軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

201 選定会参加準備 上

―――あら、これは以前見た夢と同じものじゃないかしら?

普段、夢を見ている時は夢だと気付かないものだけど、少し前に同じ夢を見た私は、さすがにそれが夢だと気付く。

「セラフィーナ、どうせオレの足を踏むのなら、せめてオレの顔を見ながらにしてくれ。足を見つめられたまま何度も踏まれると、まるで狙って踏まれているような気持ちになる」

どうやらシリウスのセリフまで、前回と同じようだ。

夢の内容は300年前のもので、前世の私は練習室でシリウスを相手にダンスの練習をしているところだった。

2週間後に差し迫った夜会に間に合わせるため、必死で淑女たらんと頑張っているのだ。

そんな私は口をとがらせると、前回と同じように完全無欠の近衛騎士団長に不平を述べる。

「あなたの時間と私の時間は、流れ方が異なるのかしら? それとも、物事に取り組む真剣さが、私には足りていないのかしら? シリウスと同じ時間起きていたとしても、同じように多くのものを身に付けられるとはとても思えないわ」

シリウスは不思議そうに私を見つめてきた。

「……お前以外の者は、そのようなことを疑問にも思わないぞ。『シリウス・ユリシーズだから』の一言で理解したつもりになり、全てを片付ける」

「あなたが何だって完璧にできることは否定しないけれど、努力もせずに素晴らしい結果を出せる人なんていないわよ! 『シリウスであること』のためにものすごく努力をしたことは、あなたが出した結果を見れば明白だし、同じように、『シリウスであり続けること』のためにどれほど努力をし続けているかは、現状のあなたの素晴らしさを見れば一目瞭然だわ」

私の言葉を聞いたシリウスは、眩しいものを見つめるかのように目を細めた。

「……お前はいつだってその金の瞳でオレを見つめ、全てを肯定してくれるのだな。そして、オレを救ってくれる」

シリウスは私の手を持ち上げると、その甲に軽く唇を落とした。

「至尊なる我が王国の大聖女。お前を構成する全てをオレは守ろう。美しく輝く深紅の髪を、慈愛に満ちた金の瞳を、奇跡を生み出す白い腕を―――未来永劫守ることを、約束しよう」

シリウスがあまりに真剣な表情をしていたため、夢だと分かっているにもかかわらず、私は前回と同じように胸が詰まったような思いを覚える。

そんな私を、彼はとっても優しい眼差しで見つめると、尋ねるように呼び掛けた。

「……どうした、オレの大聖女?」

◇◇◇

「うーん、確かに素敵なシーンではあるのだけど、どうして同じ夢を2回も見たのかしら?」

次の日の朝、王城の庭で大聖女の薔薇に魔力を流しながら私は首を傾げた。

筆頭聖女選定会に向けて、この一週間は聖女と薬草の知識を詰め込まなければならないことになっている。

そのため、前世で1番淑女教育を頑張った時期の夢を見たのだろうか。

「ううーん、でも、今回はそんなに頑張らなくてもいいわよね」

だって、聖女と薬草のことはひととおり分かっているし、優勝する必要はないのだから。

だとしたら、シリウスの夢を見たこと自体に意味があるのかしら……と考えていると、デズモンド団長がやって来た。

「フィーア、聞いたか? 何と、今年の筆頭聖女選定会参加者の中に、お前と同姓同名の者がいるらしいぞ!」

まあ、選定会に参加すると返事をしたのは昨日なのに、もう情報が伝達されているのね。

恐らく、デズモンド団長は立場上、他の人よりも早く情報を入手することができるのだろうけれど、それにしても早いわね。

私は何気ないふりを装いながら、気のない声を出す。

「へー、そうですか。世の中には自分のそっくりさんが3名いると言われていますからね。同姓同名の者がいてもおかしくないですよね」

私の言葉を聞いたデズモンド団長は、顔をしかめた。

「お前の発想はいつも通り尋常じゃないな。お前みたいな奴が他に3人もいてたまるか! しかし、世の中にお前が4人いることを考えたら、同じ名前の者が10人や20人いても大きな問題ではない気がしてきたぞ」

