軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215 10年前1

「ぐっ、フィーア、その全てを利用してでも必要な情報を引き出そうとする手腕は見事です」

シリル団長はやっと負けを悟ったようで、悔し気に言葉を紡ぎ出した。

「ほほほ、シリル団長の教育の賜物ですよ」

所属する騎士団の団長に褒められたわよ、と思いながら謙遜すると、私は最初の質問に戻る。

「それで、モーリスはどなたを庇ったんですか?」

私の決して諦めない不屈の精神を目の当たりにしたシリル団長は、がくりと肩を落とした。

「……あなたは質問の答えを聞くまで諦めないんですね。その執拗さは称賛に値します。ですが、ここでは誰に聞かれるか分かりませんので、馬車の中で話をしましょう」

シリル団長は疲れた様子で目を瞑ると、至極もっともな意見を述べた。

確かに人に聞かれてはマズい話だろう。

私は大きく頷くと、シリル団長、カーティス団長と一緒に、王城に戻る馬車に乗り込んだのだった。

馬車の中でシリル団長はわざとらしいため息をつくと、少し考える様子を見せた。

それから、困ったように私を見つめてくる。

「お尋ねの件ですが、『やんごとなき身分の騎士』は私ではありません。そのため、全てをお話することはできません」

なるほど、シリル団長でないということは……

「モーリスが庇ったのはサヴィス総長です」

ああー、やっぱり。『やんごとなき身分の騎士』といったら相手が限られるから、サヴィス総長じゃないかと思っていたのよね。

ただ、権力を使って選定会の患者の中にモーリスをねじ込んだ、というのがどうにも総長らしくない気がする。

違和感を覚えて首を傾げていると、シリル団長が10年前の状況を説明してくれた。

「当時の総長は17歳で、騎士団総長の職位についたばかりでした。あの時はディタール聖国に竜を討伐に行ったのですが、……私はサザランドで両親を失った直後で、戦いに集中することができませんでした」

それは仕方がないことだわ、と咄嗟に思う。

シリル団長は10年前に両親を相次いで亡くしており、そのことが原因でサザランドの住人との間に深い確執が生じたのだ。

恐らく、シリル団長は両親のことも含めて多くのことを悩んでいたはずだ。

そうであれば、普段通りの動きができなかったとしても当然のことだろう。

「そのため、私は戦場で上手く立ち回ることができませんでした。サヴィス総長はそんな私をカバーしてくれたのですが、相手が凶暴な竜だったため、その牙に裂かれそうになりました。そこを、モーリスが庇ってくれたのです」

なるほど、理解したわ、と私は両手をぱちりと打ち鳴らす。

「モーリスは勇ましかったんですね! ということは、窮地を救ってもらったことへの感謝の気持ちで、サヴィス総長はモーリスを選定会の患者にしたんですね」

シリル団長は一瞬躊躇した後、首を横に振った。

「……いえ、贖罪なのだと思います」

「贖罪?」

確かに両足を失うのは大変なことだけれど、司令官を守ることは騎士としての職務の範疇のはずだ。

不思議に思う私に向かって、シリル団長は10年前の状況を丁寧に説明してくれた。

「負傷後、即座に治療を行えば、モーリスの足は足首の切断で済んだはずです。ですが、サヴィス総長は王太后に頼めば、切断せずに済むのではないかと考えました。一旦切断してしまえば、再接着する方法はありませんから、モーリスは負傷した状態でナーヴ王国まで戻ってきました」

なるほど。王太后は筆頭聖女だから、大きな怪我も治せるのよね。

サヴィス総長はモーリスが騎士を継続できる方法を選び取ろうとしたのだわ。

シリル団長に視線をやると、感情を読まれたくないのかさっと目を伏せられる。

けれど、握りしめた手が真っ白になっていたため、どれほど感情的に乱されているかを簡単に推測することができた。

シリル団長は口を開くと、苦悩する様子で続ける。

「しかし、結局、王太后がモーリスを治癒することはなく、……長期間処置をしなかったことでモーリスの怪我は悪化し、膝下で切断しなければならなかったのです」

それは悲しい出来事だった。

何も言うことができずに口を噤んでいると、代わりにカーティス団長が凛とした声を出した。

「結果がどう出たとしても、それが騎士団トップの決断によるものならば、全てを受け入れるのが騎士だ。サヴィス総長が罪悪感を覚える理由はない」

カーティス団長の言葉を聞いたシリル団長は、弱々しく微笑む。

「通常であれば、カーティスの言う通りです。しかし、この件の原因は、サヴィス総長が王太后の行動を読み間違えたことにあったので、どうしても割り切ることができなかったのでしょう」

シリル団長が話してくれたのは、事実の一部分だけだ。

王太后がモーリスを治さなかったことに、仕方のない理由があったのか、なかったのかすら割愛されていたので、説明されなかった多くのことがあるはずだ。

無言のままでいると、シリル団長が雰囲気を変えるかのように窓の外を見た。

「どうやら王城に着いたようですね。……フィーア、私も、サヴィス総長も、10年前に多くのことを間違えました。しかし、その分、自分に必要なもの、大事なものを理解することができました」

それは一体何なのかしら。

いずれにしても、王太后がモーリスを治さなかったのであれば、仕方のない理由があったとしても、聖女を恨んでしまったのじゃないかしら。

そう考えた私の気持ちが読めるはずもないだろうに、シリル団長は小さく微笑んだ。

「フィーア、私は未だに聖女様を信じているのです。特別な御力を与えられた特別なご存在だから、いつかきっと私たちを救ってくださるに違いないと」

そうだ、シリル団長はいつだって聖女を敬っているのだったわ。

「シリル団長の考えは間違っていないと思います」

「そんなことを言うのは、あなたくらいですよ」

そう言うと、シリル団長は寂しそうに微笑んだのだった。