軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

217 筆頭聖女選定会 一次審査(時間外) 後

「フィーア!」

「信じられないけど、あなたの魔力回復薬のおかげよね?」

「嘘でしょう!? もう私には、フィーアが何をやっているのかが、これっぽっちも理解できないわ!!」

激痛必至の苦い魔力回復薬しか知らないアナ、ケイティ、メロディは、私が提供した薬の効果が信じられない様子だ。

3人は目を丸くしながら思い思いの感想を漏らすと、現実を受け入れがたい様子で首を横に振った。

そんなアナたちを見ながら、私はにこりと微笑む。

「薬が上手く効いたようでよかったわ! ところで、回復魔法は使えば使うほど上達するのよ。明日は今日よりもっと多くの患者を治癒できるんじゃないかしら」

私の言葉を聞いたアナは呆然とした様子で呟いた。

「フィーア、あなたにとって、この奇跡の薬の存在は大した問題ではないのね。私は一晩中でも、この驚きと感動について語れるというのに、もう話を切り替えてくるなんて」

メロディとケイティもアナに同意して大きく頷く。

「ええ、病院でのずどん発言といい、フィーアの知識と技術と能力の高さは桁違いだわ! ああー、これまでフィーアの発言のいくらかは理解できていたつもりだけれど、実際には全てが難し過ぎて、何一つ理解できていなかったのかもしれないわ」

「フィーアがすごいことは分かったけど、それでもこの魔力回復薬は信じられないわ! 痛みもなく、わずかな時間で魔力が全回復するなんてあり得ないわよ! 私たちがこれまで使ってきた魔力回復薬は何だったのかしら?」

少なくとも300年前には、魔力回復薬の正しい作り方が残っていたはずだ。

300年経つ間に自然環境だって変わるから、途中で材料のいくつかが入手困難になったのかもしれない。

その際、代替品の切り替えが上手くいかず、少しずつ効果が変わってしまった、というところだろうか。

ずっと不良品を使用していたのだとしたら、初めて成功品を使用した際に驚く気持ちは分かる気がする。

ありがたいことに、私には魔法の言葉があるから、何をしたって上手く誤魔化すことができるのだけど。

「ううーん、これまで知らずに使っていたから、王家秘伝の魔力回復薬がそんなにすごいものだったなんて、思いもしなかったわ!」

3人は素直に納得すると思ったけれど、私の言葉を聞いたメロディはどういうわけか、疑わしそうに目を細めた。

「フィーア、疑うわけではないけど、王家って本当にそれほどすごい技術を持っているのかしら?」

「えっ」

続けて、ケイティが考えるかのように首を傾げる。

「聖女を掌握しているのは教会よ。聖女の能力も技術も知識も、教会に蓄積されているわ。王家が力を持っているのは間違いないけど、聖女に関しては教会に遠く及ばないんじゃないかしら」

ケイティの言うことはもっともだったので、何とか誤魔化そうと思いついたことを口にする。

「わ、私はうかつな聖女なのよ! 王家は聖女に関してすごい技術を隠し持っているけど、秘匿情報だから全員でずっと黙って隠し続けてきたの! 王家秘蔵の聖女は私しかいなかったから、選定会に参加させてもらったけど、うかつに秘密をしゃべる危険性があったから、誰ともしゃべらないようにって意味を込めてベールを被せられたのよ」

あっ、咄嗟に出る言葉って、何て説得力がないのかしら。

私はしっかりしているとまでは言えないけど、うかつってタイプでもないわよね。

こんな発言じゃあ受け入れてもらえないわ、とがっかりしたけれど、どういうわけか3人は納得した様子で手を打ち鳴らす。

「ああー、そう言えば、『国王腹心の騎士たちが、フィーアのことが皆に認知されることがないようにとベールを被ることを勧めてくれた』みたいなことを言っていたわね。確かにあなたのことをよく知っていれば、色々と心配になるわよね。なるほど、あのベールにはフィーアが皆に知られることを防ぐと同時に、よけいなことをしゃべらないよう防止する、という双方向の働きがあったのね」

ん?

「控えめに言っても、フィーアはぺらぺらとしゃべり過ぎているわ。あなたが話す内容は、どれもこれまで知らなかったものばかりよ。これでも私たちは選定会に出る聖女なのよ。その私たちが知らない情報なのだから、間違いなく最重要の秘匿情報で、おいそれとしゃべってはいけないもののはずだわ」

あれ、皆の発言を聞く限り、私が「うかつな聖女」だっていう出まかせを信じたのかしら?