しめしめ、デズモンド団長が選定会に出るフィーア・ルードと私は別人だと認識したようだわ。

こうなったら話をズラすに限るわね。

「筆頭聖女選定会は1週間後にあるんですよね。会場準備を手伝わずに、こんなところでうろうろしていて大丈夫なんですか?」

「選定会の一部は王城内で行われるからな。オレは城内に不備がないかと、点検をしているところだ。オレのように鋭い洞察力を持った者しかできない、非常に重要な仕事だな」

まあ、自分のことを『鋭い洞察力を持った者』って褒めたわよ。

デズモンド団長はいつだってお気楽でいいわよね。

呆れてため息をついていると、デズモンド団長が私の顔を覗き込んできた。

「珍しく疲れた顔をしているな。昨夜はあまり眠れなかったのか?」

あら、よく気付いたわね。

どうやらデズモンド団長が鋭い洞察力を持っているのは本当のようだわ。

「そうなんです! 以前見た夢と同じものを、昨夜も見たんです。珍しく明け方に目覚めたので、同じ夢を二度見ることの意味を考えていたら、二度寝し損なってですね」

私の言葉を聞いたデズモンド団長は顔をしかめた。

「夢だと? そんなことで悩むとは、お前は本当に他に悩みがないんだな! 心配したオレが損をした。すこぶる健康じゃないか!」

健康なのはいいことだから、そこは怒るところじゃなくて喜ぶところじゃないかしら。

そもそも私はよく眠れなかったと言っているのだから、健康ではないと思うけど。

「いえ、寝不足だから不健康ですよ」

「どうせお前は昨晩、早く寝たんだろう! だから、早く起きたまでじゃないか? 睡眠時間を言ってみろ」

「……9時間です」

「十分だろ!!」

なるほど。どうやらデズモンド団長が上手に情報を収集して、的確な結論を出すことが得意なのは本当のようだわ。

「さすがですね、デズモンド団長! 私から重要な情報を引き出すとはお見事です」

「全然すごくないわ! お前から情報を引き出すのは簡単だし、お前の睡眠情報は重要事項ではない!!」

うーん、デズモンド団長は称賛の言葉を素直に受け取らないタイプのようね。

そう思いながら、私はデズモンド団長と別れたのだった。

薔薇園を後にした私は、その足で離宮に向かうとシャーロットを訪ねた。

内緒話をしたかったため、離宮内の小部屋にシャーロットと2人で入る。

部屋の中にある長椅子に並んで座ると、私は選定会について報告した。

「シャーロット、筆頭聖女の選定会に出ることになったの」

「えっ、フィーアが出るの?」

珍しく大きな声を出したシャーロットは、自分の声の大きさに驚いたようで、慌てて両手で口元を押さえるときょろきょろと周りを見回した。

部屋の中は2人きりだから、他に聞かれる心配はないのに、それでも聖女たちに聞こえたら大変だと窓の外を気にしているシャーロットはいい子だわ。

「フィーアは知らないかもしれないけど、選定会は国中の聖女たちが出たくて、出たくてたまらないイベントなのよ。だけど、どうしても参加人数が限られるから、わずかな聖女しか参加できないの。その選定会に出られるなんてすごいことだわ!」

シャーロットの様子から、彼女は選定会に出ないみたいねとがっかりする。

「シャーロットが参加するには、年齢が足りないのかしら?」

私の質問を聞いたシャーロットは、とんでもないとばかりに首をぶんぶんと横に振った。

「私が参加するなんてとんでもないことだわ! そんなこと、考えてもいないわよ。でも、そうね。もしも私が力のある聖女だったとしても、年齢的に参加することは難しかったでしょうね。多分、15歳になっていないとダメだわ」

