軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185 王城勤めの聖女たち4

「あれっ、険悪?」

プリシラと聖女たちが対立しているように見えたため、どういうことかしらと疑問に思う。

聖女たちは数が少ないので、仲間意識が強くて仲がいいはずだと思っていたのだけど、違ったのかしら。

この300年の間に、聖女自体の数が減ったことに加えて、聖女に関する多くの知識や技術が失われているから、いがみ合うことなく、お互いが知っている知識や技術を共有して、学び合った方がいいのに。

何よりいがみ合っていたら楽しくないわよね、と思っていると、プリシラが鋭い声で問いただした。

「『黄風花』、『赤甘の実』、『海大葉』だなんて、大聖堂でも滅多に揃わない素材じゃないの! それを全て手に入れたですって? そんなことがあるものかしら。一体どうやって手に入れたの?」

「えっ、それはその……」

プリシラが一大事とばかりに詰め寄ってきたので、私の名前を出しにくかったのか、シャーロットは言葉に詰まると下を向く。

その様子にプリシラは怪しさを感じたようで、さらにまなじりを吊り上げた。

「入手方法を明かせないのかしら?」

「シャーロットは騎士から、サザランド土産としてもらったと言っていたわよ」

疑われていることを不快に感じたようで、他の聖女がさらりと答えると、ロイドがまさかという表情で私を見つめてきた。

えっ、どうしてここで反射的に私を見つめてくるのかしら。

確かに私は騎士だけど、他にもたくさん騎士はいるじゃないの。

それなのに、何の根拠もなく、犯人を見るような目で見つめてくるのは止めてちょうだい。

結果として、当たっているからまずいのよね。

これはよくない状況だわと思った私は、誤魔化してしまおうと、気軽い調子で口を開く。

「ああー、そうだったわね! 騎士たちは小さなシャーロットのお土産に黄、赤、緑の色がキレイな植物を持ち帰ったって話だったわよね! まさかそれがレア薬草だったなんて、騎士たちもびっくりよね! 彼らは雑草だと思っていたのに、それを薬草だと見抜いたシャーロットの慧眼がすごいのでしょうけどね!!」

ある意味、嘘ではない。

『赤甘の実』は私自身が採取したけれど、『海大葉』はサザランドの民が深い海の底から採ってきたものだし、『黄風花』はカーティスが黄紋病の特効薬の材料として、大量に採ってきたものの余りだ。

それらをシャーロットのお土産に選んだのは、色がキレイだったからだし、実際に彼女はその3つが珍しい薬草であることを自分で気付いたのだ。

つまり、色味がキレイねと思って持ち帰ったお土産がたまたま珍しい薬草で、それらが薬草だとシャーロットが気付いたことは事実なのだ。

だから、素直にシャーロットの知識を褒めるべきじゃないかしら。

そう考えながら、とっても明るい声で説明したのに、なぜだかその場に重苦しい沈黙が落ちる。

そんな中、ロイドが疑わし気な声を上げた。

「そんな驚くような偶然があるものかな?」

素直に頷いておけばいい場面で、わざわざ疑問を呈してくるロイドは、一体何をしたいのかしら。

そう不満に思った私は、『黙っていてちょうだい』という気持ちを込めて、ぎらりとした目で彼を睨み付ける。

「もちろんあるわよ! 実際のところ、世の中には指定されている82種より多くの薬草が存在するはずだから、適当に摘んできたら新しい薬草だったということだって日常茶飯事なんだから!」

