軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192 王弟サヴィス3

それから、皆で森の入り口まで歩いて戻ったのだけれど、全員の口数が少なかった。

元々、シリル団長にしても、カーティス団長にしても、口数が多い方ではないけれど、それにしても全く私語がない。

恐らく、先ほどの総長と私の会話を聞いて、「王家の次男」というサヴィス総長の立場の複雑さに暗い気持ちになっているのだろう。

私も同様に悄然として歩いていると、カーティス団長が近付いてきて、小声で囁かれた。

「フィー様、大丈夫ですか? もしもこの後の茶会への同行を希望されないのであれば、私の方からシリルに断っておきます」

見上げると、カーティス団長が心配そうな眼差しで私を見つめていた。

その表情を目にしたことで、ふと先日も同じような眼差しを向けられたことを思い出す。

あの時は、王城内のロイドの部屋で、心からのお願いをされたのだった。

『フィー様、どうか一番大事なものを、お忘れにならないでください! そして、心が痛もうが、救いたい気持ちが湧き上がろうが、大事なものを優先してください! むしろ、心が痛む前に、彼らから手を引くべきです!!』

カーティス団長の発言の中にあった『一番大事なもの』は『私の命』で、彼は自分を大事にしろと忠告してくれたのだ。

そして、セルリアンとドリーには深入りするなと続けられた。

多分、カーティス団長がセルリアンとドリーについて心配していたのは、眠り続けるコレットのことだろう。

彼女を目覚めさせるためには、私の聖女の力を使う必要があると考え、そのリスクを警戒したに違いない。

けれど、『大聖女の薔薇』を使用する方法を思い付いたため、実際には私が直接魔法を使う必要はなく、カーティス団長が心配するような場面は発生しないはずだ。

だから、この2人の件については解決したはずだけれど、あの時のカーティス団長はさらに、サヴィス総長とシリル団長についても心配事がある様子で忠告してきたのだ。

『さらに言わせていただくならば、サヴィス総長とシリルも同様です! あの2人も暗く重いものを抱えています! どうかこれ以上深入りなさいませんよう、心からお願い申し上げます』

けれど、その時の私には、カーティス団長が何を心配しているのかが分からなかった。

そのため、一体何を仄めかしているのかしらとずっと疑問に思っていたのだけれど、このタイミングで近付いてきて、私を心配するのであれば、カーティス団長の懸念事項に触れる何かが、この森の中で起こったということだろう。

