御飯がなくなってしまうわ」

クェンティン団長はそこで初めて、陽が落ちたことに気付いたようで、空を見上げて顔をしかめた。

その隙に私は踵を返しかけたけれど、あと一歩のところでクェンティン団長に呼び止められる。

「フィーア様、一つお願いがあります」

「……お願いですか?」

何かしら。

「筆頭聖女選定会の最終審査で、聖女様は騎士とともに森に入り、魔物討伐を行います。その際、筆頭聖女候補一人につき、騎士団長が一人付くことになります。フィーア様にはぜひ、オレを選んでほしいのです!」

「ひぎゃ!」

待って、待って。クェンティン団長は質問の順番を間違えていないかしら。

まずは、私が筆頭聖女選定会に参加しているかどうかを尋ねるべきよね。

それとも、聞くまでもなく、私が選定会に参加していると確信しているのかしら。

困った顔でクェンティン団長を見つめると、団長はきらきらした目で私を見つめ返してきた。

「以前、『星降の森』でフィーア様とご一緒したことがありましたよね? あの時の高揚感が忘れられないのです!」

あの時はザビリアが登場して、青竜2頭をやっつけたのだったわ。それは確かに高揚するわよね。

「もちろん、もう一度黒竜王様をお呼びしようとは、決して思いません! しかし、フィーア様とご一緒したら、もれなく黒竜王様が付いてくることは間違いないですよね」

クェンティン団長ったら、相変わらず何でも正直にしゃべるわね。

私とペアを組みたい理由が、ザビリア目当てだってはっきり言い切っているじゃないの。

クェンティン団長の気持ちは分かるけど、選定会にザビリアが参加したら大変な騒ぎになるわ。

というか、私が聖女として選定会に出ていることを否定するタイミングを失ったわね。

ああー、クェンティン団長は確信を持って話をしているけど、私が選定会に出ていると考えているのはクェンティン団長だけなのかしら。

それとも、デズモンド団長やザカリー団長といった他の団長たちも、私が選定会に参加していると考えているのかしら。

すごく気になるけど、ここで追及したら面倒になりそうね。

「ええと、空腹過ぎて何も考えられないので、ご飯を食べてきます。それでは、暗くなってきたので失礼します」

私は返事にならない返事をすると、そそくさとその場を後にした。

それから、もうこれ以上面倒事にまきこまれないようにと、一目散に王城に向かったのだった。

そして、翌日。

私はプリシラとともにモーリスの病室前に立っていた。

「プリシラ、昨日は赤いダイエット薬を飲んだかしら」

「ダイエット薬? ちち、違うわ! 私は食べ過ぎなんて気にしていないもの! フィーアは魔力回復薬って言っていたじゃない! ええ、飲んだわ」

「よし、じゃあやるわよ」

そう言うと、私はプリシラと一緒にモーリスに向かって歩いていったのだった。