既に400種類以上の薬草が認定されていた300年前ですら、次々に新たな薬草が発見されていたのだから。

それに比べたら、図鑑に載っている薬草を摘んでくることなんて、珍しくもなんともない話のはずよ。

きっぱりと言い切った私の迫力に押されたのか、ロイドは大きな体をぶるりと震わせた。

「……そうか。そんな恐ろしい日常を経験したことがないから、そうだねと相槌も打てないな。フィーアの日常と僕の日常は、全く異なるみたいだね」

ロイドったら、何を言っているのかしら。

私の日常なんて、平和で平凡そのものだわ。

聖女たちが黙り込んだことから、何となく誤魔化せたような気になった私は、俯いているシャーロットの頭を撫でる。

「だから、偉いのはシャーロットよ。図鑑に載っている薬草を全部覚えていて、お土産を見た瞬間にどの薬草なのか全て気付いたのだから」

「フィーア、それは……他の聖女たちが教えてくれたおかげだわ」

シャーロットは顔を上げると、周りに立っている聖女たちを見回しながらそう答えた。

すると、聖女たちはまんざらでもなさそうな表情を浮かべる。

まあ、小さいシャーロットがこの場の雰囲気をよくしているのね。

一気に雰囲気が柔らかくなったため、今ならいいかしらと、先ほどから気になっていた疑問をドロテに尋ねる。

「ところで、先ほどの話では、魔力が不足するので、魔法を使わない期間が存在するとのことでしたよね。そういった場合、魔力回復薬は使わないんですか?」

純粋に疑問に思って尋ねたのだけれど、なぜだかドロテから睨み付けられた。

「よっぽどの必要がなければ使用しません!」

あれ、私はおかしなことを質問したかしら、と思いながらロイドを見上げると、彼はおかしそうに口元をほころばせる。

「ふふふ、フィーアは本当に何にも知らないんだね。多くの聖女様は、基本的に魔力回復薬を使用しないんだよ。なぜなら回復薬を飲むと激痛が走るが、魔力回復薬はあの何倍もの激痛を聖女様に覚えさせるんだからね」

「えっ! 回復薬の数倍の痛み!!」

以前、回復薬を使用した際の痛みはどの程度のものだろう、と試してみたことがあったけれど、想像以上に痛かったことを思い出す。

あの時、こんなに痛いんだったら、回復薬は2度と使用しないわ、と心に決めたのだったわ。

それなのに、あの数倍の痛みですって?

「それは絶対に使いたくないわね!!」

顔をしかめながらドロテに同意すると、ロイドがおかしそうに言葉を続けた。

「そうだね。そもそも即効性とはとても言えなくて、魔力回復薬を飲んでも、効果が現れるまでには1日程度かかるんだ。さらに、回復する魔力量も半分くらいだから、実質的な効果は大きくない。僕が聖女様だったとしても、3日ほど魔法を使用せずに過ごして、力を温存する方法を選ぶだろうな」

「よく分かるわ! 私ならば、ご飯を食べるわね」

力強く同意すると、ロイドから苦笑される。

「ご飯って……魔力枯渇と空腹は全くの別物なんだけどな」

ロイドにとってはそうでも、私にとっては似たようなものよ。

どちらにしても、その恐ろしい魔力回復薬は絶対に使いたくないわね!

そう心の中で呟いたけれど、一方では、回復薬同様に魔力回復薬もいつの間にか劣化していたことにがっかりする。

けれど、考えてみたら当然の話かもしれない。

日々、多くの人々が使用する回復薬ですら、間違った作り方をされていて、失敗作が出回っているのだから、魔力回復薬も同じような経緯を辿っていたとしても不思議はないはずだ。

「ううう、でも、回復薬の数倍の激痛というのは……さすがに試す気にならないわね」

通常であれば、どんな風に悪作用するのかを、自分の体を使って確認してみるものだけど、回復薬の数倍の激痛と聞くと勇気が出ない。

間違いなく、ご飯をたくさん食べて、魔力を回復した方がいいもの。

うーん、でも、シャーロットたちが魔力回復薬を必要とする場合もあるだろうから、正しい薬を作っておいた方がいいのかしら。

いや、でも、ずっと私が1人で作り続けるわけにもいかないから、自分たちで作ってもらった方がいいわよね……うーん。

「フィーア、何を考えているの?」

腕を組んで考え込んでいると、ロイドから興味深そうな表情で質問された。

「痛みのない魔力回復薬を作る方法よ」

考えごとに熱中していたため、さらりと答えると、驚いて聞き返される。

「えっ、そんなことができるの?」

できるわ。というか、今の一瞬で閃いたわ。

ほほほ、こんな短時間で閃くなんて、私は天才かもしれない。

自分の才能に恐ろしさを感じながらも、私は声を潜めると、ロイドにひそりと囁いた。

「例の薔薇よ。あの薔薇から『痛みを取る効果付きの花びら』を探してきて混ぜれば、痛みのない魔力回復薬ができるはずだわ」

あっ、というか、これは通常の回復薬にも応用できるんじゃないかしら。

天才の閃きに嬉しくなって、目を輝かせながら彼を見上げたけれど、ロイドは顔をしかめた。

「そんなに都合のいい効果が付いた薔薇が咲くものかな? フィーアは少し楽観的過ぎないかな?」

「ほほほ、氷から水を作るよりも簡単だわ!」

私が操作するからね。

ロイドは疑うような表情で私を見つめたけど、すぐに諦めた様子でため息をついた。

「考えるのは止めた。フィーアはいつだって僕の想像の斜め上をいくんだから、考えたって無駄だよね。はあ、でもフィーアみたいに幸運ばかりを呼び寄せる人っているんだね」

色々と隠していることがあるので、何も知らないロイドが幸運だと思う気持ちはわかるけど、私はきちんと根拠と理由に基づいて行動しているのよね。

と思ったけれど、最後はえいやぁ! と勢い任せになるところがあるのは事実だから、運任せと言えばそうなのかしら。

いずれにせよ、天才の閃きを覚えた私は、ご機嫌な気分になったのだった。