つまり……

「サヴィス総長と交わした会話の中に、あなたを心配させるものがあったのかしら?」

小声で尋ねると、カーティス団長は無表情に見返してきた。

彼は何一つ表情に表さないし、動揺する様子を見せなかったけれど、返事をしないことこそが返事になっている。

どこまでも実直なカーティス団長は決して私に噓をつかないため、答えにくい場合は返事をしないのだから。

総長と私が交わした会話の内容は、片目の治療と継嗣のスペアという立場についての2つだった。

片目の治療については総長から断られたため、これ以上話が進展することはないだろう。

ということは、継嗣のスペアという立場についての話が、カーティス団長の懸念事項なのだろうけれど、だとしたら、この話にはもっと深い続きがあるのだろうか。

でも、尋ねてもきっと、カーティス団長は答えてくれないわよね。

そのことが分かっていたため、私は彼の質問に答えるために首を横に振った。

「いいえ、私は騎士としての任務を全うするわ。予定通り、総長がお茶会に参加されるのに同行するつもりよ」

「……分かりました」

カーティス団長は何か言いたそうな様子を見せたけれど、結局はそのまま口を噤むと離れていった。

彼の心配事は何なのかしらと気にはなったけれど、自然と解決することもあるわよね、とこれ以上踏み込まないことにする。

カーティス団長があれほど心配していたセルリアンとドリーのことだって、『大聖女の薔薇』を使用することで解決方法が見えたため、何事もなく終わるだろう。

同じように、サヴィス総長とシリル団長についての懸念事項も、何だかんだと何事もなく終わるのではないだろうか。

そう希望的観測を抱きながら、ちらりとサヴィス総長に視線をやると、偶然にもばちりと視線が合った。

すると、総長は尋ねるように片方の眉を上げる。

「どうした、フィーア。まさかとは思うが、王太后に会うのに緊張しているわけではないだろう?」

「えっ、あっ!」

どうやら小声で話したつもりのカーティス団長との会話を聞かれ、誤解されたようだ。

そして、サヴィス総長が言うように、王太后といえば先の王妃で、現在の筆頭聖女でもある方だ。

おいそれとお目にかかれる相手ではないのだから、私は礼儀として緊張を覚えるべきなのかもしれない。

そう思い至り、遅ればせながら片手を心臓の上に乗せる。

「おっしゃる通りですね。滅多にない方にお会いすると思うと、心臓がドキドキします」

「…………」

「…………」

自分から尋ねてきたのに、その通りだと答えた私を疑わし気に見つめてくる総長の態度はいかがなものだろう。

同様に、初めから信用できないとばかりに胡乱な目を向けてくるシリル団長も、いかがなものだろう。

けれど、やりきることが大事なことを知っている私は、最後まで手を抜くことなく言葉を続ける。

「ですが、ご安心ください! 立派にサヴィス総長の護衛業務を務めてみせますから」

「……そうか。期待している」

おかしいわね。

為政者というものは心の裡を覗かせないものだけれど、どういうわけか総長が口にした言葉を全く信じていないことが伝わってきたわよ。

けれど、総長自身が私を護衛に指名してきたのに、立派に護衛業務を務めることを信じていないなんて、そんなことがあるものかしら。そして、それをわざわざ意思表示してくるなんて。

とそう思っていると、何気ない様子で総長が言葉を続けた。

「フィーア、お前に尋ねたいことがある。これは仮定の話だが……」

「はい?」

現実主義者の総長が仮定の話をするなんて珍しいわね。

「もしもお前が王家に嫁ぐべき聖女だったとして、そして、王家には呪いがかかっていて、決して女児が生まれないとしたらどうする? いかにお前が優れた聖女であったとしても、何一つ次代に引き継げないのだとしたら」

それはよく分からない仮定下における質問だったけれど、とっても簡単なものだったため即答する。

「できるだけ多くの人を救います!」

「何だと?」

総長から訝し気に問い返される。

けれど、何度問われても、同じ答えしか浮かばなかったため、同じ言葉を繰り返した。

「私にしかできないのであれば、私が多くの人を救います!」

サヴィス総長は一瞬、ぽかんとした様子で私を見つめてきたけれど、次の瞬間、おかしくて堪らないとばかりに笑い出した。

「は……はは、ははははは! そうか! それは最上の答えだな」

それから、総長はひとしきり笑った後に確認するかのように呟いた。

「そうか、お前であれば、次代に何かを期待するのではなく、お前自身の手で全てをやり尽くすということか」

サヴィス総長は何かを納得したかのように頷くと、顔を上げて私を見つめてきた。

「なぜだろうな。お前が聖女であれば、実際に言葉通りのことを成し遂げるように思えるな」

「えっ、ああ、はい、それはもちろんやります」

総長の瞳の奥に、私には分からない感情が潜んでいるように思われたため、そちらに気を取られながら返事をする。

総長はふっと口の端を緩めた。

「フィーア、実際にお前が見せると言い切ったものを目の当たりにしたわけではないが、お前の言葉だけで……オレは夢の続きを見た気分だ」

総長が仄めかしているのは、晩餐時に酔った私が口にしたという『夢のような話』、つまり、妄想話のことだろう。

話した内容を全く覚えていなかったので、とんでもないことを言っていたらどうしようと少し心配していたのだけれど、総長が満足した様子を見せたため、私は案外素敵な妄想話を披露したのかもしれないと希望が湧いてくる。

「えっ、私の空想能力は高かったのかしら?」

私の独り言に答える声はなかったため、否定されなかったのならば肯定されたのだと受け取ることにする。

そのため、私はまた1つ、これまで知らなかった自分の新たな能力に気付くことができた、とご機嫌な気分になったのだった。