「この魔力回復薬だって、これまで一度も世に出たことはないのだから、門外不出の極レア品よね。うかつなことをしゃべるだけでなく、こんな代物を王城外に持ち出すのはとんでもないことだわ。というか、フィーア、この薬を私たちに飲ませたのは、さすがにマズかったんじゃないの? あなたを選定会に出したということは、王家は本気で子飼いの聖女を筆頭聖女にする気じゃないの?」

まさかそんな。

もしも私が筆頭聖女になったりしたら、カーティス団長がひっくり返るわよ。それから、シリル団長も。

というか、その場合、サヴィス総長は私と結婚しないといけなくなるんじゃないかしら。

驚くサヴィス総長や騎士団長たちの顔を見てみたい気はするけど、一瞬のお楽しみのために人生を懸ける気にはならないわね。

「いえ、ほら、前にも言ったけど、私は聖女として人前に出続けることに問題があるから、いずれ聖女としての活動は止めるし、選定会も途中で抜けるつもりなのよ」

というか、この3人は私の「うかつな聖女」という話を信じたのかしら。

ここまで人を疑うことを知らないと、心配になるわね。

「3人はずっと聖女として教会で暮らしてきたから、人を疑うことを知らないようね。純粋過ぎて心配になるわ」

思わず零すと、3人は顔を見合わせた。

「……いや、私たちが正に今、あなたのことが心配だって話をしていたわよね」

「というか、フィーアは私たちの心配をするよりも、まず自分のことをしっかり理解すべきじゃないかしら」

「あなたはびっくりするほど優秀な聖女だから、もう少し色々と出し惜しみすべきだわ」

……あらまあ、純粋培養な聖女たちに、私の方が色々とアドバイスをされてしまったようね。

そのことがおかしくなって、私はくすりと笑ったのだった。

そして、食事が終了した後。

「こんな感じでいいかしら?」

私は壁際に設置されたテーブルを眺めると、満足の声を上げた。

晩餐室内の料理は侍女がサーブしてくれるのだけど、デザートだけは壁際に置かれたサイドテーブルに並べられ、自由に選べるようになっていた。

ぴんと閃いた私は、持ってきた魔力回復薬入りの瓶を空いた場所に並べてみる。

うんうん、いいわね。これならデザートを取りに来た際に、ついでに魔力回復薬を持っていくんじゃないかしら、と満足して並び終えた瓶を眺めていると、アナが声を掛けてきた。

「フィーア、何をしているの?」

私はテーブルの上を指し示しながら答える。

「こうやって魔力回復薬を自由に取れるようにしたら、他の聖女たちも飲んでくれるんじゃないかしらと思ったの。……あっ、メモを残しておかないと、これが何か分からないわよね!」

私は侍女にカードとペンを借りると、『魔力回復薬です。お好きに飲んでください』とカードに書く。

けれど、横から覗き込んできたアナにダメ出しをされた。

「フィーア、赤い液体を魔力回復薬と言われても、怪しさ満載だから誰も飲まないわよ!」

「うう、薄々そんな気がしていたわ」

聖女たちにとって赤色の魔力回復薬は、これまで見たことがないものだ。

そうであれば、警戒して飲もうとは思わないかもしれない。

口をへの字にしていると、私からペンを奪い取ったアナが、新しいカードにさらさらと何かを書きつけた。

それから、得意気にカードを渡してくる。

読んでみると、『王城特製やせ薬 ※これを飲めば、どれだけ王城料理を食べても太りません』と書いてあった。

「ええっ、これは完全に嘘よね! この薬に痩せる効果は全くないわ! それに、やせ薬なんてこの世に存在しないし、そのことは聖女なら誰だって知っているから、これこそ怪しさ満載で誰も飲まないんじゃないかしら」

びっくりして言い返すと、アナはちっちっと指を横に振った。

「フィーア、あなたはまだ女性心理を理解していないわね! 騙されたと思って、明日の朝までこのままにしておいてちょうだい。瓶の中味は空っぽになっているから」

半信半疑だったものの、私がアナよりも女性心理を理解している自信はなかったので、そのままにしておくことにした。

「分かったわ、結果は明日のお楽しみね!」

そう答えると、私たちは明日に備えるため、それぞれ王城に準備された部屋に戻ったのだった。