15歳と言えば、私の年齢じゃないの。

まあ、私が年齢的にぎりぎりだったのなら、シャーロットが参加するのは確かに難しいわね。

選定会で1位に選ばれた聖女は、サヴィス総長と婚姻を結ぶとの話だった。

王族と聖女にはそれぞれ、婚姻に関して定められた年齢があるとのことだから、シャーロットはどうしても年齢で引っかかってしまうのだろう。

シャーロットは能力がある聖女だけど、こればっかりはどうしようもないわねと考えていると、シャーロットがおずおずと尋ねてきた。

「フィーアはどうやって選定会に参加できることになったの? フィーアの存在は知られていないから、教会が推薦することはないはずでしょう。ということは、特別な推薦を受けたの?」

「よく分かったわね! 国王推薦枠で出ることになったの」

さすがシャーロットだわ。推理力も高いわね、と感心しながらうなずくと、彼女は震える両手を組み合わせて絶句した。

「こ、国王? フィーア……」

えーと、国王と言っても、実際には道化師の格好ばかりしている悪戯少年でしかないのよね。

けれど、そのことを言うわけにはいかないし、と困っていると、事実を知らないシャーロットは恐れ多いとばかりに目を白黒させた。

「えーと、流れでそうなっちゃったけど、最後まで残って高位の聖女として順位付けされたら困るから、選定会の途中で抜けるつもりなの。ほら、サザランドから聖石をもらってきたでしょう? 私が何をしてもあの石のおかげだと関係者は思うから、疑われることはないはずよ」

シャーロットには聖石のことを説明していたため、その使い方は知っているはずだけれど、なぜだか彼女は眉をへにょりと下げる。

「そうなのかしら?」

十分安全だと説明したにもかかわらず、シャーロットは私を心配しているようだ。

そのため、私は彼女を安心させようとにこりと微笑む。

「大丈夫よ、シャーロット! 私は案外、優秀な聖女なのよ。だから、何が起こっても大体のことは上手くできるわ」

「それは……大丈夫と言えるのかしら」

私の言葉を聞いたシャーロットは安心するかと思ったのに、なぜだかさらに心配そうな表情になった。

「え? もちろんよ。大体のことができるからこそ、上手い具合に匙加減を調整して、『そこそこ優秀な聖女』を演じてみせるわ」

シャーロットは言葉を選ぶ様子で発言する。

「とっても難しいことに聞こえるけれど、フィーアにできるのかしら。あっ、いえ、能力的にできないということじゃなくて、フィーアは怪我人とか病人を見たら、夢中になって止められないんじゃないかしら」

シャーロットったら鋭いわね。

確かにそのような傾向はあるけど、私も日々成長しているのだ。

「自分が何のために選定会に参加するかを、きちんとわきまえているから心配しないでちょうだい。シャーロット、私はどうしても現在の聖女の魔法を見てみたいの」

ナーヴ王国は広い。

もしかしたら私の知らない魔法を使える聖女や、私よりも優れた聖女がどこかにいるかもしれない。

そんな聖女たちに会えるかもしれない、と思っただけでワクワクそわそわしてくるのだ。

「フィーアの気持ちは分かるわ。私も筆頭聖女に選ばれるほどの聖女が魔法を使うところを、1度でいいから見てみたいと思うもの。フィーアのようにすごいのかしらね?」

ふふっ、そうね。

前世の私の魔法を受け継いでいて、似たところがあれば嬉しいわね。

「シャーロットも参加できるか、国王に聞いてみましょうか? 国王が持っている参加枠がもう1つあるかもしれないし、最終的な順位が低ければ王族と婚姻を結ぶ必要はないだろうから、年齢は問題にならないはずだし」

シャーロットと一緒に優れた聖女の魔法を見るのは楽しいだろうな、と思ったけれど、彼女は激しく首を横に振った。

「ダメ、ダメ、ダメよ! とんでもないわ。そんなことになったら、私は畏れ多くて息が止まってしまうわ」

「息が止まるのは困るわね」

本人が希望しないんじゃ、仕方がないわね。

私はシャーロットの頭にぽんっと手を乗せた。

「だったら、私がシャーロットの分まで聖女たちの魔法を目に焼き付けてくるわ!」

そう言うと、シャーロットは満面の笑みを浮かべたのだった。